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アディリスとの対談
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「三女神……アディリス……?」
またうさんくさい奴が出て来た。もうその手の女はお腹いっぱいだ。
「おうおう、そんな詐欺師を見る様な目で見つめられたら照れるじゃないか!」
アディリスは小さく手を叩く。その瞬間、周囲は何もない真っ暗な空間へと変わった。足場も何もない。宙に浮いている様だ。
「わ……!?」
「ああ、別に落ちたりしないから安心しな。あんたに付随する情報が多かったんでね。ちょっと整理させてもらったよ」
その空間には俺とアディリスの2人しかいなかった。アディリスはオホンと咳払いをする。
「シルヴェラにはボッコボコにやられたねぇ~! でも悔しがる必要はないよ。あいつは魔法を次の段階に進めているからね。無尽蔵に強力な魔法が使えるのさ」
「次の段階……?」
そういや昔、祝福を受けた時にカーライルが言ってたっけか。魔法は極めると魔昂術になるとか何とか。
「あんた……何を知っているんだ?」
「ふっふ。私という存在は波動に取り込まれているからね。おおよそは。……少し昔話に付き合ってよ」
そう言うとアディリスはパチンと指を鳴らす。その瞬間、俺たちの足元には巨大な金属製の船が現れた。
「な……なんだ、このばかでかい鉄の船は……!?」
「これは天翔ける超巨大箱舟ザラーク。昔、ある世界から無数の箱舟が飛び出したんだけどね。その1つさ」
かつてアディリスはシルヴェラと共にこの箱舟に乗って旅をしていたそうだ。そしてある時、俺たちの世界へとたどり着いた。
「でも途中で箱舟内で戦いが起こってねぇ~。ほんと、何やってんだか、て話なんだけど。とにかくいろいろあって、箱舟は私たち3人以外の人は死んでしまったのさ」
そして俺たちの世界に不時着した後、再び人を増やすためにいろいろ努力したそうだ。
寿命を延ばしながら研究をしていたある日、この世界に流れ込む波動の存在を観測する。そこから3人は、波動と生物の進化について、多くの議論を交わしたそうだ。
「この時は魔法文明絶頂期っていうのかな? とにかくいけいけどんどんだったんだけどさぁ。シルヴェラちゃんたら、波動にのめり込むうちに波動に対して盲目的になっちゃってね」
そして3人の中で意見の食い違いが起き、亀裂は広がっていった。三女神はその時、自分たちの勢力を率いて戦争をしていたそうだ。
「結局私たちも戦争してるんだから、世話ないよねぇ~。ここは多いに反省しているところだね!」
「……話が見えないな。結局何が言いたいんだ?」
「うん。私たちは戦争に負けてしまってね。私はこうして実験を兼ねて波動に取り込まれ、もう一人も封印されてしまった。でもシルヴェラも重症を負っていてね。身体はもう延命処置を施せなくなったんだ」
そこからはレクタリアが話していた内容と共通していた。
シルヴェラは波動制御因子を持つ血族……つまり王家の巫女の身体に降臨し続けていたが、途中で休む必要が出てきたらしい。しかしそこで予想外の出来事が起こった。
「多分もう1人が仕込んでいたことだと思うんだけど。シルヴェラが完全に大幻霊石の制御を離れた瞬間を狙って、自壊プログラムが作動したんだよねぇ」
「自壊……?」
「そう。大幻霊石は言ってしまえば扉なのさ。でもその完成度はとても高くてね。扉を壊せば二度と向こうの世界に繋がらない。つまり波動をこの世界にもたらす事ができなくなる。波動の信奉者たるシルヴェラからしたら耐えられないだろうね。まったく、嫌がらせにしては相当だよ」
だがどういう訳か、シルヴェラは現在にその意識を復活させた。レクタリアという少女の肉体に意識を転写させて。
「多分その子が持っていた大幻霊石の破片か何かが、シルヴェラの意識を刻むマスターキー的な枠割を果たしていたんじゃないかなぁ。想像だけどね!」
「で、世界から消えた波動をまた呼び戻そうとしている訳か。だいたいの経緯は分かったが、俺の質問に答えていないな」
「せっかちだなぁ~。せっかく元の世界に戻してあげようというのに」
「なに……! できるのか……!?」
アディリスは俺の反応を見てニンマリと笑う。
「お! その様子だとまだ闘志は尽きていないようだね!」
「当たり前だ……! あいつには落とし前をつけさせねばならん……!」
それに今ごろ、アックスたちが戦っているはずだ。みんなに俺が敗れたと思われたままなんて、格好悪くて我慢できねぇ。
「いいねぇ! 私もシルヴェラは何とかしたいからね。その点は利害が一致している訳だ。さて、ヴェルトくん。元の世界に戻っても、どうやって戦うんだい? お前、ボコボコにされたろ?」
「関係ねぇ……! 足がある限り何度でも立ち上がって、黒狼会を敵に回したことを後悔させてやる……!」
どうやら俺は死んだという訳ではないらしい。ここから元に戻れる手段がある様だ。アディリスは息巻く俺を横目に、溜息を吐く。
「シルヴェラも話していただろ? 魔法というのは名と深い関係がある。お前、昔ヴェルトという名で祝福を受けただろ。でもお前には本来、長ったらしい名前がある」
「……ああ。それが?」
「今からその名を起点に、私が改めて祝福を与えてやる。よろこべ、波動に取り込まれた魂の残滓が、直接魔法の力を与えてやるんだからな」
「……! そんなことができるのか……!?」
アディリスの言うこと全てが信じられる訳ではない。
だが現状、レクタリアよりも女神っぽい存在だとは思えていた。この不思議空間にいる影響もあるだろう。
「この場にいる限りはね。さてここで選ぶがいい。1つは普通に祝福を受け、ここで得た力を元の世界でもずっと振るえる魔法。もう1つは、対シルヴェラに特化した魔法を得られるが、その時間は一瞬。シルヴェラとの戦いが終われば消え、以降はヴェルトとしての魔法しか使えない。いや、もしかしたらヴェルトの魔法も消えるかもしれない。さぁどっちがいい?」
「なんだ、それは。選択肢にもなっていないぞ」
「ほぉう? というと?」
「んなもん、決まってんだろ。2つ目だ。さっさと対シルヴェラ用の魔法を寄越せ」
元々魔法なんてものが欲しくて戦っていた訳じゃない。魔法の祝福を得られたのは、あくまで群狼武風として生きてきた結果の1つでしかないのだ。
あったら便利なのは間違いないが、無くても別に俺が俺でなくなる訳じゃない。
「ふふ……。やっぱりお前は強いね。その強さが羨ましいよ」
「どうしてそういう話になるのかは分からんが。こっちは急いでいるんだ、早くしてくれ……!」
「ここは時の流れという概念が曖昧な世界だ。とはいえ急いだ方がいいのは事実だね。では私に本来のお前の名を捧げろ」
本来の名……か。妙な感じだ。今やヴェルトの方が自分の名としてはしっくりくるのだが。
だがこの名も、父上たちからもらったものには違いない。
「ヴェルトハルト・ディグマイヤーだ」
「……よし、掴んだぞ。とっておきの魔法をプレゼントしてやる。それでシルヴェラを止めてくれ」
アディリスの人差し指が俺の額に触れる。その瞬間、脳が新たに宿った魔法の力を認識し始める。
どういう能力が構築されていっているのかよく分かる。かつて受けたシャノーラの祝福とはかなり違うな……!
「……どうして俺にここまでしてくれた?」
「さっきも言ったろ。利害が一致しているからさ」
確かにそう聞いた。かつてシルヴェラと争っていたというし、敵対関係ではある……あったのだろう。
だが俺が聞いているのはそういう事じゃない。
「お前にとって俺は初対面のはずだ。得体もしれない男によく祝福を与えようとしたな」
「はは。確かに初対面だが、今の私はある意味波動存在に近しいモノだからね。お前がここに来た時にその情報を読ませてもらったんだよ。これは私の数少ない趣味みたいなものだがね」
アディリスはそう言うと目を細める。
「あの世界でシルヴェラが生きている事は分かっていた。あいつならいつか再び波動をもたらそうとすることも。だが私はその事に否定的だ。私たちは……この世界に新たに生まれた種を管理しようだなんて、思い上がるべきじゃなかったんだよ」
言ってる事は反省の弁の様に聞こえるが、表情はまったくそういう風には見えない。むしろどこか楽し気だ。
「だがシルヴェラ相手に正面から挑んでどうにかできる奴など、そうはいない。お前もかすり傷すら負わせられなかっただろう?」
「…………」
認めたくはないが。確かに俺はレクタリアに手も足も出なかった。
俺は全力だったが、レクタリアにはまだ余裕も感じられた。戦闘中にも関わらずご高説が続いていたからな。
「だが偶然ここにきたお前ではあったが。お前は複雑な因果をその身に刻んでいた。おそらく時を渡った事も起因しているだろう」
「波動が俺を特殊な人間だと認識したということか?」
「そうだね。そしてその因果を用いて対シルヴェラ用に特化した魔法を与える事もできた」
つまりはアディリスにとって、俺は都合が良い存在だったのだろう。
利害も一致しているし、力を持たせてシルヴェラにぶつけるには、うってつけの男だったと。
「結局波動とはなんなんだ? レクタリアは人に進化を促すものと言っていたが……」
「はは。それは波動の側面の1つに過ぎないね。もっと深く……そして私たち程度では解き明かせないものさ。いろいろ教えてやりたいが、そろそろ行った方がいい。お前の肉体はまだそこに存在しているからね。あまり長居していると、お前も私の様に取り込まれる」
取り込まれるという意味は分からないが、ここから出られなくなるという事は理解できた。
急いで戻らなければ……と思った時に、ふと父上とローガの顔が浮かぶ。そして。
「…………!?」
気付けばまた景色が変わっていた。ディグマイヤー家の屋敷、その玄関だ。目の前には父上とローガが立っていた。
「……行くのか」
「ああ。まだやり残している事が……あまりにも多い」
二人が本物とか偽物とか幻とか、そんなのはどうでも良かった。
ここに父上とローガがいて、実際に言葉を交わせる。俺にとってはこれこそが真実。
「へっ! お前がここにくるにはまだ早ぇってな! おら、さっさと行って群狼武風の矜持を見せつけてこい!」
「僅かな時でも、成長したお前が見られて良かった。……お前ももう立派な大人だ。自分の信じた道、そして信念を。どこまでも貫いていけ」
「ああ……! 父上、ローガ! 行ってくる!」
二人に背を向け、俺は玄関の扉に手をかける。そしてその一歩を力強く踏み出す。
またうさんくさい奴が出て来た。もうその手の女はお腹いっぱいだ。
「おうおう、そんな詐欺師を見る様な目で見つめられたら照れるじゃないか!」
アディリスは小さく手を叩く。その瞬間、周囲は何もない真っ暗な空間へと変わった。足場も何もない。宙に浮いている様だ。
「わ……!?」
「ああ、別に落ちたりしないから安心しな。あんたに付随する情報が多かったんでね。ちょっと整理させてもらったよ」
その空間には俺とアディリスの2人しかいなかった。アディリスはオホンと咳払いをする。
「シルヴェラにはボッコボコにやられたねぇ~! でも悔しがる必要はないよ。あいつは魔法を次の段階に進めているからね。無尽蔵に強力な魔法が使えるのさ」
「次の段階……?」
そういや昔、祝福を受けた時にカーライルが言ってたっけか。魔法は極めると魔昂術になるとか何とか。
「あんた……何を知っているんだ?」
「ふっふ。私という存在は波動に取り込まれているからね。おおよそは。……少し昔話に付き合ってよ」
そう言うとアディリスはパチンと指を鳴らす。その瞬間、俺たちの足元には巨大な金属製の船が現れた。
「な……なんだ、このばかでかい鉄の船は……!?」
「これは天翔ける超巨大箱舟ザラーク。昔、ある世界から無数の箱舟が飛び出したんだけどね。その1つさ」
かつてアディリスはシルヴェラと共にこの箱舟に乗って旅をしていたそうだ。そしてある時、俺たちの世界へとたどり着いた。
「でも途中で箱舟内で戦いが起こってねぇ~。ほんと、何やってんだか、て話なんだけど。とにかくいろいろあって、箱舟は私たち3人以外の人は死んでしまったのさ」
そして俺たちの世界に不時着した後、再び人を増やすためにいろいろ努力したそうだ。
寿命を延ばしながら研究をしていたある日、この世界に流れ込む波動の存在を観測する。そこから3人は、波動と生物の進化について、多くの議論を交わしたそうだ。
「この時は魔法文明絶頂期っていうのかな? とにかくいけいけどんどんだったんだけどさぁ。シルヴェラちゃんたら、波動にのめり込むうちに波動に対して盲目的になっちゃってね」
そして3人の中で意見の食い違いが起き、亀裂は広がっていった。三女神はその時、自分たちの勢力を率いて戦争をしていたそうだ。
「結局私たちも戦争してるんだから、世話ないよねぇ~。ここは多いに反省しているところだね!」
「……話が見えないな。結局何が言いたいんだ?」
「うん。私たちは戦争に負けてしまってね。私はこうして実験を兼ねて波動に取り込まれ、もう一人も封印されてしまった。でもシルヴェラも重症を負っていてね。身体はもう延命処置を施せなくなったんだ」
そこからはレクタリアが話していた内容と共通していた。
シルヴェラは波動制御因子を持つ血族……つまり王家の巫女の身体に降臨し続けていたが、途中で休む必要が出てきたらしい。しかしそこで予想外の出来事が起こった。
「多分もう1人が仕込んでいたことだと思うんだけど。シルヴェラが完全に大幻霊石の制御を離れた瞬間を狙って、自壊プログラムが作動したんだよねぇ」
「自壊……?」
「そう。大幻霊石は言ってしまえば扉なのさ。でもその完成度はとても高くてね。扉を壊せば二度と向こうの世界に繋がらない。つまり波動をこの世界にもたらす事ができなくなる。波動の信奉者たるシルヴェラからしたら耐えられないだろうね。まったく、嫌がらせにしては相当だよ」
だがどういう訳か、シルヴェラは現在にその意識を復活させた。レクタリアという少女の肉体に意識を転写させて。
「多分その子が持っていた大幻霊石の破片か何かが、シルヴェラの意識を刻むマスターキー的な枠割を果たしていたんじゃないかなぁ。想像だけどね!」
「で、世界から消えた波動をまた呼び戻そうとしている訳か。だいたいの経緯は分かったが、俺の質問に答えていないな」
「せっかちだなぁ~。せっかく元の世界に戻してあげようというのに」
「なに……! できるのか……!?」
アディリスは俺の反応を見てニンマリと笑う。
「お! その様子だとまだ闘志は尽きていないようだね!」
「当たり前だ……! あいつには落とし前をつけさせねばならん……!」
それに今ごろ、アックスたちが戦っているはずだ。みんなに俺が敗れたと思われたままなんて、格好悪くて我慢できねぇ。
「いいねぇ! 私もシルヴェラは何とかしたいからね。その点は利害が一致している訳だ。さて、ヴェルトくん。元の世界に戻っても、どうやって戦うんだい? お前、ボコボコにされたろ?」
「関係ねぇ……! 足がある限り何度でも立ち上がって、黒狼会を敵に回したことを後悔させてやる……!」
どうやら俺は死んだという訳ではないらしい。ここから元に戻れる手段がある様だ。アディリスは息巻く俺を横目に、溜息を吐く。
「シルヴェラも話していただろ? 魔法というのは名と深い関係がある。お前、昔ヴェルトという名で祝福を受けただろ。でもお前には本来、長ったらしい名前がある」
「……ああ。それが?」
「今からその名を起点に、私が改めて祝福を与えてやる。よろこべ、波動に取り込まれた魂の残滓が、直接魔法の力を与えてやるんだからな」
「……! そんなことができるのか……!?」
アディリスの言うこと全てが信じられる訳ではない。
だが現状、レクタリアよりも女神っぽい存在だとは思えていた。この不思議空間にいる影響もあるだろう。
「この場にいる限りはね。さてここで選ぶがいい。1つは普通に祝福を受け、ここで得た力を元の世界でもずっと振るえる魔法。もう1つは、対シルヴェラに特化した魔法を得られるが、その時間は一瞬。シルヴェラとの戦いが終われば消え、以降はヴェルトとしての魔法しか使えない。いや、もしかしたらヴェルトの魔法も消えるかもしれない。さぁどっちがいい?」
「なんだ、それは。選択肢にもなっていないぞ」
「ほぉう? というと?」
「んなもん、決まってんだろ。2つ目だ。さっさと対シルヴェラ用の魔法を寄越せ」
元々魔法なんてものが欲しくて戦っていた訳じゃない。魔法の祝福を得られたのは、あくまで群狼武風として生きてきた結果の1つでしかないのだ。
あったら便利なのは間違いないが、無くても別に俺が俺でなくなる訳じゃない。
「ふふ……。やっぱりお前は強いね。その強さが羨ましいよ」
「どうしてそういう話になるのかは分からんが。こっちは急いでいるんだ、早くしてくれ……!」
「ここは時の流れという概念が曖昧な世界だ。とはいえ急いだ方がいいのは事実だね。では私に本来のお前の名を捧げろ」
本来の名……か。妙な感じだ。今やヴェルトの方が自分の名としてはしっくりくるのだが。
だがこの名も、父上たちからもらったものには違いない。
「ヴェルトハルト・ディグマイヤーだ」
「……よし、掴んだぞ。とっておきの魔法をプレゼントしてやる。それでシルヴェラを止めてくれ」
アディリスの人差し指が俺の額に触れる。その瞬間、脳が新たに宿った魔法の力を認識し始める。
どういう能力が構築されていっているのかよく分かる。かつて受けたシャノーラの祝福とはかなり違うな……!
「……どうして俺にここまでしてくれた?」
「さっきも言ったろ。利害が一致しているからさ」
確かにそう聞いた。かつてシルヴェラと争っていたというし、敵対関係ではある……あったのだろう。
だが俺が聞いているのはそういう事じゃない。
「お前にとって俺は初対面のはずだ。得体もしれない男によく祝福を与えようとしたな」
「はは。確かに初対面だが、今の私はある意味波動存在に近しいモノだからね。お前がここに来た時にその情報を読ませてもらったんだよ。これは私の数少ない趣味みたいなものだがね」
アディリスはそう言うと目を細める。
「あの世界でシルヴェラが生きている事は分かっていた。あいつならいつか再び波動をもたらそうとすることも。だが私はその事に否定的だ。私たちは……この世界に新たに生まれた種を管理しようだなんて、思い上がるべきじゃなかったんだよ」
言ってる事は反省の弁の様に聞こえるが、表情はまったくそういう風には見えない。むしろどこか楽し気だ。
「だがシルヴェラ相手に正面から挑んでどうにかできる奴など、そうはいない。お前もかすり傷すら負わせられなかっただろう?」
「…………」
認めたくはないが。確かに俺はレクタリアに手も足も出なかった。
俺は全力だったが、レクタリアにはまだ余裕も感じられた。戦闘中にも関わらずご高説が続いていたからな。
「だが偶然ここにきたお前ではあったが。お前は複雑な因果をその身に刻んでいた。おそらく時を渡った事も起因しているだろう」
「波動が俺を特殊な人間だと認識したということか?」
「そうだね。そしてその因果を用いて対シルヴェラ用に特化した魔法を与える事もできた」
つまりはアディリスにとって、俺は都合が良い存在だったのだろう。
利害も一致しているし、力を持たせてシルヴェラにぶつけるには、うってつけの男だったと。
「結局波動とはなんなんだ? レクタリアは人に進化を促すものと言っていたが……」
「はは。それは波動の側面の1つに過ぎないね。もっと深く……そして私たち程度では解き明かせないものさ。いろいろ教えてやりたいが、そろそろ行った方がいい。お前の肉体はまだそこに存在しているからね。あまり長居していると、お前も私の様に取り込まれる」
取り込まれるという意味は分からないが、ここから出られなくなるという事は理解できた。
急いで戻らなければ……と思った時に、ふと父上とローガの顔が浮かぶ。そして。
「…………!?」
気付けばまた景色が変わっていた。ディグマイヤー家の屋敷、その玄関だ。目の前には父上とローガが立っていた。
「……行くのか」
「ああ。まだやり残している事が……あまりにも多い」
二人が本物とか偽物とか幻とか、そんなのはどうでも良かった。
ここに父上とローガがいて、実際に言葉を交わせる。俺にとってはこれこそが真実。
「へっ! お前がここにくるにはまだ早ぇってな! おら、さっさと行って群狼武風の矜持を見せつけてこい!」
「僅かな時でも、成長したお前が見られて良かった。……お前ももう立派な大人だ。自分の信じた道、そして信念を。どこまでも貫いていけ」
「ああ……! 父上、ローガ! 行ってくる!」
二人に背を向け、俺は玄関の扉に手をかける。そしてその一歩を力強く踏み出す。
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