婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜

みのすけ

文字の大きさ
81 / 119
婚約破棄?その言葉待っていました!

闇の中の邂逅

一体、此処は何処なのだろう?
真っ暗な空間に自分1人の気配。

暗闇の中で自分の手を見た。
足元は闇に呑まれて見えない。


私は先程までクローディア公爵家の領地の屋敷の、ユリウス様のお祖父様の部屋にいたはず。


ユリウス様はどこだろう?


周囲を見渡す。目が慣れてきて暗闇の中の濃淡がわかる様になった。


すると闇の中に動くものがいる。ゆっくり近付くと黒い大きな犬の様だった。


「こんにちは、ここは貴方のお家かしら?」


犬の鼻から少し離れたところに、自分の手を差し出す。犬はくんくんと匂いを嗅いで、ペロっと指を舐めた。

「いきなり来てごめんなさい。少しここに居ても良いかしら」

もちろん答えはない。
承諾の意なのか、犬は寝そべったようだ。
黒い犬は暗闇に溶けてしまったかのようで、気配を察するしかない。

私もその場で腰を下ろす。


暗闇の中で闇雲に動くのは得策ではない。
状況が変わるまでここに居よう。
 
 


静寂と暗闇で時間の感覚がないから、どれくらい座っていたかは分からない。

普通なら怖いとか、もう出たいとか、パニックになるのだろう。私も昔は怖いと思っていた。
でも残念なことに慣れてしまった。同じ様なことが何度もあったから。

最初は……何が起こったのか分からなかった。いきなり手を掴まれて、馬車に放り込まれた。着いた先で、何もない部屋に閉じ込められたっけ。

薬を嗅がされて、目が覚めたら薄暗い部屋に転がっていたこともあった。

出された紅茶を飲んだ後に意識を失って、気付いたら窓のない部屋に閉じ込められていたこともあったな。


そんなことをしてもアレキサンドライトは手に入らないのに。


「私に危害を加えれば、宝石がどうなるのかわからない」
そう言えば、相手は私を殺せない。私が死んだらアレキサンドライトがどうなるのか分からないから、嘘ではない。

なかなか根を上げない私に言う事をきかせるため、暗い部屋に閉じ込める方法を取る大人が多かった。

8歳の少女なら、泣き叫んで助けを乞うと思っていたのだろう。

明かり一つない、暗くて寒い部屋。

どんなに怖くても、じっと耐えて機会を窺う。目立たずに息を殺して、反撃のチャンスを待つ。

平民に紛れることができれば、貴族からは逃げきれる。そのために動きやすく目立たない格好を心掛け、逃げる時は髪や顔を煤で汚した。薄汚い身なりをしていれば、貴族は近付かない。煤で汚れた手を洗う度に、今日も無事に逃げ切れたとホッとした。

噂に踊らされて沸いて出たような大人達を前に、私の世界は色を失ってゆく。黒い染みが広がってゆくように、記憶にある鮮やかな色彩を、日々塗りつぶしてゆく。

両親と過ごした日々は遠く、記憶の彼方に。

私に近付く大人達の笑顔の下、親を亡くして可哀想だと悲しむ涙の下の、隠した本音を垣間見る度に失望していった。

そんな大人達を相手にして行き着いたのは、自分自身でどうにかしなければならないという現実だった。

だって助けてくれる人は、もういない。父も母も、この世にはいないのだから。
セバスチャンは身を尽くしてくれるけれど、子爵家の家令のできる範囲を越えては動けない。それが身分社会なのだから。

本来は私が守る側なのだから。

自分の身を守りながら、私の大事な人たちだけを守れればいい。

そのために必要ならば、なんだってやった。

足りない頭も使ったし、非力な腕も磨いた。
ジーク隊長に護身術を教えてほしいと言ったら呆れられたが、非力な少女が逃げるために最低限必要なことを習得させてくれた。

見様見真似で魔法だって使った。両親の記憶を頼り、古文書を漁り、王宮魔術師が転移魔法を使っている場面を運良く目にした。
試行錯誤の末に転移魔法を使えるようになったのは幸運だった。

薬にも詳しくなった。怪我を治すために薬草の取扱いにも慣れた。
それが後々、伯爵家の教育で役に立った。高位貴族の教育には毒や薬に関する分野があるからだ。

令嬢のフリだってする。所作も言葉遣いも立ち居振る舞いも、付け入る隙を与えないくらいに完璧に。
そうしないと貴族は亡くなった両親のことを悪く言うから。セレス家の教育が行き届いていないと、使用人のことを悪く言うから。

大人のフリだってする。政治、経済、領地経営、それまで得た知識を総動員して、分かったフリをして対応する。

いるはずの当主が不在の中で、私が一番血が近いのだから。そして最も状況を把握しているのは、私だから。

周りの大人が頼りにならなかったわけではない。状況を把握し、その立場に近い者がいなかっただけなのだ。

そして時は一刻を争う。早くしないと取り返しがつかなくなる。家も領地も、いなくなった子供達の無事も。




誰にも頼れないなら、自分自身を変えてでも状況に対処しろ。感情を制御して、自分自身すら操ればいい。

閉じ込められたことがトラウマにならなかったのは、暗闇の中で自分と向き合ってきた時間が長かったからだ。


ふと、手に温かいものが触れる。
犬が私の側に来た様だ。毛がふわふわしていて気持ちがいい。

私は犬の背を撫でて過ごす。
おかげで、自分の過去を振り返る思考から離れられた。手から伝わる、生き物の温かさのせいだろう。

独りではないというのが救いになるのだな、と初めて思った。



どれくらい時間が経ったのだろうか。

犬が立ち上がって、ぐるると唸った。

闇の先から、誰かが近付いてくる。


暗闇の中でもわかる銀髪と長身の体躯。視認できる程に近くに来れば見知った顔だった。


「ユリウス様!ご無事だったのですね?」

「アレキサンドライト」


ユリウス様が両手を広げて近付いてきた。
犬はいつの間にかいない。


「心配したよ」


ユリウス様が慈しむような眼差しを向ける。
頬に手が当てられて顔が近付く。


私は目を開けたまま動かなかった。
唇が触れる前に呟く。


「貴方はどなたですか?」


目の前の男性の動きがピタリと止まる。


「先程『ユリウス』と呼んでくれただろう?」


アイスブルーの瞳の色も同じだ。


「近付かないと気配がわかりませんから。
貴方がこの魔法をかけたのですね?
ユリウス様はご無事ですか?」

「自分の心配よりもユリウスが先か?」

「貴方からは悪意を感じません。私の身は大丈夫だと思います」

「こんな状況なのに冷静だな。もう私が誰かは分かっているのだろう?」



「お目にかかれて光栄です、クローディア前公爵閣下。なぜこのような真似を?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


お読みいただきありがとうございます。
今日はもう1話投稿します

お気に入りやいいね下さった方、いつもありがとうございます。読んで下さる方がいると励みになります(^-^)

拙い文章ですが2人のこれからを見届けてもらえると嬉しいです

あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。 けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。 それでも旦那様は優しかった。 冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。 だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。 そんなある日、彼女は知ってしまう。 旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。 彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。 都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る 静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。 すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。 感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

【完結】今さら執着されても困ります

リリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」 婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった―― アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。 いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。 蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。 ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。 「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」 ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。 彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。 一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。 ・全体的に暗い内容です。 ・注意喚起を含む章は※を付けています。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。