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46. 変化

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46. 変化



 外から潮の匂いが部屋に広がる。あたしは今旅行中だ。そして夏休みの宿題を旅館でやっている。一応この旅行中に1日は宿題をやると決めていた。それなら真ん中の2日目にしようとみんなで決めたのだ。

「うーん……あれ?これはどうなってるの?突然数字がバグった?」

「どれ凛花ちゃん?あー。ここ計算間違えてるよ?あとこっちも。」

 と、隣から衣吹ちゃんが覗いて指摘してくれる。衣吹ちゃんは頭がいい。だから教えてくれるのはありがたいんだけど……。でも、今日はなんだか違う。いつもより距離が近い気がする。いや、気のせいではない。さっきから衣吹ちゃんの胸があたしの腕に当たっちゃってる!それになんかいい香りがして……。ドキドキしてくるなぁ。

 しかし、そんなことを気にしている場合ではない。今は数学の問題に集中しよう。

 カリカリカリ……。

 シャーペンの音だけが部屋に響く。そしてふと思ったことがある。昨日の花火の話のときの衣吹ちゃん少し変だったなぁ……。何かあったのかな?聞いてみようかな?

「凛花ちゃん。手が止まってるよ?」

「あっ。えっと…あれ?また数字が……。」

「ふふっ。少し休憩にする?私飲み物買ってくるよ。」

「ありがとう……。」

 そう言って衣吹ちゃんは部屋を出て行った。あたしは再び問題に取り掛かる。しばらくすると衣吹ちゃんが飲み物を持って戻ってくる。そしてカバンから一冊の小説を取り出して読み始める。

「あれ?衣吹ちゃん宿題は?」

「私はもう終わったよ。」

「えっ!?見せて!」

「ダメだよ。凛花ちゃん宿題は自分でやらないと。分からなければ教えてあげるから。」

 そう言って衣吹ちゃんは小説を読み始めた。まぁそうだよね。自分の力で解かないと意味がないもんね。あたしはまだ半分も終わってないのに……。やっぱり衣吹ちゃんは頭がいい。羨ましい。

 あたしは目の前にある問題を睨むように見つめた。それから何分経っただろうか。まだ解けていない。うーん……。全然分からない。ここはこうして……。

 あたしが悩んでいる横で衣吹ちゃんはずっと小説を読んでいる。あたしは衣吹ちゃんが読んでる小説が気になり始めたので聞いてみる。

「なんの小説読んでるの?」

「……【線香花火】っていう恋愛小説だよ。百合物の。」

 なるほど……百合小説か。本当に衣吹ちゃんは百合小説にはまったんだね……。すごいハマりようだ。

「どんなお話なの?」

「宿題終わってからね。」

「いや……気になって、あらすじだけ教えてほしいかなって……。」

「もう。しょうがないなぁ凛花ちゃんは。あらすじだけだよ?」

 衣吹ちゃんは【線香花火】のあらすじをあたしに話してくれる。

【線香花火:あらすじ】
 主人公の町村火夏(まちむらかな)は、町の小さな工場、花火職人の家の1人娘。そんな彼女も高校二年生になり、そろそろ進路を決めなければならない時期に差し掛かっていた。

 そんなある日、彼女は学校の帰り道で、コンビニで買った花火を砂浜でやっている女の子を見つける。その女の子の名は東雲杏奈(しののめあんな)と言い、この町に引っ越してきたばかりだと言う。

 杏奈と仲良くなった火夏は、夏休みの間、毎日のように一緒に遊ぶようになる。ある日、2人は町の小さな花火大会に行くことにするのだが……。

「って話だよ凛花ちゃん」

「面白そう!……あっあのさ宿題頑張るからさ、夜読ませてほしいな」

「うんいいよ」

「じゃあ……ここ教えて衣吹ちゃん」

 私はこうして【線香花火】を読むために宿題を頑張り、なんとか終わらせることができた。そしてその日の夜。衣吹ちゃんに小説を借りて一気に読み終える

 内容は思ったよりも良かった、主人公とヒロインの仲が良い描写が多くてキュンとした。そして2人を繋いだ花火をするラストシーンでは思わず涙が出てしまった。とてもいい話だ。

「どうだった?面白かった?」

「うん!すごくよかった!感動したよ!」

「ふふっ。それはよかった。凛花ちゃんは本当に恋愛小説が好きなんだね。」

 衣吹ちゃんのその言葉にあたしは驚く。そうだ……あたしは結愛先パイと出会わなければ恋愛小説の素晴らしさを知ることが出来なかった。少し前は小説の恋愛なんて作者のご都合主義くらいにしか思ってなかった。あたしも変わったのかな。

「凛花ちゃん。まだ起きてる?私はもう寝ようかなと思って。」

「あっ。うん。あたしも寝ようかな。」

「ありがと。助かるよ。私は明るいところだと寝つきが悪いから。」

「そう言えばこの前の衣吹ちゃんの家に泊まった時もそうだったよね……」

 あたしは、その発言と同時にあの日の衣吹ちゃんとのキスとひとりでシたことを思い出し、顔が赤くなっていくのを感じる。なんだか空気が悪くなってしまった。どうしよう……。何か言わないと……。その時衣吹ちゃんが口を開く。

「……そうだったね。あの日は月が綺麗な夜だったよね。……ねぇ凛花ちゃん」

「なに?」

「私ね……ううん。やっぱり何でもない」

「え?」

「……もう寝るね。凛花ちゃん。おやすみ」

「……おやすみ衣吹ちゃん」

 そうしてあたしたちは布団に入る。しばらく沈黙の時間が流れる。そして衣吹ちゃんの方からスーッという音が聞こえてくる。衣吹ちゃんはきっと眠ってるのだろう。

 でもあたしは眠れない。今日はいつもより衣吹ちゃんの距離が近いような気がする。ドキドキが止まらない。

 衣吹ちゃんが寝返りを打ったのか布の擦れる音が鳴る。その度に心臓が跳ね上がる。あたしは目を瞑る。その後もあたしはしばらく眠れなかった……。
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