皇国の復讐者 〜国を出た無能力者は、復讐を胸に魔境を生きる。そして数年後〜

ネコミコズッキーニ

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群島地帯の理玖 帝国船の到着

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 それから俺は直ぐに皇都を離れた。向かう先は群島地帯、シュドさんの屋敷だ。

 すんなりとシュドさんの元へと通された俺は、そこでもこれまでの経緯を話していた。

「そうか……。おめぇが皇国の武人に縁がある奴とは思っていたが、なんにせよ上手くまとまって良かったじゃねぇか」

 そういえばシュドさんには俺の生まれについて話した事がなかったな。まぁここでは一々他人の過去など気にしないからな。聞かれる事も無かったのだが。

「で、どうすんだ? このまままた群島地帯に住むのか?」
「そうだな。また皇国へ行く事にはなるが、全てが終わればここに戻ろうと思っている」
「へっ! てめぇも物好きだな!」

 シュドさんは陽気に笑いながら酒を飲む。半ば武力で群島地帯を支配したシュドさんではあるが、現状その統治に問題はなさそうだった。

 まぁ元々無頼漢の縄張りで、各々好き勝手ルールを作って生きてきたんだ。あからさまに締め付ける様な事をしなければ、上が変わってもそれほど騒ぎ立てられる事はないだろう。そもそも騒ぎ立てる奴らはもういないしな。

「とはいえ、皇国に行くのもまだ当分先の話だ。それまではまたシュドさんを手伝うとするよ」
「東西両大陸で、無双の実力者として名を馳せたリクが滞在するってんなら、これほど頼もしいことはないわなぁ! がはは!」
「別に名を馳せている訳ではないが……」

 だがここは両大陸の中継地点。皇国にも帝国にも深い繋がりのある俺は、群島地帯において有用性の高い人物と言えるだろう。

 それに群島地帯は幻獣の大量発生の影響を受けない、世界で唯一の場所だ。大陸とは抱えている事情が異なる。ここでなら俺は、また違った生を送れるだろう。

「今は両大陸ともに混乱も大きい。ここに流れてくる奴らも増えるだろう。特にここでのルールを弁えない破術士も多くなるはずだ。しばらくはそういう奴らをしばくとするよ」
「がはは! おう、また頼りにさせてもらうぜ、リク!」
 



 
 その後、帝国も皇国も自国の復興を進めながら、迫る幻獣の大量発生に向けて協調路線も歩み始めた。

 両国とも文化も異なるため、一朝一夕に話がうまくまとまるものではなかったが、それでも互いに歩み寄る姿勢があったため、大きな問題には発展しなかった。

 これには話し合いの場所として、専ら群島地帯が選ばれていた事も関係している。

 群島地帯ではシュドさんが両国から依頼を受け、会談の場を提供していた。そしてその場を警備する者の中にはいつも俺が居た。

 俺は会談の内容によっては自らも積極的に参加し、両国の使者と意見を交えていった。こうする事が第三の契約を履行している事に繋がるのかは分からなかったが、何もしないという選択肢も取れなかったのだ。

 そして約一年の時が過ぎた。
 



 
「いよいよ二日後か……」

 この一年、俺は群島地帯でゆっくりと過ごすつもりだったが、それなりに忙しい日々を送る事になっていた。

 それというのも、皇国と帝国の会談の場がいつも群島地帯になっていたからだ。というか皇国と帝国は、鏡を使った通信術で互いに離れていても会談ができるんじゃないのか。何故わざわざここに来るのかが分からない。

 おかげで俺は警備だったり、時に会合に参加したりと、それなりに多忙な日々を送っていた。だがその甲斐もあり、いよいよ二日後に両国間で正式な調印が交わされる事になる。

  そして今。俺は港まで帝国の出迎えに来ていた。正面にはかつて俺も乗った事のある大きな船が泊まっている。

 橋がかけられると、次々と帝国の要人が降りてきた。その中の二人が俺に向かって歩いてくる。

「リク!」
「やぁ。久しぶりだね」

 次期皇帝テオラール。それにヴィオルガだ。王族の警護をするのは、聖騎士と魔術師。その中にはマルクトアとローゼリーアの姿も見えた。

 二人とも以前よりも少し大人びた顔になったと思う。ローゼリーアは相変わらず両目を閉じていたが、俺に軽く頭を下げた。

「テオラール、ヴィオルガ。久しぶりだ。といってもヴィオルガは群島地帯にもよく来ていたし、それほど久しぶりでもないが。しかし随分早いご到着だな」
「ぎりぎりに来る訳にもいかないでしょう。……皇国は?」

 俺はゆっくり首を横に振る。
 
「まだだな。今日か明日には到着するだろうが」

 俺はヴィオルガたちを先導しながら、帝国人の滞在場所を案内する。かつてとある一家が使っていた屋敷だが、ヴィオルガたちの滞在中は丸々帝国の貸し切りとなる。

 屋敷の中の応接室で、二日後に迫った調印式の打ち合わせを進める。テオラールも次期皇帝として初めての公式行事となるため、分からない箇所は詳細に質問してきた。

「……ありがとう、十分理解できたよ。しかしこれほど皇国と円滑に話が進められたのは、リク殿のおかげだ。改めて礼を言わせてくれ」
「いや、俺がした事はたかが知れている。皇国も帝国も、互いに歩み寄る姿勢があったからこそだろう」
「何言っているのよ。両国が望んでいる事とはいえ、あなたの圧力もあってそうせざるを得なかったのよ」

 圧力……? もしかしてあれか。俺が大精霊との間で結んだ契約のことだろうか。両国間で争いが起こった時、俺が大陸中の霊力持ちを殺す事になるという。

「特にあなたの目の前で刃傷沙汰になる訳にはいかなかったもの。帝国も皇国も、会談を行う人選は慎重だったのよ」

 俺は興味なさ気にそうか、と答える。

 まぁ俺という存在が両国のストッパーとして効いているのなら、この契約を結んだ大精霊の思惑通りといったところだろう。それはそれでしゃくだが、俺も今さら知り合いを積極的に殺したくはない。

 テオラールとヴィオルガからは現在の帝国について、いろいろ話を聞かせてもらえた。

「それじゃ本格的に改革が始まったのか」
「ええ。魔術師と聖騎士の在り方の見直しね。反対する魔術師は多くいるけれど、パスカエルと西国魔術協会が実質的になくなったもの。今一番力を持つ派閥は、私の所属するオウス・ヘクセライ。そしてオウス・ヘクセライは全面的にテオラール兄様を支持している。今この改革が成せなければ、また第二第三のパスカエルやレイハルトが現れるでしょうね」

 帝国もパスカエルの影響から完全に立ち直った訳ではない。だがある程度落ち着いたことで、内部の改革にも舵を切ることができた様だった。

「そういえば。アメリギッタはどうしたのよ?」
「ああ。あいつならシュドさんから振られた仕事をそれなりにこなしているよ。流石に帝国のお歴々がいる中、姿を見せる訳にはいかねぇだろ」

「それもそうね……。はぁ、ゲイルはなんとかしたいんだけど……」

 アメリギッタもあれからずっと群島地帯で過ごしていた。あいつ自身、ここは帝国にいた頃よりも過ごしやすいと考えているようだ。

 最低限シュドさんや俺の言う事を聞いていれば、なんの柵もなく自由に過ごせる場所だからな。

 それに実力は確かだ。今ではシュド一家で、いっぱしの腕利き的存在になっている。実際、あいつの魔術は強力だし、俺は万葉の旅路に同行させようと考えていた。

「ゲイルといえば。ローゼリーア、その指輪……」

 俺から会話を振られ、ローゼリーアはやや遠慮がちに口を開いた。

「はい。かつてパスカエルの使っていた、行方不明のセイクリッドリング「ヒメル」。皇帝陛下の許可をいただき、私が使うことを許されております」
「歴史上、私のドゥンケルもローゼのヒメルも、使い手はほとんどいないわ。それに10あるセイクリッドリングの中でも、この二つだけは二属性の魔術が使用可能という特別なもの。ローゼを後方で遊ばせておく余裕は、今の帝国にはないの」

 家族が罪に問われた事で、ローゼリーアも帝国内においてその立場を大きく崩した。それを持ちなおさせたのは、ヴィオルガの後ろ盾とヒメルの存在だったという。

 ヴィオルガが味方になるという事は、オウス・ヘクセライが後ろ盾になる事を意味する。それにヒメルの使い手というのはとても貴重だ。

 こうした幸運にも守られ、ローゼリーアは自身もオウス・ヘクセライに所属し、貴族の身分を維持していた。

「マヨの旅路にも、ローゼが同行する事は決まっているわ。もしその旅で幻獣の大量発生を食い止める事ができたなら。その時は、誰もローゼの功績にケチはつけられないでしょうね」

 つまり万葉の旅路に協力する事は、ローゼリーア自身のためにもなるという事。俺としても強力な魔術師が加わる事には賛成だ。

 ところで、とヴィオルガは俺に視線を向けながら目を細めた。

「リクはマヨの旅路が終わったら、どうするつもりなのかしら?」
「俺自身は第三の契約があるからな。大陸の動向に無関係を決め込む事は難しいが、群島地帯を拠点にゆっくり過ごすつもりだ」
「あなたの口からゆっくり過ごす、なんて聞けるなんてね……」

 言われて俺も少し違和感を覚える。今や左目も僅かに疼くのみ。俺の心が怒りに捕らわれる事は少ないからな。

「まぁいいわ。リク、全てが終わったら。帝国に居住を移さない? 別に帝国のために働かなくてもいい。でも不自由のない生活は保障するわよ?」
「……なんだそりゃ。そんな事をして、お前たちになんの得がある?」
「ふふ。何かあった時の備えとして招くのに、リク以上の人材はいないもの」

 帝国も皇国との情報交換で、俺が単独で大型幻獣を屠り、皇国で霊影会の乱を収める一助をしていた事は知っているだろう。

 この種の問題は帝国内にもある事だ。何かあった時の保険で常に手元に置いておきたい、といったところか。

「そんな事しなくても、何かあれば俺を呼べばいい。俺とお前の仲だ、騒ぎがあれば協力してやる」
「あら、残念。振られてしまったわね。でもいいわ。私との仲を尊重していると言質は取れたのだし」
「個人的にお前に感謝しているのは本当だからな」

 なんだかんだヴィオルガとの関係も長い。それにこれもサリアがくれた縁だろう。

 これからの人生、こうして紡がれた人との縁は大切にしていきたいと考えている。

 ……やっぱり俺、変わったな。

 この日はこのまま夕食まで一緒にとり、久しぶりにみんなと長く話し込んだ。
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