404 / 486
本編
-408- 占い師ソレイユ アレックス視点
しおりを挟む
「ソレイユ、これは……」
ソレイユが差し出してきたのは、金の細工が繊細で美しい細身のバレッタだった。
エメラルドは5粒。
その全てがピアスと同等の大きさだが、色もまたピアスと同等だ。
バレッタにしては小ぶりだ。
俺の小指ほどしかない。
だが、普段レンの髪を飾るにはこのくらいの大きさの方が品が良く飾りやすいだろう。
私から、と言えども、これをなんの見返りもなく貰うわけにはいかない。
領主である俺のところには、毎年多くの祝い品というものが届く。
領が誕生した日、収穫祭、そして俺の誕生日だ。
普段高価なものを受け取らない俺は、この3日間だけは受け取ることとした。
これは、祖父さまに倣っている部分が大きい。
祖父さまの場合は、領が誕生した日、収穫祭、祖母さんとの結婚記念日、互いの誕生日、の5日あったが。
それらはただ貰うだけにはいかないので、何かしらの“対価”を渡している。
大体が、俺の直筆での感想と感謝の文、そして品が良い新商品に対しては販路の橋渡しなどもしている。
レンとの結婚はまだお披露目をしていないので、常識の範囲内のものなら受け取るとしているが、高価なものは結婚式をあげてからにしたい。
話しが上がった際には、その意向を伝えるようにしていた。
改めてみると、このバレッタはとても美しい出来だ。
もしかしなくとも、ブローチとピアスの台座を施した職人の手で作られたものだろう。
欲しいか欲しくないかと聞かれたら、欲しいに決まっている。
レンに絶対に似合うはずだし、この色を領内で着けられるのは、レンか祖母さんかしかいない。
「とても素敵な品だが、きちんと支払う」
「いいえ、アレックス様。こちらは、私からレン様への感謝の気持ちです」
「しかし───」
「この石は、受け取った石のあまりの一部です。グレース様は、『余った石は好きにお使いなさい』と仰いました。
ですから、元手はそこまでかかっていません」
「感謝、とは?俺のもとに来たことへの、か?」
領民の殆どが俺が結婚しないことを半ばあきらめていたに違いない。
レンとの結婚は本当に奇跡であって、来年の結婚式前後はお祭り騒ぎになることだろう。
既にレンが嫁いできたことで、領内はより明るくなっているし、誰もが歓迎ムードだ。
レンの人柄によるものが大きいが、俺自身だけでなく、家の者も領の者もとても喜んでくれているのを肌で感じている。
「いいえ、レン様ご自身がこの地へ来られたことへの感謝です。
……近い内、今までにないほどの厄災が訪れるでしょう」
「それは、石が教えてくれたのか?」
「ええ。ですが、レン様が来られたことを知ったのは、来られてからです。
レン様が来られることを、石は教えてくれませんでした」
そういうことは、今までにもあったようだ。
曰く、“突如訪れる異質”なのだと。
「その厄災とレンとが来たことに、どういう関係が?」
「レン様が来られてから、未来が変わりました」
ソレイユが言うことは、こうだ。
ある時を境に、占う者占う者、皆同じ時期に大変な目に合うことが分かった。
それも、同じ理由で、だ。
中には死を迎えている者もいたという。
ソレイユの占いの顧客は、貴族と商人が殆どだ。
ただ、ピアスとブローチを購入する客については、占いを無料としているらしい。
で、それらの者たちが皆、同じ時期に同じタイミングで同じ理由をもって苦しむ未来が見えだした。
その理由が、全員が全員“飢え”だという。
勿論、ソレイユはその占いの答えを顧客本人の誰にも明かしたことはなかった。
だが、近い内訪れる未来に恐れを抱いたという。
その未来が、レンが来た後から急に変わりだしたらしい。
厄災は訪れることに変わりない。
大変な時期を迎えることは迎える。
だが、被害が最小限で済み、飢餓は訪れることなく、更に復興に向けて皆未来の表情は明るかったと言うのだ。
これには、レンが大きく関わっていると言う。
「飢餓の原因は?」
「わかりません。私が見えるのは石を通して、相手の未来の一部分に過ぎないのです。
未来はいくつもあり、その時々の選択により変化するものです。
今私が占い師として言えることは、“レン様がエリソン侯爵領の未来を変えた”ということだけです。
もしかすると、レン様ご自身が直接行うことではないかもしれません。
レン様が来られたことで、誰かが何かを成し遂げるのかもしれません。
ですが、レン様の存在が私の見える未来を変えた、ということだけは確かなことです」
未来はいくつもあり今の選択と行いによって変わるとソレイユは言う。
良くなることもあれば、悪くなることもある、と。
ソレイユの言うことは、わかる。
過去は変えられないが、未来はいくらでも変えられるものだ。
俺もそう思う。
ソレイユの占いは、当たることもあれば外れることもある。
理由は、今のままではこうなる未来が見える、からだ。
これは、占い師によって様々だろう。
どんな原理だか理屈だかはわからないが、未来の変わらない占い師というのも存在するらしい。
「ですから、これはその感謝の気持ちです。
占いをアレックス様は心から信じていないでしょう?」
「まあ、確かに」
俺は、未来は自身で切り開いていくものだと思っている。
占いを聞くことで、その思考を変えられるのを好まない。
自分自身の考えが揺らぐ気がしちまう。
「だが、否定する気もない。
どうせならいい時期に新しい事業を始めたいと思う者の気持ちも、良縁に恵まれるためにどうしたらいいか自分では見いだせないと思う者の気持ちもわかる。
占いに頼ることで、それらが解消され、自身が前向きに希望を見いだせるならばそれはそれでその者にとっていいことだろう」
ソレイユが差し出してきたのは、金の細工が繊細で美しい細身のバレッタだった。
エメラルドは5粒。
その全てがピアスと同等の大きさだが、色もまたピアスと同等だ。
バレッタにしては小ぶりだ。
俺の小指ほどしかない。
だが、普段レンの髪を飾るにはこのくらいの大きさの方が品が良く飾りやすいだろう。
私から、と言えども、これをなんの見返りもなく貰うわけにはいかない。
領主である俺のところには、毎年多くの祝い品というものが届く。
領が誕生した日、収穫祭、そして俺の誕生日だ。
普段高価なものを受け取らない俺は、この3日間だけは受け取ることとした。
これは、祖父さまに倣っている部分が大きい。
祖父さまの場合は、領が誕生した日、収穫祭、祖母さんとの結婚記念日、互いの誕生日、の5日あったが。
それらはただ貰うだけにはいかないので、何かしらの“対価”を渡している。
大体が、俺の直筆での感想と感謝の文、そして品が良い新商品に対しては販路の橋渡しなどもしている。
レンとの結婚はまだお披露目をしていないので、常識の範囲内のものなら受け取るとしているが、高価なものは結婚式をあげてからにしたい。
話しが上がった際には、その意向を伝えるようにしていた。
改めてみると、このバレッタはとても美しい出来だ。
もしかしなくとも、ブローチとピアスの台座を施した職人の手で作られたものだろう。
欲しいか欲しくないかと聞かれたら、欲しいに決まっている。
レンに絶対に似合うはずだし、この色を領内で着けられるのは、レンか祖母さんかしかいない。
「とても素敵な品だが、きちんと支払う」
「いいえ、アレックス様。こちらは、私からレン様への感謝の気持ちです」
「しかし───」
「この石は、受け取った石のあまりの一部です。グレース様は、『余った石は好きにお使いなさい』と仰いました。
ですから、元手はそこまでかかっていません」
「感謝、とは?俺のもとに来たことへの、か?」
領民の殆どが俺が結婚しないことを半ばあきらめていたに違いない。
レンとの結婚は本当に奇跡であって、来年の結婚式前後はお祭り騒ぎになることだろう。
既にレンが嫁いできたことで、領内はより明るくなっているし、誰もが歓迎ムードだ。
レンの人柄によるものが大きいが、俺自身だけでなく、家の者も領の者もとても喜んでくれているのを肌で感じている。
「いいえ、レン様ご自身がこの地へ来られたことへの感謝です。
……近い内、今までにないほどの厄災が訪れるでしょう」
「それは、石が教えてくれたのか?」
「ええ。ですが、レン様が来られたことを知ったのは、来られてからです。
レン様が来られることを、石は教えてくれませんでした」
そういうことは、今までにもあったようだ。
曰く、“突如訪れる異質”なのだと。
「その厄災とレンとが来たことに、どういう関係が?」
「レン様が来られてから、未来が変わりました」
ソレイユが言うことは、こうだ。
ある時を境に、占う者占う者、皆同じ時期に大変な目に合うことが分かった。
それも、同じ理由で、だ。
中には死を迎えている者もいたという。
ソレイユの占いの顧客は、貴族と商人が殆どだ。
ただ、ピアスとブローチを購入する客については、占いを無料としているらしい。
で、それらの者たちが皆、同じ時期に同じタイミングで同じ理由をもって苦しむ未来が見えだした。
その理由が、全員が全員“飢え”だという。
勿論、ソレイユはその占いの答えを顧客本人の誰にも明かしたことはなかった。
だが、近い内訪れる未来に恐れを抱いたという。
その未来が、レンが来た後から急に変わりだしたらしい。
厄災は訪れることに変わりない。
大変な時期を迎えることは迎える。
だが、被害が最小限で済み、飢餓は訪れることなく、更に復興に向けて皆未来の表情は明るかったと言うのだ。
これには、レンが大きく関わっていると言う。
「飢餓の原因は?」
「わかりません。私が見えるのは石を通して、相手の未来の一部分に過ぎないのです。
未来はいくつもあり、その時々の選択により変化するものです。
今私が占い師として言えることは、“レン様がエリソン侯爵領の未来を変えた”ということだけです。
もしかすると、レン様ご自身が直接行うことではないかもしれません。
レン様が来られたことで、誰かが何かを成し遂げるのかもしれません。
ですが、レン様の存在が私の見える未来を変えた、ということだけは確かなことです」
未来はいくつもあり今の選択と行いによって変わるとソレイユは言う。
良くなることもあれば、悪くなることもある、と。
ソレイユの言うことは、わかる。
過去は変えられないが、未来はいくらでも変えられるものだ。
俺もそう思う。
ソレイユの占いは、当たることもあれば外れることもある。
理由は、今のままではこうなる未来が見える、からだ。
これは、占い師によって様々だろう。
どんな原理だか理屈だかはわからないが、未来の変わらない占い師というのも存在するらしい。
「ですから、これはその感謝の気持ちです。
占いをアレックス様は心から信じていないでしょう?」
「まあ、確かに」
俺は、未来は自身で切り開いていくものだと思っている。
占いを聞くことで、その思考を変えられるのを好まない。
自分自身の考えが揺らぐ気がしちまう。
「だが、否定する気もない。
どうせならいい時期に新しい事業を始めたいと思う者の気持ちも、良縁に恵まれるためにどうしたらいいか自分では見いだせないと思う者の気持ちもわかる。
占いに頼ることで、それらが解消され、自身が前向きに希望を見いだせるならばそれはそれでその者にとっていいことだろう」
135
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
男前受け
騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
楠ノ木雫
恋愛
朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。
テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。
「お前との婚約は破棄だ」
ある日王城で開かれたガーデンパーティーの警備中婚約者に婚約破棄を言い出された。テレシアは承諾したが、それを目撃していた先輩方が見かねて城下町に連れていきお酒を奢った。そのせいでテレシアはべろんべろんに酔っ払い、次の日ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服では……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
※この作品は短編を新たに作り直しました。設定などが変わっている部分があります。(旧題:無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる