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Rule1: 出会いは鮮烈に
02 治療院のうっかりエルネスト先生・後
ペペットがきっちりと用意してくれている机の上を見ながらぼんやりしていると、机の向こう側にある窓から、ひょこっと男前な顔がのぞき込んだ。気の強そうな深緑色の瞳に、いつもキリッとしている男らしい眉の好青年が……俺の顔を見るなり、ぶっと噴き出してから言った。
「相変わらず、景気悪そうな顔だな。さびれた貧乏治療院の先生っぽい」
俺はすぐに、うっかりユルフェ先生の顔になって言い返した。
「そッそんな言い方することないじゃないですか。イーサン」
「今日はこの辺りの巡回なんだ。なんかあったら言えよ」
「あ、うん。ありがとうございます」
この街で一緒に育った幼なじみのイーサンは、いまや立派な騎士さまだ。
平民出身でありながら、その身は水色の王国騎士団の制服に包まれている。近所の女の子たちはみんな、イーサンの気を引こうと必死だ。
とは言っても、あくまでも平民出身の中では出世頭というわけで、街の治安を守るための治安騎士団である。
今日、この小さな治療院にやってくる騎士が所属する第一騎士団は、高位貴族しか所属していない花形の騎士団で、制服も濃いブルーのものだ。きっと高飛車な貴族の騎士が、なんかの罰ゲームかひやかしで見にくるのだろう。考えるだけで気が滅入る。
力なく笑っているのがバレたのかイーサンも困ったように笑いながら、「じゃあな」と大きく手を振りながら去って行った。昔から、優しく男気があって、みんなのリーダーであったイーサンが、こうして気にかけてくれているのは素直に嬉しい。
雨の日でも、雪の日でも、毎日挨拶しに来てくれるから、すっかり日課になってしまった。
そのままぼんやりとイーサンの背中を見送っていると、「もしかして、イーサンが来てましたか?」と、嫌そうな顔をしながら、診療用ベッドのシーツを抱えたペペットが診療室に入ってきた。
彼がここで働き始めてから、もう三年ほどになるので、イーサンの日課もすっかり彼の日常の一部である。
ペペットは年だって俺たちとそう変わらないのに、周りが憧れているイーサンのことをなぜかよく思っていない様子だったので、一度尋ねてみたことがある。だけど、「ああいう好青年って感じの見た目の男が、裏で一番遊んでるんですよ」と、死んだ魚のような目で言われてから、彼の話はあまりしないようにしてる。
(誰にでも、触れちゃいけない話題ってあるからね……)
ペペットは清潔なシーツを敷きながら、ちらっと俺のことを見て言った。
「先生、今日くらいは少し髪型を整えてはいかがですか? そのままで大丈夫かなー。心配だなぁ」
「はぁー……僕がどうがんばってみたところで、その騎士は……この小さな治療院をバカにするために来るんですよ。せめて厄介な貴族でないことを祈るだけです」
「ここの治療院が潰れちゃったら、みんな困りますもんね。こんなに丁寧に平民を診てくれるとこなんてないし……」
「ペペットくんがそう言ってくれると嬉しいですね」
にこにこと微笑みながらそう返すと、ペペットはむぐっと唇を噛みしめるような顔をして、頬を赤くしながら部屋を出て行った。
さらさらと今日の予定を書き出しながら、俺は小さくため息をついた。
(朝イチでその騎士の予約か……貴族の騎士は暇なのか?)
今は隣国と戦争をしているようなこともなく、あるのはモンスター被害の対応ぐらいだろう。王国に駐在している騎士団が、わざわざ出向く必要がある大きなモンスターの噂も最近は聞かない。
(……暇なんだな)
そう結論づけてから、俺は立ち上がった。ペペットが補充してくれた薬瓶を見ながら、在庫の確認をしようとしていると、カランカランと扉につけた鐘が乾いた音を立てるのが聞こえた。
「あれ、もう来たみたいですね」
ペペットがエプロンで手を拭きながら、ぱたぱたと入口に走っていく。
俺はもう一度だけ髪をわしゃわしゃとかき混ぜると、はぁーっと深く息を吐いて気合いを入れた。
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