黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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狩りの帰り道 仮面の行方

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 無事に狩りも終わり、俺たちは帰路につく。二人の殿下は馬車に乗り、俺は馬に乗りながらレックバルトと並走していた。
 
「ヴィローラ様とは上手く話せましたか?」

「ああ。ヴェルト殿、助かったぞ。いくらか報酬を上乗せしておく」

「ありがとうございます。私もレックバルト様のお役に立てたのなら、この依頼を受けたかいがあったというものです」
 
 レックバルトの表情はいくらか明るかった。きっとヴィローラとの会話も順調だったのだろう。上手く話が進めば将来の妻となる訳だ。
 
「しかしヴェルト殿。お前は私が考えていたよりも高い能力を持っているらしい」

「……といいますと?」

「ヴィローラ様に聞いたのだ。何でも他領で結社の襲撃から、ヴィローラ様方をお守りしたらしいではないか」

「……! レックバルト様は結社の事をご存じなので?」
 
 驚いた。あまり知られていない組織だと思っていたのだが。

 ……いや、その認識に違いはないはず。おそらくレックバルトは……。
 
「ヴィンチェスターめの動きが怪しかった時にな。あまり詳しくは話せんが、それ相応の伝手を使っていろいろ調べていたのだ」
 
 ゼノヴァーム領で抱えている諜報員がいるのだろう。流石帝国四公の一角、その手の訓練を受けた者が各地を駆け回り、常に情報を収集しているのだ。
 
 大領主はどこも帝国の中で独立した国を運営している様なものだからな。軍も独自でそろえているし、ゼノヴァーム領に至ってはより分散統治を推し進めている印象がある。
 
「失礼だが、黒狼会の事もいろいろ調べさせてもらった。短期間で多くの暴力組織を併合し、冥狼とも直接事を構えているな。さらに音楽祭ではエルヴァール殿の護衛を務め、その場に現れた獣どもを倒したという情報もある。冥狼が帝都から消えたタイミングで影狼が再び台頭したが、現在その影狼と黒狼会は表立った抗争を見せていない。……裏で手を組んでいるのではないか?」
 
 大した洞察力だ。自分の手にある情報から点と点を結び、様々な想定ができるのだろう。ま、この質問に対する答えは1つだがな。
 
「私どもがあの影狼と? まさか。ただの一商会があのような本物の暴力組織と繋がっているはずがないでしょう」

「ほう……。まぁいい。覚えておいて欲しいのは、俺はヴェルト殿の手腕を高く評価しているという事だ」
 
 レックバルトは特に追及はせず、言葉を続ける。
 
「ヴェルト殿がヴィローラ様と面識があるのも驚いたが、他にも複数の騎士とも顔があるだろう? エルヴァール殿の伝手もあるのだろうが、それでも大したものだ。どうだ、ヴェルト殿。良ければ我がゼノヴァーム領に来んか。俺も一地方を父上より任されているのだが、歓迎するぞ」
 
 この場の思いつきなのか、それとも元々話す予定だったのか。判断はつかないが、これも答えは1つだ。
 
「おりがたい話ですが、帝都には面倒を見なければならない者が多いので」

「そうか。まぁ言ってみただけだ。だが我が領地で商売をしたくなったらいつでも言うがいい。俺の治める街であれば直ぐに許可をやろう」

「ありがとうございます。他領への進出は考えの1つではありましたので、是非検討させてください」
 
 話を聞くに、どうやらレックバルトは領主である父から一部地方の統治権を委任されているらしい。レックバルトの率いている軍は、その地方で抱えている戦力なのだろう。今回は父の許可を取らずに、独自に動かす事ができたという訳だ。
 
 若いが決断力もあるし、全体がよく見えている。女を前にすると極度に緊張するのが唯一の弱点か。
 
「建国祭では特別枠として招待されているな? 当然、来るのだろう?」

「……いえ。今回は他国のお客様もお見えになられる様ですし、実は辞退を申し出ようと考えていたのです」

「フォルトガラム聖武国か。耳が早いな」
 
 早いも何も、ついさっき聞いたばかりの話なのだが。
 
「まぁ無理強いはすまい。そうだ、ヴェルト殿。ヴィンチェスターの反乱時に初めてその存在が明らかになった、陛下の懐刀たちがいるのだが。何か知らないか?」
 
 おっと……。これは俺たちの事だな。
 
「生憎何も。そういう方が活躍されたという話は聞き及んでおりますが」

「そうか……。いや、俺も実際戦場で彼らの戦いぶりをこの目で見たのだが。正直、この世の光景だとは思えなかった。古の魔法の様な力を持っていたし、まさに一騎当千。1人で大軍を蹴散らすという剛の者が複数もいたのだ」

「はぁ……」
 
 仮面を付けていて良かった。間違ってもあの時の俺たちが黒狼会の面々だったと知られる訳にはいかない。そんな事態になれば、多くの貴族が放っておかないだろうし、他国の間者にも探られるだろう。
 
 懸念があるとすれば、結社の生き残りたちだ。あいつらなら戦場に現れた豪傑と、俺たち黒狼会をイコールで結びつけるはずだ。そこから変な噂が流れるのは勘弁願いたい。

 まぁ何かあっても証拠はないのだし、誤魔化しきる自信もあるが。
 
「実はな。今回の事態になるまで誰も知らなかったその懐刀たちだが、様々な噂が立っておるのだ。伝説の傭兵団群狼武風の技を今に継承し、帝国の歴史を影から支えてきた一族とか、過去から時を渡ってきた群狼武風そのものだとかな」

「…………」
 
 あながち間違っていない分、反応に困る……! 噂だし、どんどん変な方向に広がっているんだろうな……。
 
「温厚で知られる陛下がここ一番までその存在を隠していた者たちだ。誰もが今回の件で、やはりゼルダンシア帝国の皇帝位に就くというのは、相応の力あってこその事だと納得したのだよ。そして陛下を怒らせれば彼らが出てくる。皆口には出さんが恐れておるのだ。これまで弱腰だと侮っていた貴族たちも、今では陛下のご機嫌取りに必死だ」
 
 そう言うとレックバルトは声をあげて笑う。急に態度が変わった貴族たちを思い出すと、面白いのだろう。
 
 勘違いも甚だしいのだが、正体がばれるリスクを侵してまで誤解を解く理由もない。結果、ウィックリンも今の噂を止められないのだろう。
 
 実際にヴィンチェスターの一派を一掃した事実も関係しているだろうが。
 
「だがあの日以来、その者たちは全く姿を見せないし、本当に謎に包まれておるのだ。何か分かれば一番に私に教えて欲しい。黒狼会からの使いであれば、いつでも対応しよう」

「ありがとうございます。お城の事なので私では得られる情報に限りがありますが。何か分かればご連絡させていただきます」
 
 ま、仮面の男たちは二度と表舞台に出てくる事はないしな。この話は聞き流しても問題ないだろう。せいぜいその影響力をウィックリンが活用するくらいか。
 
 まさかあの時の咄嗟の思いつきが、こういう形で尾を引く事になるとは思っていなかった。が、俺がその責任を取る必要はないだろう。
 
「今日の報酬だが、明日にでも使いを寄越す。その者から受け取ってくれ」

「かしこまりました」

「ヴェルト殿とこうして話せてよかったよ。建国祭が終わるまでは帝都に滞在しているから、またどこかで会うかも知れないな」
 
 レックバルトの発言に俺は曖昧な表情を見せる。基本的に俺たちが貴族街へ出向く事はほとんどないからな。そう会うこともないだろう。
 
「欲を言えばその実力を見たかったところだが。ヴィローラ様もおられるし、ここはそんな機会が訪れなかった事を喜ぶべきだろうな」

「ええ。私も何事もなくて安心しています」
 
 遠目に帝都の城壁が見えてくる。もう日も傾いており、帝都を赤く染めていた。
 
「私はこのまま正門から戻ろうと思います。レックバルト様。改めて、今日はありがとうございました」

「こちらこそだ。ではな、ヴェルト殿」
 
 挨拶を済ませ、俺は一行から離れる。馬車の窓からこちらを見るヴィローラの顔が見えたので、軽く会釈をしておく。そうして真っすぐに帝都へと戻った。
 
 

 
 
「今のは……レックバルトが連れてきた護衛か」

「ヴェルト様ですよ。黒狼会の」

「ほぅ……あいつがそうだったのか。ヴィローラよ、そういう話はもっと早くしてくれ。私も挨拶ぐらいしておきたかったぞ」
 
 馬車の中ではヴィローラとグラスダームが話をしていた。皇族専用の馬車は広く頑丈に作られており、大柄なグラスダームが座っても狭さを感じさせない。
 
「それで、レックバルトはどうだった? 話したのだろう?」

「ええ。誠実なお方という印象ですわね。それに頭の回転も早い様に感じました」

「そうか。悪い印象ではなさそうで何よりだ」
 
 ヴィローラは今回自分が同行する事になったのは、レックバルトとの顔合わせが目的であると当然気付いていた。ここからのレックバルトの動きと、自分の意思次第ではそのまま結婚する事になるだろう。
 
(まぁ……不満はないのですが。むしろお父様も強制ではなく選択肢を与えてくれている分、その心使いはありがたいのですが)
 
 レックバルト自身、下手な貴族よりも光るものを感じるし、上に立つ者としての器もある。将来はゼノヴァーム公を支える腹心の1人になり得る存在だろう。
 
(うぅん。でも群狼武風の皆様方と比べると、少し物足りないというか。ああ、私、殿方にスリルを求めるタイプではありませんのに……!)
 
 ヴィローラは元々群狼武風に憧れを抱いていたし、間近でフィンやヴェルトの戦いも見た。そしてアデライアからその他の面々の戦いぶりの話も聞いたし、ルングーザ・テンブルク同盟軍との戦いの様子はこれぞまさに伝説の傭兵、群狼武風そのものであった。
 
 そう、憧れの勇者たちはやはり自分の想像通りの力を持っており、目の前で英雄譚を再現してくれたのだ。ずっと自分の代で群狼武風が現れないかと願っていたヴィローラの胸は、それはもう大いにときめいた。
 
「レックバルトは良い男だ。今回もいち早く駆け付けたし、皇族に対する忠誠も厚い。きっと将来は帝国にとって重要な男になるはずだ」

「ええ……そうですわね……」
 
 ヴィローラ自身、皇族としての自覚があるし、自分の気持ちを優先させて好き勝手に振る舞うつもりもない。それにレックバルトと皇族の結びつきは、将来の帝国のためになるのは疑い様がなかった。
 
「俺も戦場でその戦い振りを見たからな。……そういえばあの時、父上の懐刀たちを初めて見たが。あれ以来見ておらんな……。ヴィローラ、何か知っているか?」

「い、いいえ? 正真正銘、父上個人が抱える私兵なのでは?」

「そうか……」
 
 城では仮面の男たち……ヴェルトたちの噂がずっとささやかれていた。正体を知るヴィローラとしては、伝説の群狼武風その者たちであると言いたい気持ちがあったが、それをずっとこらえているのだ。

 今ではアデライアやディアノーラたち、事情を知る者だけで集まり、時折語り合う事で言いふらしたい衝動を抑えていた。
 
(でも噂という形であれ、こうしてまた帝国にその名をとどろかせているのです。今は素直に皆さんが帝都にいる事を喜びましょう)
 
 かつて先祖が世話になった礼はしたいが、ウィックリンは既にその礼……金のインゴットを授けた。アデライアを狙っていた結社ももういない。
 
 ヴィローラは黒狼会のみんなが帝都で平和を享受して欲しいと願った。
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