新宿プッシールーム

はなざんまい

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マンチカンとシャム(6)

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ケーゴのバンドは、技術の高いキーボードが牽引するメロディラインとパンクファッションのボーカルの女の子のハスキーな声が癖になる、正統派ロックバンドだった

ステージ前に陣取ったファンとみられる若いコたちが、手すりから身を乗り出すようにして体を揺らしていた

アヤメだって21歳と若いが、こういうノリは一歩引いて冷めた目で見てしまう

それはアヤメが勉強とバイトばかりしていて、遊びらしい遊びをほとんどしてこなかったせいかもしれない




ケーゴのバンドが終わった後も、バイトの時間までまだ余裕があったアヤメは、もう1杯コタローに付き合った

といっても、コタローは自分からは話さない

アヤメはひたすらコタローの顔を眺めていた

美人でも3日で飽きるというが、コタローなら何日見ていても飽きないような気がした

きれい、かっこいい、タイプ、そういうのではなくて、人体の神秘というか、遺伝子の不思議というか、そういう科学的なところで惹かれているように思う



「コタロー兄ちゃん!」

演奏を終えたケーゴがフロアにやって来た

コタローが振り向いて片手を挙げた

「こんにちは。さっきは忙しくしててすみません」

ケーゴはコタローの隣に立つと、アヤメに頭を下げた

「こちらこそ。急にチケットお願いしてごめんね。演奏めちゃくちゃかっこよかった」

「いえそんな」

ケーゴは照れて頭を掻いた

ケーゴは、童顔なところがコタローとよく似ていた

「ところで、兄ちゃんとはどういうお知り合いなんですか?」

社交的なところはコタローとは似ていないが、こういう場では助かる

「えーと…」

プッシールームのことを未成年に言っていいものか迷ってコタローを見た

「バイト」

コタローが答えた

「プッシールームですか?」

せっかくアヤメが気を使ったのに、ケーゴはずかずかと聞いてきた

「…そうです…」

「気になってたんですよね。兄ちゃんが珍しくクビにならないし」

その口ぶりからすると、コタローの仕事が長続きしないのはデフォルトだったらしい


「…ケーゴくんは、プッシールームがどんなところか知ってるの?」

ケーゴは首を傾けて

「はい。深夜営業の猫カフェですよね」

と、純真無垢な顔で言った

※※※※※※※※※※※

「猫カフェはない!」

アヤメはツボって笑いながら夜の新宿を歩いた

隣にはコタローがいた

ペルシャのタキの路線が事故で止まってしまい、復旧の見込みがないため、コタローがピンチヒッターで入ることになったのだ

コタローは特に表情を変えるでもなく、アヤメの半歩後ろを歩いていた



「おはよーさん。コタ、悪いな」

出勤すると、マサトがコタローに声をかけた
コタローは首を横に振った

「タキの指名客には電話しといたけど、コタが入るって聞いて、それならそのまま行くっつーのがチラホラ。そこのタイプが被るとは、と新たな発見」

マサトが予約表を繰りながら言った

「タキさんも余計なことは喋りませんもんね」

「ミナミや九と違ってなー。てかアヤメも心配してたんだけど」

「何がスか?」

「タキの路線とお前んとこの路線、同じだよな?」


※※※※※※※※※※※※

空き時間にニュースアプリとにらめっこしたが、結局終電まで復旧の見込みが立たないということで、アヤメは途方にくれた

「やっぱタクシーもつかまらねーな。俺んち…は今日は滋がいるからなあ…」

滋というのはマサトの恋人だ

モデル業が忙しく、なかなか会えないのだと聞いたことがある

「店に泊まってくか?まだ営業あるけど」

ありがたい提案だった

アヤメが返事をしようとすると、コタローが袖を引っ張った

「おお、コタんちね!」

マサトが手を叩いた

「え、いいの?」

コタローがコクリとうなずいた
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