密教僧・空海 魔都平安を疾る

カズ

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その四 美女と野獣

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背中が大きくふくれ上がり、段々と曲がっていき、両腕が地面についた。四つんばい。獣の姿勢だ。
 足、腕、腹、胸、顔・・・、体中から毛が伸びだしてきた。黄金色に輝いていて、とってもキレイだ。口が大きく裂けはじめた。大きな前歯が二本見える。もう歯ではない、牙だ。
尻がどんどん伸びてきた!尻尾だ。長くて太い尻尾が揺れている。
 獣だ。輝く金色と真っ黒な毛を持つ。巨大な牙と鋭い爪。大人の腕ほどもある太い尻尾。
あたしだって知っているよ、この獣のことは。だけど、日本にはいないはず。何故いるんだ?
そんなことより、何故この人は獣に、「虎」になっちまったんだ?

グオオオオオオンンン

 「虎」になったこの人の「声」が、天に向かう。こんな哀しい「声」は、今まで聞いたこともない。
 目にはいっぱいの涙。そして流れ落ちていく。何と美しんだ!

虎だっ! いや、化け物だ!
本物の化け物だよっ
山賊の次は化け物かよっ やっと安心して暮らせると思ったのによう
そうだ やっとだ やっとつかんだんだ
もう嫌だよ ビクビクして暮らすのは
どうする? どうする? どうする?
やるしかないだろう 
そうだな それしかないな
山賊たちもやっつけたんだ 化け物だって大丈夫さ
ああ やろう 
そうしよう みんなでやろう
怖くない みんなでやれば怖くない
殺そう!
殺そう!
化け物を殺そう!

村人たちがこの人に近づいて来る。棒、鍬、鎌、山賊の持っていた刀・・・。武器になりそうなものなら、何でも持って近づいて来る。
 顔に表情がない。まるでお面のようだ。痛いとか嬉しいとかの感情が、どこかに落っこちまったみたいだ。そんな奴らが、一歩、また一歩と近づいて来る。
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「あんたち、何言ってんだよ!この人が助けてくれたんだろう!この人がいなかったら、あんたたち今頃、殺されてんだよっ」
あたしは、この人に駆け寄り、近づいて来る村の奴らに叫んだ。
「殺せ」
「邪魔だ」
「邪魔するなら、お前も殺す」
「この人は何もしてないじゃないか!来るなっ。来るんじゃないっ!」
あたしは、この人の前に立ち、両手を広げ、近寄って来る村の奴らの前に立った。
でも止まらない。普段は弱っちいのに、人が変わっちまってる。
あたしは、振りむいた。
「逃げるんだよ!あたしと一緒に逃げるんだっ!」
この人があたしを見あげた。
困っている、そして迷っている。
「急いで!逃げるんだよっ」
「虎」の顔が一度だけ後ろに振られた。
背中に乗れという事だ。
あたしはこの人の背にまたがった。ふんわりとして、雲の上にいるみたいに気持ちいい。
両腕を首に回した。
「つかまれ」
えっ!今の声はこの人?
途端、すごい速さでこの人が動いた。走り抜けていく。いや飛んでいる。
村の奴らの頭を飛び越え、あたしたちは夜空に向かい飛んで行ったんだ!
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