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第二章
02
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「シラ様、リク。何かねぇ、悪いことをした人が牢屋に入れられたんだってー」
図書館から部屋へ戻ろうと、歩みを揃えて廊下を渡っていた時だった。
少しだけ首を傾げ、自分が口にした内容の意味を理解していなさそうなハルから報告を受ける。
嘘でしょ、信じられない。城門を開けっ放しでも大丈夫なこの平和な国に、悪事を働く人物が現れたなんて。
眉間にしわが寄った表情のまま、統治する者と顔を見合わせる。
「六耀、私と共に来てくれ」
「あ、うんっ」
険しい面持ちで前を歩き出した背中に従おう。向かうは地下牢へ。
所々苔が生えている薄暗い階段を降りるごとに、ざわざわと聞こえてくる多くの声達。
現場となっている牢屋の前に辿り着くには、人々を掻き分けなければいけないほど。
皆、野次馬だなぁ。悪人が物珍しいから見に来たくなる気持ちは分かるけれど、危険を伴うんじゃないの? との考えを持ちながら、注目の的に視線を向けると、
「げっ……」
どうやら、誰よりも危険を被るのは僕のようだ。
「お前ら、何見てるんだよ! あぁ!?」
手の甲の血管が浮き出るほどに強く鉄格子を揺らし、こちらを睨みつけていたのは――忘れたくてもなかなか記憶から消えてくれない白髪だったんだ。
「いやーね。言葉が汚いわ」
「本当。目付きも悪いし、あからさまに罪人って言う顔をしてるわよね」
ひそひそと囁く野次馬達の会話に、思わず頷いちゃうな。
うんうん、その気持ちはよく分かるよ。この人は過去には通り魔にもなったことがあるしね。
「こんな所に入れやがって! 俺の話を聞けよっ。さもないと……!」
多くの意見に納得している最中、突如火の玉が人だかりの頭上に生まれる。
が、それは形成されると同時に姿を消した。何故かって? 僕が全く同じ呪文を反対方向からぶつけて、相殺させたんだよ。
全く、もう。火系初級呪文で威嚇するとは、本当に困った人だな。
魔術師にとっては初級中の初級と言える魔法でも、一般人には恐怖以外の何物でもないんだから早めに消火しておかなきゃね。
ざわっと聞こえた驚きの声々と共に、群集の視線がこちらに集中するのが分かった。
それに伴い、見つかりたくない人にまで見つかっちゃったんだけど。
「あっ。お前は、妖華の弟子である六耀! おい、ここから出せよ!」
有難いことにご丁寧な説明をしながらも、ちゃっかり要求はするんだね。
「不知火、この白髪は力を持った魔術師なんだ。感情的になると今みたいに皆に危害を加えるかもしれない。ここは僕が話を聞いてみるから、外で待っていてもらえないかな?」
どうして、以前自分を襲ってきた人間の弁護人を務めなければいけないんだ? でも、放っておく訳にはいかないだろうし。
はぁ……、思わず溜息が出てしまうね。
「おいおい、溜息をつくなよ」
溢れ返っていた人ごみも国王の命令には逆らえず、波が引いた時に聞こえた声。
「春雨、君がそうさせてるんだよ」
「誰が春雨なんだ。俺は時雨だ!」
あれ。春雨、じゃなくて時雨だったのか。
それにしても、ぎゃんぎゃんと騒ぐ彼に思わず耳を塞ぎたくなる。
「それで? どうしてこんな所にいるの?」
「お前に話すつもりはない!」
「そっか。じゃあ、僕はこれで……」
理由も言わずに『出せ』とだけの要求なんて、聞けるはずがないじゃないか。
潔く立ち去る真似をしてみると、慌てた声が引き止めてきた。
「ちょっ……、待て! 一回しか言わないから、よーく聞けよ!? 雷晶の気配を感じてここに辿り着いたのはいいが、住民達に異端者を見るような目で見られたんだ。あまりにじろじろと見られて不愉快だったから、つい突っかかったところここにぶち込まれた訳だ」
「うん、一回聞くだけで充分なお話だったね。要約すると、無言の喧嘩を売られたから買ったんだ」
なるほどねぇ。
僕もこの国に着いた時には、住民達から凝視されたもんね。お姫様に似ているからとの理由もあったんだろうけれど。
だけど、彼の一件で一つの欠点が見えた。
どうやらこの国は、少しでも波長の合わない余所者を徹底的に排除したがる傾向があるようだね。
「きっと、時雨はこの雷晶の力を感じたんじゃないのかな?」
言いつつ、妖華から託された欠片を見せる。
すると、一瞬だけ青い目を見開いて、その後で肩をがくりと落とした。
「なんだ……。確かにそれがあれば俺の雷晶の欠けた部分は埋まるけど、欲しかったのはもう半分だったのに……」
よほど落胆したのか鉄格子を力なく握り、うな垂れたまま、ぼそぼそと呟くんだ。
「いっそのこと牢獄ごと吹っ飛ばして逃走しようかと思ったんだけど、ここで魔法を放つと瓦礫に飲み込まれそうで」
「君は力加減と言う言葉を知らないの?」
「そもそも、胸倉を掴んだだけで手は出してないんだ。それだけでこんなところにぶち込むか? 何時間拘束するつもりなんだよ」
怒りを混ぜた声と共に、地下牢に響いたキューン……と切なそうな音。
「……お腹空いてるの?」
僕の問いかけに、ただ一つこくりと頷く。
通り魔に同情したくないけれど、飢えの苦しみと寂しさは痛いくらいに知っているから。
本当は救いたくない人物のためであっても、外で待っている不知火にこう声を掛けるんだ。
「彼を解放してあげてくれないかな? でないと、お城ごと破壊されてしまうかもしれないしね」
図書館から部屋へ戻ろうと、歩みを揃えて廊下を渡っていた時だった。
少しだけ首を傾げ、自分が口にした内容の意味を理解していなさそうなハルから報告を受ける。
嘘でしょ、信じられない。城門を開けっ放しでも大丈夫なこの平和な国に、悪事を働く人物が現れたなんて。
眉間にしわが寄った表情のまま、統治する者と顔を見合わせる。
「六耀、私と共に来てくれ」
「あ、うんっ」
険しい面持ちで前を歩き出した背中に従おう。向かうは地下牢へ。
所々苔が生えている薄暗い階段を降りるごとに、ざわざわと聞こえてくる多くの声達。
現場となっている牢屋の前に辿り着くには、人々を掻き分けなければいけないほど。
皆、野次馬だなぁ。悪人が物珍しいから見に来たくなる気持ちは分かるけれど、危険を伴うんじゃないの? との考えを持ちながら、注目の的に視線を向けると、
「げっ……」
どうやら、誰よりも危険を被るのは僕のようだ。
「お前ら、何見てるんだよ! あぁ!?」
手の甲の血管が浮き出るほどに強く鉄格子を揺らし、こちらを睨みつけていたのは――忘れたくてもなかなか記憶から消えてくれない白髪だったんだ。
「いやーね。言葉が汚いわ」
「本当。目付きも悪いし、あからさまに罪人って言う顔をしてるわよね」
ひそひそと囁く野次馬達の会話に、思わず頷いちゃうな。
うんうん、その気持ちはよく分かるよ。この人は過去には通り魔にもなったことがあるしね。
「こんな所に入れやがって! 俺の話を聞けよっ。さもないと……!」
多くの意見に納得している最中、突如火の玉が人だかりの頭上に生まれる。
が、それは形成されると同時に姿を消した。何故かって? 僕が全く同じ呪文を反対方向からぶつけて、相殺させたんだよ。
全く、もう。火系初級呪文で威嚇するとは、本当に困った人だな。
魔術師にとっては初級中の初級と言える魔法でも、一般人には恐怖以外の何物でもないんだから早めに消火しておかなきゃね。
ざわっと聞こえた驚きの声々と共に、群集の視線がこちらに集中するのが分かった。
それに伴い、見つかりたくない人にまで見つかっちゃったんだけど。
「あっ。お前は、妖華の弟子である六耀! おい、ここから出せよ!」
有難いことにご丁寧な説明をしながらも、ちゃっかり要求はするんだね。
「不知火、この白髪は力を持った魔術師なんだ。感情的になると今みたいに皆に危害を加えるかもしれない。ここは僕が話を聞いてみるから、外で待っていてもらえないかな?」
どうして、以前自分を襲ってきた人間の弁護人を務めなければいけないんだ? でも、放っておく訳にはいかないだろうし。
はぁ……、思わず溜息が出てしまうね。
「おいおい、溜息をつくなよ」
溢れ返っていた人ごみも国王の命令には逆らえず、波が引いた時に聞こえた声。
「春雨、君がそうさせてるんだよ」
「誰が春雨なんだ。俺は時雨だ!」
あれ。春雨、じゃなくて時雨だったのか。
それにしても、ぎゃんぎゃんと騒ぐ彼に思わず耳を塞ぎたくなる。
「それで? どうしてこんな所にいるの?」
「お前に話すつもりはない!」
「そっか。じゃあ、僕はこれで……」
理由も言わずに『出せ』とだけの要求なんて、聞けるはずがないじゃないか。
潔く立ち去る真似をしてみると、慌てた声が引き止めてきた。
「ちょっ……、待て! 一回しか言わないから、よーく聞けよ!? 雷晶の気配を感じてここに辿り着いたのはいいが、住民達に異端者を見るような目で見られたんだ。あまりにじろじろと見られて不愉快だったから、つい突っかかったところここにぶち込まれた訳だ」
「うん、一回聞くだけで充分なお話だったね。要約すると、無言の喧嘩を売られたから買ったんだ」
なるほどねぇ。
僕もこの国に着いた時には、住民達から凝視されたもんね。お姫様に似ているからとの理由もあったんだろうけれど。
だけど、彼の一件で一つの欠点が見えた。
どうやらこの国は、少しでも波長の合わない余所者を徹底的に排除したがる傾向があるようだね。
「きっと、時雨はこの雷晶の力を感じたんじゃないのかな?」
言いつつ、妖華から託された欠片を見せる。
すると、一瞬だけ青い目を見開いて、その後で肩をがくりと落とした。
「なんだ……。確かにそれがあれば俺の雷晶の欠けた部分は埋まるけど、欲しかったのはもう半分だったのに……」
よほど落胆したのか鉄格子を力なく握り、うな垂れたまま、ぼそぼそと呟くんだ。
「いっそのこと牢獄ごと吹っ飛ばして逃走しようかと思ったんだけど、ここで魔法を放つと瓦礫に飲み込まれそうで」
「君は力加減と言う言葉を知らないの?」
「そもそも、胸倉を掴んだだけで手は出してないんだ。それだけでこんなところにぶち込むか? 何時間拘束するつもりなんだよ」
怒りを混ぜた声と共に、地下牢に響いたキューン……と切なそうな音。
「……お腹空いてるの?」
僕の問いかけに、ただ一つこくりと頷く。
通り魔に同情したくないけれど、飢えの苦しみと寂しさは痛いくらいに知っているから。
本当は救いたくない人物のためであっても、外で待っている不知火にこう声を掛けるんだ。
「彼を解放してあげてくれないかな? でないと、お城ごと破壊されてしまうかもしれないしね」
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