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脚光
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コーヒーショップが近づくほどに、やっぱり緊張でいっぱいになってきた。顔を合わせた瞬間に、そっけない態度を取られたらどうしよう。もう生きてはいけないと思うくらいには、絶望してしまうかもしれない。それでもどうしてもあの店の、桃真が作ってくれるコーヒーを飲みたい。
信号を待つ多くの人々の中で、自分の靴が見えるほどに俯く。青信号に変わり、人波に合わせて歩き出す。止まってなんていられない東京の街は、残酷という言葉がよく似合う気がする。
大通りから一本曲がり、家電量販店の前でふと足が止まった。「あっ」と小さく息を飲み、目の前のものに駆け寄ってしゃがみこむ。カプセルトイの機械だ。数多く置かれている中に、ペンギンくんの商品のものが一台ある。
カプセルトイの景品としてペンギンくんのキーホルダーが販売されるという情報は、先月から仕入れていたのに。M's modeの発売時期と重なっていたからか、すっかり忘れてしまっていた。
ラインナップは5種類で、1回300円。でも財布には2回分の小銭しか入っていない。近くに両替機もなし。今日のところはコンプリートは無理でも、まさかたった2回でかぶりはしないだろう。ひとり頷いて、オレはハンドルを回したのだけれど。
まさか、と思うようなことでも、時にそれは起こるらしい。だったら、懸念していることはもっと起きやすいのではないか。きっと、いや絶対に桃真はオレの顔を見たくない。たった2回だけでかぶってしまったペンギンくんを手に、オレはため息をついた。同じものでもペンギンくんはかわいいのに、申し訳ない気持ちになる。
それでもコーヒーショップの目の前に立つオレは、自分勝手な人間だ。おずおずと店内を覗くと、すぐに桃真と目が合ってしまった。マスクをしているのに、すぐにオレだと気づいたみたいだ。わずかに目を丸くした桃真の表情で分かった。意を決して入店し、桃真のレジ前に立つ。
「いらっしゃいませ」
「アイスのブレンドをひとつお願いします。えっと……テイクアウトで」
顔を上げることがどうしてもできず、桃真の心の内をうかがい知ることも叶わない。オレがいたら桃真の気が休まらないかもと考えて、テイクアウトにした。
「かしこまりました。コーヒーはあちらのほうでお渡しします」
「はい」
数歩歩く動作すら、ぎこちないものになってしまう。コーヒーを作るかっこいい横顔を見るのも好きなのに、顔を上げる勇気が出ない。心臓が脈打つごとに、心は強張っていく。
「お待たせしました、ブレンドです」
「っ、ありがとう、ございます」
コーヒーを持って桃真がこちらへやってきた。緊張のあまり、上擦った声が出てしまう。うつ向きがちに受け取ると、ペンギンくんと目が合った。目尻を下げ、やわらかく笑っている。桃真、今日も描いてくれたんだ。カップを少し回すと、そこには吹き出しもあって――書かれていた台詞に、オレは衝撃を覚えた。勢いよく顔を上げる。
「あのっ、これ……」
吹き出しの中にはなんと、“雑誌買いました”と書いてあった。客であるオレのことを、桃真はKEYだと認識している。推測できてはいたけれど、やはりそうだったという確信と。桃真はKEYの存在が疎ましくないのか、という不安がない交ぜだ。
どうしよう。金魚みたいにぱくぱくと口が開閉するばかりで、なにも言えない。するとカウンターから少し身を乗り出した桃真が、口元に片手を添えて顔を近づけてきた。つられるように、オレも顔を近づける。
「KEYさんのこと、応援してます。表紙、おめでとうございます」
「っ!」
信号を待つ多くの人々の中で、自分の靴が見えるほどに俯く。青信号に変わり、人波に合わせて歩き出す。止まってなんていられない東京の街は、残酷という言葉がよく似合う気がする。
大通りから一本曲がり、家電量販店の前でふと足が止まった。「あっ」と小さく息を飲み、目の前のものに駆け寄ってしゃがみこむ。カプセルトイの機械だ。数多く置かれている中に、ペンギンくんの商品のものが一台ある。
カプセルトイの景品としてペンギンくんのキーホルダーが販売されるという情報は、先月から仕入れていたのに。M's modeの発売時期と重なっていたからか、すっかり忘れてしまっていた。
ラインナップは5種類で、1回300円。でも財布には2回分の小銭しか入っていない。近くに両替機もなし。今日のところはコンプリートは無理でも、まさかたった2回でかぶりはしないだろう。ひとり頷いて、オレはハンドルを回したのだけれど。
まさか、と思うようなことでも、時にそれは起こるらしい。だったら、懸念していることはもっと起きやすいのではないか。きっと、いや絶対に桃真はオレの顔を見たくない。たった2回だけでかぶってしまったペンギンくんを手に、オレはため息をついた。同じものでもペンギンくんはかわいいのに、申し訳ない気持ちになる。
それでもコーヒーショップの目の前に立つオレは、自分勝手な人間だ。おずおずと店内を覗くと、すぐに桃真と目が合ってしまった。マスクをしているのに、すぐにオレだと気づいたみたいだ。わずかに目を丸くした桃真の表情で分かった。意を決して入店し、桃真のレジ前に立つ。
「いらっしゃいませ」
「アイスのブレンドをひとつお願いします。えっと……テイクアウトで」
顔を上げることがどうしてもできず、桃真の心の内をうかがい知ることも叶わない。オレがいたら桃真の気が休まらないかもと考えて、テイクアウトにした。
「かしこまりました。コーヒーはあちらのほうでお渡しします」
「はい」
数歩歩く動作すら、ぎこちないものになってしまう。コーヒーを作るかっこいい横顔を見るのも好きなのに、顔を上げる勇気が出ない。心臓が脈打つごとに、心は強張っていく。
「お待たせしました、ブレンドです」
「っ、ありがとう、ございます」
コーヒーを持って桃真がこちらへやってきた。緊張のあまり、上擦った声が出てしまう。うつ向きがちに受け取ると、ペンギンくんと目が合った。目尻を下げ、やわらかく笑っている。桃真、今日も描いてくれたんだ。カップを少し回すと、そこには吹き出しもあって――書かれていた台詞に、オレは衝撃を覚えた。勢いよく顔を上げる。
「あのっ、これ……」
吹き出しの中にはなんと、“雑誌買いました”と書いてあった。客であるオレのことを、桃真はKEYだと認識している。推測できてはいたけれど、やはりそうだったという確信と。桃真はKEYの存在が疎ましくないのか、という不安がない交ぜだ。
どうしよう。金魚みたいにぱくぱくと口が開閉するばかりで、なにも言えない。するとカウンターから少し身を乗り出した桃真が、口元に片手を添えて顔を近づけてきた。つられるように、オレも顔を近づける。
「KEYさんのこと、応援してます。表紙、おめでとうございます」
「っ!」
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