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その一目惚れは人違いです
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なんだ、やっぱり自分じゃなかった。まっすぐに目を見て言われた言葉たちだが、そのひとつひとつが対象は自分ではないのだと、丁寧に教えてくれていた。
「森本、尾方。先帰ってて」
「別に待ってるけど」
「いや、平気」
「そ、分かった。じゃあまた明日なー」
「おう」
なんだか面倒なことになりそうだなと踏んで、友人たちにそう告げた。それからため息をひとつ吐く。なにか言いたげな目の前の後輩に、聞こえるように大げさに。すると一瞬ムッとした顔を見せたと思ったら、一歩距離を詰められた。
「人違いなんかじゃないっす」
「いや、絶対に違う」
「違わない」
「……はあ」
どうやら、中々に頑固者のようだ。だが、あり得ないことを受け入れるわけにはいかない。
この初々しい高校一年生が一目惚れしたという相手は、絶対に自分ではない。間違いなく、兄のことだ。
桃輔には同じ高校に通う、双子の兄がいる。笹原桜輔。桃輔とは違い勉強ができて、入部している弓道部でも優秀な成績を残している。人望も厚い。おまけにその見た目もイケメンだと騒がれている。切れ長の少し色素の薄い瞳、スッと通った鼻筋。
そんな桜輔と桃輔は一卵性の双子で、顔立ちこそ瓜二つなのだが。中身には雲泥の差があり、誰もがふたりを比べては桜輔を褒めたたえる。幼い頃からそうだった。
みるみる膨らむ劣等感から少しでも逃げたくて、桃輔は高校に入って間もなく見た目を変えた。ゆるいパーマをかけて茶色に染め、桜輔は下ろしている前髪をセンターパートにセットする。優等生の桜輔に反発するように、ピアスの穴もいくつか空けた。一瞬見ただけでは双子だと分からないくらいには、別々の人間になれたと桃輔は自負している。
だからこそ。この一年生が一目惚れをしたというのは自分ではなく、桜輔。そう断言できた。そもそも、受験生向けの学校説明会に関わってなどいない。だが桜輔はきっと、教師に頼まれてなにかしらの仕事を請け負ったのだろう。聞いてなどいないが、アイツのことだからと簡単に察することができる。避けるように話さなくなっていたって、どう転んでも双子だ。片割れの性分だとか考えることは、手に取るように分かってしまうのだ。
けれども、だ。よく見ないと双子だとは分からないくらいになったとは言え、見間違えるヤツも未だにいるらしい。この一年生がそのひとり、というわけだ。
「あのな、俺はその説明会には……」
「おーい、そこにいるのは一年か? 早く教室に向かいなさい、もうすぐ入学式が始まるぞ」
簡単に説明しようとしたところで、教師に声をかけられてしまった。しょっぱなから入学式をサボって目をつけられでもしたら、さすがに可哀想だ。それを強要してまで説明しなくても、じきに気づくだろう。
「行けよ」
「いや、でも……」
「いいから、ほら。怒られんぞ」
「…………」
「はあ。同じ学校になったんだから、また会えんだろ。ちゃんと」
自分ではなくて、本来声をかけるべきだった桜輔に、だけれど。暗にそう含んで言えば、どうにか納得してくれたようだった。会釈をした一年は来た道を戻り、だが数歩先で再びこちらを振り返った。
「オレ、水沢っていいます! 水沢瀬名! また絶対に声かけるんで!」
返事はせず、早く行けと促すように手をひらひらと振る。
「なんなんだアイツ……」
「森本、尾方。先帰ってて」
「別に待ってるけど」
「いや、平気」
「そ、分かった。じゃあまた明日なー」
「おう」
なんだか面倒なことになりそうだなと踏んで、友人たちにそう告げた。それからため息をひとつ吐く。なにか言いたげな目の前の後輩に、聞こえるように大げさに。すると一瞬ムッとした顔を見せたと思ったら、一歩距離を詰められた。
「人違いなんかじゃないっす」
「いや、絶対に違う」
「違わない」
「……はあ」
どうやら、中々に頑固者のようだ。だが、あり得ないことを受け入れるわけにはいかない。
この初々しい高校一年生が一目惚れしたという相手は、絶対に自分ではない。間違いなく、兄のことだ。
桃輔には同じ高校に通う、双子の兄がいる。笹原桜輔。桃輔とは違い勉強ができて、入部している弓道部でも優秀な成績を残している。人望も厚い。おまけにその見た目もイケメンだと騒がれている。切れ長の少し色素の薄い瞳、スッと通った鼻筋。
そんな桜輔と桃輔は一卵性の双子で、顔立ちこそ瓜二つなのだが。中身には雲泥の差があり、誰もがふたりを比べては桜輔を褒めたたえる。幼い頃からそうだった。
みるみる膨らむ劣等感から少しでも逃げたくて、桃輔は高校に入って間もなく見た目を変えた。ゆるいパーマをかけて茶色に染め、桜輔は下ろしている前髪をセンターパートにセットする。優等生の桜輔に反発するように、ピアスの穴もいくつか空けた。一瞬見ただけでは双子だと分からないくらいには、別々の人間になれたと桃輔は自負している。
だからこそ。この一年生が一目惚れをしたというのは自分ではなく、桜輔。そう断言できた。そもそも、受験生向けの学校説明会に関わってなどいない。だが桜輔はきっと、教師に頼まれてなにかしらの仕事を請け負ったのだろう。聞いてなどいないが、アイツのことだからと簡単に察することができる。避けるように話さなくなっていたって、どう転んでも双子だ。片割れの性分だとか考えることは、手に取るように分かってしまうのだ。
けれども、だ。よく見ないと双子だとは分からないくらいになったとは言え、見間違えるヤツも未だにいるらしい。この一年生がそのひとり、というわけだ。
「あのな、俺はその説明会には……」
「おーい、そこにいるのは一年か? 早く教室に向かいなさい、もうすぐ入学式が始まるぞ」
簡単に説明しようとしたところで、教師に声をかけられてしまった。しょっぱなから入学式をサボって目をつけられでもしたら、さすがに可哀想だ。それを強要してまで説明しなくても、じきに気づくだろう。
「行けよ」
「いや、でも……」
「いいから、ほら。怒られんぞ」
「…………」
「はあ。同じ学校になったんだから、また会えんだろ。ちゃんと」
自分ではなくて、本来声をかけるべきだった桜輔に、だけれど。暗にそう含んで言えば、どうにか納得してくれたようだった。会釈をした一年は来た道を戻り、だが数歩先で再びこちらを振り返った。
「オレ、水沢っていいます! 水沢瀬名! また絶対に声かけるんで!」
返事はせず、早く行けと促すように手をひらひらと振る。
「なんなんだアイツ……」
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