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Tale3:勇敢の女神が降臨します

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「お嬢ちゃん、この用紙に名前を書きな」

「私は背が低いだけで、お嬢ちゃんではないです」

 論理的に口答えをしながら、おじいちゃんが窓口の机に広げてくれた紙に名前を書いていく。

 名前を書き終えると、誰も触っていないのに紙の大きさがしゅるんと縮んで学生証ぐらいのサイズになった。
 よく見ると、まさに学生証のように私の顔――ゲーム内のリリアな顔――も載っている。
 しかし、強面のおじいちゃんの顔からの心躍るファンタジーで落差がすごかったな。

「これが冒険者ライセンスになる。依頼内容や達成履歴が見られるから、落とさないようにな」

「子どもじゃないので、大丈夫です」

 私にライセンスを渡しながら、おじいちゃんは呆れたように顔をしかめた。

「……さっそくだが、なにか依頼を受けていくか?」

「っ! はいっ、お願いします!」

「ぷにゅにゅっ!」

 なんだか、急に実感が湧いてくる。
 冒険者だから、これが私の冒険の第一歩になるのか。わくわく。

「いま出ている初級の依頼は、これだけだ」

 おじいちゃんの言葉とともに、中空にばっと小さな紙片が大量に浮かび上がる。
 その紙片には、依頼内容と思われる文字が書かれていた。

 すごい、100種類以上ありそう。
 どれを選べばいいのか、見当もつかない。

「初級ということは、中級もあるんですか?」

 なんとなく聞いてみると、おじいちゃんは私を睨んでいた。
 あれま、またお小言をいただいてしまうのでしょうか。

「……もし中級の依頼を受けて失敗したら、しばらく中級を受けられなくなる。まずは初級を受けときな」

「えへへっ、わかりました!」

 この後、おじいちゃんに良さそうな依頼を見繕ってもらって『初級、農場の魔物退治』を受けることにした。
 なんでも、街の外にある農場の近くに魔物がうろついていて家畜さんたちが危ないそうだ。

 ちなみに、おじいちゃんの名前はオージというらしく。
 ちょうどいいじゃんと思ってオージちゃんと呼んだら、ひどく怒られた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 冒険者ギルドから意気揚々と外に出ると。

「っ!」

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【スキル】勇敢を取得しました!

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 よしよし、情けない声を上げなかったな。
 私、着実に成長してる。

 ギルドに出入りする人たちの邪魔にならないように、端っこに移動して。
 出てきた黒い画面を触ると、いつものように下にうにゅんと伸びた。

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【スキル】勇敢を取得しました!
恐怖の状態異常への耐性が、小程度だけ増加します。

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「オージちゃんを恐がらなかったから、もらえたのかな?」

「ぷにゅんぷにゅ?」

 スキルの取得条件はわからないけれど、おそらく間違ってはいないだろう。
 顔が恐いというのは、まぎれもない事実だし。

「じゃあ、さっそく農場に向かうよっ」

「ぷいにゅっ」

 私はスラリアを抱きかかえたまま、石畳にブーツの踵を打ち鳴らしながら走った。

 依頼を受けたら即座に取りかからなければならない、というルールはないそうだ。
 ただ、のんびりしていると家畜さんたちが食べられてしまうかもしれない。
 それに、私もスラリアもやる気が満ち満ちているのだ。
 いや、スラリアはやる気がぷにぷにている、と言った方がいいか。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 小狼の最後の一匹、そいつが長く生い茂った草の影から飛び出し、こちらに向かってきた。
 動き回る銀色の軌跡が、原っぱのキャンバスを彩っていく。

「スライム強化っ! スラリア、タイミング重要だからねっ」

「ぷにゅっ!」

 私が受けた依頼『初級、農場の魔物退治』の魔物は、チュートリアルでも戦った小狼だった。
 あのときは三匹だったが、今回は五匹だ。
 しかし、レベルも上がっているし、一度戦ったような相手に苦戦する私たちではないのだ。

「いまっ!」

「ぷにっ!」

 小狼が大きく横にスライドするのに合わせて、スラリアは体当たりで攻撃する。
 スラリアの速さに為すすべなく、小狼は吹っ飛んでいく。
 そして、淡い光になって消えてしまう――そう思ったが、なぜか消えなかった。

「ぷにぷにゅう?」

「なんでだろうね?」

 倒れた小狼の側で不思議そうに跳ねるスラリアに、私は駆け寄る。
 さっきまで、小狼たちはスキルを使ったスラリアの体当たりに耐えることができず、一撃のもとに沈んでいたのだけれど。

「あなた、手加減でもした?」

「ぷにぷにぃ」

 私の問いを否定するように、スラリアはぷにぷにする。
 そのとき、小狼が目を開けるのに気づいた。

「スラリアっ!」

「ぷにゅっ?」

 スラリアを抱えて、小狼から距離を取る。

 理由はわからないけれど、まだ倒せていなかったようだ。
 起き上がる前に倒してしまった方がよかったかもしれない。
 そう思いながらも、小狼の挙動を注意深く観察する。

「く、くぅぅん……」

「ふぇっ?」

 あれ、なんか可愛いけど、どうした……?
 私が間の抜けた声を上げた数瞬の後、目の前に黒い画面が現れた。

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【使用武器】の交換を行いますか?

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