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1. と、出会う
19 中庭の攻防
しおりを挟む「ジーナさんの控え室?」
「そう。そこで待ち合わせてる。事情聴取」
「えっでも……」
「まあ正直、囮でもあるよ。もちろん、守るけどさ。ベスィは、魂が呪われてしまってるんだ。ソーマの話ぶりからすると、そこまで狂ってるような印象はないけど、それでも、一度行動を起こし始めたベスィは、満足するまで繰り返す」
守るって言ってるのに、『囮』ていう言葉の印象が強すぎて、なんだか納得ができなかった。満足っていうのは、一体なんだろうと、先週のベスィを思い出した。彼女の『満足』っていうのは、多分、愛されて結婚だったんだろう。じゃあ、今回のベスィの、ストラヴィの満足はなんだ?と考えて、思い当たった。
(『子供たちの景色』のハッピーエンドだ……)
その言葉の幸せすぎる響きに、悲しい気持ちでいっぱいになった。
目指しているのは、夢の中に取り残されてしまった主人公の幸福なのに、まるでストラヴィ自身が、悪夢にずっと囚われてしまったみたいだと思った。悲しかった。オルガさんも、ストラヴィさんも、あんなに普通の人間みたいで、普通に俺と話していたっていうのに…と、考えて、なんだか違和感を覚えた。
「───あれ??待って、、」
そして思い出したのだ。あの時オルガさんが、言った言葉を。
───「私はオルガって言います。それで、こっちはストラヴィ」───
ストラヴィさんがベスィだと言うのなら、オルガさんはどうしてそんなことを言ったんだ?まさか、ストラヴィって、同じ名前なだけで、違う人なのか??どういうことだ?という疑問が次々に浮かんだ。或いは、もしかして、普通にピアノのことを紹介してくれていたんだろうか…と、不思議に思い、ネルに尋ねようとした時、バンッと大きな音がして、少し先にある木の扉が開いた。そして、───
「きゃあああああああ!!!」
大きな叫び声と一緒に、何かに怯えるようにして女性が、すごい勢いで部屋から、飛び出してきた。そして、そのまま、俺たちにも構わず、一目散に逃げ出す。だが、一体どこから現れたのか、ピアノ線に足を取られ、女性が転倒した。ピアノ線は、そのまま女性に絡まるように、巻きつくと、どこからかピアノ線がすごい勢いで手繰り寄せるように、飛ぶように、階段の下に引きずられていく。
「えっえ?!今のってジーナさん?!」
「そう。早く追いかけるよ」
そして、俺とネルは全速力で走り出した。小さい方のリボルバーを懐から取り出しながら、階段を引きずられていくジーナさんを追いかける。ジーナさんの悲鳴は、中庭の方に向かっているようだった。その悲鳴を聞きながら、とにかく焦る。
(囮って、ちゃんと守れなかったら、そんなの、絶対に、だめだ…!)
そして、建物の裏口から、中庭に、大きく一歩踏み出した。びゅうっと冷たい夜の風が吹き込んだ。そして、目の前に広がった光景にハッとする。
夜に星のような花を咲かせる、月花草の花が咲き乱れていたのだ。
まるで夜空のように中庭を照らすその美しさに、目を奪われるが、今はそれどころではなかった。
一体どこから操られているのか、ピアノ線が蜘蛛の巣のように、俺たちの行く手を阻み、ネルが次々に切り裂いていく。いつの間に、あんなにジーナさんの近くに追いついたのか、ネルがジーナさんに繋がっているピアノ線をぶった斬り、そして、もはや芋虫のようにぐるぐる巻きになっているジーナさんを抱えて、俺の方へと大きく跳躍した。
その俊敏な対応に驚く。
(す…すごい……)
そして、失神してしまっている様子の、ぐるぐる巻きのジーナさんを、地面に起き、青白い剣を前に構えた。俺も慌てて、リボルバーを構える。どく、どく、と、心臓が、低く大きな音を立てた。どこにいるんだ、どこから現れるんだ、と考えて、体を硬くしながら、身構える。
───その時。
目の前に、中庭の向こう側にある、芸術的なオブジェのようなもの影から、オルガさんが現れたのだ。
「───え!!」
大変だと思った俺は、反射的に、オルガさんに向かって走り出した。おそらく、何も知らずに、俺たちの足音を聞いたかなんかして、中庭に出てきてしまったのだろう。びっくりした顔のオルガさんが、走る俺を見て、目をぱちぱちと瞬かせた。
ちょっとその小動物っぽい反応がかわいかったが、それどころではなかった。俺は先ほど、オルガさんに抱いた疑問も忘れ、とにかく思いきり、叫んだ。
「オルガさん!ここは危ない!早く逃げて!!」
「え?え??」
「ソーマ!!!」
後ろから、ネルの叫ぶ声が聞こえた。でも、ネルは、オルガさんのことを知らないのだ。まだベスィが、───ストラヴィさんがどこにいて、先ほどジーナさんを狙っていたのかはわからない。早く俺たちの近くに連れてこなくては、守れない!と、思い、ただ、焦った。
その時だった。あの、透き通るようだった落ち着いたストラヴィさんの声が、辺りに響きわたった。
「あっ違う!刑事さん!だめです!」
声のした方へ目をやれば、先ほどの月花草の辺りに、ストラヴィが立ってるのが見えた。ストラヴィに言われて、ビクッと体が震えた。俺はオルガさんの近くまで来ていて、その細い手を掴み、背中に庇った。
「ソーマ?!な、何やってんの?!」
「───その!灰色の髪の奴が、ストラヴィだ!」
「!!!違うよ、ソーマ!!ストラヴィは、───女性だ!!!」
ネルの空色の瞳が、驚愕に見開かれる。
そのネルの言葉を、俺の頭が理解するために、数秒を要した。
「──────え?」
女性。ストラヴィさんは、どう見ても男性だ。
いろんな疑問が、一瞬で頭の中を巡った。ただの同じ名前の人だった?とにかく、オルガさんも守らないといけないことは確かだ。俺の後ろできっと、わけもわからずに、怯えているはずなのだ。俺は振り返ろうとして、ふと、思った。でもそうしたら、どうして、どうしてあんなにネルは、───
(恐ろしいものを見ているような…この世の終わりみたいな……顔をして…俺たちを見てるんだ…?)
今の今まで、守ってあげなくちゃって思ってた存在は、俺の後ろにいるはずの人は、───誰、だったんだっけ?と、固まり、そして、ゆっくりと、後ろを振り返った。そこには、俯いたオルガさんが立っていて、その手の、指先からピアノ線が出てる…ということを視認した瞬間だった。俺の首に巻きつくように、銀色の細いピアノ線が伸びたかと思うと、俺は身動きひとつできなくなっていた。
「ソーマ!!!」
ヒュッと喉が変な音を立てた。呼吸を忘れた。でも、それでも、ゆっくりと少しだけ首を後ろに動かした。首にピアノ線が食い込んで、痛い。目の前には、見覚えのある赤毛、それから、そばかすのある愛嬌のある顔も。
震える声を、絞り出した。
「…お、オルガ…さん……」
「あなた、───バカなの?」
昼間とは違う、冷ややかな物言いだった。
いや、確かに、今朝、遺体で見つかったケンさんのこと、許せないって言ってたのを思い出した。ハッピーエンドを目指していた戯曲家は…悪夢に囚われたくなかったのは……
(オルガさんが…───ベスィ……だったのか…)
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