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マンチカンとシャム(9)
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神社に近づくにつれて、熊手を持って歩く人々が増えてきた
会社帰りに来たとみられるスーツ姿のグループが、巨大な熊手を肩に担いで駅の方に歩いていった
「すごいな。あれ、いくらくらいするんだろう」
コタローに話しかけたつもりだが、返事はなかった
横目でコタローを見ると、祭りの景色を食い入るように見ていた
この大きな目は、コタローにとってカメラのファインダーのようなものなのかもしれない
狭い境内に、熊手の露店が迷路を作るように立ち並んでいた
露店には、ところ狭しと大小の熊手が陳列されていて、大きいものは両手を広げても足りないほどで、小さいものはしゃもじくらいのサイズである
露店から売り子達の掛け声や手締めの音が聞こえ、活気に満ちていた
他の祭りと違うのは、カップルやファミリー層ではなく、サラリーマン風の客が多いことだ
コタロ―は、境内に入ってからずっと胸の前でカメラを構えている
ムービーも撮っているのだ
「ずっと東京に住んでるけど初めて来た。コタローさんは、実家どこなんですか?」
「経堂」
コタローは、カメラから顔を上げずに答えた
経堂も行ったことがない
「俺は吉祥寺です」
だからなんだと言うのだろう
緊張すると、うまく喋れなくなるのがアヤメの癖だった
いままで意識していなかったが、最近では薄々勘づいている
(多分、俺はコタローさんのことを好きになってる)
アヤメは自分が、ノンケなのかゲイなのか考えたことがない
高校からバイト三昧だったし、バイト先のひとに遊びに誘われても、勉強や別のバイトがあると断っていたから、特定のひとと恋愛するほど仲良くなったことがなかった
プッシールームを始めたことにより、少ない時間で十分なお金が得られるのは、思わぬ副産物だった
その時、たまたま仲良くなったのがコタローというだけなのかもしれない
でも、そのたまたまが運命だとしたらどうだろう
アヤメは、この流れに身を任せてみようと思った
突然コタローが、アヤメの袖を引いて立ち止まった
「どうしたんですか?」
そこはじゃがバターの露店の前だった
「…食べますか?」
コタローがコクリとうなずいた
「味噌つけ放題ってすごくないですか?!」
その店は、塩とバターだけでなく、オリジナルの味噌のトッピングがあった
アヤメは味噌とバターをたっぷり盛ったじゃがバターを、カメラを構えていて手が離せないコタローの口に運んだ
最初のひと口、コタローは顔をしかめて湯気を逃がそうとハフハフした
アヤメは次はフーフーと息を吹きかけてからあげた
コタローは、今度はハフハフしなかった
その代わりに、口に入れた瞬間にこりと微笑んだ
そのあまりのかわいさに、アヤメはコタローに何かしてあげたくてたまらなくなった
「コタローさん!熊手買ってあげます!どれがいいですか?」
コタローが首を横に振った
アヤメが『資料になるから』と言うと、納得したのか、30分ほど真剣に熊手を見て回り、最後に「これ」と招き猫のモチーフがついた熊手を選んだ
「かわいいですね」
熊手をもらったコタローが、嬉しそうに熊手を抱き抱えた
その姿を見て、アヤメの心臓がドクンと大きく波打った
「かわいい…」
アヤメはコタローのふわふわ揺れるアッシュグレーの髪を触った
コタローが顔を上げると、アヤメが柔らかい眼差しでコタローを見ていた
コタローはその時やっと、アヤメが熊手に対して言ったわけではないことに気づいた
駅のコンコースで、アヤメはコタローの手を引っ張って立ち止まった
「もう気づいているかも知れませんが、俺、コタローさんのことが好きです」
新宿駅の喧騒に後押しされる形で切り出した
我ながら色気も面白味もない告白だと思った
それでもこのまま帰るのはイヤだった
「俺は吉祥寺なんで中央線です」
自分でも何を言いたいのかわからなかった
でも今夜のうちに、まだできることがあるはずだという思いが、こういう形で出てきた
「コタローさんは、埼京線…」
伝われ、伝われ
たとえいま、伝わらなかったとしても、帰ってから反芻してくれればそれでもいい
アヤメは、コタローの手を強く握りしめた
待ち合わせの時に、手を引っ張って祭り会場に向かったときとは明らかに違う熱が、その手にはこもっていた
ぐいっ
コタローに引っ張られ、アヤメは前につんのめった
そんなことは気にも止めず、コタローはぐいぐいとアヤメを引っ張っていく
「コタローさん…」
コタローは広い駅構内を迷うことなく、埼京線が入る3、4番ホームに向かった
その日、アヤメはコタローを抱いた
アヤメは男性とヤるのは初めてだったが、プッシールームで得た知識が役に立った
コタローの方もスムーズにアヤメを受け入れた
「コタローさん、好きです」
アヤメが囁くと、コタローは、荒い息を吐きながらアヤメを見つめて、ニコリと笑った
会社帰りに来たとみられるスーツ姿のグループが、巨大な熊手を肩に担いで駅の方に歩いていった
「すごいな。あれ、いくらくらいするんだろう」
コタローに話しかけたつもりだが、返事はなかった
横目でコタローを見ると、祭りの景色を食い入るように見ていた
この大きな目は、コタローにとってカメラのファインダーのようなものなのかもしれない
狭い境内に、熊手の露店が迷路を作るように立ち並んでいた
露店には、ところ狭しと大小の熊手が陳列されていて、大きいものは両手を広げても足りないほどで、小さいものはしゃもじくらいのサイズである
露店から売り子達の掛け声や手締めの音が聞こえ、活気に満ちていた
他の祭りと違うのは、カップルやファミリー層ではなく、サラリーマン風の客が多いことだ
コタロ―は、境内に入ってからずっと胸の前でカメラを構えている
ムービーも撮っているのだ
「ずっと東京に住んでるけど初めて来た。コタローさんは、実家どこなんですか?」
「経堂」
コタローは、カメラから顔を上げずに答えた
経堂も行ったことがない
「俺は吉祥寺です」
だからなんだと言うのだろう
緊張すると、うまく喋れなくなるのがアヤメの癖だった
いままで意識していなかったが、最近では薄々勘づいている
(多分、俺はコタローさんのことを好きになってる)
アヤメは自分が、ノンケなのかゲイなのか考えたことがない
高校からバイト三昧だったし、バイト先のひとに遊びに誘われても、勉強や別のバイトがあると断っていたから、特定のひとと恋愛するほど仲良くなったことがなかった
プッシールームを始めたことにより、少ない時間で十分なお金が得られるのは、思わぬ副産物だった
その時、たまたま仲良くなったのがコタローというだけなのかもしれない
でも、そのたまたまが運命だとしたらどうだろう
アヤメは、この流れに身を任せてみようと思った
突然コタローが、アヤメの袖を引いて立ち止まった
「どうしたんですか?」
そこはじゃがバターの露店の前だった
「…食べますか?」
コタローがコクリとうなずいた
「味噌つけ放題ってすごくないですか?!」
その店は、塩とバターだけでなく、オリジナルの味噌のトッピングがあった
アヤメは味噌とバターをたっぷり盛ったじゃがバターを、カメラを構えていて手が離せないコタローの口に運んだ
最初のひと口、コタローは顔をしかめて湯気を逃がそうとハフハフした
アヤメは次はフーフーと息を吹きかけてからあげた
コタローは、今度はハフハフしなかった
その代わりに、口に入れた瞬間にこりと微笑んだ
そのあまりのかわいさに、アヤメはコタローに何かしてあげたくてたまらなくなった
「コタローさん!熊手買ってあげます!どれがいいですか?」
コタローが首を横に振った
アヤメが『資料になるから』と言うと、納得したのか、30分ほど真剣に熊手を見て回り、最後に「これ」と招き猫のモチーフがついた熊手を選んだ
「かわいいですね」
熊手をもらったコタローが、嬉しそうに熊手を抱き抱えた
その姿を見て、アヤメの心臓がドクンと大きく波打った
「かわいい…」
アヤメはコタローのふわふわ揺れるアッシュグレーの髪を触った
コタローが顔を上げると、アヤメが柔らかい眼差しでコタローを見ていた
コタローはその時やっと、アヤメが熊手に対して言ったわけではないことに気づいた
駅のコンコースで、アヤメはコタローの手を引っ張って立ち止まった
「もう気づいているかも知れませんが、俺、コタローさんのことが好きです」
新宿駅の喧騒に後押しされる形で切り出した
我ながら色気も面白味もない告白だと思った
それでもこのまま帰るのはイヤだった
「俺は吉祥寺なんで中央線です」
自分でも何を言いたいのかわからなかった
でも今夜のうちに、まだできることがあるはずだという思いが、こういう形で出てきた
「コタローさんは、埼京線…」
伝われ、伝われ
たとえいま、伝わらなかったとしても、帰ってから反芻してくれればそれでもいい
アヤメは、コタローの手を強く握りしめた
待ち合わせの時に、手を引っ張って祭り会場に向かったときとは明らかに違う熱が、その手にはこもっていた
ぐいっ
コタローに引っ張られ、アヤメは前につんのめった
そんなことは気にも止めず、コタローはぐいぐいとアヤメを引っ張っていく
「コタローさん…」
コタローは広い駅構内を迷うことなく、埼京線が入る3、4番ホームに向かった
その日、アヤメはコタローを抱いた
アヤメは男性とヤるのは初めてだったが、プッシールームで得た知識が役に立った
コタローの方もスムーズにアヤメを受け入れた
「コタローさん、好きです」
アヤメが囁くと、コタローは、荒い息を吐きながらアヤメを見つめて、ニコリと笑った
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