元旅人の王宮騎士

矢崎未峻

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 王子の護衛が立ち合いをする相手は、ユーリの近衛騎士の中で2番目に強い人だ。
 本来ならこの人との立ち合いは副団長がやるはず、というかやらないといけないのだが、例によって上役からその辺の事は免除されている。
 つまり、上役にとっては立ち合いなんてものは面倒でありやらなくても良いものであるということだ。
 実際、立ち合いをしない場合もあるのでやらなくて良いといえばやらなくて良いが、先方との話し合いでやると決まった限りはやらなきゃいけないものに変わる。
 それをやらなくて良いなんて、何考えてんだか。
 ・・・思ったより良い勝負してね?つか2番目のが強いんじゃ?
 ちらっとユーリの方を向いたら、今度は首を横に振られた。
 なるほど、うちの団長がおかしいのか。
 確かにグレン団長は冒険者時代はAランクで、今は当時より強いってサラさんが言ってたし、俺の目にもSランク手前の強さはあるように見える。
 うーん、普通にバケモンだった。身近すぎて感覚バグってたんだなぁ。
 王子の護衛はうちの連中の平均よりちょい高いくらいの実力で、俺もその辺。
 うちの連中って強い方だったのか。

「バカたれ。平均程度の実力のやつに、王子の護衛なんて任せねーよ」

「・・・団長、心読まないでくれます?」

「あいつはうちで3番目に強いぞ」

 無視かい。って

「3番目!?え、グレンさんうちの連中の平均値上げすぎじゃないです?」

「オレだけでそんな上がるわけ無いだろうが」

「じゃあ誰が?」

「・・・本気で言ってんのか?」

「はい」

「おめーだよ。うちで2番目に強くて平均値を著しく上げてる原因は」

「はっはっは、んなアホな」

「事実だバカ。お前が上役に言われた"1人"でCランクと倒せる実力が云々ってやつだが、実際は"3人"でCランクだ」

なん、だと

「・・・んなアホな」

「いや気付けよ。どう考えてもうちの連中にCランクを1人で相手取るなんて芸当が出来るやつなんて居ねーだろ」

 あのジジイ共・・・。やってくれたな。
 いや待て、よくよく考えてみたら冒険者の平均ってDランクだよな。Cランク冒険者でベテランと言われる。
 ベテラン冒険者の強さって一般的な価値観で言えば相当な強さだもんな。
 Bランクで化け物扱い。Aランクは人外。Sランクなんてこの世のものじゃない。って言われてるし。
 いやまあ、実際Sランクに関してはこの世のものじゃないって言っても過言じゃないんだけど。
 なるほど、大勢のDランクと1人のAランクと1人のBランクを平均するとCランク程度になったのか。それでCランクを1人で倒せる強さね。

「あれ?じゃあ訓練の時って俺にだけ本気で?」

「おう。周りの奴らがお前の相手をしたがらないのはお前が強すぎるからだ。で、オレはお前をぶっ飛ばすために他のやつで準備運動してから全力出してる」

「え、待って下さい。俺みんなに嫌われてんだと思ってたんですけど?」

「嫌ってんのはニースだけだ」

「事務仕事がめちゃくちゃ回ってくるのは?」

「ニースの尻拭いだな」

「いや、そうじゃなくて。何で俺に?」

「頼みやすかった。オレが」

「あ、そっすか。じゃねーよ!?何やってくれてんだよあんた!」

「文句なら上役に言え」

 言えるなら言ってるんだよな~。

「言ったら今度こそクビにされるから言えません」

「もう十分、嬢ちゃんに恩は返したと思うぞ?」

「・・・やめるなって言われたので」

「本音は?」

「・・・・・言えませんよ」

「そうか」

 言えないよな。こんなの分不相応すぎる。
 お、立ち合い終わった。惜敗か。
 フェイクに引っ掛からなければ勝ててたかもしれないな。
 団長も同じようにアドバイスして「今度から訓練でフェイク混ぜるからそのつもりでいろ」などと言ってビビらせている。

「お疲れさん」

「サンキュ。改めて、うちの団長が化け物だって分かった立ち合いだった」

「俺も見てて感覚が麻痺してることに気づいたよ」

「「・・・ははははは、はぁ」」

 感覚、麻痺したままで良かったかも。今後の訓練が憂鬱だわ。
 同じ気持ちになったのか、お互い乾いた笑いとため息が漏れた。
 順当に行けば、次の立ち合いは俺の出番で、相手は3番目に強いやつのはずだ。でも今の話からすると、俺じゃなくて違う人が当てられる可能性もある。
 さて、団長はどうするのかな。

「ユーゼン、次はお前だ」

「は」

 順当にいったか。
 あちらも、俺の予想通り3番目に強いやつが出てくるようだ。
 木剣を持って、お互い構えようとしたところで横槍が入った。

「その立ち合い、少し待って貰えるか」

 ユーリだ。
 一体なんだ?立ち合いに横槍を入れるなんて、あいつらしくない。

「どうされました?」

「その者との立ち合い、こちらのセバスが相手でもよろしいか」

「こちらは構いません。良いな、ユーゼン」

「もちろんです」

 なるほど、そういうことね。
 自分の近衛騎士の立ち合いを見ていられなくなったのもあるだろうが、恐らくこれはセバスさんの申し出だろう。
 あの人、戦闘狂だから。
 木剣を持ってこちらに歩いてくるセバスさんの姿は、ただの優しげな初老のじいさんなんだけどなぁ。

「久しぶりですな。ゼ・・・いや、ユーゼン殿」

「ゼンで良いですよ。セバスさん」

「ではお言葉に甘える事にいたしましょう」

 会話はそれだけ。今話すことはもうない。
 互いに木剣を構えた頃を見計らって、団長から始まりの合図が出される。
 まずは上段斬りの鍔迫り合いから。
 このジジイ、衰えるってこと知らねーのかよ.....!力比べ互角じゃねーか。
 このままでは埒があかない。そしてこのジジイは鍔迫り合いで一旦引くなんてするはずがない。
 だから、こっちから力抜いて後方に下がる!んで、即反撃!!
 今度は突進の力を上乗せした上に体勢が崩れた瞬間を狙ったタイミング。防御は不可能。普通なら。

「っぱ、あんたは攻撃に転じるよな!セバスさん!」

「駆け引きの鬱陶しさは相変わらずですね!ゼンくん!」

 このジジイ、攻撃は最大の防御を地で行っているのだ。このくらいで守りに入るわけがない。
 今の攻撃も守りに入れば劣勢になっていたところを、攻撃に転じることで互角に保っている。
 ただまあ、ここまでは茶番だ。お互いが数年前と変わっていない事の確認作業である。
 さあ、本番はここからだ。なんせ俺は、王宮剣術で戦わないといけないからな。
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