黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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赤い瞳のアデライア

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「で? 了承してくれたのか?」

「ああ。ただ根回しは必要だから、時期は約束できないと言われたがな」

 その日の夜。俺はみんなを集めて会議を開いていた。内容はエルヴァールの依頼についてだ。全員おおよそ賛成といったところだった。

「まぁ良いんじゃないー? 団長のお墓参りもできそうだし」

「じゃな。それに大貴族の後ろ盾を得て冥狼と事を構えられる訳じゃろ? 向こうも貴族の後ろ盾がある訳じゃし、そこの土俵で対等に立っておくのはええと思うがのぅ」

「資金面でも協力が得られそうですね。ここで恩を売っておくのは、黒狼会にとっても悪くないと思います」

 リスク相応のメリットはある。結論が出たところで、具体的な手段の話になる。

「あとはどうやって冥狼を見つけるかだな」

「それと大貴族様の護衛を誰がどう担当するかも考えないと」
 
 いくつか案はあるが、冥狼については全員意見が一致した。

「やっぱりガーラッドくんに頑張ってもらうか」

「じゃの。あいつをそれっぽいところで歩かせれば、向こうから寄ってくるじゃろ」

 ガーラッドが冥狼の情報を売った事実は既に広まっている。冥狼としては、リスクを踏んででも裏切り者の口を封じなければ、他の組織に示しがつかない。

 今は屋敷でかくまっているが、外に出せばたちまち冥狼の指示を受けたヒットマンが突っ込んでくるはずだ。

「エルヴァールの護衛だが。こちらは日中はロイ一人であたってもらおうかと考えている」

「え……僕一人でですか!?」

「ああ。大貴族相手にほどほどに失礼のない対応ができるのは、この中だとロイだろ」

 他の面々が問題だと言う訳ではないが、ロイはだいたいの事はそつなくこなせるしな。それに俺の代行であるという看板も役に立つ。

「夜は俺と、もう一人空いている奴で対応する。しばらくはそれで様子を見よう。ガーラッドに関しては、明日からなるべく同じルートを歩かせるんだ」

「ついでに他の組織に出向かせて、雷弓真の傘下に入れー! て叫ぶように言っておこうよ」

「……任せるけど、ちゃんと守ってやれよ?」

 俺たちの間でも方針は決まり、エルヴァールには黒狼会として協力する旨を伝える。そして次の日から、俺たちは対冥狼に向けて行動を開始したのだった。
 



 
 ヴィローラは皇宮の廊下を歩いていた。隣には護衛騎士のジークリットが付いている。

「そう……。私を助けてくれた少女は、おそらく黒狼会のフィンさんという方ですのね」

「確証はありませんが。ですが黒狼会のボスと、路地裏で怪物と戦った黒騎士には共通点がありますので。可能性は高いかと」

 ヴィローラは元々ジークリットに裏組織関連の情報を集めさせていた。そして路地裏で怪物に変異した暗殺者が、黒狼会と呟いた事が気になっていたのだ。

 その線で調べさせていたが、ようやくフィンの存在を特定するに至った。

「できれば皇宮に呼んで、直接お礼がしたいのですけど……」

「それは無理ですね」

「分かっていますわ」

 ヴィローラとて平民を皇宮に招く事は不可能だと理解している。何より自分にはそこまでの権限もない。だがこのまま満足にお礼を言えないのも憚られた。

「居場所は分かっているのよね?」

「ええ、まぁ。……言っておきますが、お連れする事はできませんよ?」

「……仕方ありませんわ。なら差出人は路地裏の乙女で、果物の盛り合わせを届ける様に手配いたしましょう」

 仮にも相手は裏組織だ。ヴィローラはさすがに、自分が出向く事で皇族との関係を直接匂わせる事は避けた。

 下手に貴族の間で、皇女と裏組織が繋がっているなど噂になってはたまらない。

「あ……」

 二人はしばらく長い廊下を歩いていたが、正面から二人の人物が歩いてくるのを確認した。一人はよく皇宮に出入りしている、ハイラント派の貴族だ。そしてもう一人は。

「アデライア様……」

 もう一人は、年の頃は10代半ばに届くかどうかといった少女であった。

 名はアデライア・ゼルダンシア。母は異なるが、ヴィローラの異母妹にあたる。

 アデライアは不思議な雰囲気を持つ少女だった。少女らしからぬ見た目の美しさに反して、どこか儚げな印象を相手に持たせる。性格はやや人見知りなところもあり、口数も多いという訳ではない。

 そんなアデライアは数多くいる皇女の中において、最近ある一点で名が知られる様になった少女だった。

「アデライア、ご機嫌麗しゅう。部屋から出ているなんて珍しいですわね」

「……ヴィローラ姉様。その……」

 アデライアは伏し目がちでヴィローラとは目線を合わせない。隣に立つ貴族が失礼と口を挟んだ。

「アデライア様はお疲れなのです。ヴィローラ様、申し訳ございませんが……」

「その様ですわね。お引止めしてすみません。……またね、アデライア」

 簡単なやり取りのみを終え、アデライアたちは去っていく。距離が十分離れたところでジークリットは口を開いた。

「アデライア様の眼。久しぶりに拝見いたしました」

「昔は珍しいものでもなかったらしいのですけど。あのシャノーラ様も赤い眼をお持ちだったと言われていますし」

 アデライアは皇族に久しぶりに現れた赤い眼の姫として知られていた。幻魔歴の時代では、大幻霊石の巫女たる資質の一つに挙げられていた特徴である。

 だが大幻霊石の無い今の時代において、その眼は特に重要視されていなかった。
 
 しかし珍しさはあるため、ある種の見世物の様な扱いを受けている事を、ヴィローラは知っていた。おそらく今も、どこかの貴族に見られていたのだろう。

「新鋼歴が始まった頃はまだ赤い眼の皇族はいたそうですけど。魔法を使える者がいなくなると同時に、赤い眼の姫は生まれなくなったと記録にはございますわね。……もしかして今の時代にアデライアが赤い眼を発現させたという事は。どこかに魔法使いも生まれているのではなくて!?」

「……大幻霊石の祝福はもう存在しません。魔法使いは未来永劫生まれませんよ」

「もう! 少しくらい夢を見てもいいじゃない!」

「それにアデライア様は生まれもっての赤眼持ちだった訳ではありません。姫様もご存じでしょう」

 アデライアの眼が赤くなったのは、数ヶ月前の話だ。その時は皇宮中が大騒ぎになった。

 幸いアデライア自身の視力に変化はなく、幻魔歴時代は珍しくなかった事もあり、今では見世物にされているくらいだ。

「でもアデライア、以前よりも部屋から出なくなったし。医師から検査と称して、血も抜かれているとも聞きます。その上、赤い眼を見たいという貴族たちから見世物の様に扱われて……。私、アデライアが不憫でなりませんわ」

「正剣騎士団のクインシュバイン様も強く異を唱えておられましたね。いずれにせよアデライア様の事は私も気になります」

 大幻霊石の無い時代に、突如として生まれた赤眼の姫。

 しかし巫女として魔法の祝福を授ける事ができる訳でもないので、ありがたがられる事も、皇族の権威を示す事も特になかった。

「…………」

 ヴィローラにとってアデライアは、最も年齢の近い異母妹にあたる。これまでも何度か話した事もある。

 元々皇女の中でも一際美しいと称される見た目もあり、注目を集めている少女だった。

 そして今はその美しさに加え、赤い眼という珍しさも加わった。そんなアデライアは以前よりもより注目される事になっただろう。

(アデライアの性格を考えると、とても良い事とは思えませんが……)

 アデライアのやや人見知りな性格により拍車がかかるのではないか。ヴィローラはそんな心配をしていた。




 
「音楽祭?」

「はい。ルングーザ家の当主が主催で企画したイベントですね」

 自室に戻ったヴィローラは、側仕えのシェリフィアと会話を楽しんでいた。

 シェリフィアはリーンハルトの従妹、クインシュバインの妹であるメルディアナの娘になる。

 今はヴィローラの側仕えとして皇宮で働いていた。二人は年齢が近い事もあり、仲が良くなるのも早かった。

「こちらが資料です」

「どれどれ……。なかなかお金がかかっていますわね……」

「はい。貴族街の外部会場貸し切りで、多くの皇族の皆様を招いてのイベントですから。当日の警備体制も考えると、相当な人員が動く事になるかと」

 ヴィローラはどこか呆れる様に資料に目を通していた。

 別に清貧を良しとする気質でもないが、それでもこのイベントは近年まれにみる規模だと思える。

「グローウォッチ音楽団……有名な楽団なのかしら?」

「どうやら外国の音楽団らしいです。帝国では実績がありませんが、わざわざ音楽祭で帝都に呼ぶくらいですからね。帝国にはない楽器の演奏を含め、珍しいものを見せてくれるのではないでしょうか」

 そうでしょうね、とヴィローラは考えた。それに彼女の父、現皇帝はこうした催しが好きな方だ。

 軍事関連に対して予算の紐は固いが、こういう文化面に対しては緩いという事を、ヴィローラはよく知っていた。

「でも海外の音楽団が帝都までやってくるなんて、数年前までは考えられない事でしたわ。それだけ海外情勢も安定したという事なんでしょうね」

「はい。それにミドルテア派が中心になって、商人の行き来も含めた通商条約を結んだ成果だとも言われている様です」

「ミドルテア派……」

 ヴィローラとしては複雑な心境だ。戦争景気とは違うアプローチで、帝国の経済活動を刺激するのは素晴らしいとは思う。

 一方で自身とルズマリアは、貴族院の帰り道に暗殺者の襲撃を受けている。

 それ以前にもハイラント派の貴族が暗殺者に殺されている事件もあったため、貴族の間ではミドルテア派の差し金だという声があった。

「姫様?」

「いえ……」

 とはいえ、証拠がある訳ではない。それにヴィローラ自身、ミドルテア家の当主であるエルヴァールとは話した事があるが、とても強硬な手段に訴える人物の様には見えなかった。

 結局暗殺者騒動はまだ解決していないため、どういう感情で向き合えばいいのか心の整理がついていないのだ。

「……あら」

「いかがされました?」

「音楽祭当日ですけど。アデライアも参加予定リストに名が載っていますわね。護衛騎士は……まぁ! ディアノーラですのね!」

「ああ……以前帝都に出た時に姫様を護衛してくださった、あのディアノーラ様ですね。……実は私。ディアノーラ様のファンなんです」

「そうでしたの? ……でも確かに、ディアノーラは貴族院でも女性人気が高かったですわ。彼女、凛々しくてかっこいいですものね」

 貴族院最強と言われ、身長も高いディアノーラは実際人気が高かった。

 ヴィローラも同じ女性ながらかっこいいと感じている。特に路地裏で怪物相手にひるまず立ち向かった時は、強くそう感じたものだ。

「当日は姫様とお席も近いですし、間近でディアノーラ様を見られると思うと私も嬉しいです」

「ふふ。そうですわね。……そうだわ、とびっきり美味しいお茶とお菓子も持っていきましょう! せっかくですし、アデライアと一緒に楽しみたいわ!」

「いいですね。当日は私がお茶を淹れさせていただきます。……ふふふ。ディアノーラ様に私のお茶を飲んでいただける……ふふふ……」

 シェリフィアの反応を見たヴィローラは、これはガチっぽいですわねと心中で呟いた。
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