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11. 小説家さんと契約

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11. 小説家さんと契約



 オレは悠理の計らいで真白さんと擬似カップルの契約を結んだ。

「擬似とはいえ……付き合うんだよな真白さんと」

 そして、その言葉をもう一度頭の中で反復した瞬間……心臓がドクンっと跳ね上がった。

「えっ!?」

 なんか……ヤバい。今まで感じたことのない感覚だ。顔が熱くなっていく……。
 こんな経験は初めてだった。この感情に名前を付けるとしたら……それはきっと恋だろう。

 オレはいても立ってもいられなくなりコンビニに行き、飲み物を買って近所の公園に行く。ベンチに座って缶ジュースを開けて喉に流し込む。

「ぷはぁー!……とりあえず真白さんに謝らないとな。はぁ27にもなって情けないなオレは。」

 一息ついた後、スマホを取り出し『今から会える?』というメッセージを送る。するとすぐに既読マークがつき、『大丈夫です』という返信が来た。真白さんに会うためにオレは急いで家に帰る。そして真白さんの部屋に行く。

「あっ北山さん。中にどうぞ何もないですけど」

「あっいやここで平気です。その……オレのせいですみませんでした。」

「え?」

「迷惑ですよね?こんなおっさんと一緒にいるなんて。だから断っていいですよ?あの提案。」

 真白さんの目をしっかりと見て言う。これは本心だ。真白さんにはオレみたいなのに関わってないでちゃんと幸せになって欲しい。

「どうしてそんなこと言うんですか!」

「だって……真白さんには真白さんの人生があって……」

「私、北山さんの小説が読みたいんです。そのために私が力になれるなら、全然構いませんから」

「真白さん……」

「それに、私は迷惑とか思っていませんよ。むしろ嬉しいくらいですし!……あっ!頼りにされてって意味で」

 そう言って真白さんは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。その姿を見ただけで愛おしく思ってしまう自分がいた。ああ……これが本当の恋愛なんだな。自分の気持ちに気付いた途端、胸の中に熱いものが生まれた。それがどんどん大きくなっていく。もう止められなかった。

「じゃあ……これからよろしくお願いします。」

 オレは照れ隠しのように頭を掻きながら言った。

「はい……こちらこそよろしくお願いします。」

 真白さんも恥ずかしそうな表情をしながら答えてくれた。そして家に戻り布団に潜る。

「もう擬似でもいい!真白さんと一緒にいれるなら!もう何百万文字だって書いてやるぞ!」
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