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02ー異世界ニルヤ
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「食べる? こんなものでよければ、だけど」
「あ……ありがとう」
トラックの荷台に、無造作に置いてあった木の空き箱。その上に腰かけた俺は、フェイの差し出してくれた食べ物を受け取った。黒くて四角いぶよぶよした物体と、大きさも色もりんごみたいな丸い果物。それからアルミのパウチ。
俺に食べ物を渡すと、フェイはさっさと俺の対面に移動した。椅子を使わず、荷台の床に直接腰を下ろす。黒くて四角い食べ物の包みを開けるとさっそく頬張り、アルミのパウチを開けてストローから水分を吸い出している。
どうやら仕事に対して真面目で、無駄口を嫌うタイプのフェイ。フェイは優しいんだかそっけないんだか、まだよくわからないところがある。二人きりの時間は、まだすこし気まずい。でも、安全な場所に移動するとすぐに拘束衣のベルトを解いてくれたのはフェイだ。それから夜になって気温が下がってきたからか、トラックの荷台に無造作に置いてあった毛布を俺の体にかけてくれたのも。一見そっけないように見せかけて、実は優しい成分多めなんだと信じたい。
見ず知らずの土地で差し出された食べ物を口にするのはやや気が引けたけれど、命がけのカーチェイスで心身が摩耗した。空腹を訴えてきゅう、とお腹が鳴る。フェイは平気な顔をして食べているから、人体に害はないものだろう、たぶん。せっかく好意で食べ物を恵んでくれたのに。見ず知らずの場所で目を覚まして、わけのわからないうちにカーチェイスに巻き込まれて、いまもまだ、詳しい事情をいっさい把握できていないせいで、つい思考が警戒を強めてしまう。
俺は黒い物体を包む透明なラップをはがして、おそるおそる端を噛む。……うん、おいしい。中身がみっしり詰まった蒸しパンみたいな食感だ。そしてほんのり甘い。果物もかじってみる。洋梨みたいなねっとりとした質感で、香りのいい果汁が喉を潤してくれた。アルミパウチの中身は普通の水だった。食べ物は口に合うみたいだ。まずはそのことにほっとする。
「さっきはすまなかった」
早々に食事を終えたフェイが謝罪する。あれ、なにについて謝っているんだろう。謝罪の理由がわからず、俺はきょとんとしてしまった。
「ハイウェイで、きみを守れなかった」
フェイの謝罪の理由がわかった。俺たちは相手の車両に追いつかれ、決死のカーチェイスの最中に危険な目に遭わされた。それはハンドルを握っていた自分の落ち度なのだと責任を感じて、フェイはくやしそうに唇を噛んでいる。
「そんな。あんな速さで危険運転をさせられて。高速道路から振り落とされなかっただけで上出来ですよ」
俺がなぐさめるのにも、フェイは首を横に振る。
「助けてくれてありがとう。逃げきれたのはきみのおかげだ」
謝罪のあとで、お礼まで言われた。
「いえ……。そんな、お礼を言われるようなことはなにもしていない、です」
「……敬語」
突然、フェイが顔をしかめる。
「え?」
「そんな、かしこまった話し方をしないで。俺たちだってそうしてるんだから、釣り合わないだろ」
見た目の印象から、フェイは俺とそう変わらないくらいの年齢に見える。フェイよりはアッシュのほうがすこしだけ年上かもしれない。二人がこだわらないのなら、慇懃な口調を貫くのは他人行儀が過ぎるというものだろう。
「ああ、はい。じゃなくて、うん、わかった」
俺がくだけた口調になると、フェイは納得したようにうなずく。
――いまかすかに笑った……よな? 美形がほほえむと、きれいすぎて男でも思わずどきりとしてしまう。
一般道に投げ出されたあと、我に返ったフェイとアッシュが教えてくれた。
俺たちは暴走トラックを振り切り、経済特区へと瞬間移動したらしい。それは「シュニャ」である俺が、空間移転の力を発揮したからだそうだ。
経済特区に入ってから、ちょっとしたトラブルがあった。
「……IDが認証されない」
中心部にある市庁舎まえ。ゲートの読み取り機に通行証をかざしていたフェイが、むすっとした顔で運転席に戻ってきた。手違いがあったようで、通行証のIDがなぜか無効になっていたのだ。
「ありゃりゃ、市の職員さんが登録をミスっちゃったのかな?」
「おそらくそうだろう。あいつらの仕事ぶりはずさんだから」
「そうか。じゃあ今夜じゅうにジャヒバルに会うのは無理か」
ハンドルにもたれて、フェイがはあーっと深いため息をついたのが、アッシュへの返事代わりになった。
本当なら俺は今夜、この都市の都市長――ジャヒバル・ティダイリ氏に面会予定だった。そのために俺は監獄要塞と呼ばれる刑務所から、フェイとアッシュによって秘密裏に連れ出されたのだった。
ちなみに俺の収監されていた刑務所は何重もの警備システムが張り巡らされた、人工貯水槽の海に浮かぶ陸の孤島だ。普段は閉じている吊り橋の連絡通路がつながったときにしか本土と行き来できない。孤立した絶対不可侵の監獄であることが、監獄要塞という名前の由縁になっている。脱獄は絶対に不可能なため、重罪犯ばかりが収監されているのだとか。俺がいたのは独房らしいけれど、おそろしい犯罪者がひしめく場所に収監されていたのだと考えると、背中がぞっとする。
この町では規則が絶対らしい。この時間、もう役所は閉まっている。ほかにジャヒバル氏に取り次ぎを頼む手段がないので、俺たちは翌朝まで待ってから再度、通行証の申請を行うことにした。
あのトラックに乗っていたやつらが経済特区に入ってこないとも限らない。追っ手を警戒して、いまはモーテルの地下駐車場に身を潜めている。宿の部屋にはだれも泊まらない。なにかあったらすぐ逃げ出せるよう、俺たちは今晩、トラックの荷台で夜を明かすことになっている。
俺との面会は、ジャヒバル市長たっての希望らしい。俺をこっそりと刑務所から連れ出す搬送役に、フェイとアッシュを指名したのもジャヒバル市長だ。ちなみに正式な役職名は「都市長」らしいけれど、ここでは略して「市長」と呼ぶならわしらしい。
俺を乗せたトラックの外面には、でかでかとフルーツジュースの絵が描かれている。食品の運送用トラックに偽装した車を使え、と市長からの指示だったそうだ。
追っ手を警戒して偽装までさせて、ジャヒバル氏がなぜ俺との面会を希望しているのか、フェイとアッシュは知らない。
「せっかく経済特区に来られたんだから、バーにでも行ってみるか。今夜は楽しまなくちゃね」
モーテルの半地下になった駐車場に身を隠してひと段落というところで、アッシュは俺とフェイをトラックに残すと、華麗なウィンクとともに夜の町へと繰り出していった。
せっかく隠れて朝まで過ごせる場所に落ち着いたのに。目立つようなことをしたら、またフェイが怒り出すんじゃないか。すこしハラハラしたけれど、予想に反してフェイは「ほどほどにな」と言い、腕組みをしてアッシュを見送っただけだった。
「ソラ」
食事を終えてアルミパックを吸っていたところで、フェイに話しかけられた。
「アッシュと別れるまえにすこしだけ話をした。きみ、この世界とはべつのところから来たんだろ?」
トラックで目覚めて以来、俺がずっと抱いていた予感について、フェイのほうから指摘してくれた。
「……うん。ひょっとしたら、そうじゃないかと思ってた」
高速道路の様子も町の様子も、俺のいた世界のものによく似ている。でも、どこかがすこし違う。道路を走っているとき、まるでSF映画のセットのなかにいるみたいだと思った。さきが見えないほど長く続く滑走路のような道に、曲がりくねるべつの道路が立体交差する。どこか近未来的で、見覚えがあるのに、はじめて見る光景だった。
「ここは、なんていうところ?」
「――ニルヤだよ。ここはニルヤの都市のひとつ。階層都市ヨウトゥア」
「ニルヤの、ヨウトゥア」
俺はその名を噛みしめるように反復する。
「俺がどうして収監されていたのか、フェイは知ってる?」
フェイは首を振る。絹糸みたいな黒髪がさらりと額に流れた。
「きみは、どう見ても犯罪者じゃなさそうだ。なにか事情があってあそこにいたんじゃないの?」
「そっか。だといいな。俺、元の世界からこっちの世界に来るまでの記憶がなくて。どうして刑務所にいたのかもわからないし。でも、フェイたちはどうして俺が違う世界の人だってわかったの?」
フェイは俺を見つめて一度、まばたきをした。あまり表情が動かず、何事にも淡々とした人という印象を受ける。
「きみはシュニャを知らなかった。でも、シュニャと同じ力を持っている。だからきみは異世界からやって来たシュニャだ。ジャヒバルが面会したがっているのも、きっとそのためだろうね」
「ちょ、ちょっと待って」
困惑して眉根を寄せる。後半はほとんど独り言のようだったフェイの話について行けない。
「そもそもシュニャってなんなの? 経済特区に来てから何回か聞いた言葉だけど」
この世界にやって来て以来、俺の言葉は日本語そのままで通じる。なのに「シュニャ」は、俺のわかる言語にうまく変換されない。
「……シュニャはこの世界――ニルヤの神だよ。時間と空間を超越する存在。シュニャの本尊は、宇宙空間のなにもないところに存在しているんだって」
ニルヤにも神と宇宙の概念があるのか。ふむふむと咀嚼しながら聞いていたフェイの話に、ちょっと矛盾するところがあるのに気づく。
「ん……? どこかに本体がいるのに、俺もシュニャなの?」
「そうだよ。シュニャは時空を超越するから。いつ、どこにでも、自分自身を自在に出現させることができるんだ。ひとつの世界に固着せず、いろいろな世界にあらわれる。きみはさしずめ、シュニャの分身というところかな」
ややこしい宗教観だ。でもフェイがすらすらと語るということは、この世界では一般的に広く信じられている教義なんだろうな、ということが想像できる。
「さっき暴走トラックから逃げるときに瞬間移動したから。だからフェイは俺がシュニャだと思うの?」
「ああ。それにきみの話を聞いて確信した。きみはこの世界のことをなにも知らない。シュニャのことさえ知らなかった。演技でとぼけているとは思えない。嘘つきを見抜く力くらいはあるよ」
フェイはだれにも依存せず、一人で生きていける強い人のように見える。だから宗教を当てにするタイプとは思えない。そんなフェイでさえ、俺がシュニャだと信じて疑わないみたいだ。シュニャ教の教義はそれほど、この世界の人の心に自然と溶け込んでいるものなんだろう。
「でも俺、元の世界ではなんの能力もなかったんだよ。いわゆる第六感みたいなのさえぜんぜん働かないし」
「でも、目覚めたらいきなりこっちの世界に来ていたんだろ? 元の世界から移動して」
「それは……そうなんだけど」
一度目はこの世界に来たときに。そして二度目は、経済特区に移動するときに。俺は空間を瞬間移動する能力を発揮したことになる。俺の力を証明する証拠はなにもない。逆に起こった現象を否定する材料もない。
「フェイ、変なんだ。俺の容姿は元の世界の俺とまるで変わっていない。でも髪の毛が異常に伸びてたんだ。元の世界ではここまで短かったのに」
俺は手刀を作って襟足をとんとんする。瞬間移動して、髪の毛だけ伸びることがあるんだろうか。
俺の疑問に、フェイは軽く首をかたむけて答える。
「きみは監獄要塞に三年間、収監されていたらしいよ。起きたり、眠ったりを繰り返しながら。その間に髪が伸びたんじゃない?」
「三年て……」
おかしなことに気づいて、ぞっとする。
俺が目覚めたのは、ハイウェイのトラックのなかだ。でも、いまのフェイの話だと、それよりまえから、俺はこの世界にいたということになる。
「俺、刑務所にいたときの記憶がぜんぜんないんだ。あのトラックのなかではじめて意識が戻ったから」
フェイはあまりおどろいていないみたいだった。
「シュニャの体が新しい世界になじむのに、それだけ時間が必要だったのかもね。俺とアッシュがきみを迎えにいくように指示されたのも、近頃きみが目覚めていられる時間が長くなったからなんだよ。食事も自力で取れるようになったみたいだし」
どうやら本当に、ニルヤにやってきて三年が経過してしまったみたいだ。
「……俺、元の世界に戻れるかな」
急に不安になり、ぽつりとこぼした。
「俺、明日から研修の予定だったんだ。今年、正社員にしてもらえることになって……。あ、正社員って言葉は通じるかな?」
「わかるよ。正規雇用ってことだろう」
フェイは当然の顔をしてうなずく。
「そういえば。フェイたちはジャヒバル市長に俺を運ぶようにって頼まれたんだよね。もしかして二人は市の職員なの?」
「まさか。市に安い賃金でこき使われてる業務受託者だよ」
フェイが苦々しい顔で首を振る。そういえば、IDが認識されないとわかったときに、市の職員のずさんな仕事ぶりにあきれていたっけ。あんなふうに非難するからには、同業者なわけはなかったか。
「俺はアッシュと組んで仕事をしてるんだ。経済特区から辺縁都市への運びの仕事を請け負ってる」
いまいる都市の中心部を経済特区、扇状に広がる周辺の都市を辺縁都市と呼ぶらしい。辺縁都市には俺のいた監獄要塞も含まれるみたいだ。
「運びって、違法薬物とかじゃないよね」
いい人そうな二人が、どうか麻薬の運び人ではありませんように、と祈りながらたずねた。俺の質問に、フェイは首をすくめる。
「クリーニング代行業者だよ。監獄要塞から囚人服とかリネンを回収して、洗濯済みの新品を届ける」
二人の正体がわかって、ほっとした。アッシュに話がおよんだところで、戻りが遅いのが気になる。
「アッシュは大丈夫かな。飲み過ぎてないといいけど」
すっかり夜も更けている。フェイのつけていたデジタル時計を見せてもらったところ、もう二十三時をまわっていた。こちらでの時間の刻み方は二十四時間制で、俺のいた世界と同じみたいだ。
「大丈夫だよ。飲みに行くなんてうそぶいておいて、本当は偵察に行っただけだから」
「え?」
やっぱり気づいていなかったか、とでも言うように、フェイが軽く肩をすくめる。
「新たな追っ手が経済特区に入り込んでいないかどうか。俺たちをつけ狙っていたやつらの正体はなんなのか。遊ぶふりをしながら偵察に行ったんだよ」
そういえば。車内でいち早く尾行に気づいたアッシュがびりっと緊張をつのらせてから、事態が一変したんだった。元軍人だけあってアッシュは周囲の変化に敏感で、警戒を怠らない性質なのかもしれない。
フェイとアッシュ。俺は二人のことを、すこし誤解していた。
明るくて、おちゃらけていて、たまに仕事に不真面目なのがアッシュ。
落ち着いていて、冗談が嫌いで、仕事にとことん真面目なのがフェイ。
太陽と月みたいに対照的な二人。アッシュがふざけるところで、フェイが尻を叩いて仕事をさせる。漫才師のようなでこぼこコンビに見えていた。
表面的な印象はそうかもしれない。でも深層では、この二人は強い信頼関係で結ばれている。アッシュは偵察を。フェイは俺のお世話を。お互いを信頼して、以心伝心でそれぞれの役割を引き受けたんだ。
「二人はコンビを組んで長いの?」
「……そろそろ一年になるかな。辺縁都市で偶然再会して、組まないかってあいつに声をかけられたんだ。お互いにそのまえから軽く面識はあったけど」
フェイは寡黙で無表情だけれど、訊かれたことにはちゃんと答えてくれるし、それも面倒くさそうな感じがしない。むしろ問われた以上のことまで積極的に教えてくれる。
「まえにどこかで会ったことがあったの?」
「軍で同じ部隊に所属してたんだ。外敵殲滅部隊」
「ああ。そうか、フェイも軍人だったんだね」
「うん。一年まえに退役したけどね。軍には通算で六年くらいいたかな」
フェイは右目に眼帯をしている。海賊がつけているみたいな、黒くて楕円形をした眼帯だ。眼帯の下には傷を負っていて、ひょっとしたらそれが退役するきっかけだったのかもしれない。傷について、あえて問うのははばかられた。
「フェイは何歳? 俺は二十二歳。あ、でも三年間寝ていたなら、いま二十五か」
「だったら俺と同じだね。俺も二十五。アッシュは俺の三つ上」
思ったとおり、あまり年齢差はなかった。
「あのさ、フェイ。ヘアゴムって、まだ予備あったりする?」
フェイは毛先が腰にかかるくらい、襟足の髪を長く伸ばしていた。長い毛は後ろでゴムでまとめて顔まわりの毛は残してあるので、正面から見るとショートボブにも見える。
「あるよ」
フェイは胸ポケットを探り、取り出したゴムを投げてよこす。俺はもらったゴムで長髪を後ろでくくった。
これは俺の覚悟だ。本当の自分を忘れないための覚悟。
まだ短い時間だけれどフェイやアッシュと言葉を交わして、俺は確信した。
フェイとアッシュは、俺の脳が創り出した幻なんかじゃない。VRの世界に没入するあまりに現実との境目がわからなくなってしまったとか、ましてやいまわの際に見る走馬灯的な幻想なんかじゃない。信頼関係で結ばれた元軍人のコンビは、たしかな人格を持っている。俺の目のまえに実在している。
俺はたしかに、ニルヤという世界に移動してきたのだ。
元の世界の俺といまの俺。伸びた髪の毛だけがその違いだ。俺がこの世界に移動して、髪が伸びるほどの時間の経過があったのだ。俺はあくまでも元の世界と地続きの、同じ俺。その自覚を忘れないために、髪は伸ばしたままでいることにした。
「もう寝ようか。明日は役所のゲートに一番乗りしよう」
トラックの荷台にフェイが追加の毛布を敷いてくれた。そこに体を横たえる。
「フェイは寝ないの?」
「ああ。俺は見張り。また変なやつらが襲ってこないとも限らないから」
アッシュがトラックに戻って来ない限り、見張りを交代できる人はいない。俺のためにそこまでしてくれるのが申し訳なくなった。
「だったらフェイがさきに寝るといいよ。俺、まだ気分が落ち着かなくて寝付けそうにないんだ。代わりに見張りをする。変な人が来たら、たたき起こすくらいはできるから」
「いいよ。これでも軍にいたんだ。こういうのは慣れてるから」
フェイは片方の足を三角形に折って腕を持たせて、片方は伸ばしている。寝ずの番の臨戦態勢に入った模様だ。
「でも……。今日は運転して疲れただろうし」
最近、通いで自動車免許を取得した。今後正社員にしてもらうなら、営業職にまわされるかもしれないし、持っていたほうが便利だと思ったのだ。レンタカーで試運転する間もなく異世界に飛ばされたけれど、車の運転はけっこう神経を使うと、教習で身を持って知っている。
「いいよ。安心して寝て」
俺を安心させるためか、フェイが薄く笑う。このままでは寝る寝ないの不毛な問答が続くだけだろう。俺は観念して、一度仮眠を取らせてもらうことにした。
「……フェイは飛び丸みたいだね」
厚みのある毛布に包まれて気がゆるんだのか、たとえ話が思わず口をついて出る。
「飛び丸ってなに?」
「忍者の名前。あー、忍者っていうのは隠密……スパイのことだよ。飛び丸は『忍術対戦』っていうゲームに出てくるキャラクターなんだ」
忍術対戦は戦国時代を舞台に飛び丸を操り、敵の城を攻め落とすアクションゲームだった。俺が中学生時代にはやっていて、当時はゲーム機を買うお金もなかったから、自分ではプレイしたことはなかった。けれどたくさんCMが流れていたので俺でも知っている。
飛び丸はすらりと背が高い。疲れを知らず、おそれもなく、敵兵の間を駆けまわる。常に敵に追われているのにその顔には傷ひとつついていなくて、きれいに整っている。顔まわりにかかるくらいの長さに切りそろえた髪型や怜悧な雰囲気が、フェイに似ているなと思ったのだ。
「へえ、俺と似てるの?」
「うん。顔も似てるけど、雰囲気も似てるかな。飛び丸は黒装束で、口元はマスクで覆っていて。たまにマスクがはずれて素顔が見えるんだけど、それがものすごく格好よくて……」
「へえ、格好いいんだ」
「うん、格好いいよ。孤高のダークヒーローって感じで……」
「へえー。じゃあ俺も、格好いいんだ?」
格好いいの部分をわざとらしいくらいに強調し、嬉々として語る俺のことフェイが見つめている。口元は含み笑いをしていた。
顔がかーっと赤く火照りはじめる。うう……。これじゃあ、フェイのことを「格好いい」と直接ほめたも同然じゃないか。いや、実際フェイは格好いいんだけど。でも本人に面と向かって言うのは照れくさい。
「あ……その。ええとこれはその」
「ふうん。ソラにとって俺は『格好いい』んだね。いいこと聞いた」
そこ、何度も強調して言わなくたっていいのに。俺はちょっと気まずくなって、毛布を深くかぶった。
「でもさすがにそのスパイ、眼帯はしてなかっただろ?」
フェイが自ら、眼帯について触れた。
「ええと、うん。……目は、軍にいたときに怪我したの?」
「ああ。油断して敵の刃を食らった。視力は残ったけど、左目と差があるから眼帯で補正してる。傷跡を隠すのにもちょうどいいしね」
眼帯には眼鏡の機能があるようだ。
「敵……。フェイが戦っていたってことは、ヨウトゥアも戦場になったんだよね? その割に、どこも壊れていないけど……。ひょっとしていまもまだ戦争中ってことはないよね?」
ハイウェイも、経済特区も。ここではなにもかもが先進的で、きれいに整備されていた。戦争の翳りなどまるでないように思える。
「ああ。ここは戦場にならなかったから。俺たちが戦ったフィールドは、市街地から遠く離れていた。それと、二年まえに終戦しているから安心して」
「そうなんだ。……あれ、終戦したのが二年まえで、フェイが退役したのが一年まえなんだね。じゃあ終戦してからも、まだしばらくは軍にいたんだ」
「……まあね。大戦の後始末とか都市の取り締まりとか、やることは多いんだ」
「なるほど」
そこでフェイは、意味深に俺を見つめる。
「なに?」
「……いや、きみは本当に異世界から来たんだなと思って。どこが戦場になったのかも、いつ終戦したのかも、なにも知らない。俺たちがなにと戦っていたか、知ってる?」
困惑して俺は首を横に振った。
「ニルヤを侵略しにやってきた異星人だよ」
「……そうなの……!?」
宇宙人の侵略戦争。シュニャに引き続き、驚愕の事実があきらかになった。
「ああ。相手は機械の体を持つ異星人だった。俺たちはやつらを、機械人と呼んでいた。特殊な電磁波発生装置で引き寄せて、ここからすこし離れた砂地を迎撃地点にしていたから、都市は無事だったんだ」
「機械人……」
フェイたちが戦っていたのは、人じゃなくて機械だった。あらためて、本当に俺がいた世界とは違う世界に来てしまったんだと痛感する。
「機械人との戦争は九年続いたよ」
「九年て、ずいぶん長いんだね」
それほど長い間、戦いが続いていたなんて。人々の心が安まるときはなかっただろう。ニルヤの人たちの心境を推し量り、暗鬱な気分になる。
「そうだね。俺は最初、ヨウトゥア軍に二年いて、都市の警備を担当していた。あとの三年は各都市から派遣された軍で結成された連合軍所属。機械人を相手にしていたのは連合軍だよ」
フェイの話から解釈するに、ここでは軍が軍隊、警察、警備隊の三役をこなしているみたいだった。
「機械人たちは次々に乗り込んできた。でも、元々の個体数がすくなかったみたいだね。殲滅までに九年近くはかかったけど、敵の船に探知機を取り付けて送り返して、あっちの星に生き残りはいないことを確認したから、もう襲われないよ」
「そっか。目の傷はフェイが命がけで、この世界の人たちを守ってくれたからできた傷なんだね。じゃあ、俺たちはフェイに感謝しないといけないね」
突然、異世界に飛ばされた俺が戦争という惨事に巻き込まれないのも、フェイたちが戦って機械人たちを撃退してくれたおかげだ。
「感謝……?」
フェイが顔をしかめる。そんな賞賛を受け取る資格はないと、戸惑っているみたいに見えた。フェイの表情がこんなに揺らぐところを、俺ははじめて見たかもしれない。
「……そんなふうに言ってくれるのは、きみだけだよ」
フェイは悲しそうに視線をそらした。
「そうなの……? でも、フェイはこの世界の人を守るために、異星人と戦ってくれたんだよね?」
「……それは……そうだけど」
フェイが言葉に詰まる。
フェイの瞳がとても、寂しそうに見えた。……寂しそうな目をしているのはいまだけじゃない。フェイは薄くほほえんでいても、その目の奥はいつもどこか寂しそうなことに俺は気づいていた。
この人はどうしてこんなに、悲しそうに笑うんだろう。フェイに悲しそうな顔をさせるのがなんだか気の毒で、俺は必死に励ましの言葉を模索する。
「俺のいた世界で、たまたま俺の国は平和だった。でも俺の国でも、俺が生まれるちょっとまえに戦争はあったんだ」
俺にとっての戦争は、かつて引き起こされた惨事だった。いまも世界のどこかでは人々が争い、命を落としているというのに。そのことを憂うべきなのに。日々の生活に追われていると、争いごとへの悲しみや怒りを持続させるのはとんでもなく難しいことだと思い知る。だからせめて、自分がこの世界に生まれて、いまも生きていられることに対して厳粛な気持ちで感謝をして、一日、一日を精一杯生きたいと思う。それが、生かしてもらっていることへ、せめてもの誠実さを示す方法だと思うから。
「フェイ、俺にとってニルヤはSF映画の世界みたいなんだ。機械人に襲われた世界の人からしたら、不謹慎なたとえかもしれないけど……」
「エスエフ映画って、なに?」
俺はきょとんとした。フェイの発音がたどたどしい。はじめて耳にした言葉の発音を真似しました、というぎこちなさに満ちていた。
「近未来を舞台にした映画のジャンルだよ。この世界にも映画はあるよね?」
「あるよ。軍のキャンペーンのために撮影されるやつでしょ?」
「なるほど。そういうのしかないのか……」
もしかして、と思ったけれど。俺の世界と重ならない点を見つけて、とたんに落ち着かない気分になる。
ニルヤでは日本語がそのまま通じる。でも、りんごみたいな見た目をした洋梨みたいな果物は、俺の世界では見たことがないものだった。それからここではSFという概念はなく、映画も興行としては成立していない。衣食住や文化に微妙な違いがある。
「なんて説明すればいいかな。ニルヤは俺のいた世界よりも、かなり文明が進んでいるように見えるんだ。建物も、自動車も。それからフェイのしているスマートウォッチみたいなやつも。俺の知っているやつよりもかなり洗練されてる」
「これ?」
フェイは腕時計型の電子端末にちらりと目を向ける。
ニルヤ。俺のいた世界に似ているようで、どこか違う世界。
どうして俺はこの世界に飛ばされたのか。どうして俺たちは襲われて、ジャヒバル市長はなぜ、俺に会いたがっているのか。
いまはわからない。わからないことだらけだ。
でもひとつだけわかることがある。それは、この世界はたしかに実在するってことだ。目のまえの光景は俺の脳が見せるやけにリアルな幻覚なんかじゃない。これは、まぎれもない現実なのだ。
「きみがこの世界に顕現した理由について、明日ジャヒバルに会えばなにかわかるかもしれない。だからもう休んで」
フェイにうながされて俺は目を閉じた。
「フェイ。二時間したら起こしてね。見張りを代わるから」
フェイの返事はなく、代わりに含み笑いが返ってきた。そんなにがんばらなくていいよ、と言われているみたいだった。
よほどくたびれていたんだろう。慣れない環境でなかなか眠りにつけずに苦しみそうだな、なんて懸念する暇もなく、俺は眠りに吸い込まれていった。
「あ……ありがとう」
トラックの荷台に、無造作に置いてあった木の空き箱。その上に腰かけた俺は、フェイの差し出してくれた食べ物を受け取った。黒くて四角いぶよぶよした物体と、大きさも色もりんごみたいな丸い果物。それからアルミのパウチ。
俺に食べ物を渡すと、フェイはさっさと俺の対面に移動した。椅子を使わず、荷台の床に直接腰を下ろす。黒くて四角い食べ物の包みを開けるとさっそく頬張り、アルミのパウチを開けてストローから水分を吸い出している。
どうやら仕事に対して真面目で、無駄口を嫌うタイプのフェイ。フェイは優しいんだかそっけないんだか、まだよくわからないところがある。二人きりの時間は、まだすこし気まずい。でも、安全な場所に移動するとすぐに拘束衣のベルトを解いてくれたのはフェイだ。それから夜になって気温が下がってきたからか、トラックの荷台に無造作に置いてあった毛布を俺の体にかけてくれたのも。一見そっけないように見せかけて、実は優しい成分多めなんだと信じたい。
見ず知らずの土地で差し出された食べ物を口にするのはやや気が引けたけれど、命がけのカーチェイスで心身が摩耗した。空腹を訴えてきゅう、とお腹が鳴る。フェイは平気な顔をして食べているから、人体に害はないものだろう、たぶん。せっかく好意で食べ物を恵んでくれたのに。見ず知らずの場所で目を覚まして、わけのわからないうちにカーチェイスに巻き込まれて、いまもまだ、詳しい事情をいっさい把握できていないせいで、つい思考が警戒を強めてしまう。
俺は黒い物体を包む透明なラップをはがして、おそるおそる端を噛む。……うん、おいしい。中身がみっしり詰まった蒸しパンみたいな食感だ。そしてほんのり甘い。果物もかじってみる。洋梨みたいなねっとりとした質感で、香りのいい果汁が喉を潤してくれた。アルミパウチの中身は普通の水だった。食べ物は口に合うみたいだ。まずはそのことにほっとする。
「さっきはすまなかった」
早々に食事を終えたフェイが謝罪する。あれ、なにについて謝っているんだろう。謝罪の理由がわからず、俺はきょとんとしてしまった。
「ハイウェイで、きみを守れなかった」
フェイの謝罪の理由がわかった。俺たちは相手の車両に追いつかれ、決死のカーチェイスの最中に危険な目に遭わされた。それはハンドルを握っていた自分の落ち度なのだと責任を感じて、フェイはくやしそうに唇を噛んでいる。
「そんな。あんな速さで危険運転をさせられて。高速道路から振り落とされなかっただけで上出来ですよ」
俺がなぐさめるのにも、フェイは首を横に振る。
「助けてくれてありがとう。逃げきれたのはきみのおかげだ」
謝罪のあとで、お礼まで言われた。
「いえ……。そんな、お礼を言われるようなことはなにもしていない、です」
「……敬語」
突然、フェイが顔をしかめる。
「え?」
「そんな、かしこまった話し方をしないで。俺たちだってそうしてるんだから、釣り合わないだろ」
見た目の印象から、フェイは俺とそう変わらないくらいの年齢に見える。フェイよりはアッシュのほうがすこしだけ年上かもしれない。二人がこだわらないのなら、慇懃な口調を貫くのは他人行儀が過ぎるというものだろう。
「ああ、はい。じゃなくて、うん、わかった」
俺がくだけた口調になると、フェイは納得したようにうなずく。
――いまかすかに笑った……よな? 美形がほほえむと、きれいすぎて男でも思わずどきりとしてしまう。
一般道に投げ出されたあと、我に返ったフェイとアッシュが教えてくれた。
俺たちは暴走トラックを振り切り、経済特区へと瞬間移動したらしい。それは「シュニャ」である俺が、空間移転の力を発揮したからだそうだ。
経済特区に入ってから、ちょっとしたトラブルがあった。
「……IDが認証されない」
中心部にある市庁舎まえ。ゲートの読み取り機に通行証をかざしていたフェイが、むすっとした顔で運転席に戻ってきた。手違いがあったようで、通行証のIDがなぜか無効になっていたのだ。
「ありゃりゃ、市の職員さんが登録をミスっちゃったのかな?」
「おそらくそうだろう。あいつらの仕事ぶりはずさんだから」
「そうか。じゃあ今夜じゅうにジャヒバルに会うのは無理か」
ハンドルにもたれて、フェイがはあーっと深いため息をついたのが、アッシュへの返事代わりになった。
本当なら俺は今夜、この都市の都市長――ジャヒバル・ティダイリ氏に面会予定だった。そのために俺は監獄要塞と呼ばれる刑務所から、フェイとアッシュによって秘密裏に連れ出されたのだった。
ちなみに俺の収監されていた刑務所は何重もの警備システムが張り巡らされた、人工貯水槽の海に浮かぶ陸の孤島だ。普段は閉じている吊り橋の連絡通路がつながったときにしか本土と行き来できない。孤立した絶対不可侵の監獄であることが、監獄要塞という名前の由縁になっている。脱獄は絶対に不可能なため、重罪犯ばかりが収監されているのだとか。俺がいたのは独房らしいけれど、おそろしい犯罪者がひしめく場所に収監されていたのだと考えると、背中がぞっとする。
この町では規則が絶対らしい。この時間、もう役所は閉まっている。ほかにジャヒバル氏に取り次ぎを頼む手段がないので、俺たちは翌朝まで待ってから再度、通行証の申請を行うことにした。
あのトラックに乗っていたやつらが経済特区に入ってこないとも限らない。追っ手を警戒して、いまはモーテルの地下駐車場に身を潜めている。宿の部屋にはだれも泊まらない。なにかあったらすぐ逃げ出せるよう、俺たちは今晩、トラックの荷台で夜を明かすことになっている。
俺との面会は、ジャヒバル市長たっての希望らしい。俺をこっそりと刑務所から連れ出す搬送役に、フェイとアッシュを指名したのもジャヒバル市長だ。ちなみに正式な役職名は「都市長」らしいけれど、ここでは略して「市長」と呼ぶならわしらしい。
俺を乗せたトラックの外面には、でかでかとフルーツジュースの絵が描かれている。食品の運送用トラックに偽装した車を使え、と市長からの指示だったそうだ。
追っ手を警戒して偽装までさせて、ジャヒバル氏がなぜ俺との面会を希望しているのか、フェイとアッシュは知らない。
「せっかく経済特区に来られたんだから、バーにでも行ってみるか。今夜は楽しまなくちゃね」
モーテルの半地下になった駐車場に身を隠してひと段落というところで、アッシュは俺とフェイをトラックに残すと、華麗なウィンクとともに夜の町へと繰り出していった。
せっかく隠れて朝まで過ごせる場所に落ち着いたのに。目立つようなことをしたら、またフェイが怒り出すんじゃないか。すこしハラハラしたけれど、予想に反してフェイは「ほどほどにな」と言い、腕組みをしてアッシュを見送っただけだった。
「ソラ」
食事を終えてアルミパックを吸っていたところで、フェイに話しかけられた。
「アッシュと別れるまえにすこしだけ話をした。きみ、この世界とはべつのところから来たんだろ?」
トラックで目覚めて以来、俺がずっと抱いていた予感について、フェイのほうから指摘してくれた。
「……うん。ひょっとしたら、そうじゃないかと思ってた」
高速道路の様子も町の様子も、俺のいた世界のものによく似ている。でも、どこかがすこし違う。道路を走っているとき、まるでSF映画のセットのなかにいるみたいだと思った。さきが見えないほど長く続く滑走路のような道に、曲がりくねるべつの道路が立体交差する。どこか近未来的で、見覚えがあるのに、はじめて見る光景だった。
「ここは、なんていうところ?」
「――ニルヤだよ。ここはニルヤの都市のひとつ。階層都市ヨウトゥア」
「ニルヤの、ヨウトゥア」
俺はその名を噛みしめるように反復する。
「俺がどうして収監されていたのか、フェイは知ってる?」
フェイは首を振る。絹糸みたいな黒髪がさらりと額に流れた。
「きみは、どう見ても犯罪者じゃなさそうだ。なにか事情があってあそこにいたんじゃないの?」
「そっか。だといいな。俺、元の世界からこっちの世界に来るまでの記憶がなくて。どうして刑務所にいたのかもわからないし。でも、フェイたちはどうして俺が違う世界の人だってわかったの?」
フェイは俺を見つめて一度、まばたきをした。あまり表情が動かず、何事にも淡々とした人という印象を受ける。
「きみはシュニャを知らなかった。でも、シュニャと同じ力を持っている。だからきみは異世界からやって来たシュニャだ。ジャヒバルが面会したがっているのも、きっとそのためだろうね」
「ちょ、ちょっと待って」
困惑して眉根を寄せる。後半はほとんど独り言のようだったフェイの話について行けない。
「そもそもシュニャってなんなの? 経済特区に来てから何回か聞いた言葉だけど」
この世界にやって来て以来、俺の言葉は日本語そのままで通じる。なのに「シュニャ」は、俺のわかる言語にうまく変換されない。
「……シュニャはこの世界――ニルヤの神だよ。時間と空間を超越する存在。シュニャの本尊は、宇宙空間のなにもないところに存在しているんだって」
ニルヤにも神と宇宙の概念があるのか。ふむふむと咀嚼しながら聞いていたフェイの話に、ちょっと矛盾するところがあるのに気づく。
「ん……? どこかに本体がいるのに、俺もシュニャなの?」
「そうだよ。シュニャは時空を超越するから。いつ、どこにでも、自分自身を自在に出現させることができるんだ。ひとつの世界に固着せず、いろいろな世界にあらわれる。きみはさしずめ、シュニャの分身というところかな」
ややこしい宗教観だ。でもフェイがすらすらと語るということは、この世界では一般的に広く信じられている教義なんだろうな、ということが想像できる。
「さっき暴走トラックから逃げるときに瞬間移動したから。だからフェイは俺がシュニャだと思うの?」
「ああ。それにきみの話を聞いて確信した。きみはこの世界のことをなにも知らない。シュニャのことさえ知らなかった。演技でとぼけているとは思えない。嘘つきを見抜く力くらいはあるよ」
フェイはだれにも依存せず、一人で生きていける強い人のように見える。だから宗教を当てにするタイプとは思えない。そんなフェイでさえ、俺がシュニャだと信じて疑わないみたいだ。シュニャ教の教義はそれほど、この世界の人の心に自然と溶け込んでいるものなんだろう。
「でも俺、元の世界ではなんの能力もなかったんだよ。いわゆる第六感みたいなのさえぜんぜん働かないし」
「でも、目覚めたらいきなりこっちの世界に来ていたんだろ? 元の世界から移動して」
「それは……そうなんだけど」
一度目はこの世界に来たときに。そして二度目は、経済特区に移動するときに。俺は空間を瞬間移動する能力を発揮したことになる。俺の力を証明する証拠はなにもない。逆に起こった現象を否定する材料もない。
「フェイ、変なんだ。俺の容姿は元の世界の俺とまるで変わっていない。でも髪の毛が異常に伸びてたんだ。元の世界ではここまで短かったのに」
俺は手刀を作って襟足をとんとんする。瞬間移動して、髪の毛だけ伸びることがあるんだろうか。
俺の疑問に、フェイは軽く首をかたむけて答える。
「きみは監獄要塞に三年間、収監されていたらしいよ。起きたり、眠ったりを繰り返しながら。その間に髪が伸びたんじゃない?」
「三年て……」
おかしなことに気づいて、ぞっとする。
俺が目覚めたのは、ハイウェイのトラックのなかだ。でも、いまのフェイの話だと、それよりまえから、俺はこの世界にいたということになる。
「俺、刑務所にいたときの記憶がぜんぜんないんだ。あのトラックのなかではじめて意識が戻ったから」
フェイはあまりおどろいていないみたいだった。
「シュニャの体が新しい世界になじむのに、それだけ時間が必要だったのかもね。俺とアッシュがきみを迎えにいくように指示されたのも、近頃きみが目覚めていられる時間が長くなったからなんだよ。食事も自力で取れるようになったみたいだし」
どうやら本当に、ニルヤにやってきて三年が経過してしまったみたいだ。
「……俺、元の世界に戻れるかな」
急に不安になり、ぽつりとこぼした。
「俺、明日から研修の予定だったんだ。今年、正社員にしてもらえることになって……。あ、正社員って言葉は通じるかな?」
「わかるよ。正規雇用ってことだろう」
フェイは当然の顔をしてうなずく。
「そういえば。フェイたちはジャヒバル市長に俺を運ぶようにって頼まれたんだよね。もしかして二人は市の職員なの?」
「まさか。市に安い賃金でこき使われてる業務受託者だよ」
フェイが苦々しい顔で首を振る。そういえば、IDが認識されないとわかったときに、市の職員のずさんな仕事ぶりにあきれていたっけ。あんなふうに非難するからには、同業者なわけはなかったか。
「俺はアッシュと組んで仕事をしてるんだ。経済特区から辺縁都市への運びの仕事を請け負ってる」
いまいる都市の中心部を経済特区、扇状に広がる周辺の都市を辺縁都市と呼ぶらしい。辺縁都市には俺のいた監獄要塞も含まれるみたいだ。
「運びって、違法薬物とかじゃないよね」
いい人そうな二人が、どうか麻薬の運び人ではありませんように、と祈りながらたずねた。俺の質問に、フェイは首をすくめる。
「クリーニング代行業者だよ。監獄要塞から囚人服とかリネンを回収して、洗濯済みの新品を届ける」
二人の正体がわかって、ほっとした。アッシュに話がおよんだところで、戻りが遅いのが気になる。
「アッシュは大丈夫かな。飲み過ぎてないといいけど」
すっかり夜も更けている。フェイのつけていたデジタル時計を見せてもらったところ、もう二十三時をまわっていた。こちらでの時間の刻み方は二十四時間制で、俺のいた世界と同じみたいだ。
「大丈夫だよ。飲みに行くなんてうそぶいておいて、本当は偵察に行っただけだから」
「え?」
やっぱり気づいていなかったか、とでも言うように、フェイが軽く肩をすくめる。
「新たな追っ手が経済特区に入り込んでいないかどうか。俺たちをつけ狙っていたやつらの正体はなんなのか。遊ぶふりをしながら偵察に行ったんだよ」
そういえば。車内でいち早く尾行に気づいたアッシュがびりっと緊張をつのらせてから、事態が一変したんだった。元軍人だけあってアッシュは周囲の変化に敏感で、警戒を怠らない性質なのかもしれない。
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「フェイは何歳? 俺は二十二歳。あ、でも三年間寝ていたなら、いま二十五か」
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「あのさ、フェイ。ヘアゴムって、まだ予備あったりする?」
フェイは毛先が腰にかかるくらい、襟足の髪を長く伸ばしていた。長い毛は後ろでゴムでまとめて顔まわりの毛は残してあるので、正面から見るとショートボブにも見える。
「あるよ」
フェイは胸ポケットを探り、取り出したゴムを投げてよこす。俺はもらったゴムで長髪を後ろでくくった。
これは俺の覚悟だ。本当の自分を忘れないための覚悟。
まだ短い時間だけれどフェイやアッシュと言葉を交わして、俺は確信した。
フェイとアッシュは、俺の脳が創り出した幻なんかじゃない。VRの世界に没入するあまりに現実との境目がわからなくなってしまったとか、ましてやいまわの際に見る走馬灯的な幻想なんかじゃない。信頼関係で結ばれた元軍人のコンビは、たしかな人格を持っている。俺の目のまえに実在している。
俺はたしかに、ニルヤという世界に移動してきたのだ。
元の世界の俺といまの俺。伸びた髪の毛だけがその違いだ。俺がこの世界に移動して、髪が伸びるほどの時間の経過があったのだ。俺はあくまでも元の世界と地続きの、同じ俺。その自覚を忘れないために、髪は伸ばしたままでいることにした。
「もう寝ようか。明日は役所のゲートに一番乗りしよう」
トラックの荷台にフェイが追加の毛布を敷いてくれた。そこに体を横たえる。
「フェイは寝ないの?」
「ああ。俺は見張り。また変なやつらが襲ってこないとも限らないから」
アッシュがトラックに戻って来ない限り、見張りを交代できる人はいない。俺のためにそこまでしてくれるのが申し訳なくなった。
「だったらフェイがさきに寝るといいよ。俺、まだ気分が落ち着かなくて寝付けそうにないんだ。代わりに見張りをする。変な人が来たら、たたき起こすくらいはできるから」
「いいよ。これでも軍にいたんだ。こういうのは慣れてるから」
フェイは片方の足を三角形に折って腕を持たせて、片方は伸ばしている。寝ずの番の臨戦態勢に入った模様だ。
「でも……。今日は運転して疲れただろうし」
最近、通いで自動車免許を取得した。今後正社員にしてもらうなら、営業職にまわされるかもしれないし、持っていたほうが便利だと思ったのだ。レンタカーで試運転する間もなく異世界に飛ばされたけれど、車の運転はけっこう神経を使うと、教習で身を持って知っている。
「いいよ。安心して寝て」
俺を安心させるためか、フェイが薄く笑う。このままでは寝る寝ないの不毛な問答が続くだけだろう。俺は観念して、一度仮眠を取らせてもらうことにした。
「……フェイは飛び丸みたいだね」
厚みのある毛布に包まれて気がゆるんだのか、たとえ話が思わず口をついて出る。
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格好いいの部分をわざとらしいくらいに強調し、嬉々として語る俺のことフェイが見つめている。口元は含み笑いをしていた。
顔がかーっと赤く火照りはじめる。うう……。これじゃあ、フェイのことを「格好いい」と直接ほめたも同然じゃないか。いや、実際フェイは格好いいんだけど。でも本人に面と向かって言うのは照れくさい。
「あ……その。ええとこれはその」
「ふうん。ソラにとって俺は『格好いい』んだね。いいこと聞いた」
そこ、何度も強調して言わなくたっていいのに。俺はちょっと気まずくなって、毛布を深くかぶった。
「でもさすがにそのスパイ、眼帯はしてなかっただろ?」
フェイが自ら、眼帯について触れた。
「ええと、うん。……目は、軍にいたときに怪我したの?」
「ああ。油断して敵の刃を食らった。視力は残ったけど、左目と差があるから眼帯で補正してる。傷跡を隠すのにもちょうどいいしね」
眼帯には眼鏡の機能があるようだ。
「敵……。フェイが戦っていたってことは、ヨウトゥアも戦場になったんだよね? その割に、どこも壊れていないけど……。ひょっとしていまもまだ戦争中ってことはないよね?」
ハイウェイも、経済特区も。ここではなにもかもが先進的で、きれいに整備されていた。戦争の翳りなどまるでないように思える。
「ああ。ここは戦場にならなかったから。俺たちが戦ったフィールドは、市街地から遠く離れていた。それと、二年まえに終戦しているから安心して」
「そうなんだ。……あれ、終戦したのが二年まえで、フェイが退役したのが一年まえなんだね。じゃあ終戦してからも、まだしばらくは軍にいたんだ」
「……まあね。大戦の後始末とか都市の取り締まりとか、やることは多いんだ」
「なるほど」
そこでフェイは、意味深に俺を見つめる。
「なに?」
「……いや、きみは本当に異世界から来たんだなと思って。どこが戦場になったのかも、いつ終戦したのかも、なにも知らない。俺たちがなにと戦っていたか、知ってる?」
困惑して俺は首を横に振った。
「ニルヤを侵略しにやってきた異星人だよ」
「……そうなの……!?」
宇宙人の侵略戦争。シュニャに引き続き、驚愕の事実があきらかになった。
「ああ。相手は機械の体を持つ異星人だった。俺たちはやつらを、機械人と呼んでいた。特殊な電磁波発生装置で引き寄せて、ここからすこし離れた砂地を迎撃地点にしていたから、都市は無事だったんだ」
「機械人……」
フェイたちが戦っていたのは、人じゃなくて機械だった。あらためて、本当に俺がいた世界とは違う世界に来てしまったんだと痛感する。
「機械人との戦争は九年続いたよ」
「九年て、ずいぶん長いんだね」
それほど長い間、戦いが続いていたなんて。人々の心が安まるときはなかっただろう。ニルヤの人たちの心境を推し量り、暗鬱な気分になる。
「そうだね。俺は最初、ヨウトゥア軍に二年いて、都市の警備を担当していた。あとの三年は各都市から派遣された軍で結成された連合軍所属。機械人を相手にしていたのは連合軍だよ」
フェイの話から解釈するに、ここでは軍が軍隊、警察、警備隊の三役をこなしているみたいだった。
「機械人たちは次々に乗り込んできた。でも、元々の個体数がすくなかったみたいだね。殲滅までに九年近くはかかったけど、敵の船に探知機を取り付けて送り返して、あっちの星に生き残りはいないことを確認したから、もう襲われないよ」
「そっか。目の傷はフェイが命がけで、この世界の人たちを守ってくれたからできた傷なんだね。じゃあ、俺たちはフェイに感謝しないといけないね」
突然、異世界に飛ばされた俺が戦争という惨事に巻き込まれないのも、フェイたちが戦って機械人たちを撃退してくれたおかげだ。
「感謝……?」
フェイが顔をしかめる。そんな賞賛を受け取る資格はないと、戸惑っているみたいに見えた。フェイの表情がこんなに揺らぐところを、俺ははじめて見たかもしれない。
「……そんなふうに言ってくれるのは、きみだけだよ」
フェイは悲しそうに視線をそらした。
「そうなの……? でも、フェイはこの世界の人を守るために、異星人と戦ってくれたんだよね?」
「……それは……そうだけど」
フェイが言葉に詰まる。
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「フェイ、俺にとってニルヤはSF映画の世界みたいなんだ。機械人に襲われた世界の人からしたら、不謹慎なたとえかもしれないけど……」
「エスエフ映画って、なに?」
俺はきょとんとした。フェイの発音がたどたどしい。はじめて耳にした言葉の発音を真似しました、というぎこちなさに満ちていた。
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「あるよ。軍のキャンペーンのために撮影されるやつでしょ?」
「なるほど。そういうのしかないのか……」
もしかして、と思ったけれど。俺の世界と重ならない点を見つけて、とたんに落ち着かない気分になる。
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「なんて説明すればいいかな。ニルヤは俺のいた世界よりも、かなり文明が進んでいるように見えるんだ。建物も、自動車も。それからフェイのしているスマートウォッチみたいなやつも。俺の知っているやつよりもかなり洗練されてる」
「これ?」
フェイは腕時計型の電子端末にちらりと目を向ける。
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「きみがこの世界に顕現した理由について、明日ジャヒバルに会えばなにかわかるかもしれない。だからもう休んで」
フェイにうながされて俺は目を閉じた。
「フェイ。二時間したら起こしてね。見張りを代わるから」
フェイの返事はなく、代わりに含み笑いが返ってきた。そんなにがんばらなくていいよ、と言われているみたいだった。
よほどくたびれていたんだろう。慣れない環境でなかなか眠りにつけずに苦しみそうだな、なんて懸念する暇もなく、俺は眠りに吸い込まれていった。
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