HOPEs

赤猿

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第一話 HOPE

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「~だからここの……」


 先生の懇切丁寧な解説を聞き流しつつ、俺は妄想にふける。
 「授業中突然テロリストが入ってきて~」というお決まりの奴だ。


 そして時折、斜め前のポニテの子をチラチラと横目に見る。やっぱり那由多なゆたはかわいい。

 俺は昔から彼女に恋をしていた。小4のあの日、俺に手を差し伸べてくれた時から俺は那由多に一途だ。


瑠羽るうす…?おい、おーい!瑠羽るうす!」

「ッ!…ど、どうしました?」

「はぁ…今説明したろ?ここの自伝って所。」

 先生は俺の教科書を指差す。


「自由に書いてみろ。回収はしねぇから。」

 周囲を見渡すと、皆この課題に取り組んでいるようだった。


(自伝かぁ………うーん…)

 
 俺はペンを鳴らす。

『俺、「瑠羽勇斗るうす ゆうと」の今までの人生は長い平野に小山あり、小谷ありって感じのまさに普通の人生だった。見た目も学力も運動神経も普通。我ながら実につまらない平凡な高校生だと思う。』

「………」

『突然だが、そんな平凡な俺には身の丈に合わない秘密の夢がある。少年時代からの長年の夢だ。』


(…まぁ、回収しないなら良いか…)


『それは【ヒーロー】になる事。秘密の理由は察して欲しい。
 自分でもガキだと思うが、堪らなく憧れてしまっているのだから仕方無い。
 強い力を手に入れて人を救けたい。そんなベタなヒーローに俺は憧れている。』


「………もう高2なのにな。」

 俺はそう小さく呟いた。


 教科書に一通り書いた後、軽く休憩しようと顔を上げると、教室は火の海となっていた。
 遅れて悲鳴が聞こえて来る。


(ッ!?…さっきまで教室は静かだったのに!今火がついたのか?それにしては広がり過ぎだ!それに………熱く無い?)


 只事では無い。明らかに異常だ。
 そう考えた俺はすぐに席を立ち、扉へと走り出す。が、その時とある人影が目に止まった。


(…………誰だあいつ?)


 そいつは黒板の前に立っていた。国語のハゲ教師ではない、高身長のロンゲ。異常事態に謎の不審者。すぐに察した。この火の犯人はあいつだと。

 その後遅れて気づいた。


「那由多っ!」

 ロンゲ野郎は那由多の首を掴み持ち上げている。那由多は意識があるようだが苦しそうだ。

 俺は咄嗟にロンゲ野郎に飛び掛かった。だが、奴は俺に気づき蹴りの構えを取る。

 この動きは読めた。だからこそ突っ込んで脚を取るつもりだった。だが、

「来んな、ガキ。」
「ぐッ…」

 腕が足を掴むより早く、俺は教室の後ろまで吹き飛ばされた。


(どうなってんだあのロンゲ……人の力じゃねぇ……)

「クソガキがイキってんじゃねーよバーカ!」

(皆はもう逃げたか……くそっ!この状況どう打開する?あのロンゲが馬鹿みたいに強い以上、純粋に戦って勝つのはキツい………一旦逃げて応援を…)



「ガキにしちゃあ上物だなぁ。なかなか良く実ってんじゃねぇか…。」

「嫌だ…辞めて…うぅ………助けて…ゆうとぉ………」

 気づいた頃には俺はもうロンゲの目の前まで迫っていた。拳を固く握る。あとちょっとでロンゲの顔面をぶち抜く。



「――――――」



 その瞬間、辺りが静寂に包まれた。
 火の燃える音もしない。何も存在しない。目を閉じているような感覚。とにかく、不思議な場所に居た。

(どこだよ…ここ)


 真っ暗で何も無い空間。俺は悟った。

「ここが、じごk」
「違う。」

 急に背後から声がした。振り返ると、そこには大きな銀色の鎧が立っていた。


「………なぁ、今お前……喋った?」
「いかにも」


「…………頭…かっこいいっすね」
(んな事言ってる場合じゃねーよ!!!)

 頭の中はスッキリしてるが状況が読めなさすぎて混乱している。
(てかここ結局どこなんだよ…)

「いわば、私の思考の中の仮想空間と言える。」
「あ、へぇーそうなんすねー…」


(………今コイツ心読まなかったか?)

「いかにも。ここは私の仮想空間、故に思考も読める。時も止まった永遠の部屋だ。それより、今はもっと大事な事を話すために貴様をここへ呼んだ。」


「…大事な事?」

「あぁ。まず第一にさっきまでお前の目の前にいた男。異常に強く、不思議な力を使っていただろう。」

「え、おぉ。なんか…熱くない火が一気に広がってた?」

「その火も奴の異常なパワーも全ては【神力しんりょく】によるものだ。そして貴様にもそれを授ける。」


「はぁ。なるほど…………………………は?」 

(なんで?なんで俺?てか【神力】って何?)


「矮小な人間の脳では理解できんのも無理はない。【神力】とはその名の通り神の力である。」

「………そんなん人間にあげたら、悪い奴らが一瞬で世界滅ぼしちゃうんじゃ…」

「その点に関しては心配ない。さぁ、それよりも伝えたいのは貴様に与えられる私『アレス』の【神力】についてだ。」

 アレス…聞いた事あるような無いような。確か………【いくさの神】だったか?


「どんな能力なんだ?」

「?…分かっているとは思うが、簡潔に言えば【体に電流を流し身体能力を向上させる力】だ。」

「なるほど分かったとはならねぇよ?てか押されて内容聞いちゃったけどそれ以外に聞きたい事が多すぎるんだけど。」


「上に怒られるのであまり多くは言えないのだ。伝えられる事と言えば……今貴様が殴ろうとしている相手、奴の【神力】は『ロキ』という神の物で幻覚をみせる。あの炎も奴の操る幻覚だ。」

「幻覚……」

「あぁ。…そうだ、言い忘れていた。前提として【神力】を持つ者、『神力者』は身体能力が向上し、身体の強度が上昇する。これは多少の差異はあれど全ての『神力者』に備わっているモノだ。」


「……そうか!俺も【神力】を使えばあいつに勝てるってことか!だからお前、俺に力をk」
「いや、偶然貴様になっただけだ。」

 時々心を読むの本当にやめてほしい。なんか恥ずかしい。


「何も恥じる事はない。」
「それがやだって言ってんだよ!…ってかそんな事どうでも良い!お前にその気が無かろうが、その力があれば那由多を救えるかもしれねぇんだ。早くその力をくれ!」


「…いや、もう与えているが……」

「そうか!じゃ早く帰してくれ!」


「…貴様、本当に与えられた事に気づかなかったのか?」

「?…おう。それがどうした?」

「普通ならすぐに気づく。自分の体の異変に。脳に流れ込む情報とそれに適応していく体に対して違和感を覚えるはずだ。聞くが貴様。力の使い方はわかっているか?」


(………そういや…わかんね。どうやって使うんだ?)

「わからん状態で戦うつもりだったのか…。……貴様には才能が無いようだな…よし、教えてやろう。ここは時間が止まった空間だが、キープできる限界はある。早足で行くぞ。」


(……随分と面倒見の良い神様もいたもんだな。)

「私の教えがいらんのか?」

「いや冗談じゃねぇか!教えてくれ!頼む!」


(この力だけが、那由多を救えるんだ!)


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(懲りないなぁ…こんなガキのパンチなんか今の俺には効きはしな)
「ブゴォッ!!!」

 俺が思いっきりぶん殴ると、ロン毛野郎は黒板にめり込む。その隙に那由多を抱え教室後方へと引くが奴はすぐに起き上がった。


「………あー………なるほど、お前も神力者か…。大丈夫だ、もう攻撃しない。俺と同盟を組まないか?【神力】を手に入れたのはこの世の人間のごく一部だそうだ。
 つまり俺達[選ばれた人間は]好き放題できるってことだ!お前の力はどんな力だ?俺はな―!」

「乗らねーよバーカ!」 


 俺はロンゲ野郎に駆け寄り、思いっきり拳を振り下ろすも今度は受けられてしまう。

 その直後上からロンゲ野郎が降りて来る。もちろん今攻撃したロンゲもそのままに。
 俺は上からの攻撃にすぐさま左手で反応するも、拳はロンゲの身体をすり抜けた。

(幻覚かっ!)

 俺が幻覚に気を取られているうちに本体の蹴りでまたも飛ばされる。しかし、ダメージが無い訳では無いが先程よりも痛くない。


(……てゆーか、使えてないな【神力】。さっきのパンチはおまけのパワーでぶん殴っただけ。やっぱ才能ないらしいな俺は。)


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「なぁ、使い方の例えとかないの?」

「例え?そうだな……貴様に分かりやすく言うならモーターを回し、その電力を全身へ張り巡らせるイメージだ。」


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(とか言ってたけど何だよモーターって、わかんねぇよそんなので例えられても。あいつ神様のクセして例えるの下手くそなんだよな。)


 そんな事を思っているとロンゲは4人に分身し、こちらへ一斉に向かって来る。

 俺はなんとか向かって来る4人全員に攻撃を当てる、事には成功したが全てが通り抜けた。
 無茶な攻撃で俺の体勢が崩れたタイミングで分身の影からもう一人が出てくる。

(クソッ!対応しきれねぇ!)

 俺はロンゲの蹴りをモロにもらってしまった。が、


「うッ……クソガキがッ………」

 ロンゲの顎にうまく俺のかかとがあたったらしく、ロンゲは大きくふらついた。

 その隙を突き、俺は一度距離を取ることに成功する。焦るロンゲを見て、


(この勝負、意外と勝てる。)



 俺がそう思った時だった。


「……………!」

 次の瞬間、ロンゲの焦りに満ちた顔が満面の笑みへと変わる。
 ロンゲはすぐさま那由多に駆け寄り首に手をかけた。

「キャァッ!」

「降伏しろ!さもなくばこの女の首を捻りとるぞ!」



 一瞬で状況は最悪へと変化した。



(あぁ…クソっ!最悪だ冷静じゃ無かったっ!)


「早く!手を上げて膝を付け!」

 ロンゲが俺に見せつけるように那由多の首に手をかける。


(クソッ!何で俺は那由多からあんなに離れたんだ!?)

 俺の脳裏に一つの仮説がよぎる。


(……違う…それは……っ!)


 俺は自らそれを否定する。しかし、その際生じた違和感に気付いてしまった。


(…………いや、きっとそうだ。俺は心の何処かで…この状況を喜んでいた…。『ヒーローになれる』って。)


 心とプライドが折れる音がする。


(……………俺はやっぱり……ヒーローには……)







「ゆ…………うと…………助けて……」




 俺は再び拳を握り込む。


(…挫折は後だッ!今はまず!)

「助けるッ!!!」


 その言葉と同時に俺は、黄色い電気のようなものを全身に纏う。常に全身からパチパチと電気が放電されているような感覚だ。


「ほら!どうした!早く降参しないとこの女ぶち殺すぞッ!!!」


(……今なら…やれる!)


 俺は床を思いっきり蹴る。さっきロンゲをぶん殴った時よりずっと速い。あっという間に天井に足がついた。

 ロンゲは焦り首を絞めだす。それとほぼ同時に俺はロンゲをぶん殴った。

「ッ!?」


 吹き飛ばされたロンゲは壁へと打ち付けられた。

(なんだ今の???…クソガキが飛び上がったと思ったら一瞬で目の前に………まさかあいつ、天井蹴ってそのまま殴りやがったのか……!?クソッ…立てねぇ………!)


 俺は那由多を抱きかかえ、廊下に避難させる。

「那由多、悪かった。」


「………チッ…クソガキが…」


 俺はまた一瞬で距離を詰め、ロンゲを窓の外に吹っ飛ばした。

 ロンゲが下に落ちたらしい音が聞こえた俺は、腰の抜けた那由多を背負ってみんなの姿が見える校庭へと走り出した。
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