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桃色の気配
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昨日あったいいことなんてもちろん、コーヒーショップでの桃真とのことに他ならない。そのまま伝えるわけにはいかないけれど、少しくらいならいいだろうか。昨日ショップにオレが行っただなんて、桃真は気づいていないのだし。伝わりはしなくても、大切なんだと言葉にしてみたい。
「宝ものができた」
「宝ものって?」
「えーっと……ずっと、手元にほしいと思ってたものがあるんだけど」
「うん」
「昨日、やっとそれが手に入った」
「そうなんだ。それってなに?」
「……絵、かな」
「絵? アートとか?」
「もっと気軽に描いてくれたとは思うんだけど、オレにとってはそうだね」
「へえ、そうなんだ」
「うん。すごく、元気になれる絵。昨日すぐに飾ったんだ」
「ふうん、そっか」
「うん」
桃真の記憶にもある昨日のことが、オレとのことだとは気づかれないように。探り探りでそこまで言うと、桃真が滲み出るようなほほ笑みを見せた。なんて素敵な顔をするのだろう。思わず見惚れていると、繋いでいる手を桃真が小さく揺らした。
「じゃあ俺も、昨日はいいことあった。まあ元々嬉しかったけど、もっとだな」
「…………? “じゃあ”って?」
「んー、なんでも」
首を傾げたところで、4限目の終わりを報せるチャイムが鳴った。
「あ、終わったな。教室行くか」
「うん」
手がそっと離れて、桃真は頭をぽんと撫でてくれた。なんのことかは分からないけれど、桃真にとっても昨日がいい日なのならよかった。そう思いつつ、保健室を出ようとする背中を引き止める。どうしても伝えたいことがある。
「桃真! あの!」
「んー? どうした?」
「本当にありがとう」
「ここに一緒に来たこと? 気にすんなって」
「うん、それもなんだけど……オレの顔、見えないようにしてくれたよね。グラウンドでも、さっき先生に手当てしてもらう時も」
「あー……うん」
「すごく助かった。その、オレ、顔見られるの苦手だから。桃真、気づいてたんだね?」
「まあな」
「そっか。ごめんね」
桃真が友だちになってくれた。桃真がいるから、川合くんや佐々木くんとも話せるようになった。それでも、顔を出す気には今もなれない。KEYだと知られないようにというのもあるし、小学生からのトラウマが未だにオレに巻きついているからだ。
いつもそばにいてくれるのに。友だちだと言ってくれるのに。桃真の優しさが嬉しいのと同じくらい、申し訳なさでいっぱいになる。
「なんで? 謝ることないよ」
「でも……」
「希色は見せたくないんだろ? じゃあそれでいいじゃん。誰にでも、秘密のひとつふたつあるって」
「……そう、なのかな」
「そうそう。俺だってあるし。そうだな、ふたつあるな」
「え、そうなの?」
「うん、秘密だから言えないけど。まあでも……」
昼休みを迎えた廊下は、少しずつ賑やかになってくる。それを遠くのほうに聞きつつ、さっきより離れた距離を取り戻すように、桃真が一歩近づいてきた。そしてまた、手をきゅっと握られる。かと思ったら、指先がそっと絡まった。
「いつか希色に言えたらな、って思ってる。それが言える時は多分、希色ともっと仲良くなれた時だから。ちょっと楽しみにしてる」
「…………? それってどういう意味?」
「なんだろうな。秘密だから言えないな」
そんなことを言って、桃真がいたずらに笑ってみせる。
桃真の秘密って、一体なんなのだろう。自分は言えないくせに、すごく気になる。それに、指の間に感じる、桃真の体温。ドギマギと動く心臓が、なんだか甘ったるい。
「宝ものができた」
「宝ものって?」
「えーっと……ずっと、手元にほしいと思ってたものがあるんだけど」
「うん」
「昨日、やっとそれが手に入った」
「そうなんだ。それってなに?」
「……絵、かな」
「絵? アートとか?」
「もっと気軽に描いてくれたとは思うんだけど、オレにとってはそうだね」
「へえ、そうなんだ」
「うん。すごく、元気になれる絵。昨日すぐに飾ったんだ」
「ふうん、そっか」
「うん」
桃真の記憶にもある昨日のことが、オレとのことだとは気づかれないように。探り探りでそこまで言うと、桃真が滲み出るようなほほ笑みを見せた。なんて素敵な顔をするのだろう。思わず見惚れていると、繋いでいる手を桃真が小さく揺らした。
「じゃあ俺も、昨日はいいことあった。まあ元々嬉しかったけど、もっとだな」
「…………? “じゃあ”って?」
「んー、なんでも」
首を傾げたところで、4限目の終わりを報せるチャイムが鳴った。
「あ、終わったな。教室行くか」
「うん」
手がそっと離れて、桃真は頭をぽんと撫でてくれた。なんのことかは分からないけれど、桃真にとっても昨日がいい日なのならよかった。そう思いつつ、保健室を出ようとする背中を引き止める。どうしても伝えたいことがある。
「桃真! あの!」
「んー? どうした?」
「本当にありがとう」
「ここに一緒に来たこと? 気にすんなって」
「うん、それもなんだけど……オレの顔、見えないようにしてくれたよね。グラウンドでも、さっき先生に手当てしてもらう時も」
「あー……うん」
「すごく助かった。その、オレ、顔見られるの苦手だから。桃真、気づいてたんだね?」
「まあな」
「そっか。ごめんね」
桃真が友だちになってくれた。桃真がいるから、川合くんや佐々木くんとも話せるようになった。それでも、顔を出す気には今もなれない。KEYだと知られないようにというのもあるし、小学生からのトラウマが未だにオレに巻きついているからだ。
いつもそばにいてくれるのに。友だちだと言ってくれるのに。桃真の優しさが嬉しいのと同じくらい、申し訳なさでいっぱいになる。
「なんで? 謝ることないよ」
「でも……」
「希色は見せたくないんだろ? じゃあそれでいいじゃん。誰にでも、秘密のひとつふたつあるって」
「……そう、なのかな」
「そうそう。俺だってあるし。そうだな、ふたつあるな」
「え、そうなの?」
「うん、秘密だから言えないけど。まあでも……」
昼休みを迎えた廊下は、少しずつ賑やかになってくる。それを遠くのほうに聞きつつ、さっきより離れた距離を取り戻すように、桃真が一歩近づいてきた。そしてまた、手をきゅっと握られる。かと思ったら、指先がそっと絡まった。
「いつか希色に言えたらな、って思ってる。それが言える時は多分、希色ともっと仲良くなれた時だから。ちょっと楽しみにしてる」
「…………? それってどういう意味?」
「なんだろうな。秘密だから言えないな」
そんなことを言って、桃真がいたずらに笑ってみせる。
桃真の秘密って、一体なんなのだろう。自分は言えないくせに、すごく気になる。それに、指の間に感じる、桃真の体温。ドギマギと動く心臓が、なんだか甘ったるい。
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