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間に合え!

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 それからリョウのことを調べた。
 四年も前のことだから情報があまり集まらないが、それでも調べれば調べるほど"洋"という少年がリョウだと確信が持てた。
 もう少し、もう少しでリョウの現状が分かる。
 その時、斎から着信音が響いた。
 
「どうしーー…」

 『空港近くの病院に行け!』

 「は?」

 『いいか、落ち着いて聞けよ? 洋は四年前に空港近くの車道で車に跳ねられて意識不明の状態になってる!』

 「やっぱり洋がリョウだったんだ…」

 『それでこの頃、両親が延命治療をやめようとしてるらしい!』

 話を聞きながら宗二は走り出していた。
 タクシーに乗り込み、病院に急いだ。
 その間、心臓が止まりそうだった。

 間に合え! 間に合え!

 冷たくなっていくリョウの幻覚が頭をよぎるたびにそれを否定し、振り払う。
 病院につくと同時にお札を多めに抜き取り、釣りはいらないと飛び降りた。
 受付には声すらかけなかった。
 リョウが、こっちだと言っているように場所がわかる。
 
 「じゃあ、先生お願いします」

 声が聞こえた。

 「やめろ!!」

 思いっきり扉を開いて、ぎょっとしている男と医者、看護師を押しのけてベッドに飛びつく。
 そこにはリョウを少し大きくした黒髪の青年が眠っていた。

 「なんだね、君は!」

 男が吠える。
 だが、そんなこと気にしてはいられない。

 「リョウ、逝くな! 生きろよ!!」 

 「おい、やめないか!」

 身体に数本の手がかかり、洋から引き離そうとする。
 それに逆らい、宗二はベッドで眠る洋をゆす った。
 この程度で諦められるはずがない。
 好きになったら相手を取り殺すほど愛し抜く。それが高見だ。
 殺されたって構わない。
 リョウと一緒に逝けるなら本望だ。 
 リョウと一緒に逝けるなら。

 「リョウ!洋! 戻ってこい!」

 「警備を呼べ!」

 「洋!」

 鉄の味の叫びに、洋の指がピクリと動く。
 
 「洋…?」

 異変に気づいて、声をひそめるとかすかにまつ毛が震えてまぶたがゆっくり開いた。
 
 「洋…!」

 その細い身体に抱きつく。

 実態がある。
 
 体温がある。

 リョウが洋が生きてる…!

 「生き返ったか…」

 感情のない声が聞こえ、振り返ると洋の父親らしき男が興味なさげに彼を見ていた。
 戻ってきたことをまるで喜んでいない姿に苛立ちが募る。

 「見ての通り、洋は戻ってきました。 あなた方は洋を捨てた。彼は俺がもらいます!」

 「もらう?」

 「洋と結婚します! 認めてくれとは言いません! 誰が何と言おうと彼は俺がもらいます!そして全力で幸せにします!!」

 「何をバカなことを…」 

 「バカで結構、洋はあなた方には絶対に渡さない!!」

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