HOPEs

赤猿

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第六話 休日

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「お前達、ちょっと遊んでこい。」

 ハデスさんの突然の申し出に俺達は戸惑う。

「遊べとは?」

「そのまんまだ。お前達、高校生だろ?それなのにここ一ヶ月位、ずっと救護活動と会議と広報活動じゃないか。たまには羽伸ばしてきなさい。休暇だ、休暇。」


 確かに、これまでの人生でここまで遊ばなかった日々も珍しい。あんまり自覚はないが疲労が溜まってるのかもしれない。

「休暇っつってもなぁ、ホルスどこ行く?」

「僕が確定してるのか。」

「そりゃ今日平日だし、高校の友達はみんな学校だよ。」
 
 
 俺とホルスがそうして話していると、再びハデスさんが話しかけてくる。

「お前ら2人で行くならアフロちゃんも連れてってやれ。」

 「アフロちゃん」とはアフロディーテの略である。長いし毎回呼ぶのは面倒臭いという事で2週間経った今は「アフロ」で定着している。


「えぇ!?私もですか?私、働きたいですけど…」

「親睦を深めるってのは大事だからね。特に私達は。いざという時に背中を預け合えるようにならないと。」


「ん~…まぁそれもそうですね。」

 アフロは少し悩んだ後に肯定の意を示した。
 こうして俺達は初の休暇を貰い、初の遊びに出かけるのだった。

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「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 すげぇぇぇぇえ!こんなに近所にこんなにエグいジェットコースターがあったなんて!俺とアフロは両手を上げて楽しむ。が、右を見ると

「……………」

 全然楽しくなさそうなイケメンが一人。

「ホルスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ?!?!?!どうしたんだぁぁぁぁぁぁあ?!?!?!?
怖いのかァァァァァァァァァ!?!?!?」

「いや、毎回飛んでるから慣れたというか」

「なんてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?!?!?」

「聞こえないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


「………後で話す。」

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「いや~楽しかったな!」

 ベンチでチュロスを食べながら話す。

「私、遊園地とか初めて来たけどすごい楽しいね!」

「初めて?施設にいた時遠足とかはなかったのか?」

 ホルスが問う。そういやアフロは孤児院に入ってたんだっけ。

「んーあったことにはあったんだけど…そういうの私も弟も興味無かったからさ。」

「そうか。」

「…………」
 

「……あぁごめんごめん。別に引きずってないから大丈夫だよ。いや、引きずってはいるの…かな?でも、めんどくさい感じの引きずり方はしてない!から大丈夫だよ!」

「…そっか。強いな、アフロは。」

「あぁ、そうだな。……なぁ2人共。あれ乗らないか?」

 ホルスが指差したのは観覧車だった。


「乗りたいのか?意外だな。」
「何がだ。」

 最近気づいたがホルスはツッコミが早い。すごくやりやすい。


「いや、なんかお前ってクールキャラじゃん。」 

「キャラなんか知らん。それで、いいのか?」

「俺は別に構わねぇぞ。乗りたいし。アフロは?」

「私も乗りたーい!」

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(こうしてみると結構小さい遊園地なんだな)


「うわぁーすごい高いね。」

「…あぁ。そうだな。」


(……?なんかホルス変じゃね?)
 そんな事を思った矢先にホルスの口が開く。

「…2人に、話しておかなきゃならない事がある。」

「話?」

「あぁ。今後僕達が…」

 そこまでホルスが言いかけた所で、下から大きな音が聞こえる。
 下を見るとそこには巨大な腕が2つ浮いていた。


「なんだありゃ!?てか、行ったほうがいいか?」

「今は覆面持ってないだろ。」

 覆面とはその名の通り犯人がつけるような覆面で、この前壁総理に「戦うな」と言われたのでいざという時に戦ってもバレないように、というものだ。

「でも、下には何人かいるよ?危なく無い?」

 ホルスが難しい顔をして悩む。1秒が惜しい。


(…よし!後で誤魔化そう!)

 飛び降りる覚悟を俺が決めかけた時、ホルスの顔が緩んだ。


「2人共、大丈夫そうだぞ。」

「「へ?」」

 俺とアフロは2人揃って間抜けな声を出した後(のち)、発言の真意を確かめるべく下をよく凝視した。すると覆面を被った高身長の男が立っているのが見えた。

 アフロが呟く。
「あれ………ポセイドンさんかな?」

「いや、あれはハデスさんだろ。ちょっとポセイドンさんより小さい。」

「えぇ…そんなのわかんないよ。てかアレスよく見えるね。」


(…いや、ポセイドンさんかハデスさんかはどうでもいい。ハデスさんがいたとして、大丈夫なのか?あの腕2本の奴、結構強そうだぞ。)
 

 そんな事を俺が考えていると、腕の操者と思しき女が腕を振り下ろした。と同時に巨大な右腕がハデスさん目掛けて飛んでいく。

「おい!あれやばくないか!?なぁやっぱり俺たちも行こう!」

 俺はホルスに訴えかける。が、ホルスは落ち着いた様子で俺を諭した。

「大丈夫だから落ち着け。ほら、見てみろ。」

 俺はホルスの言う通り下を見てみる。するとハデスさんは両手で巨大な腕を受け止め、その手から青い炎を射出し腕を焼いていた。


「おぉ…すげぇ。てか炎青いのはそういうもんなの?」
「あぁ。ハデスさんの炎はああいうもんだ。」

 そして熱さに耐えかねたのか腕野郎は右腕を引き、もう一方の腕で叩き潰そうとする。
 が、その隙にハデスさんは腕の女との距離を大きく詰める。すると女は焼けた方の腕を背後に回し、そこへ向かい走り出した。

「あ、あいつ逃げるぞ!」


 ハデスさんも後を追うが女も速い。このまま追いつけないかと思ったが、あと一歩の所で女がコケた。よく見ると足に何かが絡みついている。それは骨だった。

「あれが…」

「そう。あれが骸骨兵だ。地面から這い出てくる。」

 当然コケた女にハデスさんはすぐに追いつき、なかなか良い蹴りを横っ腹に直撃させた。



 その後軽くボコボコにして拘束、遊園地のスタッフに警察への連絡を要請する、という動きを俺達が観覧車をもう一周するより速く行っていた。


「…すげぇな。あの人。」

「あぁ、恐らく今のHOPEsで一番強いのはあの人だ。」

 ハデスさん。仕事が出来る人だとは思ってたけどこんなに強かったのか…


「ん?そういやホルス、さっきなんか言いかけてたよな?何言おうとしたんだ。」
「あー。そういえばねー。」

「…丁度いい。ハデスさんと合流しよう。」

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 俺達は人目の付かない近くの喫茶店で話し始める。

「いや~皆そこに遊びに来てたんだ。すごい偶然だね。」

「ハデスさんはあいつを追ってここまで?」

「そうそう。」


「…なぁ、ホルス。それでさっきは何を言おうとしたんだ?」

「少しだけ待て。その事だが…ハデスさん。俺は秋斗(あきと)さんの事について話すべきだと思います。なのでこの場で話しても良いですか?」

 ホルスの言葉を聞きハデスさんは少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの優しい顔に戻る。


「あーなるほど。そういう事か。……うん、アフロちゃんの事もある。いつかは言わなきゃだよね。」

 少しハデスさんとホルスの顔が固くなった。俺とアフロはつい身構えてしまう。


「私が今から話すのは、HOPEs誕生の理由。それと我々が今後避けては通れない試練の話だ。そして、」


 ハデスさんが続ける




「私の弟、秋斗あきとについての話だ。」
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