【完結】一瞬にかけた流れ星、或いはロードスター 〜たった一度だけ雑誌で見た憧れの人とシェアハウスすることになる話〜

星寝むぎ

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まだ恋を知らない-2

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 手を引かれ、連れていかれたのは柊吾の部屋だった。この家に越してきてもうすぐで半年になるが、入室するのはこれが初めてだ。壁にはnaturallyのポスターや数々のデザイン画が貼られている。デザイナーの人から回ってくるのだろうか。こんな状況ではあるが思わず見入ってしまうと、柊吾はデスク前のチェアに腰を下ろし、あろうことかその膝の上に夏樹を座らせた。うなじに柊吾の息が当たり、思わず息を飲む。

「わっ、椎名さん!?」
「夏樹、ちゃんと聞いて。さっきの電話は夏樹が思ってるようなものじゃない、店長からだ」
「……店長?」
「そう。見といて」

 そう言った柊吾は夏樹を抱いたまま、デスクの上のタブレットに手を伸ばした。それから夏樹の肩に顎を置いて操作する。これでは夏樹にも画面が丸見えだが、見ているように言われてしまった。

「これ……」
「客注のデータだな。明日でもいいと思うけど、店長は心配性なところあるから。目を通してないの思い出して、今すぐ送ってほしいって」
「…………」
「よし、これでオーケー」

 データを手際よくメールに添付し、店長宛てに送信される。ものの一分ほどの出来事だった。

「分かった? 俺、どこも行かないから」
「っ、ごめんなさい、オレ、勘違いして。その……」
「別にいいよ。俺の日頃の行いのせいだし。まあ最近は、もうそういう気もないんだけど」
「へ……?」

 とんでもない勘違いをして、とんでもないことを口走ってしまった。今すぐにこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。だが柊吾がそれを許さない。浮きかけた夏樹の体を抱き止め、肩甲骨の辺りに額を擦りつけられる。

「……さっき、どういうつもりで言った? 『オレにしてほしい』って」
「あ……えっと」
「まだ酔ってる?」

 自分で言ったのだからきちんと覚えている。口から出たでまかせでもない。だがその大胆さに、改めて自分でも驚く。そうなってもいいと本気で思っている。

「酔ってないです」
「……オレはゲイだし、夏樹と出来るよ。でも夏樹は違うだろ。それに……そういうことは“好きな人とするもの”、なんだろ?」
「あっ」

 腹に置かれていた右手の親指が、そろりとそこを撫でた。たったそれだけ、それだけなのに――脳髄まで痺れるような刺激が夏樹の体を駆け上がる。

 ああ、どうしよう。触ってほしい。たったひと撫でで欲情してしまった夏樹は、熱くなり始めた息を手で押える。だがその手も絡めとられてしまった。

 先ほどの電話はセフレではなかった、勘違いだった。だが撤回はしたくない。それは何故だろう。大事なことだと思うのに頭が回らない、柊吾が言うように自分は酔っているのだろうか。

「どうする? してみる?」
「あ……オレ」
「……なんてな。これに懲りたらあんなこと、軽々しく言うんじゃ……」
「っ、やだ!」
「……夏樹?」

 聞き分けのない子どもに言い聞かせるようにして、柊吾は夏樹を膝から下ろそうとした。いやだ、と咄嗟に思った。慌てて体を後ろに向け、柊吾の首にしがみつく。

 好きな人とするものだと言ったのは自分だ。柊吾だってそれを覚えていた。だが、だから柊吾とするのはおかしい、という結論に夏樹は何故か至れない。

「椎名さんに、触って、ほし……」
「……自分が何言ってるか分かってる?」
「分かってる」
「……こっち」

 手を引かれるままにベッドのほうへ行くと、腰を下ろした柊吾の膝の上、今度は向かい合うようにして座らせられた。すぐ目の前の顔についうっとり見惚れると、首を傾げながら柊吾が小さく笑う。

「そんなに俺の顔好き?」
「うん、かっこいい」
「そう」

 笑っているのに、どこか寂しそうなのは気のせいだろうか。切なさを覚えながら、好きなのは顔だけではないと知ってほしくて、柊吾の頬へ手を伸ばす。包みこむように添えて、下のまぶたをゆっくりと撫でる。

「出逢って椎名さんのこと色々知ったら、もっとかっこいいって思いました。オレ、周りみんな優しい人ばっかりで幸せ者だなって思うんですけど。椎名さんがいちばんあったかい」
「夏樹……」
「だから今日も、あのカフェから逃げ出した時……椎名さんに会いたくなって、帰ってきちゃいました」
「っ、夏樹」
「あっ」

 下くちびるをきゅっと噛んだかと思うと、柊吾は夏樹の首筋に額を摺り寄せた。荒い息がシャツに滲みこんで、中に大きな手が入ってくる。親指でへその辺りをくるくると弄られ、さっき腹を撫でられた時の感覚が戻ってくる。ああ、なんで、なんでたったこれだけで気持ちがいいのだろう。柊吾に触れられていると思うと、頭の奥がどうにも痺れ、もっともっとと欲張りになってしまう。

「椎名さん、オレ、あ、なんで……」
「ん……もう勃ってんな。なあ、本当に触っていいのか?」
「ん、触って、ほしいっ」
「……抜き合いとかしたことある?」
「抜き合い? って?」
「友だち同士で触って抜くヤツ」
「ない、そんなのない」
「彼女とは?」
「キス、しかしてない! あっ、椎名さんの……椎名さんも気持ちいいの?」
「うん」

 体を触られているのは夏樹だけで、しがみつくだけで精いっぱいなのに、いつの間にか柊吾のそこもきつく張り詰めている。向かい合って抱きついているのだから、自ずとそこはぶつかって、その感覚に夏樹の腰は跳ね上がった。柊吾の硬いものに当たるだけで、あられもない声が溢れてくる。服越しでもその刺激はあまりにも甘美で、擦りつけるのをやめられなくなる。

「あ、恥ずかしい、のに、止まんない」
「ん、気持ちいいな」
「あっ、耳舐めるの、やばい」

 柊吾も腰を揺らし始め、シャツの中の手に胸を捏ねられる。加えて耳の中に舌を伸ばされ、直接声を注がれては一溜まりもない。慌てて両腕を突っ張り、必死に訴える。

「ま、待って」
「もうイきそう?」
「違っ、いや違わない、けど、そうじゃなくて」
「ん?」
「キス、したい」
「……あー、俺いつもしないんだよな」

 こんなに淫らなことをしているのに、一度もキスは出来ていないのが無性に寂しかった。いつも、なんて言葉が柊吾から出てくるのもモヤモヤする。

「ダメ? っすか?」
「……夏樹はしたいの?」
「ん……」
「後悔しない?」
「後悔? なんで? 絶対しない」
「ん……じゃあしよっか」
「あ、椎名さん……」

 いつもはしないと渋った割に、なぜか夏樹の意志を再確認した柊吾はほほ笑みながら額同士を合わせてきた。抱きすくめられながら頬を撫でられ、熱い手が夏樹の髪の中に這いまわる。地肌を撫でられる感覚に、堪らず吐息がもれる。そうして小さく開いたくちびるへ、柊吾のそれがそっと重なった。

「んっ……」
「嫌じゃない?」
「嫌じゃない、椎名さんは?」
「うん、俺も」
「嬉しい……もっとしたい」
「ん……」

 何度もくり返して啄むようにしていたら、内側の粘膜が触れ合った。とろけそうで声が零れると、その隙に柊吾の舌が入ってきた。にゅるにゅるした熱い感触に思わず体が逃げそうになれば、それを許さないとでも言うように腰と頭をぐっと引き寄せられた。その瞬間、服を着たままで夏樹は果ててしまった。びくびくと震える体を抱きしめてもらえて、涙まで溢れてくる。

「うう」
「嫌だった?」
「ううん、嬉しい、すごい気持ちかった……椎名さんも、その、出た?」
「んー? 俺はまだ。なあ夏樹、下脱げる?」
「ん、脱げる」

 柊吾から一瞬でも離れたくなかったが、気怠い体で一旦床に足を着いた。ベルトに手をかけ、だが気恥ずかしいからか上手く外せずにいると、柊吾の手が伸びてきた。ループに通ったベルトの先を抜いて、バックルを外そうとしてくる。

 とことん優しい、そうなのだろうか。柊吾の“いつも”に負けたくないし、“いつも”はないこともキスみたいに叶えたい。どんどんワガママになっている自分を自覚しながら、ハーフパンツを脱ぎ終えたところで夏樹は柊吾の膝上に戻った。濡れた下着は居心地悪いが、少しでも早くまたくっつきたかった。

「夏樹?」
「椎名さんがいつもしてること、したい」
「え? あー、いや、それは無理だな」
「なんで?」
「なんで、って……俺はタチだし」
「タチ?」
「……挿れるほう、ってこと」
「挿れる? どこに?」
「それは……ここ」
「あっ」

 じいっと瞳の中を覗きこまれながら、下着越しに後ろに触れられた。押しこまれた生地がぐじゅっと音を立て、顔を隠すように柊吾の首にしがみつく。ここ、とはどういう意味だろう。夏樹にとって未知の世界だ。

「え、っと。そ、そんなとこに入るの?」
「まあな。でもしない」
「え、なんで?」
「準備がいるし、そんなすぐ入るもんじゃないし。てか夏樹、そんなのいいから」
「……なんで?」
「夏樹はゲイじゃないだろ。無理にそんなのしなくていい」
「無理じゃない……それに、いつもしてるんすよね? オレも椎名さんとしたい」
「夏樹……」

 じゃあしよう、と言ってすぐに出来るものではないらしい。その悔しさはどうにか我慢出来る。だが、そんなことはしなくていい、と言われたのは納得いかなかった。いつもしているのに何故? 自分では駄目なのだろうか。柊吾のそういう相手になれないのだろうか。こんなに……こんなになんだろう。頭の中に浮かんだ言葉の続きが分からない。それでも心は駄々っ子のように不満でいっぱいで、夏樹は柊吾の首に齧りついた。まだ大きいままの柊吾のそこに擦りつけると、夏樹のものも再び首をもたげ始める。

「椎名さん、やだ、椎名さんも気持ちいいの、したい、やだぁ」
「夏樹……あーもう、夏樹、こっち。顔見せて」
「ん……んう」

 むくれた顔を上げると、柊吾は小さく笑ってまたキスをした。舌を出すように言われ素直にそうすると、今度は柊吾の口内に引きこまれた。ぬるぬると舌を絡め、そっと歯を立てられたかと思えば、きゅうっと絞るように吸われる。その間に柊吾は、器用にパンツも下着も脱いでしまった。それを見た夏樹は思わず息を飲み、再び外に出てきた息は自分でも驚くほどに熱かった。男の人に欲情したことは確かにない。それでも柊吾のそれには、くらくらと目眩がしそうなほど中てられてしまう。

「触りたい……椎名さん、触っていい?」
「ああ、まあ。でも……なあ夏樹、夏樹のここ、入っていい?」
「へ……ここ、って」
「おしりは無理だけど、夏樹のこの中」

 柊吾の人差し指が夏樹の下着の裾に潜りこみ、ぐいっと生地を引っ張った。ここに入る? どういう意味だろう? 首を傾げたのも束の間、膝の裏を持ち上げられたかと思うと、柊吾の猛ったそれが下着の裾から差しこまれてしまった。ぐずぐずに濡れた下着の中で、夏樹と柊吾のものが絡まるように触れ合う。目を白黒させる夏樹をじっと見つめながら、腰を送ってくる。柊吾の髪も一緒に揺れて、黄金色の流れ星が自分に向かって飛んでくるようでパチパチと眩しい。

「あっ、あーこれやばい……えっち、すぎる、ってぇ」
「気持ちいい?」
「きもちいい、こんなの、またすぐ出ちゃう」
「いいよ」
「あっ、椎名さん! んっ、ああっ、は、あ……――っ!」
「ん、夏樹……もうちょっとさせてな」
「は、あっ、椎名さん、椎名さんも、気持ちよくなって」
「すげー気持ちいいよ、夏樹……あー、もう出る」
「うん、うん、いいよ、しいなさん」
「は、あ……っ」

 下着一枚でふたり分を受け止められるはずもなく、夏樹の太腿を白いものが伝ってゆく。拭かなければと思うのに、2回も果てた夏樹は息をするので精いっぱいだ。まぶたも重たくなってきて、だけど伝えたいことがあると、必死に意識を繋ぎ止める。

「椎名さん……」
「んー?」
「今日、会えて、うれしかった」
「……うん、俺もだよ」
「今度、は、絶対最後までする。準備? の仕方、教えてくだ……」

 そこまで言ったところで柊吾に凭れかかる。眠りに吸いこまれてしまったから、額に降ってきたキスを一生知ることは出来ない。

「今度、って……ふ、ばあか」

 
 心が竦んだ日の夜。柊吾に満たされ夢を見る。それは青ざめた友人たちのものじゃない、柊吾の夢だった。幸せなまま眠りについて幸せな夢を見ているから、起きてもきっと幸せだろうと夏樹は夢の中でもそう思った。



 翌朝。目を覚ました夏樹は、自分がどこにいるのか一瞬分からなかった。勢いよく起き上がり、辺りを見渡す。そうだ、ここは柊吾の部屋で、昨夜は柊吾と――そこまで思い出し、シーツを手繰り寄せ顔を埋める。なんてことを言って、なんてことをしてしまったのか。思い出せば思い出すほど血液が体を駆け回り、恥ずかしさに居た堪れなくなる。叫び出したいのを必死に堪え、体を縮こめて。けれど後悔だけは一ミリもない自分に、夏樹はひとつ深呼吸をする。

 恋人との終わりを迎えたその日に、別の人に体をさらけ出した。ふしだらだと自分でも思うけれど、幸せな時間だった。柊吾はどうだろうか。しなければよかったと悔いてはいないだろうか。そう考えると居ても立っても居られず、ベッドから飛び降りる。リビングへと駆けこむとそこには求めていた人の姿があった。

「椎名さん!」
「おう、おはよ」
「へへ、おはようっす」
「朝ごはん、食べるよな?」
「あ、はい。さすがにお腹空きました」
「そりゃよかった。ちょっと待ってて」

 変わらない笑顔に安堵を覚える。心配は無用のようだ。そうだと分かれば今度は、照れくさい気持ちが生まれてくる。それでも「はい」と返事をしてから、リビングに全ての荷物を置きっぱなしにしていたことに気づく。今日はまだ熊本にいる予定だったから、バイトも入れていない。片づけは後程取り掛かるとして、でもこれだけはと空港で買い物をした紙バッグを引き寄せる。柊吾に渡したいものがあった。

「椎名さん! お土産渡してもいいっすか?」
「土産? マジ? よくあんな状態で買ってこれたな」
「あー、はは。だって椎名さんに会いたい一心だったから、忘れようもないっすよ」

 晴人に頼まれていた酒のつまみをソファ前のローテーブルに置き、柊吾用の土産を持ってキッチンへ戻る。これっす! と勢いよくそれを見せると、柊吾は目を丸くした。

「え、それ?」
「ふにゃくまっす! 椎名さん、前にいいじゃんって言ってくれたけん、絶対これだーって思って。ちなみにオレの分もあります!」
「はは、マジか。ぬいぐるみのキーホルダー?」
「っす! オレはスマホにつけようと思ってます」
「夏樹はいいけど、俺がつけてたらさすがにおかしくない?」
「えー? 別に平気っすよ! ふにゃくま可愛いし!」
「俺に“可愛い”は似合う気がしないけど……でもありがとな」

 そう言って柊吾はふにゃくまを受け取り、とりあえず、とパンツのポケットに仕舞ってくれた。

 朝食が出来たようで、ダイニングのチェアに腰を下ろすとプレートが出てきた。カットされたホットサンドからはハムとチーズが覗いていて、ゆでたまごとミニトマトのサラダ、オレンジジュース。数日ぶりの柊吾の手料理に、お腹がぎゅるぎゅるとそれを求める。

「いただきます!」
「どうぞ」

 大きく出てしまった声を柊吾に笑われ、それを気恥ずかしく思いながらも食事の手は止まらない。まともに食べるのは昨日のランチぶりだ。ちゃんと美味しいと思える時間を柊吾と迎えられた。日常を過ごせることにほっとする。穏やかな朝を噛みしめていると、柊吾がそうだ、と口を開いた。本当に何気ない、まるで今日の天気でも確認するような口ぶりだったから、夏樹は何を言われているのかすぐには分からなかった。

「昨日のことだけど、ごめんな」
「……へ? ごめんって……何がっすか?」
「昨夜の、色々。大人なんだから俺が止めなきゃいけなかったのに、悪かった」
「…………」

 どうして謝られているのだろう。幸せな夜だったと今の今まで思っていたし、求めたのは夏樹だ。柊吾にそんなことを言わせてしまったと、胸がざわつき始める。こみ上げそうな涙に苦しい喉を堪え、どうにか口を開く。

「え、っと、謝られる意味が分かんないっす。なんで? 謝るとしたら、それはオレのほうっすよね」
「ううん、俺だ」
「っ、なんで……」
「夏樹はさ、そういうのは好きな人同士でするもんだ、って言ってたじゃん。分かってんのにな……あー、ほら、俺もたまってたから? つい、な」
「…………」
「夏樹と気まずくなりたくないし、なかったことにしてくれると助かる」

 柊吾の言葉に絶句し、頭が混乱し始める。以前夏樹が言ったことを柊吾は昨夜も気にしていた。ちゃんと覚えているし、好きな人同士がするものだと今もそう思っている。だが昨夜、それを理由にやっぱりやめようという気にはなれなかった。つまり自分は、柊吾のことをそういう意味で好きなのだろうか。長年抱いた憧れは強く、今すぐここでそうだと判断するにはあまりに眩しい。それに、だ。仮に自分がそうだとしても、柊吾も同じはずがない。恋愛に興味がないと言っていたし、現にたまっていたからつい、と今言われたばかりだ。

 何事もなかったように収めるのが最善だ、そうしたいのだと柊吾は示しているのだろう。これからも、今まで通りの関係でいられるように。

「え、っと……分かりました! なかったことにっすね! 了解っす!」
「うん、ありがとな」
「でも……一個だけお願いがあります」
「ん?」
「椎名さんがそう言うなら、オレ謝らんときます。でも、椎名さんも謝らんでください。ちゃんとなかったことにする、するけどオレは、幸せだったから……謝ってほしくなかです」
「……うん、分かった」
「へへ、あざす! えーっと、オレ、ジュースのおかわり入れてくるっす! 椎名さんは?」
「じゃあ俺ももらおうかな」
「はーい!」

 逃げるようにふたつのグラスを持ってキッチンへ行き、ダイニングへ背を向けて冷蔵庫を開ける。大丈夫、大丈夫だ。この先気まずくならないようにと言ってくれたのだから、嫌われたわけではないはずだ。だから大丈夫だ。紙パックから注いだら、丁度ふたり分でジュースは終わった。冷蔵庫の冷気で頬が冷えて、このジュースみたいに涙もこれっきりで終わらせることが出来る。バレないように拭ったら、いつものように笑うのだ。

「お待たせっす! 椎名さん今日仕事っすか?」
「うん、これ食べたら出るわ。夕飯何がいいか連絡して、それ作るから」
「オムライスがいいっす!」
「はは、もう決まったな」
「へへ、椎名さん特製の楽しみにしてるっす!」

 大丈夫になりたい。大丈夫、そう出来る。夏樹はただただ、必死に願った。
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