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1月
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「あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたしますわね」
先生とオリヴィアは同時に頭を下げた。それに対し、2人同時に笑い出す。
今日はいつものように小屋ではなく、町長の家の前での授業となった。新年が始まって1週間、王都への輸送も少なくなり、それに伴い宿泊客も減った。故にオリヴィアの正体が明るみになるリスクが低くなったと判断し、町長の家の前での授業が可能となったのだ。
「先生ー!」
町長の家の扉が開いて、木でできた臼を持ったエリンが出てきた。両手が塞がっているため、扉は足で開けている。その後ろから、杵を持った少女と底の深い器を持った町長も続いて出てきた。臼と杵、器は全て白い湯気が立ち昇っている。
「あぁ、ありがとう」
エリンは臼を地面に置いた。町長が臼の中に、器の中身を入れる。オリヴィアは上から、臼の中身を覗き込んだ。
そこには蒸したであろう米が入っており、オリヴィアの頬は湯気を浴びたことにより赤くなる。
「よし、始めようか。エリンちゃん」
「了解」
先生がしゃがみ込み、米の上に手を置いた。エリンは杵を振り上げ、そして振り下ろす。先生が固まっている米を内側に向けて折り返し、再びエリンが杵を振り下ろす。
これを何度も繰り返していく。オリヴィアは見たこともない光景に、好奇心が間欠泉のごとく爆発した。
「こ、これはなんですの?それお米ですわよね?」
「あー、ただのお米じゃないんだ。一般的に食べられてるのはうるち米、これは餅米」
先生は合いの手を入れながら答える。
「ごめん、誰かお湯を」
「あぁ、私がやろう」
町長は先生の頼みを受諾して、家に戻った。
「餅米……?」
「新年だからね、お餅を食べようと思って。お餅を作るのに必要なのが、この餅米。この国では認知されてなくて、うるち米みたいに輸入されてないから、入手に手間取ったよ」
「ダメ元でお得意様の貿易会社の人に頼んだら、輸入してくれたん、だ!」
エリンが餅米をつきながら言った。
町長が家から出てきて、持ってきたバケツを先生の足元に置く。バケツからは湯気が立ち昇り、その温度を表していた。
先生はお湯に手をつけて、合いの手を再開した。
「日本は新年によく餅を食べるんだ、だからせっかくだしどうかなって。異文化交流になるから」
「なるほど……」
「今回はきな粉餅にしようと思う。煎った大豆をすりつぶしたものを、餅にまぶして食べるんだ」
「味の想像がつきませんわ……!」
「うわっ、」
エリンが杵を振り上げながら声を出した。
「すごい、めっちゃ伸びてる」
杵に餅がくっついて、上空に伸びている。それを見て、オリヴィアは目を輝かせた。
「おぉ……!すごいですわ!」
「うん、こんなものかな。町長、お皿ときな粉をお願いします」
「もう用意してあるとも」
町長は1度家に戻り、出てきたときにはトレイに小皿と器の深い皿を乗せて出てきた。深い皿にはきな粉が入っている。
エリンは杵を置いて、代わりにトングを手に取った。町長から小皿を受け取り、餅を千切ってきな粉をまぶし、皿に乗せていく。
「はい、オリヴィア。トップバッター」
「え、えぇ……」
オリヴィアはゴクリと喉を鳴らし、皿を受け取る。そして渡されたフォークで餅を刺し、口に含んだ。
「んん!?」
オリヴィアはフォークを口から離す。しかし餅は離れず、ただ伸びるだけである。
「んー!!」
オリヴィアは苦戦しつつも、結局餅を噛み切った。もぐもぐと真顔で口を動かし、溜飲する。
「…………………………」
「オリヴィアちゃん?」
オリヴィアは固まっていた。口内に広がる甘い味わいと、温かい餅のモチモチとした食感。初めての感覚に、オリヴィアは身体に雷が落ちたような衝撃を受けたのである。
「……うんっまいですわ!!!」
オリヴィアが叫ぶ。それを皮切りに、その場にいた全員が餅を口に含んだ。
「すごっ、伸びる、食べにくっ」
「あー、懐かしいなぁこの素朴な味」
先生は懐かしむように目を細める。
「これ、テントの名物にできませんの?」
「あー、それありだわ」
オリヴィアの発案に、エリンが賛同した。
「お得意様に継続発注できたりしない?」
「そうだね、考えてみるよ」
町長がそう言ったとき、遠くから子どもたちが走ってきた。皆一様に、円錐状の物体を持っている。
「姫様!コマ遊びしよ!」
「コマ?」
「これー!」
オリヴィアは腰を折り曲げて、子どもたちと目線を合わせる。子どもたちは円錐状の物体を顔の横に掲げた。
「日本のおもちゃだよ。回して遊ぶんだ」
「僕得意だよ!」
少年がコマに縄をぐるぐると巻きつけて、紐の端を持った状態でコマを地面に勢いよく放り投げた。するとコマは高速に回転し、回り続ける。
「面白いですわ!私にもやらせてくださいまし!」
「いいよ、貸してあげる!僕のスーパーウルトラ宇宙コマ2号をね!」
オリヴィアはその後しばらく、子どもたちとコマで遊んだ。
帰り道を、久しぶりに先生とオリヴィアは並んで歩いていた。空は赤く染まり、夜の訪れを予告している。
「後2回、ですわね」
冷たい空気のせいか、オリヴィアは寂しさが込み上げてきた。残りの授業は2回しかないのだ。
「僕はこんな……授業と言えるような授業をできないんだけど、どうかな」
「楽しいですわ。先生のおかげて、私成長できましたのよ」
「……そっか」
先生は嬉しそうに微笑んだ。
「後2回、よろしくお願いいたしますわね」
願わくば、その後も。その言葉は、オリヴィアの口から出ることはなかった。
1月7日 晴れ
今日はお餅を食べました。お餅とは餅米という種類の米から作られているそうで、私達が普段口にしてるものとは違うそうです。一般的に普及しているものをうるち米と言うらしいです。お餅はとても伸びて、食べるのが大変でしたが、大変美味しかったです。
また、子どもたちとコマというおもちゃで遊びました。かなり難易度が高く、私は何度も失敗してようやく回せるようになりました。エリンはすぐに回せるようになっていて、器用さが伺えました。独特な形状で、つい1つもらってきてしまいました。
残りの授業は残り2回、1回1回を大事にしていきたいです。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたしますわね」
先生とオリヴィアは同時に頭を下げた。それに対し、2人同時に笑い出す。
今日はいつものように小屋ではなく、町長の家の前での授業となった。新年が始まって1週間、王都への輸送も少なくなり、それに伴い宿泊客も減った。故にオリヴィアの正体が明るみになるリスクが低くなったと判断し、町長の家の前での授業が可能となったのだ。
「先生ー!」
町長の家の扉が開いて、木でできた臼を持ったエリンが出てきた。両手が塞がっているため、扉は足で開けている。その後ろから、杵を持った少女と底の深い器を持った町長も続いて出てきた。臼と杵、器は全て白い湯気が立ち昇っている。
「あぁ、ありがとう」
エリンは臼を地面に置いた。町長が臼の中に、器の中身を入れる。オリヴィアは上から、臼の中身を覗き込んだ。
そこには蒸したであろう米が入っており、オリヴィアの頬は湯気を浴びたことにより赤くなる。
「よし、始めようか。エリンちゃん」
「了解」
先生がしゃがみ込み、米の上に手を置いた。エリンは杵を振り上げ、そして振り下ろす。先生が固まっている米を内側に向けて折り返し、再びエリンが杵を振り下ろす。
これを何度も繰り返していく。オリヴィアは見たこともない光景に、好奇心が間欠泉のごとく爆発した。
「こ、これはなんですの?それお米ですわよね?」
「あー、ただのお米じゃないんだ。一般的に食べられてるのはうるち米、これは餅米」
先生は合いの手を入れながら答える。
「ごめん、誰かお湯を」
「あぁ、私がやろう」
町長は先生の頼みを受諾して、家に戻った。
「餅米……?」
「新年だからね、お餅を食べようと思って。お餅を作るのに必要なのが、この餅米。この国では認知されてなくて、うるち米みたいに輸入されてないから、入手に手間取ったよ」
「ダメ元でお得意様の貿易会社の人に頼んだら、輸入してくれたん、だ!」
エリンが餅米をつきながら言った。
町長が家から出てきて、持ってきたバケツを先生の足元に置く。バケツからは湯気が立ち昇り、その温度を表していた。
先生はお湯に手をつけて、合いの手を再開した。
「日本は新年によく餅を食べるんだ、だからせっかくだしどうかなって。異文化交流になるから」
「なるほど……」
「今回はきな粉餅にしようと思う。煎った大豆をすりつぶしたものを、餅にまぶして食べるんだ」
「味の想像がつきませんわ……!」
「うわっ、」
エリンが杵を振り上げながら声を出した。
「すごい、めっちゃ伸びてる」
杵に餅がくっついて、上空に伸びている。それを見て、オリヴィアは目を輝かせた。
「おぉ……!すごいですわ!」
「うん、こんなものかな。町長、お皿ときな粉をお願いします」
「もう用意してあるとも」
町長は1度家に戻り、出てきたときにはトレイに小皿と器の深い皿を乗せて出てきた。深い皿にはきな粉が入っている。
エリンは杵を置いて、代わりにトングを手に取った。町長から小皿を受け取り、餅を千切ってきな粉をまぶし、皿に乗せていく。
「はい、オリヴィア。トップバッター」
「え、えぇ……」
オリヴィアはゴクリと喉を鳴らし、皿を受け取る。そして渡されたフォークで餅を刺し、口に含んだ。
「んん!?」
オリヴィアはフォークを口から離す。しかし餅は離れず、ただ伸びるだけである。
「んー!!」
オリヴィアは苦戦しつつも、結局餅を噛み切った。もぐもぐと真顔で口を動かし、溜飲する。
「…………………………」
「オリヴィアちゃん?」
オリヴィアは固まっていた。口内に広がる甘い味わいと、温かい餅のモチモチとした食感。初めての感覚に、オリヴィアは身体に雷が落ちたような衝撃を受けたのである。
「……うんっまいですわ!!!」
オリヴィアが叫ぶ。それを皮切りに、その場にいた全員が餅を口に含んだ。
「すごっ、伸びる、食べにくっ」
「あー、懐かしいなぁこの素朴な味」
先生は懐かしむように目を細める。
「これ、テントの名物にできませんの?」
「あー、それありだわ」
オリヴィアの発案に、エリンが賛同した。
「お得意様に継続発注できたりしない?」
「そうだね、考えてみるよ」
町長がそう言ったとき、遠くから子どもたちが走ってきた。皆一様に、円錐状の物体を持っている。
「姫様!コマ遊びしよ!」
「コマ?」
「これー!」
オリヴィアは腰を折り曲げて、子どもたちと目線を合わせる。子どもたちは円錐状の物体を顔の横に掲げた。
「日本のおもちゃだよ。回して遊ぶんだ」
「僕得意だよ!」
少年がコマに縄をぐるぐると巻きつけて、紐の端を持った状態でコマを地面に勢いよく放り投げた。するとコマは高速に回転し、回り続ける。
「面白いですわ!私にもやらせてくださいまし!」
「いいよ、貸してあげる!僕のスーパーウルトラ宇宙コマ2号をね!」
オリヴィアはその後しばらく、子どもたちとコマで遊んだ。
帰り道を、久しぶりに先生とオリヴィアは並んで歩いていた。空は赤く染まり、夜の訪れを予告している。
「後2回、ですわね」
冷たい空気のせいか、オリヴィアは寂しさが込み上げてきた。残りの授業は2回しかないのだ。
「僕はこんな……授業と言えるような授業をできないんだけど、どうかな」
「楽しいですわ。先生のおかげて、私成長できましたのよ」
「……そっか」
先生は嬉しそうに微笑んだ。
「後2回、よろしくお願いいたしますわね」
願わくば、その後も。その言葉は、オリヴィアの口から出ることはなかった。
1月7日 晴れ
今日はお餅を食べました。お餅とは餅米という種類の米から作られているそうで、私達が普段口にしてるものとは違うそうです。一般的に普及しているものをうるち米と言うらしいです。お餅はとても伸びて、食べるのが大変でしたが、大変美味しかったです。
また、子どもたちとコマというおもちゃで遊びました。かなり難易度が高く、私は何度も失敗してようやく回せるようになりました。エリンはすぐに回せるようになっていて、器用さが伺えました。独特な形状で、つい1つもらってきてしまいました。
残りの授業は残り2回、1回1回を大事にしていきたいです。
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