7 / 39
<第二章 第3話>
しおりを挟む
<第二章 第3話>
「こんにちわ」
口もとだけで、微笑んだ。
「友達を探しに来たの。彼女は緑色の瞳で、髪はブロンド。あたしより五センチほど背が高くて、色気は、あたしよりもある美女よ」
チンピラたちが、笑いだした。
「飛んで火に入る夏の虫とは、このことだな」
「兄貴、鴨葱とも、言いますよ」
「あら、あなたたち、すごいわね。そんな言葉を、知っているなんて。文字が読めるのかしら」
三人目のチンピラが、激昂した。
「バカにするんじゃねえ! 文字なんて読めなくても、問題ねえ!」
チンピラの大部分は、文字の読み書きができない。極貧層出身で、教育を受けたことがないからだ。
兄貴分の男が、弟分の二人に命じた。
「捕まえろ。この女も、大金になりそうだ」
二人のチンピラが、ソファーから立ち上がった。
兄貴分の男は、ソファーに座ったままだ。体重を背もたれにかけ、余裕の表情だ。
ルビー・クールは、その場で待った。二人のチンピラが、雨傘の射程圏内に入るのを。
左右から、近づいてきた。チンピラ二名が。
入った。射程圏内に。
その瞬間、踏み込んだ。右足で。左ななめ前に。
雨傘で、みぞおちを突いた。
次の瞬間、右足を右ななめ前に、移動させた。その体重移動と同時に、雨傘の突きを見舞った。相手のみぞおちに。
二人のチンピラは、みぞおちを押さえてしゃがみ込んだ。苦悶の表情を浮かべて。
その直後、振り下ろした。雨傘を。彼らの脳天に。
失神昏倒した。二人とも、一撃で。
兄貴分の男が、ふところに右手を入れた。
投げつけた。左手のメスを。
絶叫した。その男が。メスが、突き刺さったからだ。深々と、右手の甲に。
落とした。拳銃を。床に。
駆け出した。ルビー・クールが。
跳び乗った。ローテーブルに。
振り下ろした。雨傘を。その男の脳天に。
失神した。一撃で。
「その雨傘、ずいぶん丈夫ね。普通なら、傘の骨が折れるでしょ」
後方から、そう声をかけてきた。パール・スノーが。
振り返らずに、答えた。
「この傘の骨は鋼鉄製で、重量は五キログラム。特注品よ」
左のポケットから、荷造り用の紐を取り出しながら、視線を初老のメイドに向けた。
彼女は、石像のように固まっていた。恐怖の表情を、浮かべながら。
「チンピラは、ほかに何名いる? この屋敷に」
ツバをゴクリと飲んだあと、メイドが声を振り絞った。
「いません。今は。ほかの人たちは、出て行きました。朝九時前に、マイヤー様を連れて」
「この屋敷のほかの使用人は、どこかしら?」
「いません。先週の金曜日に、全員、解雇されました。あたくし以外は」
この会話で、だいたいの状況は、理解した。
マイヤー氏は、事実上の破産状態になっていた。破産を少しでも遅らせるために、闇金融でカネを借りた。マフィアが経営する違法な高利貸しだ。
当然、返せなくなった。借りたカネを。利息が、法外だからだ。
それで、押し入ってきた。マフィアたちが。真夜中に。
問いただした。ルビー・クールが、初老のメイドを。
思った通りだった。
午前三時過ぎだった。押し入ってきたのは。
マフィアたちの人数は、十名以上だったようだ。
マイヤー氏、エメラルド・グリーン、それに初老のメイドの三名を、リビングルームに引きづり出した。
マフィアのボスは、怒鳴り散らした。今すぐ三百二十万キャピタ(著者注:日本円で三億二千万円)を返せ、と。
実際に借りたのは、もっと少ない金額だろう。
一日三パーセントの利子で、利子の支払いをしていなければ、二十四日後には、二倍の金額になる。
一日六パーセントの利子なら、十二日後に二倍、二十四日後には四倍だ。三十六日後には八倍で、四十八日後には十六倍。
雪だるま式に、借金が膨らんでいく。それも、急勾配の斜面を転げ落ちるように。
よって、マフィアからカネを借りるのは、自殺行為だ。
エメラルド・グリーンは、マフィアのボスと、その部下二名に、連れ去られた。午前四時頃だ。
ルビー・クールが、指示を出した。
「パールとサファイア。この紐で、チンピラたちを拘束してちょうだい。ボディ・チェックをしたあとに、ね」
「殺さないの? この連中?」
「情報を吐かせるのが先よ。エメラルドは、まだ生きている。彼女の連行先を、吐かせるわ」
「こんにちわ」
口もとだけで、微笑んだ。
「友達を探しに来たの。彼女は緑色の瞳で、髪はブロンド。あたしより五センチほど背が高くて、色気は、あたしよりもある美女よ」
チンピラたちが、笑いだした。
「飛んで火に入る夏の虫とは、このことだな」
「兄貴、鴨葱とも、言いますよ」
「あら、あなたたち、すごいわね。そんな言葉を、知っているなんて。文字が読めるのかしら」
三人目のチンピラが、激昂した。
「バカにするんじゃねえ! 文字なんて読めなくても、問題ねえ!」
チンピラの大部分は、文字の読み書きができない。極貧層出身で、教育を受けたことがないからだ。
兄貴分の男が、弟分の二人に命じた。
「捕まえろ。この女も、大金になりそうだ」
二人のチンピラが、ソファーから立ち上がった。
兄貴分の男は、ソファーに座ったままだ。体重を背もたれにかけ、余裕の表情だ。
ルビー・クールは、その場で待った。二人のチンピラが、雨傘の射程圏内に入るのを。
左右から、近づいてきた。チンピラ二名が。
入った。射程圏内に。
その瞬間、踏み込んだ。右足で。左ななめ前に。
雨傘で、みぞおちを突いた。
次の瞬間、右足を右ななめ前に、移動させた。その体重移動と同時に、雨傘の突きを見舞った。相手のみぞおちに。
二人のチンピラは、みぞおちを押さえてしゃがみ込んだ。苦悶の表情を浮かべて。
その直後、振り下ろした。雨傘を。彼らの脳天に。
失神昏倒した。二人とも、一撃で。
兄貴分の男が、ふところに右手を入れた。
投げつけた。左手のメスを。
絶叫した。その男が。メスが、突き刺さったからだ。深々と、右手の甲に。
落とした。拳銃を。床に。
駆け出した。ルビー・クールが。
跳び乗った。ローテーブルに。
振り下ろした。雨傘を。その男の脳天に。
失神した。一撃で。
「その雨傘、ずいぶん丈夫ね。普通なら、傘の骨が折れるでしょ」
後方から、そう声をかけてきた。パール・スノーが。
振り返らずに、答えた。
「この傘の骨は鋼鉄製で、重量は五キログラム。特注品よ」
左のポケットから、荷造り用の紐を取り出しながら、視線を初老のメイドに向けた。
彼女は、石像のように固まっていた。恐怖の表情を、浮かべながら。
「チンピラは、ほかに何名いる? この屋敷に」
ツバをゴクリと飲んだあと、メイドが声を振り絞った。
「いません。今は。ほかの人たちは、出て行きました。朝九時前に、マイヤー様を連れて」
「この屋敷のほかの使用人は、どこかしら?」
「いません。先週の金曜日に、全員、解雇されました。あたくし以外は」
この会話で、だいたいの状況は、理解した。
マイヤー氏は、事実上の破産状態になっていた。破産を少しでも遅らせるために、闇金融でカネを借りた。マフィアが経営する違法な高利貸しだ。
当然、返せなくなった。借りたカネを。利息が、法外だからだ。
それで、押し入ってきた。マフィアたちが。真夜中に。
問いただした。ルビー・クールが、初老のメイドを。
思った通りだった。
午前三時過ぎだった。押し入ってきたのは。
マフィアたちの人数は、十名以上だったようだ。
マイヤー氏、エメラルド・グリーン、それに初老のメイドの三名を、リビングルームに引きづり出した。
マフィアのボスは、怒鳴り散らした。今すぐ三百二十万キャピタ(著者注:日本円で三億二千万円)を返せ、と。
実際に借りたのは、もっと少ない金額だろう。
一日三パーセントの利子で、利子の支払いをしていなければ、二十四日後には、二倍の金額になる。
一日六パーセントの利子なら、十二日後に二倍、二十四日後には四倍だ。三十六日後には八倍で、四十八日後には十六倍。
雪だるま式に、借金が膨らんでいく。それも、急勾配の斜面を転げ落ちるように。
よって、マフィアからカネを借りるのは、自殺行為だ。
エメラルド・グリーンは、マフィアのボスと、その部下二名に、連れ去られた。午前四時頃だ。
ルビー・クールが、指示を出した。
「パールとサファイア。この紐で、チンピラたちを拘束してちょうだい。ボディ・チェックをしたあとに、ね」
「殺さないの? この連中?」
「情報を吐かせるのが先よ。エメラルドは、まだ生きている。彼女の連行先を、吐かせるわ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる