新宿プッシールーム

はなざんまい

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ヒヤとレイジ(2)

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【家についていったら相手が獣でした3】

と、もう一本予定していた作品を撮って、冷はAV俳優を引退した

引き抜いたのは【家についていったら相手が獣でした3】の撮影時に出会ったハセという男だった

あの撮影の後、こ洒落たジャケットとスラックスを着させられ、一流ホテルのラウンジに連れていかれたから、てっきり枕でもやらされるのかと思ったが、ハセが持ちかけてきた話は、ヒヤにとって悪くない話だった

※※※※※※※※※※

「オナニーを見せる店?ですか?」

「そう。一人辞めちゃうコがいて、ちょうど人を探してたんだ。ヒヤくんなら、容姿はもちろん、演技の経験も、後ろの方の経験も申し分ないし、店で扱ってるオモチャの使い方も大体わかるだろ?」

ハセの口ぶりから、ハセがヒヤの出演したAVをきちんと観てきたであろうことが予測できた

「まあ、ヒヤくんなら、AVでもしばらくは引く手あまただろうし、無理にとは言わないけど、AV出て一本いくらってよりかは収入は安定すると思うよ」

ハセさんは、店の給与体系について細かく教えてくれた

一応基本給のようなものがあり、出勤が少ない月でもその分は補償される
そこに客の数、オプション代、指名代などが上乗せされる

勤務時間は早番と遅番があり、23区内に住んでいて、学生ではないヒヤは、主に遅番の21時~2時勤務になるだろうと言われた


「…俺の腕のことは知ってますか?」

「聞いてる」

「それでも大丈夫なものなんでしょうか?接客業…ですよね?」

「実際に触れるわけではないからね。完全に全裸になることは意外と少ないし、気になるならリストバンドとか、テーピングでも大丈夫だと思うよ。店長には俺から言っておくし」

悪くないどころか、飛び付きたい話だが、疑問がひとつある

「なんで、俺にそこまでよくしてくれるんですか?」


冷が質問すると、ハセはダンッと音がなるほど荒々しくロンググラスを置いた


「風俗店紹介されて『よくしてくれてる』なんて言うんじゃない」


低い声が、冷のグラスを持つ手に響いた


だが、その言葉によって、冷はハセの提案を受けようと決めた


れいが、【ヒヤ】の名前でプッシールーム2号店で働き始めてから2週間ほどたった

評判は上々

時々、どこで知ったのか、AV時代のファンが訪れてきて、AVと同じシチュエーションを希望されることがあった

そのことを店長のマサトにポロッと漏らすと、「ヒヤ君的にはどう?」と聞かれた

「作品気に入って来てくれるのは嬉しいですけど、複雑ですね」

と答えると、マサトはヒヤのメニューに、AVコースという1万円のオプションを追加した

※※※※※※※※※※※※

「マサトさん、ちょっといいですか?」

プレイヤーが全員上がった後、清掃スタッフのエチゼンがマサトに声をかけた

「どした?」

「ヒヤさんなんですけど…」

見てもらえばわかるとばかりに、エチゼンは何も言わずに先に立って細い廊下を進んだ

行き先は、少し前までヒヤがプレイしていたソマリの部屋だった

「ヒヤさんが入った直後から気にはなってたんですけど…」

「?」

マサトがエチゼンの目線の先を見ると、シーツの上に何かが散乱していた

「なんだこれ?」

マサトはそれを拾い上げた
固くて小さくて白い、尖ったものだった

「多分、それは爪ですね。皮膚っぽいものもあるんスけど…」

「は?」

マサトは拾った欠片を慌てて捨てた

「これ、毎回?」

「毎回じゃないし、あっても少しなんで、そのまま掃除してたんですけど、今日はひどかったんで…」



リスカだけじゃなかったのかよ…



マサトは、自分の荷の重さに押し潰されそうになった
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