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君を唄うブルージー
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もう人目なんて別にいいか。瀬名の頭を引き寄せて抱きしめる。今日は卒業式だったから、それだけで胸いっぱいだろうに。これからの宣言をしたせいで、泣かせてしまった。責任をもって抱きしめて、愛をもって大切にしたい。抱きしめ返してくれる腕は、伝わった印だ。
「あーあ、やっぱり今日もずっと一緒にいたかった」
「ん、俺もだよ」
「でも、友だちも大事にする先輩が好きなんで。ちゃんと見送ります。楽しんできてくださいね」
「…………」
腕をほどいた瀬名が、笑顔でそう言う。ああ、その感情をよく知っている。初めてのオリジナル曲でも唄った心だ。“君の明日は今日よりひとつ楽しくて、美味しくて、綺麗なほうがいい”と。それなのに、なぜだろう。それをまっすぐ向けられてみれば、無性に寂しい。やっぱり一緒がいい、と駄々を捏ねているのだ。身勝手でみっともない恋を、今もしているのかもしれない。
でももう、ひとりで泣く恋ではないから。わがままに移り変わってしまったこの心も、渡してみたくなる。
「瀬名、あのさ。今日打ち上げ終わったら、瀬名んち行っていい?」
「……え?」
「打ち上げは楽しみだけど、やっぱり今日の最後は瀬名といたい、っつうか……あー、わがままだよな、悪い」
「っ、全然悪くないっす! だってオレ今、すげー嬉しい」
「マジ? あ、でも瀬名の家の人困るよな。遅くなるかもだし」
「全然平気ですって! 来るって言っとく!」
「……ほんとに? いい?」
「もちろんっす。そのままお泊りにして、明日一緒にモモ先輩んちに帰りましょ」
「あ、それいいな」
ああ、受け取ってもらえた。それが泣きそうなくらいに胸を打つ。瀬名を好きになってからこっち、両想いになってもなお、もう何度泣いたことだろう。情けないなと思いつつ、瀬名を想ってのものだから、べつにいいかと自分を甘やかしてしまっている。
「ふ」
「モモ先輩? どうしたの? 泣きながら笑ってる」
「いや、なんかさ、幸せっていつでも切ないのと隣り合わせだなって思って」
「え? あーでも分かる気がする。モモ先輩のこと大好きで幸せで、嬉しいことでもよく泣けてくるから。モモ先輩にだけ、そうなる」
「うん。一緒だな」
「ねえ先輩、あれどういう意味でしたっけ。あの曲のタイトルにも入ってる、ブルージー。最初の頃に教えてくれましたよね」
「ああ、それは……」
今度こそと、改札の目の前まで一緒に歩く。
「物悲しいとか、切ないとか。そんな感じだな」
「そうだ、そうだった。じゃああの曲は片想い中の曲だけど、今にもマッチしてるってことっすね。誰かを好きでいるって、ずっとブルージーだ」
「たしかに」
「モモ先輩天才じゃん」
「はは! じゃあ気づいた瀬名も天才じゃね」
じゃあまたあとで、とハイタッチをして、勢いよく改札を通る。そうしないとこの口が、もう打ち上げもいいかななんて言いだしそうだったから。
いつかの夏休みのように、スマートフォンをポケットから取り出してお揃いのねこのぬいぐるみを振ってみる。すると瀬名もすぐに意図を汲んでくれたようで、同じように振ってくれた。
「終わったら連絡する」
「そしたら迎えに来ますね」
「いや、それはいい」
「え。なんでっすか」
「高校生はお子ちゃまだから、そんな遅くに出てきちゃダメだろ」
「いやそれは先輩も同じじゃん」
「残念、俺はついさっき、大人の階段のぼっちゃったんで」
そう言って、今度は卒業証書の入ったバッグを掲げてみせる。
「はあ? はは、そんなこと言ってる先輩のほうがお子ちゃまみたいっすよ」
「うっせ。じゃあほんとに、また」
進行方向に背を向けたまま歩いて、手を振り続ける。階段にたどり着いて、最後の最後まで見送ってくれる瀬名をもう一度振り返り、また手を振った。
「あーあ、やっぱり今日もずっと一緒にいたかった」
「ん、俺もだよ」
「でも、友だちも大事にする先輩が好きなんで。ちゃんと見送ります。楽しんできてくださいね」
「…………」
腕をほどいた瀬名が、笑顔でそう言う。ああ、その感情をよく知っている。初めてのオリジナル曲でも唄った心だ。“君の明日は今日よりひとつ楽しくて、美味しくて、綺麗なほうがいい”と。それなのに、なぜだろう。それをまっすぐ向けられてみれば、無性に寂しい。やっぱり一緒がいい、と駄々を捏ねているのだ。身勝手でみっともない恋を、今もしているのかもしれない。
でももう、ひとりで泣く恋ではないから。わがままに移り変わってしまったこの心も、渡してみたくなる。
「瀬名、あのさ。今日打ち上げ終わったら、瀬名んち行っていい?」
「……え?」
「打ち上げは楽しみだけど、やっぱり今日の最後は瀬名といたい、っつうか……あー、わがままだよな、悪い」
「っ、全然悪くないっす! だってオレ今、すげー嬉しい」
「マジ? あ、でも瀬名の家の人困るよな。遅くなるかもだし」
「全然平気ですって! 来るって言っとく!」
「……ほんとに? いい?」
「もちろんっす。そのままお泊りにして、明日一緒にモモ先輩んちに帰りましょ」
「あ、それいいな」
ああ、受け取ってもらえた。それが泣きそうなくらいに胸を打つ。瀬名を好きになってからこっち、両想いになってもなお、もう何度泣いたことだろう。情けないなと思いつつ、瀬名を想ってのものだから、べつにいいかと自分を甘やかしてしまっている。
「ふ」
「モモ先輩? どうしたの? 泣きながら笑ってる」
「いや、なんかさ、幸せっていつでも切ないのと隣り合わせだなって思って」
「え? あーでも分かる気がする。モモ先輩のこと大好きで幸せで、嬉しいことでもよく泣けてくるから。モモ先輩にだけ、そうなる」
「うん。一緒だな」
「ねえ先輩、あれどういう意味でしたっけ。あの曲のタイトルにも入ってる、ブルージー。最初の頃に教えてくれましたよね」
「ああ、それは……」
今度こそと、改札の目の前まで一緒に歩く。
「物悲しいとか、切ないとか。そんな感じだな」
「そうだ、そうだった。じゃああの曲は片想い中の曲だけど、今にもマッチしてるってことっすね。誰かを好きでいるって、ずっとブルージーだ」
「たしかに」
「モモ先輩天才じゃん」
「はは! じゃあ気づいた瀬名も天才じゃね」
じゃあまたあとで、とハイタッチをして、勢いよく改札を通る。そうしないとこの口が、もう打ち上げもいいかななんて言いだしそうだったから。
いつかの夏休みのように、スマートフォンをポケットから取り出してお揃いのねこのぬいぐるみを振ってみる。すると瀬名もすぐに意図を汲んでくれたようで、同じように振ってくれた。
「終わったら連絡する」
「そしたら迎えに来ますね」
「いや、それはいい」
「え。なんでっすか」
「高校生はお子ちゃまだから、そんな遅くに出てきちゃダメだろ」
「いやそれは先輩も同じじゃん」
「残念、俺はついさっき、大人の階段のぼっちゃったんで」
そう言って、今度は卒業証書の入ったバッグを掲げてみせる。
「はあ? はは、そんなこと言ってる先輩のほうがお子ちゃまみたいっすよ」
「うっせ。じゃあほんとに、また」
進行方向に背を向けたまま歩いて、手を振り続ける。階段にたどり着いて、最後の最後まで見送ってくれる瀬名をもう一度振り返り、また手を振った。
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