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第四章
06
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「これで役者は揃ったな」
大きな声で騒ぎ立てる時雨に気を取られていると、不知火はそう呟いた。
口元には冷たく、今までにも増して冷徹さを象徴した笑みを浮かべている。
「六耀を桜として愛すると決めた時から、台本をまたも大きく書き換えたんだ。君は私と一緒になり、妖華は喪失感を味わうだろう。そして、あの白髪の青年はどうやら邪魔者のようだから、春雷の手で死んでもらうよ」
そろそろ終幕だろうと思って話を聞いていたけれど、この人は有り得ないことばかりを口にして楽しいね。
僕まで発狂して、大きな声で笑い出してしまいそうだ。
「ハルに時雨を殺せる訳がないだろ? 僕にだって出来ないのに、何の力も持たないハルが……」
ここまで言い掛けて、胸を掠めた物凄く嫌な予感。
さっき、不知火はハルに何をしたと言っていた? 雷晶を、その小さな身体に――
「気付いたようだな。雷晶を体内に宿す春雷は、どの魔術師よりもはるかに力を持った兵器になるんだよ」
誇らしげな不知火の高笑いが響き渡り、僕を押しのけて窓から階下にいるハルに声を掛ける。
「春雷! お前は私の言うことを聞ける、良い子だな?」
「あっ、シラ様だ。うん、ハルはねー、おりこうさんだからシラ様の言うことを何でも聞くよ!」
やめろ。悪魔にあどけない笑顔を見せると君が……!
制止を促したいのに、首を左右に振るだけで、声は形になってくれない。
「そうか。だったら、お前の中に眠る力を解放して、目障りな存在を消しておくれ」
黒い魔物に心を喰われた男が指を鳴らした直後、大切な幼馴染は一つ悲鳴をあげて、それは徐々に大きなうめき声に変わっていく。
「うぁ……ああっ……!」
声に反応して、空気も大地をも揺るがすほどの大きな魔力が動き出す。
ハルは無邪気な子供になっているから、慕っている不知火に褒められて、好かれたかっただけなのに。
「どうだい? 春雷の中に眠る雷晶の力を、合図すれば解放する仕組みにしておいたんだ」
「止めろ……。ハルを止めろっ! 魔力を持たない人間が、雷晶の力に耐えられるはずがないじゃないか!」
誇らしげに笑う王の胸倉を掴み、必死に懇願するも通じそうにはない。
「白髪の彼を始末したらすぐに春雷を止めよう。もしくは、彼が君の親友を殺して暴走を止めるかもしれないが。どちらにしろ、不必要な二人が消えたところで私には同じ結果だ」
僕にとっては同じじゃない。どちらを失うのも絶対に嫌だ……!
更に大きくなるハルの悲鳴に比例して、巨大な力は地鳴りを響かせ、真っ黒い雲を生み出して大雨を降らせ始める。
世界が光り、落ちた稲妻は一瞬で森を燃やし消してしまった。
目の前で広がっている光景は、嵐としか言いようがない。
異常な魔力をもちろん感じ取った時雨はハルから少し離れているけれど、一体何があったのかさっぱり理解出来ていない表情をしている。
もたもたしているとハルの命が危ない。こうなったら……、賭けるしかない。
「不知火、あなたが仕組んだ罠は思わぬ展開で終わらせるよ。この僕が!」
愛を失ったが故に悲しい道へと走ってしまった人を突き飛ばし、吐くように言葉を投げて走り出す。
急に厚い雲に覆われた空と、間近で感じる雷に不安を抱いて集まっている城内の人達を掻き分けて。
痛いほどに感じる力を発揮している雷晶に怯むことなく、ハルの傍まで。
「ハル!」
大きな声で名前を呼ぶと、助けを求める死神のような顔をこちらに向けた。
女の子らしくて可愛い表情を、そんな風にさせているのは……僕と出会ってしまったからだよね。ごめんなさい。
一歩ずつ、確実に。幼馴染の傍へ寄ろうとした後ろ手を引っ張られた。
「行くな。今の春雷は、あまりにも危険だ!」
時雨、君はいつもこうして制止を促すんだね。
ちゃんと分かっているよ。それは、僕のことを本当に心配してくれているからだってことは。
「僕らがずっと探し求めていた残りの雷晶は、ハルの身体の中に埋め込まれているんだって」
「はぁっ!? ……いや、そう考えれば、暴走してる巨大な魔力についても納得出来るか。でも……」
言い掛けてやめた発言の続きは分かっている。
「でも、あのままだと春雷を殺す以外に止める術はないぞ」でしょう?
だけど、時雨にもハルには手を出させはしない。彼女を助けるのは、僕の役目であり償いだと思うから。
「えっ……、ちょっ、待て! 六耀!」
掴まれた手を振り払い、真っ直ぐに走り出す。もう後ろを振り返ることは出来ない。後悔も雑念も無い。
ただ、見つめる先には青白い稲妻に操られている人だけ。
大きな声で騒ぎ立てる時雨に気を取られていると、不知火はそう呟いた。
口元には冷たく、今までにも増して冷徹さを象徴した笑みを浮かべている。
「六耀を桜として愛すると決めた時から、台本をまたも大きく書き換えたんだ。君は私と一緒になり、妖華は喪失感を味わうだろう。そして、あの白髪の青年はどうやら邪魔者のようだから、春雷の手で死んでもらうよ」
そろそろ終幕だろうと思って話を聞いていたけれど、この人は有り得ないことばかりを口にして楽しいね。
僕まで発狂して、大きな声で笑い出してしまいそうだ。
「ハルに時雨を殺せる訳がないだろ? 僕にだって出来ないのに、何の力も持たないハルが……」
ここまで言い掛けて、胸を掠めた物凄く嫌な予感。
さっき、不知火はハルに何をしたと言っていた? 雷晶を、その小さな身体に――
「気付いたようだな。雷晶を体内に宿す春雷は、どの魔術師よりもはるかに力を持った兵器になるんだよ」
誇らしげな不知火の高笑いが響き渡り、僕を押しのけて窓から階下にいるハルに声を掛ける。
「春雷! お前は私の言うことを聞ける、良い子だな?」
「あっ、シラ様だ。うん、ハルはねー、おりこうさんだからシラ様の言うことを何でも聞くよ!」
やめろ。悪魔にあどけない笑顔を見せると君が……!
制止を促したいのに、首を左右に振るだけで、声は形になってくれない。
「そうか。だったら、お前の中に眠る力を解放して、目障りな存在を消しておくれ」
黒い魔物に心を喰われた男が指を鳴らした直後、大切な幼馴染は一つ悲鳴をあげて、それは徐々に大きなうめき声に変わっていく。
「うぁ……ああっ……!」
声に反応して、空気も大地をも揺るがすほどの大きな魔力が動き出す。
ハルは無邪気な子供になっているから、慕っている不知火に褒められて、好かれたかっただけなのに。
「どうだい? 春雷の中に眠る雷晶の力を、合図すれば解放する仕組みにしておいたんだ」
「止めろ……。ハルを止めろっ! 魔力を持たない人間が、雷晶の力に耐えられるはずがないじゃないか!」
誇らしげに笑う王の胸倉を掴み、必死に懇願するも通じそうにはない。
「白髪の彼を始末したらすぐに春雷を止めよう。もしくは、彼が君の親友を殺して暴走を止めるかもしれないが。どちらにしろ、不必要な二人が消えたところで私には同じ結果だ」
僕にとっては同じじゃない。どちらを失うのも絶対に嫌だ……!
更に大きくなるハルの悲鳴に比例して、巨大な力は地鳴りを響かせ、真っ黒い雲を生み出して大雨を降らせ始める。
世界が光り、落ちた稲妻は一瞬で森を燃やし消してしまった。
目の前で広がっている光景は、嵐としか言いようがない。
異常な魔力をもちろん感じ取った時雨はハルから少し離れているけれど、一体何があったのかさっぱり理解出来ていない表情をしている。
もたもたしているとハルの命が危ない。こうなったら……、賭けるしかない。
「不知火、あなたが仕組んだ罠は思わぬ展開で終わらせるよ。この僕が!」
愛を失ったが故に悲しい道へと走ってしまった人を突き飛ばし、吐くように言葉を投げて走り出す。
急に厚い雲に覆われた空と、間近で感じる雷に不安を抱いて集まっている城内の人達を掻き分けて。
痛いほどに感じる力を発揮している雷晶に怯むことなく、ハルの傍まで。
「ハル!」
大きな声で名前を呼ぶと、助けを求める死神のような顔をこちらに向けた。
女の子らしくて可愛い表情を、そんな風にさせているのは……僕と出会ってしまったからだよね。ごめんなさい。
一歩ずつ、確実に。幼馴染の傍へ寄ろうとした後ろ手を引っ張られた。
「行くな。今の春雷は、あまりにも危険だ!」
時雨、君はいつもこうして制止を促すんだね。
ちゃんと分かっているよ。それは、僕のことを本当に心配してくれているからだってことは。
「僕らがずっと探し求めていた残りの雷晶は、ハルの身体の中に埋め込まれているんだって」
「はぁっ!? ……いや、そう考えれば、暴走してる巨大な魔力についても納得出来るか。でも……」
言い掛けてやめた発言の続きは分かっている。
「でも、あのままだと春雷を殺す以外に止める術はないぞ」でしょう?
だけど、時雨にもハルには手を出させはしない。彼女を助けるのは、僕の役目であり償いだと思うから。
「えっ……、ちょっ、待て! 六耀!」
掴まれた手を振り払い、真っ直ぐに走り出す。もう後ろを振り返ることは出来ない。後悔も雑念も無い。
ただ、見つめる先には青白い稲妻に操られている人だけ。
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