天使のお迎え〜転生BLに憧れる僕の、美しい義兄弟から愛される生活〜

星寝むぎ

文字の大きさ
17 / 67
長男と次男の“兄弟”への接し方

17

しおりを挟む
 涙がどうにか止まったら、ごはんを食べに行こうと壱星いっせいが提案してくれた。

「なんでもいいよ、杏樹あんじゅくんの好きなものを食べよう。ご馳走する。焼き肉? 寿司とか?」

 ありがたい話だが、焼き肉も寿司もまともに食べたことがない。そう言ったら驚かれ、じゃあ尚更行こうと壱星は意気ごんでくれたけれど。今日はマンションでゆっくりしたいと伝えると、それもそうだなと頷いてくれた。

 壱星が車を止めたのは、杏樹も名前を聞いたことがある有名デパートだった。惣菜を買うために、地下へ向かう。

 店内にいる他の客たちも、壱星のような富裕層に見えてくる。自分なんかがこんなところにいていいのだろうか。気後れしそうだったが、壱星が「なに食べたい?」だとか「これ美味しそう。あ、これも気になってたから買っちゃうか」だとかしきりに話してくれるので、それ以上に楽しい気持ちになった。どの店舗のものも高額で、変な声が出そうなほど驚いたけれど。

「こういうの新鮮で、楽しかったです」
「デパ地下のこと?」

 車に戻りお礼と一緒にそう言うと、壱星が不思議そうな顔をした。

「それもそうなんですけど。買い物に行くのとか、いつもひとりだったので」
「え? でも律子りつこさんとは行ったりしたでしょ?」
「母ともないですね。買い物もそうですし、どこかに出かけたこともなかったです」
「……そうなの?」

 母と外を一緒に歩いたことは、記憶をさかのぼっても一度もない。母はいつも忙しく働いていたし、買い物は仕事帰りに済ませてきていた。幼い頃は、一緒に遊びに出かけたいと思ったことも確かにあるけれど。その分、母は家の中でめいっぱい話を聞いたり遊んだりしてくれた。その時間が大好きだった。

 赤信号で止まると、壱星がこちらを心配そうな顔で見てきた。余計なことを話してしまったのかも知れない。

「あの、母は家の中でいっぱい相手してくれていたので。寂しかったって話じゃないですよ?」
「うん、そうだよね。ふたりの仲がいいのは、ちゃんと分かってるよ」
「伝わってたならよかったです」
「…………」

 信号が青に変わって、再び車は走り出す。それからは、お互いの学生時代の話をしたりして過ごした。

 
 マンションに到着した頃には、午後の1時を過ぎていた。ふたりの両手いっぱいに買ってきたものをダイニングテーブルに広げていると、エレベーターが上がってきた。すいだ。

「彗、おかえり。早かったんだな」
「午前の授業だけだったから」
「彗くん、おかえりなさい。あの、壱星さんに連絡してくれたって聞きました。ありがとうございました」

 彗が壱星に連絡を入れていなかったら、この今は有り得なかった。彗の元へ駆け寄り、頭を下げながら礼を言う。

「あー……まあ、うん」
「…………?」

 彗はなにか言いたげに口を開いたが、そっぽを向いてしまった。どうしたのだろうと気になったが、

「彗はもう昼は食べたのか? たくさん買ってきたから一緒にどうだ?」

 と壱星が声をかけると「じゃあもらう」とそのまま腰を下ろしてくれた。安堵しつつ、杏樹も彗の向かいの席につく。

 初めてのデパ地下惣菜は、どれもびっくりするほど美味しかった。お腹いっぱい食べたこと自体、いつぶりだか分からない。気を緩めたらまた涙が出てしまいそうで、サンドイッチと一緒に必死で飲みこんだ。

「ごちそうさまでした」
「もういいのか? まだたくさんあるよ」
「ありがとうございます、でも本当にお腹いっぱいです。美味しいって思えたの、久しぶりな気がします」
「そっか。よかった」 

 壱星も食べ終えたようで、彗はゆっくりながらもまた豚の角煮に箸を伸ばしている。空の容器を持って立ち上がる壱星を追って、杏樹もキッチンへと向かう。

「僕、あたたかい飲みものでも淹れますね。壱星さんはなに飲まれますか?」
「俺はそろそろ部屋に行くよ。ちょっと調べたいことがあって」
「そうなんですね。部屋に持っていきましょうか?」
「そのまま休むつもりだから、気にしないで。でもありがとう」

 そうだ、今日は壱星は夜勤上がりなのだった。仕事を終えた足でそのまま杏樹の職場に来てくれた、ということだ。疲れているに違いない。

「あの、お忙しいのに今日は本当にありがとうございました。いくらお礼を言っても足りないくらいです」
「どういたしまして。これからだって、困った時はいくらでも助けるからね。家族だって、杏樹くんも今日言ってくれただろ」
「それは……」
「俺は嬉しかったよ。なあ杏樹くん、こっち」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け 《あらすじ》 4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。 そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。 平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。

忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。

サークル合宿に飛び入り参加した犬系年下イケメン(実は高校生)になぜか執着されてる話【※試作品/後から修正入ります】

日向汐
BL
「来ちゃった」 「いやお前誰だよ」 一途な犬系イケメン高校生(+やたらイケメンなサークルメンバー)×無愛想平凡大学生のピュアなラブストーリー♡(に、なる予定) 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ♡やお気に入り登録、しおり挟んで追ってくださるのも、全部全部ありがとうございます…!すごく励みになります!! ( ߹ᯅ߹ )✨ おかげさまで、なんとか合宿編は終わりそうです。 次の目標は、教育実習・文化祭編までたどり着くこと…、、 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 総愛され書くのは初めてですが、全員キスまではする…予定です。 皆さんがどのキャラを気に入ってくださるか、ワクワクしながら書いてます😊 (教えてもらえたらテンション上がります) 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ⚠︎書きながら展開を考えていくので、途中で何度も加筆修正が入ると思います。 タイトルも仮ですし、不定期更新です。 下書きみたいなお話ですみません💦 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

処理中です...