黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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動き出した結社 ガードンとアックスの戦い

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 帝都に獣が現れる様になって8日目。ダンタリウスたちが黒狼会にもたらした情報は、様々な箇所で事態を大きく動かした。

 だが完璧に対応するには、いささか時が遅かった。ルングーザ領の軍は既に帝都の側まで来ており、先遣隊は帝都の中まで入り込んでいる。

 ディナルドを含め、一部の者たちは方々に手を回し始めていたが、そんな中でも獣は今日も帝都にその姿を見せていた。

 ガードンは獣の頭蓋にメイスの直撃をくらわせる。たちまち獣はその場で崩れ落ちた。

「あれが……」

「黒狼会の幹部。鋼のガードンか……」

 遠巻きに見ていたのは、影狼に所属する者たちだった。この連日、ガードンの戦いぶりを見ていた者たちでもある。

 ガードンの魔法は防御力に特化した身体能力の向上。何度か獣に直接噛みつかれたり、爪撃を受けていたが、その肉体に傷一つ付いていない事からついた名だ。 

「ふん……」

 8日目ともなれば流石に慣れたもので、ガードンは獣を仕留めた事について特に何の感慨も持っていなかった。

 だがその日はいつもとは違った。獣の影響で人通りが少なくなったその場に、1人の男がガードンの前に現れたのだ。 

「お前は……」

「久しぶりだナァ、黒狼会のガードン。いや、群狼武風と言った方がいいかぁ!?」

 前に一度戦った男だった。かつてフィンが冥狼の運営していた地下闘技場から出て来た時、追手として迫っていた男だ。

 姿を消したフィンの気配を捉えきる点といい、油断のできない相手だった。

「改めて名乗らせてもらうぜぇ。俺は結社エル=グナーデの閃罰者。餓拳のグナトスだ」

 閃罰者。リリアーナから聞かされた名だった。

 エルクォーツの力を得て常人にはない力に目覚めた、エル=グナーデの上級戦闘員。だが聞き逃せない言葉があった。

「……俺を群狼武風と言ったか?」

「おう、言ったとも。驚いたぜぇ。まさか本物の魔法を使う奴が、この時代に現れるなんてナァ。ナァ教えてくれよ。魔法を使うって、どんな気持ちなんだ?」

「…………」

 どこからか自分たちの事がもれたか。可能性を考えるが、途中でそれは自分の仕事ではないと思いなおす。

 こういうのはヴェルトやロイの得意分野だ。自分はただ目の前の敵を粉砕するのみ。

「いいねぇ! やる気になってくれてうれしいぜぇ! だが連日の獣の対応に追われて、碌に休めていないんじゃないかぁ!? 疲れがもろに顔に出ているナァ!」

「ふ……」

 やっと餌で獲物が釣れたか。ガードンからすればそういう気持ちだ。ガードンは静かにメイスを構える。

「みんなに良い土産ができたな」

「はっはぁ! さすが、本物の魔法使い様は強気だナァ!? だが残念、今ごろ他にも閃罰者が襲撃を仕掛けているところよ!」

「……なに」

「この数日、どこの地区に誰が現れる可能性が最も高いか、様子を見ていたのさ! 今頃各地に現れた黒狼会幹部を仕留めるため、戦いが始まっている頃だと思うぜぇ! 直接現場に出ていたのはお前とロイ、それにアックスとじじいだった! フィンとボスのヴェルトは屋敷だな!? 安心しろ、そっちにも相応の者が向かっているからよぉ!」

 グナトスの言葉で、ガードンは大きく事態が動いている事を実感する。

 そしてもし疲労の色を見せた自分たちの前に、結社の刺客が姿を見せた場合。相手の計画は大詰めに向かっている事を、ヴェルトから聞かされていた。

「……いよいよ皇女にも仕掛けるか」

「ほぉう!? 流石は伝説の傭兵様だ、よく分かってんじゃねぇか! 俺たちの役割はここでお前たちイレギュラー要素を完封し! 総裁の支援をすることさ!」

 やはり結社はアデライアの事を微塵も諦めていなかった。

 ヴィンチェスターを始めとする貴族との繋がりが確定している以上、今の時間だと貴族院にいる事も知られているだろう。そこまで考え、ガードンは不適に笑った。

「なら集合の手間が省けて丁度いい」

「……あぁん!?」

「みんなお前たちを倒したら貴族院に向かうだろうからな。最低1人の皇族の守護は黒狼会の掟。そして売られた喧嘩は全て買うのも掟だ。……お前たちはこの帝都でやり過ぎた。逃げられると思うな」

「なぁに調子にのってやがんだ、疲れ果てたおっさんがよぉ!」

 グナトスは猛スピードでガードンへと接近し、その拳を思いきり突き立てる。だが拳には鋼を叩いたかの様な手ごたえが返ってきた。

「…………っ!?」

「俺の……俺たちの魔法は、日々成長する。エルクォーツとやらの力、見せてもらおうか……!」




 
 アックスは昔を思い出していた。

 群狼武風に入団する直前……アックスはそれまで所属していた村の自警団が、賊たちの襲撃によって壊滅した過去を持つ。その賊は職にあぶれた騎士や傭兵崩れたちだった。

「……ふぅ」

 目を閉じれば今でも思い出せる。賊は村を蹂躙し、倒れ込むアックスの目の前で中の良かった隣人たちを玩具の様になぶり殺しにしていった。

 賊はその後、しばらく村を拠点にしていたが、ある日領主に雇われた群狼武風の手によって解放される。だが村の生き残りは数えるほどになっていた。

 あの時ほどの自分の無力さを憎んだことはない。当初は群狼武風も傭兵団という事もあり、賊と何が違うのかと思っていた。

 だが同世代のヴェルトや、ローガの気質に当てられ。紆余曲折はあったが、自身も群狼武風の一員としてその力を振るう様になっていく。

 ローガは戦火に巻き込まれる民と、その状況を作り出す乱世を許さない。アックスはいつしか、かつて自警団に居た時に抱いていた理想を、群狼武風の中に見る様になっていた。

 もっとも大人になったアックスは、現実と理想にある程度折り合いをつけられる男に成長したのだが。

「ま、だからよ。俺も得た力を得意気になって振るう奴の気持ちは理解できるつもりだ。気持ちいいもんなぁ。それで飯食っていた事を考えると、やっぱり俺って外道なんだなと思うわけよ。……んで、てめぇはよ。なにしてんだ?」

「ふははは! 少々うるさかったのでな! 少し黙ってもらっただけよ!」

 アックスの前には、かつてテンブルク領で対峙した男……火閃のガディが立っていた。

 いつぞやと同じく、大型の槍を持っている。そしてその側には、血を流して倒れる夫婦と、怯える子供が座り込んでいた。

「……そいつらがお前に何をしたってんだ? ナイフでも隠し持っていたか?」

 アックスの居る場所にも、少し前まで獣が暴れていた。アックスはいつもの様に、黒狼会の宣伝をしつつ獣を仕留める。

 そしてそんな戦いの場に現れた、大型の槍を持つ男。状況を見れば、獣を倒しに来たアックスの応援とも見えるだろう。

 その夫婦は、ガディに「獣はもう黒狼会のアックスさんが倒してくれたよ」と声をかけたに過ぎない。

 だが次の瞬間、ガディは男を槍で殴りつけ。騒いだ女性も拳で殴った。

「テンブルク領では多少遅れはとったがな! 本物の魔法使いといえど、連日の戦いで疲労が溜まっていよう! これは我らが策略、悪く思うな! 策に嵌まった貴様が愚かなのだ!」

「……質問に答えていねぇなぁ。俺は今、すこぶる機嫌が悪い。どうして無関係の夫婦を殴った?」

 アックスの声に怒気はない。静かに……ただ静かに問いかけているだけだ。そしてガディは何でもない様に答える。 

「質問なら最初に答えたであろう? 少々うるさかったから黙ってもらったとな。さぁ黒狼会……いや、群狼武風のアックスよ! いざ尋常に勝……」

 ガディは右手にひんやりとした感触を感じとる。視線を移すと、そこには何かが絡まっていた。

「……糸?」

 よく見ると光の反射で透けて見える。その糸がどこに繋がっているのかと目で追うと、アックスの指先に行き当たる。

「へ……」

「テンブルク領でお前は俺の実力をどう評価したのかは知らんが。お前如きに手の内の全てを見せていたとでも思ってんのか?」

 気付けば左腕と両足にも違和感を覚える。いつの間にかガディは、アックスの指から伸びる糸に、四肢を絡めとられていた。

「う……動けん……! なんだ、これはぁ……!」

「ああ、そうか。お前、一番に逃げ出したから、あの時オーバンがどうやって死んだのかを見ていなかったんだな」

 糸は急に短くなり、ガディはどんどん身体がアックスの方へと引きずられていく。その間激しく抵抗するが、やはり糸を断つ事はできなかった。

 そしていよいよアックスとの距離が至近距離まで近づく。

「く……! ばかな……! ただの糸が、何故……!」

 ガディもこの数日、アックスがどう獣を降したのかを観察していた。

 アックスは局地的に水球を発現させ、獣の呼吸を止めるという戦い方が主だった。

 完全に呼吸を停止状態にはもっていけないが、酸欠で動きが鈍ったところを刃物で仕留める。とてもシンプルな戦い方だ。

 水球にさえ気を付ければ、勝ち目は十分にある。そう考えていた。しかし伸縮自在かつ透明な糸を見て、ある考えが脳裏によぎる。

「まさか……この糸は……!」

「ここまで近づけば、返り血で汚れるのは俺だけだろ。本当は嫌だけどよ。最後にしっかりとその臭ぇ血を浴びてやるから、感謝しながら逝け」

「や……」

 そう言うとアックスは両手の指でクッと引っ張る動作を見せる。

 次の瞬間。糸を構成する水は流動を始め、鋭利な刃物と化す。そして一気にガディの肉体を締め付けた。その全身を衣服もろとも細かく切断していく。

 周囲に大量の血がまき散らされるが、アックスは薄い水の膜を前面に展開し、返り血がつくのを防いだ。

「……やっぱ気が変わったわ。お前の血で服を汚したら、ミュリアちゃんとアリアちゃんが洗ってくれなさそうだからな」

 別に2人とも普段から炊事洗濯はしていないんだが……。そう小さく呟くと、アックスはその足を貴族街へと向けた。
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