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両手に猫(1)
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「…タキさん、マジで言ってます?
『結構マジです』
エチゼンは思いがけない展開に、何か裏があるのではないかと邪推した
それにタキには大事な人物がいるではないか
「えっ…と、クロさんは?」
『店以外で会ったこともない人にどうやって恋するのさ』
「てっきりプライベートでもパートナーか何かだと…」
『ないない。それよりエチゼンは僕のことどう思ってる?』
「どうと言われても…」
突如降って湧いた難題に、エチゼンは即答できずに電話を切った
※※※※※※※※※※※
翌日、出勤前にアキラの家に寄った
てっきり、アキラとコノエは同棲していると思い込んでいたが、コノエのものらしきものは歯ブラシとコップくらいだった
物は少なめで、配色だけがアキラらしかった
同棲していないならコノエと会う心配はなさそうだが、アキラはなぜ帰らなかったのだろう
エチゼンはアキラに頼まれていた『とりあえず必要なもの』をイケアのショッピングバッグに詰めていった
送られてきたメッセージには、
akiyo【事務所に相談したら、引っ越しは業者にお願いしてくれるとのことです。今月中には引き払えそうです】
と書かれていた
ということは、昨日を最後に、アキラはこの家には戻ってこないことを決めたということだ
ここを引き払ってしまえば、コノエとの接点はなくなるだろう
アキラはコノエとろくに話さずに、別れるつもりなのだろうか
エチゼンは突如不安になってきた
エチゼンが部屋を出て鍵を閉めていると、廊下を歩いてくる足音がした
その足音が、廊下の端で止まった
エチゼンは恐る恐る振り向いた
「よお」
そこにはエチゼンが知っている、飄々としたコノエがいた
エチゼンは、コーヒーがおいしいというカフェでコノエと向かい合って座った
「アキラんちに泊まった翌日は、二人でここでモーニング食べるんだけど」
「…あの…昨日はすみませんでした」
てっきり、コノエは怒っていると思っていたから、いつも通りの態度に拍子抜けした
だからこそ、エチゼンは謝る気になったのだ
そういう意味では、コノエの方がずっと大人なのかもしれない
「びっくりした。しかもタキまでいるとは」
「仕事で一緒になったもので…」
エチゼンもコノエと一緒にモーニングを頼んだ
「ああ、タキの小説か。偶然なんだろ?世間は狭いよな」
「…タキさんからよそのカップルのことに首突っ込むなって怒られました」
「だろうな」
モーニングを待つまでの間がチャンスだったはずなのに、コノエの発した4文字のあと、エチゼンは話す機会を失った気がした
沈黙を破ったのはモーニングのコーヒーの香りだった
「アキラ、ああ見えてコーヒー大好きなんだよ。知ってた?」
「いえ…意外です」
「ん?お前ら付き合ってるんじゃないの?」
「なんでそうなるんですか」
「じゃあなんであんなにムキになったんだよ」
「コノエさんが、アキラさんにひどいことをしたからでしょうが」
エチゼンは、いつもと変わらないコノエの態度に、次第にイライラしてきた
「ひどいって?」
「別れ話をされたからって、手首を縛るなんて、俺はコノエさんを見損ないました」
エチゼンがひと口も食べられていないのに対し、コノエはパクパクと食べ進めている
その姿も癪に触った
すると、コノエが「捨てられるって怖いじゃん」と呟いた
「…やっばり本当だったんですね…」
今の今まで、コノエがそんなことをしたなんて、思いたくなかった
できれば嘘であってほしい、と思うのは、友人ならば当然のことではないだろうか
「捨てられるのが怖いからってあんなことしたら、もっと嫌われるとは思わなかったんですか?」
「そーいうの、俺、計算できないんだわ」
コノエは、食べ終えた皿の上に、使っていたフォークを置いた
『結構マジです』
エチゼンは思いがけない展開に、何か裏があるのではないかと邪推した
それにタキには大事な人物がいるではないか
「えっ…と、クロさんは?」
『店以外で会ったこともない人にどうやって恋するのさ』
「てっきりプライベートでもパートナーか何かだと…」
『ないない。それよりエチゼンは僕のことどう思ってる?』
「どうと言われても…」
突如降って湧いた難題に、エチゼンは即答できずに電話を切った
※※※※※※※※※※※
翌日、出勤前にアキラの家に寄った
てっきり、アキラとコノエは同棲していると思い込んでいたが、コノエのものらしきものは歯ブラシとコップくらいだった
物は少なめで、配色だけがアキラらしかった
同棲していないならコノエと会う心配はなさそうだが、アキラはなぜ帰らなかったのだろう
エチゼンはアキラに頼まれていた『とりあえず必要なもの』をイケアのショッピングバッグに詰めていった
送られてきたメッセージには、
akiyo【事務所に相談したら、引っ越しは業者にお願いしてくれるとのことです。今月中には引き払えそうです】
と書かれていた
ということは、昨日を最後に、アキラはこの家には戻ってこないことを決めたということだ
ここを引き払ってしまえば、コノエとの接点はなくなるだろう
アキラはコノエとろくに話さずに、別れるつもりなのだろうか
エチゼンは突如不安になってきた
エチゼンが部屋を出て鍵を閉めていると、廊下を歩いてくる足音がした
その足音が、廊下の端で止まった
エチゼンは恐る恐る振り向いた
「よお」
そこにはエチゼンが知っている、飄々としたコノエがいた
エチゼンは、コーヒーがおいしいというカフェでコノエと向かい合って座った
「アキラんちに泊まった翌日は、二人でここでモーニング食べるんだけど」
「…あの…昨日はすみませんでした」
てっきり、コノエは怒っていると思っていたから、いつも通りの態度に拍子抜けした
だからこそ、エチゼンは謝る気になったのだ
そういう意味では、コノエの方がずっと大人なのかもしれない
「びっくりした。しかもタキまでいるとは」
「仕事で一緒になったもので…」
エチゼンもコノエと一緒にモーニングを頼んだ
「ああ、タキの小説か。偶然なんだろ?世間は狭いよな」
「…タキさんからよそのカップルのことに首突っ込むなって怒られました」
「だろうな」
モーニングを待つまでの間がチャンスだったはずなのに、コノエの発した4文字のあと、エチゼンは話す機会を失った気がした
沈黙を破ったのはモーニングのコーヒーの香りだった
「アキラ、ああ見えてコーヒー大好きなんだよ。知ってた?」
「いえ…意外です」
「ん?お前ら付き合ってるんじゃないの?」
「なんでそうなるんですか」
「じゃあなんであんなにムキになったんだよ」
「コノエさんが、アキラさんにひどいことをしたからでしょうが」
エチゼンは、いつもと変わらないコノエの態度に、次第にイライラしてきた
「ひどいって?」
「別れ話をされたからって、手首を縛るなんて、俺はコノエさんを見損ないました」
エチゼンがひと口も食べられていないのに対し、コノエはパクパクと食べ進めている
その姿も癪に触った
すると、コノエが「捨てられるって怖いじゃん」と呟いた
「…やっばり本当だったんですね…」
今の今まで、コノエがそんなことをしたなんて、思いたくなかった
できれば嘘であってほしい、と思うのは、友人ならば当然のことではないだろうか
「捨てられるのが怖いからってあんなことしたら、もっと嫌われるとは思わなかったんですか?」
「そーいうの、俺、計算できないんだわ」
コノエは、食べ終えた皿の上に、使っていたフォークを置いた
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