街中みんなが殺しに来る

蛇崩 通

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<第十一章 魔女の裁判 第1話>

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  <第十一章 第1話>
 魔法の氷柱つららを、投げつけた。五寸釘ほどの大きさのものを、六本同時に。
 絶叫した。三名の男たちが。両目に、つららを突き刺されて。
 素速く前進した。ルビー・クールが。ロー・テーブルとロング・ソファーに向かって。
 右手に持った鋼鉄製雨傘を、振り下ろした。最初に左、続いて、右に。
 一撃で、失神昏倒しっしんこんとうした。二名の秘書官が。脳天に、鋼鉄製雨傘の一撃をらって。
 ロー・テーブルの上に、足をかけた。そのままローテーブル上を素速く進み、跳び降りた。
 執務机の前に、立った。
 まだ、切れていない。魔法持続時間は。
 両目を両手でおおって、市長が絶叫している。
 振り下ろした。鋼鉄製雨傘を。市長の脳天に。失神した。市長が。一撃で。

  * * * * *

 「目が、覚めたかしら?」
 ルビー・クールが、冷ややかにたずねた。
 市長と、秘書官三名は、全員、後ろ手に縛られていた。荷造り用のひもで。
 四十歳代と三十歳代の秘書官は、ロング・ソファーに腰かけている。
 二十歳代の秘書官は、ロー・テーブルの前で、床に横たわっている。
 市長は、自分の執務椅子に座っている。
 ルビー・クールは、赤い雨傘のJの字型の柄を、右ひじにかけている。その右手には、銃身の長い三十八口径の拳銃が握られている。六連発のリボルバーだ。
 その拳銃は、市長の執務机から持ち出した。右側の一番上の引き出しに、入っていた。
 回転弾倉を、開けた。弾倉に入っていた実弾を、床に落とした。六発、全部。
 そのあと、拳銃を投げ捨てた。市長執務室の片隅へ。わざと、見せつけるかのように。
 秘書官三名のボディ・チェックは、すんでいる。彼らは、武器を持っていなかった。
 すでに市長執務室は、すべての窓のカーテンを閉めている。厚手の冬用カーテンだ。
 この部屋のすべての窓は、断熱効果を上げるために、二重窓になっている。
 そのため、市長秘書官が大声で叫んでも、市長公邸の外にいる警備兵には、聞こえないはずだ。
 たとえ声が届いても、警備兵は持ち場から離れない。彼らの上官の命令が、ない限り。
 彼らの上官は、すでに殺した。小隊長も、副隊長も。
 ルビー・クールが、口を開いた。冷ややかな表情で。
 「全部、話してもらうわよ。話すのを拒否したら、拷問に、かけるからね」
 すでに、市長と秘書官たち全員、意識が戻っている。
 だが、事態を飲み込めていないようだ。
 市長が、口を開いた。
 「こんなことして、どうなるか、わかってるのか?」
 「あら、どうなるのかしら?」
 ルビー・クールが、聞いてみた。冷ややかなみを、浮かべながら。
 「おまえも、おまえの家族も、おしまいだぞ」
 「どんなふうに、おしまいなのかしら?」
 「この町では、もう、生きていけないぞ」
 カラカラと笑った。ルビー・クールが。
 次の瞬間、ルビー・クールの表情が、厳しくなった。
 「それより、あなたのほうこそ、おしまいよ。あなたのいのちが、ね」
 「どういう意味だ!」
 「あなたを殺す、ということよ。あたしが、ね」
 「おまえに、そんな権限は、ない!」
 鼻で、笑った。ルビー・クールが。
 「権限とか、権利とか、そんなもの関係ないわ。もっと、単純な話よ。あたしは、あなたを殺せる。あたしが強者で、あなたは弱者。あたしが殺す側で、あなたは殺される側。どんな気分? 初めてでしょ。殺される弱者になったのは」
 激昂した。市長が。
 怒鳴りつけた。市長が。
 「ふざけるな! そんなこと、認められるか!」
 「あなたの許可なんか、いらないわ」
 「私が誰か、わかっているのか!」
 「ええ。わかっているわ。シュバルツブルグ十二世。かつて、この地域の領主だった家柄の当主。現在、シュバルツブルグ市の市長」
 「おまえはもう、絶体絶命だぞ」
 「あら、どのように絶体絶命なのかしら?」
 「すぐに警備兵が来て、おまえを撃ち殺す」
 冷ややかに、微笑んだ。口もとだけで。
 「それは、無理ね。なぜなら、警備兵は全員、殺したから」
 実際には、生きている。まだ二名が。市長公邸の正面玄関の外側で、警備をしている。
 市長が、脂汗を流し始めた。現在の状況が、極めてまずい状況だと、自覚したようだ。
 冷ややかに、言い放った。ルビー・クールが。
 「さあ、始めましょう。魔女の、魔女による、魔女のための裁判を」
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