皇国の復讐者 〜国を出た無能力者は、復讐を胸に魔境を生きる。そして数年後〜

ネコミコズッキーニ

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再会 左沢領で戦う者

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「妖が二体に、破術士がいくらかか……! 理玖! 左の妖を頼む! 俺は右をやる!」
「神徹刀を抜くのか!?」

 狼十郎は一度神徹刀を抜くと、しばらく霊力を扱えないという厄介な縛りがある。それを懸念しての事だったが、何でもない様に狼十郎は首を振る。

「あの程度ならわざわざ御力を解放する必要はないね! いざとなりゃ時間稼ぎはしておくから、そっちを片付け終えたら手伝ってくれ!」

 普通の武人なら自分の武に強い誇りを持っているため、まず間違いなく出てこないセリフだ。だがこの辺りも含めて、狼十郎は柔軟な思考の持ち主だった。清香が支えたいと感じるのも分かる気がする。
                                                                                                                                「翼! 悪いがあの二人と協力して、破術士の対処を頼む!」
「分かったわ! 可愛い妹もいる事だしね!」

 村にいたのは雫と涼香だった。二人とも顔を見るのは随分久しぶりだ。特に涼香は、帝国へ行く前までよく会っていたからな。

 俺は二人の無事な姿に安堵しつつ、妖の元へと馬を進める。ある程度の距離で馬から飛び降り、刀を手に真っすぐに駆けた。

「なんだ、きさまは!」

 その妖はそれほどでかくはなかったが、手が身長以上に長かった。胸には相変わらず黒い杭が刺さっている。妖は長い腕を遠心力に任せて振るってくるが、それを切り落としながら前へと足を進める。

「え……!? お、俺の、うで……」

 そのまま有無を言わせず、首を刎ねる。この程度の妖であれば、理術など使わなくとも力押しできる。周囲に目を向けると、涼香たちは破術士を追っており、狼十郎も妖の腕を切り落としたところだった。

「いちいち金剛力が必要なのが面倒だが……!」

 改めて狼十郎の太刀筋を見るが、見事なものだと感じた。速度、角度、正確性。そういったものが無駄なく一つの力として統合されている。

 やがて狼十郎の太刀も妖の首を刎ねた。俺達は妖が討たれた事で、うろたえる破術士たちに追い打ちをかけていく。




 
「理玖!」

 事が収まり、俺達は村の真ん中に集まった。

「おう涼香。久しぶりだな」
「帝国から帰ってきたのね! それにしても助かったわ!」

 以前涼香に斬りかかられた事が、もう随分前の事の様に感じる。実際に結構前ではあるのだが。

「我ながら良い時期に帰ってこれたと思っているよ。雫も久しぶりだな」
「理玖兄さん! よかった……!」

 雫は翼の隣に立っている。そういや姉妹だった。翼も雫の顔が見れて嬉しそうだ。

「雷術の光が見えたから、何か緊急事態が起きていると思ったの。間に合って良かったわ」
「翼お姉ちゃんもありがとう! 正直、ちょっと危ないところだったの……」

 狼十郎は軽く周囲を見渡すが、もう賊の気配は残っていないようだった。

「なんだ、こっちの嬢ちゃんは理玖の顔見知りだったのか」
「ああ。……いや、むしろ知らないのかよ」

 涼香は狼十郎を初めて見たのか、年上の武人に対して少し遠慮している。いつも元気で感情のまま発言する涼香らしくない。

 まぁ狼十郎の実力を見たばかりだしな。自分よりも格上で年上の武人ともなると、緊張くらいするか。

 その隣では雫が、涼香と狼十郎の顔を見ながら、薄く汗を流している。

「あ、あの。危ないところをありがとうございました。私は葉桐涼香。お名前を伺っても?」
「え……」

 ピタッと狼十郎の動きが止まる。やっぱり涼香が清香の妹だって事は知らなかったのか。

「あ、ああ……。ええと。南方……」
「…………え」
「毛呂山領武叡頭のお役目をいただいている、南方狼十郎だ。まぁなんだ。よろしくな」
「…………」

 さすがの狼十郎も、将来の嫁の妹にどう接したらいいのか分からないといったところか。何より武家の者であれば、葉桐家の者にはある程度緊張してしまうものだろう。死地にあっても飄々としている狼十郎にしては、珍しい場面だな。

 そして。お姉様大好きっ娘の涼香は。

「お……お前が……! お前があぁぁぁぁぁぁ! 涼香の、お姉様ををぉぉぉぉぉぉぉ!」

 暴れた。




 
「ふぅ……ふぅ……!」
「落ち着け涼香。互いの状況を確認しておきたい」
「わ! 分かってるわよ! 今、何を優先しなければならないかくらい……!」

 狼十郎の存在は許せないみたいだが、やはり葉桐の者だな。気持ちを切り替えて、左沢領の事情の説明を行う。

「領内各地に妖と破術士が……」
「ええ。黒霧紗良様は領都で守りを固め、方々の村にはこうして私たち武人術士が組を作って巡回しているの。正直、相手にあとどれくらいの戦力や妖がいるのかは掴み切れていないわ」

 羽場真領の様に一か所でまとまってくれていると楽だったんだがな。しかしこうなると、一旦左沢領に来たのは正解だったかもしれない。

「それで。毛呂山領の武叡頭殿ともあろうお方が、どうしてこんな所にいるのかしら? 南から来たみたいだけど、羽場真領はどうしたの? あとどうして理玖もその男と一緒にいるのよ?」
「東大陸に着いた時、最初に会ったのが狼十郎だったんだよ」

 俺達はこれまでの経緯を涼香たちに説明する。羽場真領での変事と、それを解決した事には驚いていた。

「そうか。皇国七将が裏切った事は知らなかったのか」
「左沢領の鏡も割られていて。今、皇都との連絡手段は早馬によるやり取りがあるのみなの」

 それもある程度護衛を付ける必要がある。それほど戦力に余裕がある訳ではないので、皇都とのやり取りも頻度は低いらしい。

「でもここで理玖と会えたのは良かったわ! 理玖、この乱を収めるのに協力してくれるんでしょ?」
「ああ」
「え……」

 俺が即答したのに対し、涼香は戸惑っていた。

「なんだ」
「え……いや、だって。理玖の事だから何かそれっぽい理屈をこねて、しょうがないから助けてやるよ、くらい言ってくるのかなと」
「お前、俺を何だと……。いや、いい」

 確かにそんな事を言っていても違和感がないと思ってしまい、俺はこの話題に触れるのを止めた。くそ。涼香も俺の態度を先読みしてんじゃねぇ!

「一応? 神徹刀持ちの武人もいる事だし? ここで理玖以外の戦力と合流できたのは僥倖だったわ。早速領都へ向かいましょう」

 その事に異論はない。馬が三頭しかないので、どうするかと考えているところに、雫があっと声をあげた。

「どうしたの、雫?」
「いえ。そういえば誠彦さんは……?」
「え?」
「ん?」

 誠彦って……あの誠彦か? どんな顔をしていたかな、とおぼろげに記憶の深層を探っていると、丁度誠彦の叫び声が聞こえた。

「ああああ!? お、お前!? 無能者の理玖!? どうしてここに!」
「ああ、そうだ。こんな顔だった。群島地帯以来か……」
「皇都で会っているだろ!?」

 そういえばヴィオルガが騒いでいる時にも見かけたな。印象が薄かったからな……。誠彦の顔を見て、涼香は僅かに眉を動かした。

「誠彦。どこへ行っていたの?」
「は、破術士を追っていたんだよ! 言っただろ!? それより何故葉桐ともあろう者が罪人と一緒にいるんだ! こいつも敵と通じている可能性がある! ここで捕えるんだ!」

 誠彦の喚きに、涼香ははっきり不快な感情を出しながらため息をつく。

「そんな訳ないでしょ。さっき羽場真領での活躍を聞いたところよ」
「理玖の身の潔白は俺と……羽場真領領主の名にかけて保証する。それでいいだろ、坊主?」

 狼十郎がその場をとりなそうと口を挟む。さすがにこの中で一番年上なだけあり、さっさと話をまとめようとしているな。しかし勝手に領主の名を使っていいのか。

「む……。失礼ですが、どなたですか」
「おう。俺の名は南方狼十郎。みんなからは狼さん、て呼ばれているぜ」
「え……!?」

 どうやら誠彦は、狼十郎の名に聞き覚えがあるらしい。驚いた反応をしている。

 そういや偕たちは、毛呂山領で狼十郎に師事していたんだったな。誠臣から何か話を聞いているのかもしれない。

「今は協力してこの窮地を脱する時だ。ほれ、お前には道中俺から事情を説明してやるから、さっさと領都に向かうぞ」

 狼十郎が年上の威厳で強引に話を締める。実際、この中では最も位も高いのだが。

 三頭の馬には狼十郎と誠彦、翼と雫、そして俺と涼香が乗る事になった。

「おい涼香。さっさと乗れ」
「わ……分かったわよ……!」

 涼香は後ろに乗ると、遠慮がちに俺の衣服を掴む。

「そんなんじゃ危ないだろ。もっとしっかり身体を掴め。……なんだ、もしかして恥ずかしがってるのか?」
「そんな訳ないでしょ!」

 涼香はかなり力を込めて俺の身体を掴んだ。正直苦しいが、俺もいつもの変な意地でそれを無視する。

 そうして三頭の馬は、領都に向けて駆けだした。
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