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ガーラッドの命運 雷弓真の併合
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俺はガーラッドを担ぐと、急いで屋敷へと戻る。黒曜腕駆を発動させている間は俺も全身の身体能力が強化されるからな。帰り道は速かった。
そして屋敷に入り込んでいた暗殺者同様、地下室で裸にして椅子に括り付ける。
俺は黒曜腕駆を解除すると、用意していた冷水をガーラッドにぶっかけた。
「………はっ!?」
「気付いたか」
ガーラッドは周囲を見渡す。だが裸で縛られているという状況を理解すると、顔面が蒼白になった。
「な、なにを……」
「暗殺者の一人はな。ここで長時間、えらく可愛がられていたぜ?」
「………っ!!」
ガーラッドの目につく場所には、フィンの拷問道具が並べられている。それを見て何が行われたか、勝手に想像を膨らませるだろう。
「さて。お前には冥狼と例の暗殺者について、知っていることを全て話してもらおうか。運がよければ、五体満足で元の場所に帰れるかもしれないな」
「む……! 無理だ……! そんな事をすれば、俺が冥狼に消されちまう……!」
「じゃあここで消されるだけの事だな」
「ほ、本気か……!? お前、何に喧嘩を売ろうとしているのか理解しているのか……!?」
ここで俺はわざとらしく溜息を吐いた。そして視線にやや殺気を込めながら口を開く。
「逆だ」
「え……」
「お前たち冥狼が。誰に喧嘩を売ったのか、理解しているのか……!?」
俺はガーラッドの真横に立つ。
「黒狼会は売られた喧嘩は全て買う。舐めた真似をしてきた奴らは殺す。そして一般人には迷惑をかけない様に気を付ける。実にシンプルな組織だ。そんな俺たちに、冥狼は舐めた真似をしてきやがった訳だ」
得体の知れない、でかい組織だから言う事を聞く。何かされても泣き寝入りする。黒狼会はそんな組織じゃない。
それに舐められたら終わりだという習慣が身についている俺たちからすれば、耐えがたい事だ。
ここからどうガーラッドの口を割らせようか。そう考えていたところにフィンたちが地下室に入ってきた。
「戻ったか」
「ヴェルトも! 早かったねー!」
全員そろっているな。朝から良い運動ができたためか、誰もが明るい顔をしていた。
「みんなのその顔を見るに……」
「おう。雷弓真の幹部連中は全員残らず始末してきたぜ」
「あとはそこの坊主を消せば、雷弓真の頭は完全に潰れるのぅ」
「派手に黒狼会参上! て言ってきたけど。良かったんだよね?」
「ああ。どちらにせよ冥狼も潰すつもりだったんだ。宣戦布告が多少早まったくらいだ、別に問題はねぇよ」
だが準備は必要だ。俺たちの会話を聞いたガーラッドは、今の自分の状況を正しく理解した様子だった。
「ほ……本当に……! 他の奴らが……!?」
「ええ。誰も生かしてはいません。あなたたちは誰に喧嘩を売ったのか。理解できましたか?」
幹部が全員ごりごりの武闘派だとこうなるな。それに結論はいつも暴力で解決だ。その暴力で解決できるフィールドを整えるのが手間なのだが。
「フィン。ガーラッドはあの雷弓真のボスだけあって、中々胆が座っていてなぁ。俺も頑張ってみたんだが、一向に口を割らないんだ」
「それはそれは! やりがいがありそうだねぇ!」
フィンはうきうきした足取りで拷問道具を手に取り始める。
「この間の暗殺者は結構長持ちした方だったけど。どっちがより長持ちするか、競争だね!」
「終わった頃には細かかったからな。捨てに行きやすかったが」
ガーラッドは自分の座る椅子の下に敷かれている布地に目を移す。よく見るとおびただしい量の血痕が残っていた。
今まで柄だと思っていたものの正体に気付き、両目を大きく見開く。フィンはそんなガーラッドに向かって、拷問機具を両手に持って近づく。
「あんまり早く口を割られても、楽しみが減ってつまらないんだけどぉ。一応決まりだから、始める前に聞いておくね? 何か話す気はあるぅ?」
心底楽しそうな声で問いかける。その声色には、言葉とは裏腹に素直に口を割ってほしくないというフィンの希望が透けていた。
そしてその事を正しく理解したガーラッドは、両目から涙を流しながら口を開く。
「た……たのむ……! 助けてくれ……!」
「………あれ?」
「冥狼のことについて知っている事は話す! だがあんたらに話すと、俺も冥狼に命を狙われる……! 話す代わりに俺の安全も保障して欲しい……!」
ガーラッドは小便を漏らしながら嘆願する。その顔からはボスの風格が失われていた。
「ええぇえ!? よく考えて!? お仲間の幹部も殺されているんだよ? ここは私たちにくたばれ! て言いながら、歯を食いしばって拷問に耐えるところなんじゃないの!?」
何故かフィンが焦った様に、口を割るなと説得し始める。いや、意味がわからん。
だがここでガーラッドの心を折れたのは、黒狼会にとって悪くない話だ。
「条件次第では、落ち着くまでここで暮らしてもいいぜ?」
「ほ、本当か!?」
俺は残念がるフィンを手で制しながら口を開く。
「一つ、雷弓真の幹部が行っていた商売は全て黒狼会に引き継がせる。二つ、お前は風俗経営部門の長として黒狼会の下部組織に加わる。三つ、俺たちには絶対服従だ」
「………は?」
「ああ、それと。もし今回の幹部死亡事件について騎士団から何か聞かれても、黒狼会とは一切関係ないと否定しておけよ」
早い話、黒狼会による雷弓真の乗っ取りだ。
ついでにガーラッド自身を黒狼会の犬として飼い、何かあれば切り捨てられる様に、あくまで下部組織の立場にしておく。
「ちょ……! ちょっと待ってくれ! それは……!」
「そう、雷弓真という商会の併合さ。良かったな。他の幹部連中がいない今、お前の方針に逆らう奴はいない」
「無理に決まっている……! 幹部が残っていなくても、他の部下たちが何人いると思ってるんだ! 反対がでるに決まっている!」
俺は再び溜息を吐くと、しゃがみこんでガーラッドと視線を合わせる。
「もうそういう段階の話じゃねぇんだよ。いいからやれ。反対する奴は全員追い出せ。安心しろ、仮に部下が一人もいなくなっても、黒狼会としては問題ない」
むしろその方が、人を送り込むこちらとしてもやりやすい。
ガーラッドの幹部連中がやっていた商いはいくつかにまとめ、元水迅断の幹部たちにさせたら良いだろう。
「で、でも……」
「ねぇヴェルト。もう少し素直に言う事を聞く様にした方が良いんじゃないの?」
フィンが何かを期待する様に、拷問機具を片手に瞳をキラキラと輝かせる。それを見てガーラッドの表情は硬直した。
「ほら、お前があんまり無理無理言うからフィンのやる気に火が付いちまったじゃねぇか。俺はこう見えてもお前に気を使ってるんだぜ? 言うこと聞くうちは最低限お前の身を守ってやるから安心しろって」
それにガーラッド自身に価値があるのは事実だ。冥狼の情報を知っているだけではない、今後の扱い方次第では冥狼をおびき寄せる餌としても利用価値がある。
それに雷弓真はあくまで平和的な話し合いで黒狼会の傘下に降ったのだと、アピールさせることもできる。信じる者がどれくらいいるかはさておき、建前は大事だ。
そうしてガーラッドは、静かに首を振ったのだった。
■
それから数日後。雷弓真が黒狼会の傘下に入ったという話は、帝都の裏社会にすぐに広まった。
これで黒狼会の規模は、冥狼と影狼を除いたトップグループに躍り出たことになる。そして当然、裏社会だけではなく多くの商人や貴族の耳にもこの事実は伝わった。
「黒狼会か……。まさかこれほど短期間でここまでの勢力になるとはな」
「はい。しかし冥狼の下部組織を奪い取る形になったのです。近く裏組織同士の衝突が本格化するのではと騎士団では警戒しています」
正剣騎士団団長のクインシュバインは、騎士総代であるディナルドと話をしていた。話題に上っているのは黒狼会だ。
ディナルドは資料の束を手に取ると、それをクインシュバインに見せた。
「……これは?」
「その黒狼会からの土産だ。わざわざ商人経由で貴族を使って、私にまで届けてきた」
クインシュバインは手渡された資料に目を通す。そこには雷弓真のボスであるガーラッドが、冥狼から無理やり閃刺鉄鷲の暗殺者を押し付けられたという記述があった。
他にも雷弓真がこれまで冥狼の指示に従って無理やりやらされていたと言う商売の話も記載されている。
「これは……」
「さすがに呆れたがな。ここまであからさまにやってこられると、見逃してやるかという気にもなる」
要するに、雷弓真がこれまでやっていた違法行為は全て冥狼のせいだと責任転嫁をしているのだ。
ガーラッドはそれが嫌で冥狼の下部組織を辞める事を決意、黒狼会に所属する決意をした……というシナリオだ。
黒狼会はそれを受け入れ、違法行為にあたる商いは全て辞めさせた。同時に、ガーラッドから得た冥狼の情報を流してくる。
特に閃刺鉄鷲の情報は、騎士団としても欲しかったものだ。
「騎士団に情報を売ることで、これまでの悪行を見過ごせと言ってきているのですか……」
「実際、黒狼会は問題はあれど、違法行為は行っていないからな。傘下になった雷弓真の身を綺麗にしておきたかったのだろう」
ここで冥狼の後ろ盾を失った雷弓真をしょっぴかずに見逃せば、黒狼会傘下の新体制を暗に認めることになる。
そして見逃させるに足る情報提供を、騎士総代であるディナルドに直接行ってきた。クインシュバインは、確かに呆れる行為だが、同時になかなかできる事ではないと考える。
「しかし黒狼会が無視できない組織になったのは確かです。いかがされますか?」
「……どうにもできん。黒狼会は庶民や商人からの受けも良い。何でも掟の一つに、一般庶民に迷惑をかけない、なるべく助けるといった項目があるらしくてな。別に反帝国組織という訳でもないし、騎士団として介入できる余地はない」
それに裏組織同士の潰し合いはメリットもある。結果として冥狼や影狼の傘下に入っていない黒狼会が台頭するのは、騎士団にとって全くの損とも言い難い。
何よりこうして騎士団に恩を売り、敵対意識はないと伝えてきているのだ。ディナルドからすれば、利用価値こそ高いが邪魔にはならないという認識だった。
しかしクインシュバインはそういう意味で質問をした訳ではない。
「私が言っているのは、先日ヴィローラ皇女殿下が遭遇したという怪物についてです」
「……ああ、それにも黒狼会が関わっている可能性が高いのだったな」
ヴィローラたちが見た怪物の情報は、すぐさま騎士団にも共有された。現場に怪物の死体は見つからなかったものの、戦闘が行われた痕跡は残っており、激しい争いが繰り広げられたことは把握できていた。
そして人知を超えた力を持つ怪物を、一人の黒い甲冑を纏った男が仕留めたことも、もちろん報告として上がっていた。
「怪物になる前の暗殺者は、黒狼会という名を出していたそうですから」
「聞いている。そして黒狼会のボスであるヴェルトは、戦闘時には全身を黒い甲冑で身を固めるという噂もな」
ヴィローラたちが会った人物とヴェルトが同一人物である確証はない。しかし限りなく黒に近いグレーであった。
「怪物の話は息子からも聞いています。そして直接相対した黒騎士の力も」
「だが黒騎士は終始謙虚な姿勢だったと聞く。そう言えば以前貴族街で殿下をお救いした少女も一緒にいたという話だったな」
「もしその少女が黒狼会の所属であれば。彼の組織は秘密裏に貴族街に入れる手段を持っているという事になります。今は利用価値が高くても、いつ帝国に仇名す存在となるか分かりません」
クインシュバインの懸念は納得のいくものであった。
一方で、ディナルドとしてはこの帝都の裏社会に新たに吹いた風を利用し、影狼や冥狼、果てはそれらの組織と繋がりのある貴族を炙り出したいとも考えていた。そしてそれらを加味した上で。
「……分かった。直接ヴェルトと会い、その人となりを見極めてみるとしよう」
「!! 総代自ら、平民と……!?」
「誰が私が会うと言った。会うのはお前だ、クインシュバイン」
位の高い貴族が、直接平民と言葉を交わす機会はそうはない。クインシュバイン自身も高い貴族位を持つが、ディナルドほどではなかった。
「お前が見て問題のなさそうな人物であれば、現状維持だ。権力にへりくだるタイプであれば、これからも騎士団のために働けば、それなりに良い目が見られると匂わせるといいだろう。だが問題のある人物だと判断すれば」
「貴族街に侵入した少女を皮切りに罪を問い、牢に繋げましょう」
「とはいえ、ヴィローラ皇女殿下はその少女に恩を感じておられる。厳罰に処する事は難しいだろうがな」
長い改革を経て、やっと騎士団から熱心な派閥所属者を追い出すことができたのだ。
ディナルドとしては、どこの貴族の影響も受けていない黒狼会を有効活用したいところだと考えていた。
そして屋敷に入り込んでいた暗殺者同様、地下室で裸にして椅子に括り付ける。
俺は黒曜腕駆を解除すると、用意していた冷水をガーラッドにぶっかけた。
「………はっ!?」
「気付いたか」
ガーラッドは周囲を見渡す。だが裸で縛られているという状況を理解すると、顔面が蒼白になった。
「な、なにを……」
「暗殺者の一人はな。ここで長時間、えらく可愛がられていたぜ?」
「………っ!!」
ガーラッドの目につく場所には、フィンの拷問道具が並べられている。それを見て何が行われたか、勝手に想像を膨らませるだろう。
「さて。お前には冥狼と例の暗殺者について、知っていることを全て話してもらおうか。運がよければ、五体満足で元の場所に帰れるかもしれないな」
「む……! 無理だ……! そんな事をすれば、俺が冥狼に消されちまう……!」
「じゃあここで消されるだけの事だな」
「ほ、本気か……!? お前、何に喧嘩を売ろうとしているのか理解しているのか……!?」
ここで俺はわざとらしく溜息を吐いた。そして視線にやや殺気を込めながら口を開く。
「逆だ」
「え……」
「お前たち冥狼が。誰に喧嘩を売ったのか、理解しているのか……!?」
俺はガーラッドの真横に立つ。
「黒狼会は売られた喧嘩は全て買う。舐めた真似をしてきた奴らは殺す。そして一般人には迷惑をかけない様に気を付ける。実にシンプルな組織だ。そんな俺たちに、冥狼は舐めた真似をしてきやがった訳だ」
得体の知れない、でかい組織だから言う事を聞く。何かされても泣き寝入りする。黒狼会はそんな組織じゃない。
それに舐められたら終わりだという習慣が身についている俺たちからすれば、耐えがたい事だ。
ここからどうガーラッドの口を割らせようか。そう考えていたところにフィンたちが地下室に入ってきた。
「戻ったか」
「ヴェルトも! 早かったねー!」
全員そろっているな。朝から良い運動ができたためか、誰もが明るい顔をしていた。
「みんなのその顔を見るに……」
「おう。雷弓真の幹部連中は全員残らず始末してきたぜ」
「あとはそこの坊主を消せば、雷弓真の頭は完全に潰れるのぅ」
「派手に黒狼会参上! て言ってきたけど。良かったんだよね?」
「ああ。どちらにせよ冥狼も潰すつもりだったんだ。宣戦布告が多少早まったくらいだ、別に問題はねぇよ」
だが準備は必要だ。俺たちの会話を聞いたガーラッドは、今の自分の状況を正しく理解した様子だった。
「ほ……本当に……! 他の奴らが……!?」
「ええ。誰も生かしてはいません。あなたたちは誰に喧嘩を売ったのか。理解できましたか?」
幹部が全員ごりごりの武闘派だとこうなるな。それに結論はいつも暴力で解決だ。その暴力で解決できるフィールドを整えるのが手間なのだが。
「フィン。ガーラッドはあの雷弓真のボスだけあって、中々胆が座っていてなぁ。俺も頑張ってみたんだが、一向に口を割らないんだ」
「それはそれは! やりがいがありそうだねぇ!」
フィンはうきうきした足取りで拷問道具を手に取り始める。
「この間の暗殺者は結構長持ちした方だったけど。どっちがより長持ちするか、競争だね!」
「終わった頃には細かかったからな。捨てに行きやすかったが」
ガーラッドは自分の座る椅子の下に敷かれている布地に目を移す。よく見るとおびただしい量の血痕が残っていた。
今まで柄だと思っていたものの正体に気付き、両目を大きく見開く。フィンはそんなガーラッドに向かって、拷問機具を両手に持って近づく。
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心底楽しそうな声で問いかける。その声色には、言葉とは裏腹に素直に口を割ってほしくないというフィンの希望が透けていた。
そしてその事を正しく理解したガーラッドは、両目から涙を流しながら口を開く。
「た……たのむ……! 助けてくれ……!」
「………あれ?」
「冥狼のことについて知っている事は話す! だがあんたらに話すと、俺も冥狼に命を狙われる……! 話す代わりに俺の安全も保障して欲しい……!」
ガーラッドは小便を漏らしながら嘆願する。その顔からはボスの風格が失われていた。
「ええぇえ!? よく考えて!? お仲間の幹部も殺されているんだよ? ここは私たちにくたばれ! て言いながら、歯を食いしばって拷問に耐えるところなんじゃないの!?」
何故かフィンが焦った様に、口を割るなと説得し始める。いや、意味がわからん。
だがここでガーラッドの心を折れたのは、黒狼会にとって悪くない話だ。
「条件次第では、落ち着くまでここで暮らしてもいいぜ?」
「ほ、本当か!?」
俺は残念がるフィンを手で制しながら口を開く。
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「………は?」
「ああ、それと。もし今回の幹部死亡事件について騎士団から何か聞かれても、黒狼会とは一切関係ないと否定しておけよ」
早い話、黒狼会による雷弓真の乗っ取りだ。
ついでにガーラッド自身を黒狼会の犬として飼い、何かあれば切り捨てられる様に、あくまで下部組織の立場にしておく。
「ちょ……! ちょっと待ってくれ! それは……!」
「そう、雷弓真という商会の併合さ。良かったな。他の幹部連中がいない今、お前の方針に逆らう奴はいない」
「無理に決まっている……! 幹部が残っていなくても、他の部下たちが何人いると思ってるんだ! 反対がでるに決まっている!」
俺は再び溜息を吐くと、しゃがみこんでガーラッドと視線を合わせる。
「もうそういう段階の話じゃねぇんだよ。いいからやれ。反対する奴は全員追い出せ。安心しろ、仮に部下が一人もいなくなっても、黒狼会としては問題ない」
むしろその方が、人を送り込むこちらとしてもやりやすい。
ガーラッドの幹部連中がやっていた商いはいくつかにまとめ、元水迅断の幹部たちにさせたら良いだろう。
「で、でも……」
「ねぇヴェルト。もう少し素直に言う事を聞く様にした方が良いんじゃないの?」
フィンが何かを期待する様に、拷問機具を片手に瞳をキラキラと輝かせる。それを見てガーラッドの表情は硬直した。
「ほら、お前があんまり無理無理言うからフィンのやる気に火が付いちまったじゃねぇか。俺はこう見えてもお前に気を使ってるんだぜ? 言うこと聞くうちは最低限お前の身を守ってやるから安心しろって」
それにガーラッド自身に価値があるのは事実だ。冥狼の情報を知っているだけではない、今後の扱い方次第では冥狼をおびき寄せる餌としても利用価値がある。
それに雷弓真はあくまで平和的な話し合いで黒狼会の傘下に降ったのだと、アピールさせることもできる。信じる者がどれくらいいるかはさておき、建前は大事だ。
そうしてガーラッドは、静かに首を振ったのだった。
■
それから数日後。雷弓真が黒狼会の傘下に入ったという話は、帝都の裏社会にすぐに広まった。
これで黒狼会の規模は、冥狼と影狼を除いたトップグループに躍り出たことになる。そして当然、裏社会だけではなく多くの商人や貴族の耳にもこの事実は伝わった。
「黒狼会か……。まさかこれほど短期間でここまでの勢力になるとはな」
「はい。しかし冥狼の下部組織を奪い取る形になったのです。近く裏組織同士の衝突が本格化するのではと騎士団では警戒しています」
正剣騎士団団長のクインシュバインは、騎士総代であるディナルドと話をしていた。話題に上っているのは黒狼会だ。
ディナルドは資料の束を手に取ると、それをクインシュバインに見せた。
「……これは?」
「その黒狼会からの土産だ。わざわざ商人経由で貴族を使って、私にまで届けてきた」
クインシュバインは手渡された資料に目を通す。そこには雷弓真のボスであるガーラッドが、冥狼から無理やり閃刺鉄鷲の暗殺者を押し付けられたという記述があった。
他にも雷弓真がこれまで冥狼の指示に従って無理やりやらされていたと言う商売の話も記載されている。
「これは……」
「さすがに呆れたがな。ここまであからさまにやってこられると、見逃してやるかという気にもなる」
要するに、雷弓真がこれまでやっていた違法行為は全て冥狼のせいだと責任転嫁をしているのだ。
ガーラッドはそれが嫌で冥狼の下部組織を辞める事を決意、黒狼会に所属する決意をした……というシナリオだ。
黒狼会はそれを受け入れ、違法行為にあたる商いは全て辞めさせた。同時に、ガーラッドから得た冥狼の情報を流してくる。
特に閃刺鉄鷲の情報は、騎士団としても欲しかったものだ。
「騎士団に情報を売ることで、これまでの悪行を見過ごせと言ってきているのですか……」
「実際、黒狼会は問題はあれど、違法行為は行っていないからな。傘下になった雷弓真の身を綺麗にしておきたかったのだろう」
ここで冥狼の後ろ盾を失った雷弓真をしょっぴかずに見逃せば、黒狼会傘下の新体制を暗に認めることになる。
そして見逃させるに足る情報提供を、騎士総代であるディナルドに直接行ってきた。クインシュバインは、確かに呆れる行為だが、同時になかなかできる事ではないと考える。
「しかし黒狼会が無視できない組織になったのは確かです。いかがされますか?」
「……どうにもできん。黒狼会は庶民や商人からの受けも良い。何でも掟の一つに、一般庶民に迷惑をかけない、なるべく助けるといった項目があるらしくてな。別に反帝国組織という訳でもないし、騎士団として介入できる余地はない」
それに裏組織同士の潰し合いはメリットもある。結果として冥狼や影狼の傘下に入っていない黒狼会が台頭するのは、騎士団にとって全くの損とも言い難い。
何よりこうして騎士団に恩を売り、敵対意識はないと伝えてきているのだ。ディナルドからすれば、利用価値こそ高いが邪魔にはならないという認識だった。
しかしクインシュバインはそういう意味で質問をした訳ではない。
「私が言っているのは、先日ヴィローラ皇女殿下が遭遇したという怪物についてです」
「……ああ、それにも黒狼会が関わっている可能性が高いのだったな」
ヴィローラたちが見た怪物の情報は、すぐさま騎士団にも共有された。現場に怪物の死体は見つからなかったものの、戦闘が行われた痕跡は残っており、激しい争いが繰り広げられたことは把握できていた。
そして人知を超えた力を持つ怪物を、一人の黒い甲冑を纏った男が仕留めたことも、もちろん報告として上がっていた。
「怪物になる前の暗殺者は、黒狼会という名を出していたそうですから」
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「怪物の話は息子からも聞いています。そして直接相対した黒騎士の力も」
「だが黒騎士は終始謙虚な姿勢だったと聞く。そう言えば以前貴族街で殿下をお救いした少女も一緒にいたという話だったな」
「もしその少女が黒狼会の所属であれば。彼の組織は秘密裏に貴族街に入れる手段を持っているという事になります。今は利用価値が高くても、いつ帝国に仇名す存在となるか分かりません」
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一方で、ディナルドとしてはこの帝都の裏社会に新たに吹いた風を利用し、影狼や冥狼、果てはそれらの組織と繋がりのある貴族を炙り出したいとも考えていた。そしてそれらを加味した上で。
「……分かった。直接ヴェルトと会い、その人となりを見極めてみるとしよう」
「!! 総代自ら、平民と……!?」
「誰が私が会うと言った。会うのはお前だ、クインシュバイン」
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「お前が見て問題のなさそうな人物であれば、現状維持だ。権力にへりくだるタイプであれば、これからも騎士団のために働けば、それなりに良い目が見られると匂わせるといいだろう。だが問題のある人物だと判断すれば」
「貴族街に侵入した少女を皮切りに罪を問い、牢に繋げましょう」
「とはいえ、ヴィローラ皇女殿下はその少女に恩を感じておられる。厳罰に処する事は難しいだろうがな」
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ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
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