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そして骸骨さんに出会った。

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 骸骨たちは全員服を着ており、さらに剣や槍、杖といった武装をしていた。

 中心に立っている骸骨は、とくに立派な服と杖を持っている。その骸骨は自然な足取りで前に出てきた。
 
「見つけたぞ、あの時の〈フェルン〉よ……! まさかこれほど深いところまで潜り込んでいたとはな……!」

「………………!? し……しゃべったあああぁぁぁぁぁぁ!?」
 
 骸骨なのに!? どこから声出してんだ!? 声帯なんざもう存在してねぇだろ!?
 
「うげ……。もぅ、しつこいわねぇ! あんたらみたいな根暗アンデット、ずっと穴倉にいればいいのに! わざわざこんなところまで来てぇ!」

「っ!!?」
 
 今度は甲高い声が聞こえる。声の主はアハトの隣で浮いているリュインだった。
 
「え……!? り、リュインの言葉がわかる!?」

「…………っ!? あ、あれ!? ほんとだ! わたしもマグナの言葉がわかる!」
 
 なんで急に!? 短時間でいろんなことが起こりすぎて、頭がパンクしちまうよ!
 
『お前が身に着けた首飾りの効果だ。ちょうど言語解析が終わったからな。翻訳機を作成した。ちなみにアハトはたった今、インストールが完了したところだ』
 
 つまりこの首飾りをつけていれば、俺の話す言葉は自動的にこの星の言葉に。リュインたちの言葉は、耳慣れた帝国語として聞こえるらしい。
 
「え、めっちゃ便利やん。すっげぇ謎技術。つか言語解析、はやくない?」

『この手の解析にはある程度パターンが決まっているからな』
 
 言葉がわかるようになったのはいいが、それはそれとして今のこの状況がまったく理解できねぇ! そりゃリリアベルもなんだアレとか言うわけだ!
 
 謎の骸骨生命体は俺とアハト、それにシグニールに視線を向ける。眼球はないけど。
 
「しかしなんだ……この物体は……。まさかお前たち……ここに住んでいるとでもいうのか……?」
 
 骸骨さんは球体ドローンになっているリリアベルにも視線……というか、顔を向ける。やはり航空機やドローンの類には縁がないようで、どこか探っている気配があった。
 
 まぁこっちも骸骨なんざ、映画やゲームくらいでしか縁がないけどな!
 
「答えろ、〈フェルン〉よ。この者たちはなんだ……?」

「いーっだ! 腐れ精霊に話すことなんてなにもないわ!」
 
 そう言うとリュインはシュッシュと両手を繰り出すジェスチャーを行う。なにやってんだ……。
 
「つかリュイン。あの骸骨、知り合いなのか?」

「まさか! ここに来る前にちょっと狙われたんだけど。あんなの知り合いじゃないわ! 自分の精霊としての位を上げて強い魔力を得るため、わたしを狙っているだけの汚いアンデッドよ!」

「…………ちょっとまて。情報が多すぎてなに言ってんのかわかんねぇ」
 
 え? 精霊? 魔力? いま魔力と言いました? え、まじで魔法じゃん!
 
「ふん……人間よ。そこの〈フェルン〉を大人しく我らによこせ。さすればこの地で暮らすことを見逃してやろう」

「…………あん?」
 
 めちゃくちゃ上から目線で話しかけられた……! 銀河広しといえど、帝国人で骸骨に話しかけられたのは俺くらいだろう。
 
「あんたたちこそ、ここまでわたしを追いかけてきたことを後悔するがいいわ! マグナたちはこの地の魔獣を瞬殺できるくらい、とーーーーっても強いんだから!」
 
 ま、魔獣!? またワクワクするワードが……!
 
「じゃない、おいリュイン! 変に煽るんじゃねぇ!」

「マグナ、よく聞いて。あいつらあんなことを言っているけど、ぜったいにマグナたちを見逃さないわ。精霊化した骸は若い個体ほど、自分の仲間を増やそうとするもの」

「だぁ! だからなに言ってんのかわかんねぇよ!?」
 
 魔力に魔法、アンデッドに精霊、それに魔獣! どれも好奇心くすぐられるが、この状況が有利なのか不利なのか、なにもわかんねぇ!
 
 だが一つ確かな事実がある。それは先に攻撃してきたのは、あいつらだということだ。

 ローカル星の辺境民が、一級帝国人の俺の住まいに攻撃してきた。これだけで星まるごとテロ惑星に指定し、粛清対象になってもおかしくない。
 
 先頭の骸骨は立派な杖を掲げる。
 
「ふん……お前たちが何者かは知らぬが。〈フェルン〉に関わったことを後悔するのだな……!」
 
 杖の先端部に不可思議な光が集まりはじめる……その瞬間。俺は一瞬で間合いを詰め、骸骨のすぐ隣へと移動した。
 
「…………な!?」
 
 同時に剣を抜き、思いきり叩きつける。骸骨は真横からまともに剣撃を受け、吹き飛んでいった。

 もっともここは森だし、すぐ近くの樹にぶつかったが。
 
「きさま……! この私に……!」
 
 骸骨は立ち上がると俺に顔を向けてくる。肉がついていたら、すっげぇ怒りの表情を浮かべているだろう。
 
 明らかに攻撃の兆候が見られたからな。さすがにこれ以上の放置はできない。だが俺はちがう意味で驚いていた。
 
「どういうことだ……!? たしかに胴体を寸断する勢いで斬ったのに……!?」
 
 そう。俺はこのリリアベル特製の剣を振るったのだ。高純度グナディウム製の剣で。だというのに、骸骨は吹き飛びこそしたものの、まるで無傷だった。
 
 俺の疑問に答えるように、リュインは声を上げる。
 
「ある程度以上の位に達した精霊は、高位魔術でないと傷を負わせられないの! ど、どうしよう……! まさかあいつが、そこまで位を高めた精霊だったなんて……!」

「なんだそりゃ!?」
 
 相変わらずなに言っているのかわからねぇが、俺だとあの骸骨を倒せないということか!?
 
 俺の身体能力は、そんじょそこらのヒューマンを遥かに凌駕する。この剣にしても、銀河で上位に入る名剣だろう。
 
 最高の身体能力を以て、最強の剣を振り抜いたのだ。これで無傷というのなら、相手は不死身……まさにアンデッドだ。

 骸骨は怒りながらも、どこか警戒した様子で俺たちを観察している。
 
「たしかにただ者ではないようだが……! 私を傷つけることはできん! お前たち、この者たちを殲滅せよ!」
 
 骸骨の指示を受け、周囲の骸骨たちも武器を掲げる。どうやらさっきから唯一話している、杖持ち骸骨がリーダーのようだ。
 
「く……! まさかこいつら全員、攻撃が通じないのかよ……!?」

『マグナ、アハトの側まで下がれ』

「っ! 了解!」
 
 即座に高く舞い上がり、その場からアハトの側まで移動する。

 骸骨たちは俺たちを取り囲むように前に出てきた……が。アハトは両手を前に掲げた。
 
「……リリアベル、転送してください」
『ああ』
 
 次の瞬間。アハトは両腕にそれぞれ、ごっついガトリング砲を持っていた。

 いや本当にごっつい。全長が俺の身長以上あるぞ。砲身も長いし、銃口がいくつあるのかもわからねぇ。
 
 つかシグニールに銃の類ってなかったはずじゃ……? あれか。アハト専用武装ならいろいろ積んでいたのか。

 たしかに俺じゃ、あんなごっついガトリング砲なんて扱えないけどよ。
 
「なんだ、それは! ふはは……! お前たち、かかれ! 人間どもを討ち、あの〈フェルン〉を手に入れろ!」
 
 大量の武装骸骨どもが襲いかかってくる。こんな状況なのに、アハトは冷静に口を開いた。
 
「……〈クルシャス〉接続完了。ターゲット捕捉。敵、掃討します」
 
 周囲に轟雷が落ちたかのような音が響き渡る。すさまじい熱波と共に、アハトは両腕に持つ2つのガトリング砲〈クルシャス〉から、秒間何百発とも思える銃撃を放っていた。砲身からは無限とも思える閃光が迸る。
 
 銃弾の限界か、あるいは耐熱性の問題か。アハトがガトリングをぶっ放していたのはほんの数秒だ。しかしそのたった数秒で、目の前の景色は大きく変化していた。
 
 木々はちぎれ、視界が開けている。目の前に迫っていた骸骨どもは、すべて粉々に粉砕され、地に散らばっていた。無事なのは杖を持っていた骸骨だけだ。
 
 その骸骨にしても、身体に無数の銃弾を受けていた。太い樹の幹にもたれているが、手にしていた杖は砕け、服もバラバラに裂けている。
 
 物理攻撃を通さないはずの骨にも若干だが亀裂が見られ、眼孔の中は銃弾で埋め尽くされていた。

 というかよく見ると、いくつかあばら骨が折れているな。焼き焦げた匂いも鼻腔を刺激してくる。
 
「お……ご、お……!? な……なに……がぁ……!?」

『ふむ……まさか〈クルシャス〉をまともに受けて、まだ無事とはな。これは驚きだ』
 
 リュインも声が出ないという様子で、骸骨とアハトを見ていた。そのアハトが両腕を掲げると、ガトリング砲が姿を消す。
 
「やはりアンデッドには聖水か炎魔法、あるいは光魔法しか通じないのでしょうか」

「お、わかるわ~。お約束みたいなもんだしな」
 
 ゲームとかマンガのな! この星の骸骨がどうなのかはわからないが。
 
「どうするよ。一応、まったくのノーダメージというわけでもなさそうだし。他の武装でゴリ押しするか?」

『いや、できるだけ武装の消耗は抑えたい。それにたった今、計算が終了した』

「ん? なんの計算?」

『この未確認生物……生物? まぁいい。とにかく骨の倒し方についてだ。奴は物理攻撃を一切無効化できるというわけではなく、一定基準値を超えた運動エネルギーまでは無効化できていない』
 
 どうやらアハトの攻撃を受けて、リリアベルなりに攻略法を分析していたらしい。
 
『また骨の破損個所を見るに、熱耐性にも限界があるようだ。アレを倒す方法はいくつもあるが……アハトであれば強引に肉弾戦でも対処できるだろう』

「まじか」
 
 さすが帝国最高スペックを誇る戦闘用アンドロイドだな……。きっと剛腕にものいわせて、骨をボキボキ折っていくのだろう。
 
『ただし多少だが時間がかかる。手っ取り早く倒すには、先ほどお前に与えたフォトンブレイドで斬るのが一番だ』

「そうなの?」

『ああ。通常の剣では攻撃が効かなくとも、あれならなにも問題ない』
 
 俺は懐から金属筒を取り出すと、すこし腰を落とした。
 
『できれば捕えたいところではあるが……』

「勘弁してくれよ。しゃべる骸骨と同じ屋根の下でなんて、気味わるくて飯も美味しく食べられねぇって」
 
 金属筒の先端部から、ヴォンと青白い光の刀身が伸びる。そのまま一瞬で距離を詰めると、俺はためらいなく骸骨を斬り裂いた。
 
「お……おお……!? ば……ばか、な……!? 私の、身体がぁ……!?」

「十分生きただろ! 成仏しろって!」
 
 再度フォトンブレイドを横に振るう。頭蓋骨が宙を舞った。

 完全に動かなくなったのを確認し、実体のない刀身を収める。
 
「……ふう。たしかにこいつだと、あっさり斬ることができたな……」
 
 はじめから使っとけばよかった……! 

 まぁリリアベルからはあまり使うなと念を押されていたし。グナ剣で勝負がつくと思っていたから、仕方がないんだけど……!
 
「しかしこいつら。いったいなんだったんだ?」

『この星にはこういうモノが普通に生息しているのか? とても興味深い……』

「フ……初見だったので〈クルシャス〉を使用してしまいましたが。どうやらこの星光のアハトが本気を出すほどの相手でもなかったようですね」
 
 まぁたしかに。杖持ち以外は普通に物理攻撃が通じていたしな。

 結果論だが、ガトリング砲が必要な敵ではなかった。つかなに決めポーズとってんだ。無駄に様になっているし。
 
 だが敵意を持つ骸骨との戦いなんて初めてだったしな。俺の初撃が通じなかった上に魔法もあるし、敵の実力が測りにくいというのはあった。
 
「あ……あなたたち……。いったい何者なの……?」

「ん?」
 
 久しぶりに口を開いたリュインが驚愕の表情で俺たちを見ていた。
 
「精霊化を果たした骸をこれほど容易く……高位魔術もなしに……? いえ、アハトが二本の杖から放った攻撃は魔術? マグナの振るった剣は、伝説の聖剣……?」
 
 聖剣……! こりゃまたなんともいい響き……! じゃない、こっちも確認したいことが山盛りだ!
 
「言葉も通じるようになったし、ちょうどいい。リュイン、あらためて自己紹介をしようか。俺はグナ・レアディーン帝国の大将軍、マグナだ!」

「え……。て、ていこく……?」

「そしてわたしは、普段は目立たない病弱な令嬢。周囲からは疎まれ、学校でも浮いた存在なのですが。その正体はSSRの実力を持つ……」

「いや混乱させんなって」

『お前もな。なにが大将軍だ、一般兵Aの分際で』

「はぁ!? 艦長なんですけど!?」
 
 やいのやいのと騒いでいたが、名乗りを終えたところで俺たちはシグニール艦内へと戻ったのだった。
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