婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜

みのすけ

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婚約破棄?その言葉待っていました!

闇の中の邂逅(ユリウス視点)

祖父の部屋で魔術細工の箱を開けた後、気付くと俺は何かの動物になっていたようだ。
言葉を発することができなくて、目線が低い。手足の感覚が違う。

辺りは真っ暗で、闇に溶けた自分の姿は見えない。

すると誰かが近付いてきた。
匂いからレイだと分かる。
彼女は犬だと思っているようだが、もちろん俺だとは気付いていないだろう。

彼女は慌てる様子もなく、ゆっくりと腰を落ち着かせて、暗闇の中じっとしていた。

レイが座ったことで、俺の視界に彼女の姿が入るようになった。こんな闇の中で一人、怖くて声が出ないのだろうかと心配になったのだが、彼女は妙に落ち着いている。何というか感情が凪いでいる。

いつもは淑女の微笑みを浮かべている彼女が初めて見せた、憂いを帯びた表情。年齢以上の大人びた顔に、俺はしばらく見入ってしまった。
それは全てを諦めてしまったような、どこか寂しげな様子だった。

俺は彼女の傍に寄る。こんな姿で言葉も発せないが、彼女を慰めたかったのかもしれない。
すると彼女は俺に気付いて、優しく背中を撫でてくれた。

これは夢なのだろうか?

だとしても、彼女の傍にいるのは居心地が良い。暗闇でも、静寂でも、こんなにも心穏やかにいられるなんて。

彼女の顔を見ると、穏やかに微笑んでいた。貴族用の顔ではない微笑みで、やはり年齢よりも大人びて見えた。ずっとこうして、笑っていてくれたらいいのに。

すると何かが近付いてくる気配がして、俺は警戒を露わにする。

「ユリウス様!ご無事だったのですね?」

安心したようなレイの声がした。
現れたのは俺の姿?どうして?

「アレキサンドライト」

俺の姿をした者は、声まで同じだ。
しかしそれは俺ではない。俺はレイに「アレキサンドライト」と呼んだことがない。
彼女は気付いてくれるのか?

そうこうするうちに、身体がなくなり、意識だけになった。

俺の姿をした何かと、レイのやり取りを見せられている?

これが祖父の魔法?


二人のやり取りから、あの魔術細工の箱の中に、この魔法を閉じ込めていたようだと分かった。魔法と魔術を組み合わせるなんて、確かに画期的な試みだ。

過去に二人がどのような話をしたのか気になるが、このアイデアは幼いレイによるもので祖父が形にしたというところだろうか?
そうならば、祖父がレイのことを『才能の原石』と称した理由がよく分かる。


「ふふふ……ユリウスのことが気掛かりでね。最後のお節介だ」

ああ、お祖父様は最期まで俺の身を案じてくれたのだな。これを生前に準備してくれていたのだから、相当心配させていたのだろう。祖父の気持ちを素直に嬉しいと思う。


「しかしこれは本来ユリウス様のためでしょう?」

「だとしたらどうする?」

「閣下の想いが、ユリウス様に伝わると良いと思います」 


レイの気持ちが嬉しかった。
本人はこんなことに巻き込まれるなんて、思ってもみなかっただろう。それなのにこんな時まで他人のことを気遣うなんて。


「ユリウス様はなくてはならない方です。大切に思うのは当然かと」

「それは自分にとって?国にとって?」

「すべてにとって」

はっきりと言い切るレイに少し驚く。
彼女にとって俺は『なくてはならない存在』になれたのだろうか?出会った頃よりは距離が近付いたと思っていたけれど……。



「そういう割には、あれと距離を置いている。傍に置かないのか?」

そうだ、レイは特定の誰かを傍に置かない。学園の中で付き合いがある者でも、誰も彼女のプライベートは知らなかった。彼女はいつも一人で動く。


「私には妻との思い出があったからな。君は誰かを傍に置く前に、その者を喪失した後のことばかりを考えている。ユリウスを選んでから、いつか来る別れを恐れても遅くないだろう?」

レイは両親を亡くしているから、喪失の痛みを余計に恐れているのだろう。

そうだ、彼女は実の両親の話をあまりしない。今の家族との仲が良いから忘れがちだったが、実の両親のことも抱えているのだ。まだ16歳なのに……。


「剛胆かと思いきや、意外と臆病なのだな」

「自分でも承知してます」

臆病?いつも堂々としている彼女からは想像できない。しかしレイの憂いを帯びた表情を見た後だから、彼女が見せていない一面があることは分かる。

臆病でもいい。
それでも、彼女が望んでくれるなら。
共にいたいと思ってくれるのなら。


「ユリウスの何処が気に入っている?」

「……優しいところです」

「容姿に目を向ける者が多い中、変わっている娘だ」

「ユリウス様は確かに美しいですが、それは彼の一部であって本質ではありません」


レイの言葉がストンと胸に落ちてきた。
素直に、純粋に、嬉しいと思った。
何かが認められた様な気がした。
たぶんずっと欲しかった言葉なのかもしれない。

自分の容姿を目当てに集まってくる人とは違う、公爵家目当てに集まってくる人とも違う。

俺自身を見てくれて、自分の意思で側にいてくれることが純粋に嬉しかった。

今まで抱えていた何かが慰められたような気がして、俺の中の何かが認められた気がして、心が満たされてゆく。
何年も胸の中にあったわだかまりが、解けていくようだ。


俺は彼女のことが好きだ。

彼女を馬車で送ったあの日からずっと気になっている。
初めてセレス領で彼女と話した時からずっと惹かれている。

こんなにも人を好きになれるなんて。

他人に不信感を抱いていた俺でも、見つけることができた。
『自分にとって必要な人』を。
祖父の言葉は正しかった。

そして誰かを好きになって良かったと、初めて思うことができた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


お読みいただきありがとうございます。
今日はもう1話投稿します。
明日からレイ視点に戻ります。

お気に入りやいいね下さった方、いつもありがとうございます。読んで下さる方がいると励みになります(^-^)

拙い文章ですが2人のこれからを見届けてもらえると嬉しいです

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