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Rule1: 出会いは鮮烈に
01 治療院のうっかりエルネスト先生・前
たとえ眠れない日が続いても、朝は来る。
「ふわあー」
あくびをしながら、寝癖だらけの黒髪をわしゃわしゃとかきまぜ、ゆっくりと体を起こす。目が悪いわけでもないのに手を棚の上に這わせ、金具のところを包帯で直してある壊れたメガネを探す。
汚れたレンズを毛布の裾で拭いてから、丸メガネをかける。
曇った窓には冴えない男が映っていて、「今日もしっかりやれよ」なんて、目で語りかけてくる気がする。
(はぁー……朝も夜も嘘ばっかりだよ……)
窓際の木は白い花をつけ始めているけれど、こぢんまりとした木造民家の中はまだ肌寒い。身支度を整えてから、明らかに体型に合っていないだぼっとした白衣を羽織って、もう一度髪をかき混ぜる。
見るからに弱そうで頼りなさそうな容貌を鏡で確認して、ほっと息をついた。
夜の〝シリル〟とは打って変わって――。
(正直者のうっかりユルフェ先生……の完成)
このもさもさ頭の俺――こと、エルネスト・ユルフェは、クレヴァン王国の王都ラザリアの片隅で、小さな治療院を営んでいる。
大通りから一本入った袋小路にある、蔦だらけの小さな二階建ての治療院だ。古い石段を三段ほど上がり、よーく目を凝らしてみると、生えっぱなしの草花の間から小さい木の看板が吊られているのが見える。
どうやら治癒術ができるらしいけど、平民ばかり治療をしている貧乏なユルフェ先生というのは、この辺りじゃみんな知ってて。
だけど――。
貴族が学ぶ治癒術院に通わずに、俺が治癒術師認証試験に合格したという事実を知るものはいない。
ふわあとあくびをしながら、自分んちの一階にある治療院へと向かう。よれよれの白衣をなびかせながら、階段の上から五段目で必ずつまずく。
もちろん、今日も例外ではない。
「わ、わ、うわぁー! ど、どいてどいてぺぺットくん!」
「へ? ……って、ぎゃーッ!」
どしーんと音を立てて、俺は床に尻もちをついた。尻を手でこすりながら、「いたたた」とぼやいていると、慌てて避けた助手のペペットがキャスケット帽を押さえながら、怒りの声を上げた。
「せんせい~~ッ……毎日、毎日、毎日本当に! いい加減にしてください!」
「は、はい……申しわけないです」
「なんなんですかあの階段の五段目は! なにか呪いでもかけられてるんですか」
「あはは……だとしたら、僕の家のいろんなところが呪われてるんだろうねー……」
そう言って笑った俺に、ぷうっとリスのように頬をふくらませると、ペペットは大げさに足音を立てながら薬瓶の並ぶ棚へと向かって歩いて行った。ハタチの男にしてあのかわいい反応はすごいなと思うけど、手に持っていたトレイの上の薬瓶をひとつひとつ丁寧に棚に戻しながら、ペペットはぶっきらぼうに続けた。
「今日は、第一騎士団からの患者さんがはじめて来るんですからね。気合いを入れてくださいよ!」
「……あ? なんでしたっけ、それ」
「なんでしたっけそれってどういうことですか⁉︎ 散々お伝えしましたよね!」
そう叫んだペペットが、つかつかと俺の机に向かうと、今日の予定の書かれた紙束をバンッと机に叩きつけた。
俺のことを睨んだまま退出する彼のうしろ姿を見送りながら、俺はその紙束に目をやった。
(第一騎士団の患者だ? なんでこんな平民の治療院に……)
名前こそ書かれてはいなかったけれど、たしかにその来訪を告げる一文が今日の日付のところに書かれていた。
いつもは予約なしの近所に住む人たちばかり診ているし、前から決まっているのは遠方から来る患者や、特殊な薬が必要な患者だけだ。
平民の治療院では、治癒術を使えるような先生はまずいない。俺だってよほどのことがない限り、その技術は隠して対処しているのだ。
民間医療に毛が生えたような施術と薬草の処方のみが常だというのに、どうして今日に限って騎士団からの患者だなんて、面倒な依頼が入っているんだろうとため息をついた。
(最悪だ。貴族の治療院に行けよ……)
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