どうせ ヒマだろ?

アンドロイド

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番外編

閑話 代理神は見た!

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 荒れに荒れた神界。
 ワタシは異世界から取り寄せたビニール手袋を装着し、ゴミ袋を手にした状態で硬直していた。
 
 どこからどう
 手をつけていいのか
 わからない………。
 
 かつては女神の神殿だったこの場所は、足の踏み場もないほどとっ散らかっていた。
 住人の安否が疑われるゴミ屋敷のようだと言えば伝わるだろうか?
 とにかく、回れ右して帰りたい。
 もう、見なかったことにしたい。

 だが、そうは言っていられなかった。なぜなら、ここにワタシが住む予定だから。代理として務める百年、ゴミの中ここで生活なんかしたくない。確実に死ぬ。
 よくも先代女神はこんなところに住んでいたものだ。まあ、あの二百年前の事件直前には一人残らず天使が逃げ出してしまったようだからゴミが増え出したのはそこからなのだろう。

 重たいため息をついて、手短なゴミから袋に詰めていく。
 上のほうは軽く埃を被った程度、問題は埋もれに埋もれた下のほう。真っ白にカビが生えた布のような物が恐ろしい。

 「うわぁ、スゴいねー。何年もの?」

 「二百年もの、って…」

 かけられた声に応えようとして、そこにいるはずのない人物を振り返る。
 そこにはこちらの手元を覗き込むピンクの髪に赤い瞳の少年がいた。
 
 「誰だ、キミは!?」
 
 「死んでるのに絶賛、臨死体験しちゃってるゴーストだよー。ちょっと王様と神官をどっかに飛ばしたら"悪霊がぁ~"って聖水かけられちゃって♪」

 ………。
 ……。
 …。

 あれはお前の仕業かぁぁぁっ!!
 飛んでったよ、二人!
 ここに配属になったその日に、あまりに唐突過ぎてうっかり見送ったよ!
 後からこれは不味いと思って調べたら、異世界召喚しようとしていた自業自得の馬鹿だったからほっといたけど…っ!

 「せっかくだから、女神に会ってみたかったんだけどお出かけ中~?」

 「あの駄女神は戻ってこないよ。だからワタシが代理神として派遣されたんだ。左遷じゃない、派遣だからな!派遣!」

 本意ではない神の代理派遣先のムカムカを手短な物と一緒に豪快に袋に突っ込む。

 だいたい、なんでワタシがあの駄女神の尻拭いをしなければならないんだ!
 
 「ーーーとりあえず…、呑む?」

 神殿同様に荒れに荒れたワタシの胸裡きょうりを慮ってか、少年は白い鞄から酒樽を取り出す。
 ワタシは何も言わずに、浄化魔法を重ねがけしたコップを取り出して床に座った。

 お神酒みきあがらぬ神などいるか!
 もう呑まなきゃやってられんわ!

 ーーー。

 ーー。

 ー。

 「あの駄女神だめがみはなぁ~。独断で異世界召喚なんぞしくさりやがった挙げ句ぅ、その異世界人の手柄を恋人候補愛し子に横取りさせて神格化しようとかしゃらくせぇ真似して神界で裁かれてるよぅ~」

 コップの縁ギリギリまで注いだ酒をグッと仰ぎ、酒気を含んだ熱い息を吐き出す。

 「あの駄女神さえ、真面目にやってくれてりゃさぁ。今頃、ワタシも代理神じゃなくて、一から作った世界の主神あるじだったんだ。こんなトコで女神のとっ散らかした物の片付けなんてしなくてすんだんだよぉ~…っ!!」

 怒り高ぶった気分が嘆きに変わり、肘掛け代わりに身を預けた箱のような物をぺしぺし叩く。そのたびに埃が舞い上がって咳き込み、酒を水代わりに流しこむ。

 もはや自棄だ。
 もう、知らん!
 
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