【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!

夕姫

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754. 姫は『公平』らしいです

754. 姫は『公平』らしいです




 小早川さんが部屋を出て行き、扉が静かに閉まった後も、部屋には彼女が残した独特の熱気が微かに残っているようだった。そして休憩を挟むことなく、すぐに次の候補者が呼ばれる。

 面接選考は最後の候補者を迎える。名前は『日咲帆夏』。もしかしたら、七海の妹の可能性がある。まぁ、もし本当に妹だとしても面接選考はそれを抜きにして、フラットにしっかりと行わなければならない。あくまで候補者の一人として彼女自身を見極める必要があるからな。

 深呼吸をして気持ちを切り替える。プロとしてここで個人的な感情を挟むわけにはいかない。次の候補者が部屋に通される気配を感じながらオレは再び面接官としての顔になった。

 ノックの音がしてドアが開く。入ってきた人物を見てオレはわずかに息を呑んだ。そこに立っていたのは、先ほどまでの小早川さんのような強烈なエネルギーとはまた違う、静かで落ち着いた雰囲気を持った女性だった。その瞳にはどこか芯の強さが宿っているように見える。

 そして何より、その顔立ち。

 ……七海に、似ている。

 もちろん全く同じではない。七海の方がもっと華やかで、表情も豊かだ。でも、目元や口元、纏っている雰囲気の一部に確かに七海の面影があるように思えた。これが日咲帆夏さんか。

 星乃社長も、いつもの柔和な笑みを保ったまま、興味深そうに彼女を見つめている。立花さんも少しだけ姿勢を正したように見えた。部屋の空気が先ほどとは違う種類の緊張感を帯びる。

 日咲帆夏さんは、ゆっくりと部屋に入ってきて、指定された椅子に座る。動作の一つ一つが丁寧で落ち着いている。小早川さんが「動」なら、彼女は「静」。対照的だな。

「日咲帆夏さんですね。本日はよろしくお願いいたします」

「はい、よろしくお願いいたします」

「まず初めに、簡単に自己紹介と今回Fmすたーらいぶに応募された志望動機をお聞かせいただけますでしょうか?」

 城戸課長が問いかけると、日咲さんはわずかに視線を上げ、こちらを向いた。その瞳はやはり七海のそれに似ている。彼女は少し間を置いてから話し始めた。

「はい。日咲帆夏と申します。個人チャンネルは『ほのの』です。今回Fmすたーらいぶさんに応募させていただいたのは、以前から御社の配信を拝見しておりまして、特に『神川ひなた』さんの活動に感銘を受け、私も同じように多くの人を楽しませたり、寄り添ったりできるような存在になりたいと強く思うようになったからです」

 淀みなく丁寧な言葉遣い。滑舌も悪くない。内容は一般的な志望動機だが、特定のライバーの名前を出したところに具体的な憧れや目標が見て取れる。どのライバーの名前を挙げたかは、今の段階では重要ではないかもしれない。重要なのは、彼女がFmすたーらいぶという場所で、誰かの影響を受けて「なりたい自分」を見つけているということだ。

 オレは冷静に彼女の様子を観察する。表情は控えめだが、話している内容はしっかりしている。緊張はしているだろうが、それを表面に出さない強さがあるのかもしれない。

「ありがとうございます。これまで、何か配信活動や、人前で自分を表現するようなご経験はありますか?」

 日咲さんは少し考え込むような仕草を見せた後、ゆっくりと話し始めた。その声は落ち着いているが、その言葉の選び方や、時折見せる表情の変化から、彼女の内面を少しずつ覗き見ているような感覚になった。

 面接は、まだ始まったばかりだ。彼女がどんな人物なのか、どんなポテンシャルを秘めているのか、じっくりと見極める必要がある。七海の妹である可能性は、あくまでオレの個人的な推測に過ぎない。ここで下す判断は公平でなければならない。

 面接は進んでいき、次はオレが質問する番が回ってくる。オレは履歴書を確認する。すると、不得意な配信に『ゲーム』とあった。しかも嫌いと書いてある。七海がゲームが得意なのに……これは聞いてみてもいいかもしれない。

「えっと、不得意な配信に『ゲーム』とありますが、箱企画などではやることもありますが、それはどうでしょうか?」

「あっはい。もちろん仕事ですから、やります。ただ個人的には避けたいということです」

「その理由はありますか?」

「……姉の影響です」

「……お姉さんの影響ですか?」

 日咲さんは、こちらの反応を静かに見つめ返している。その瞳には、動揺や後悔の色は一切なく、むしろ何かを語る覚悟のようなものが宿っているように見えた。

「はい。私の家は決して裕福ではありませんでした。なのでずっと姉と同じ部屋で。しかも部屋にはテレビが1台。流行っているテレビ番組を観ようとしても、姉がゲームをやっていて観れませんでした。学校では話題についていけず嫌な思い出しかありません。まぁ。完全に個人的な感情で、お恥ずかしい限りなのですが」

 裕福でない家庭環境、姉と同じ部屋、一台のテレビ。流行の番組が見られず、学校での話題についていけない辛さ。それは、子供にとって小さくても、深い傷になる可能性がある。姉である七海が悪意を持ってそうしたわけではないだろうが、結果として「ゲーム=嫌な思い出に繋がるもの」という認識になってしまったのだろう

 部屋の空気は、先ほどまでの張り詰めた緊張感から、日咲さんの内面に触れたことによる、少ししっとりとした空気に変わったように感じた。

 日咲さんはそこまで語って、再び静かにこちらを見つめ返している。恥ずかしいと言ってはいたが、語られた内容はむしろ彼女の人間的な深さを感じさせるものだった。誰もが持つわけではない、幼い頃の、誰にも言えなかったようなもの。それを面接という場でこれほど落ち着いて語れるというのは、彼女の中にそのコンプレックスやマイナスイメージを払拭できるような強さがあるからなのかもしれない。
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