11 / 13
11ー人捜し
しおりを挟む
「場所、ここでよかった?」
一日の移動上限回数にかかり、さらに自分以外に二人を連れて空間移転をしたためか。ややぐったりした声で、桐馬が尋ねる。
「うん。桐馬くん、ありがとう」
都心からほどよく離れた郊外の町。眼前にはなつかしい、駅まえの光景が広がっていた。俺がここを出た七年まえとなにも変わっていない。
「へえ……。ここがソラのいた世界か。なんか、見たことない景色」
フェイは物珍しそうにゆっくりとあたりを見まわしてから、俺に向かってにやりとほほえんだ。――いまフェイは、トラックのなかで俺が意識を取り戻して、はじめてニルヤの光景を目にしたときの感情を追体験している。建造物に自分の住んでいる町との相似性を見つけられるのに、どこかなにかが違う不思議な光景。フェイの味わっているであろう新鮮なセンス・オブ・ワンダーに思いを馳せるとともに、こちらに戻ってきても引き続き、日本語で通じ合えていることに安堵した。俺の作り出した世界の住人だから、基本言語が日本語のままで、あたりまえではあるんだけれど。
ミジチに迎えに行ったフェイは準備万端といった風情で、ボストンバッグにまとめた荷物とともに俺の帰還を待ち構えていた。荷物を抱えると、桐馬に場所を指定してすぐさま空間移転をしてもらった。
「俺、待ってたほうがいい?」
「ううん、大丈夫。すこし時間かかると思うから」
ニルヤとこちらの時間の流れはやっぱり同じだった。ミジチを出発まえに時間を確認して、到着後に駅の時計でまた時間を確認して、どちらも寸分違わない。いまは午後七時をすこしまわったくらいだった。
「そう。じゃあとりあえず俺は自分んちに帰るから、なにかあったらここに連絡して」
桐馬は携帯電話番号と住所、それからアルバイトさきの店名と住所を書き付けたメモ用紙を破ると、俺に手渡した。
「携帯、持ってないと不便だね」
桐馬が困り顔で笑う。いまでは所持していないと不安にすらなる文明の利器が、俺の手元にはない。
「うん。まあ、公衆電話も探せば見つかるだろうし。なんとかなるよ。あ、でも待って」
「なに?」
きびすを返しかけた桐馬が立ち止まる。
「危なかった。俺たち、一文なしだった」
「ああ、そういえば」
フェイも、いまようやく気づいたというように同意を示す。とにかく一度、日本に帰る。フェイも一緒にいく。謎の高揚感に突き動かされるまま、勢いで移動してきてしまった。
「えっ。携帯はともかく、財布も持ってないの?」
桐馬が信じられないものを見る目で、俺たちを見つめる。
「うん。俺の私物は全部、ジャヒバル市長のところに置いてきちゃったから」
一度階層都市に立ち寄るべきだったかといまさらながら反省する。電源はなくなっているだろうけれど、鞄に入った俺の携帯電話もあったはずだ。
「ちょっと無計画すぎない!? まったくもう。貸してあげるから、無駄遣いしないでよ」
怒りを通り越してあきれている桐馬は、気前よく財布から五万円を抜いて俺たちに渡してくれた。
「桐馬くん、ごめん。なにからなにまで。ありがとう」
「お礼はいいよ。返済はこっちの通貨でよろしく」
「うん。次にこっちに来るときは、キャッシュカードを忘れずに持ってくるよ」
社会人になってからコツコツと貯めてきた給与のぶん、俺の銀行口座にはいくらか貯まっている。
「じゃあね。あーあ、あと一回移動するのは疲れるから、電車で帰るかあ」
そうぼやきながら、くたびれ気味の桐馬は駅の改札に向かって歩き出した。
「それで。これからどこに行くの? ここは、ソラの住んでいた町なんだよね」
「うん。一人で家を出るまで、ずっと住んでたところだよ。まずは住んでいたアパートに行ってみる」
家出してきてしまったので、あの家がどうなったのか知らない。でも、父が最後にいたのはあのアパートだし、もしあそこを出ていたとしても、父の足跡をたどるのに近所の住民がなにか覚えていることがあるかもしれない。
「この世界でソラが決着をつけようとしているのは、きみのお父さんとのこと?」
フェイは俺の考えをお見通しのようだった。
「うん。フェイは『支配』って言ってたよね。俺はいまも、まだ支配されたままだから。もう一回会って、自分で鎖を断ち切らないとだめだと思って」
「そう」
フェイはふい、と顔をまえに向けると、俺の肩に手を添えて、軽く抱き寄せた。ずっと俺の味方だと主張するような所作に、心がほっとする。
俺はフェイに肩を抱かれたまま歩き出した。
「まさか本当に、きみ以外のシュニャがいるなんて思ってもみなかった。それに、きみの父親に会いにいくのも想定外。でも、これで俺も約束が果たせるね」
「約束ってなんの約束?」
「会えたら二、三発殴るってやつ」
血まみれになる父の顔を想像して、俺の頭がさーっと冷えた。
「だ、だめだよ……。その約束、忘れて。俺、フェイに捕まってほしくないよ」
「捕まるって、軍に?」
ニルヤでは軍が警察の仕事も兼ねているから、そういう発想になるのだろう。
「いや、警察。ここでは警察って言って、軍とはべつに治安を守っている組織がいるんだよ。暴行罪で逮捕されたら、刑務所行きになりかねない」
「そう……。じゃあ、ケイサツにばれないようにすればいいのか」
不穏なひと言を耳にしつつ、俺たちはアパートに向かって足を進めた。
しばらくすると、なつかしい二階建ての建物が見えてきた。
駅前の繁華街から歩いて十分ほど。バスでも向かえるけれど、次の便まで時間が開いていたので徒歩を選んだ。
「なつかしい。俺の家、いまはだれが住んでるんだろう」
あれからもう七年も経つ。一階にある郵便受けを見て、やっぱりなと思った。すでに七色とは違う人の表札が挟まっている。父はここにはいなさそうだと、やや落胆した。
「けっこう、小さい……? 俺の集合住宅のほうがまだ広いかも」
建物の規模からなんとなく部屋の平米数を把握したらしいフェイが、不思議そうに首をかしげている。
「ああ……。階層都市は土地があり余っていそうだもんね。たしかに広くはないけど、二人暮らしだと正直、このくらいでじゅうぶんなんだよ」
日本全国うさぎ小屋が標準なのだという細かい説明は端折った。
この時間だと管理人にまだ連絡はつきそうだ。連絡しようか迷っていたところで背後から声をかけられた。
「あの……。なにかご用かしら?」
振り向くと、小柄な中年女性が立っていた。見覚えのある顔に、あっ、と思った。アパートの管理人さんだ。俺が住んでいたころと同じ人。連絡を取りたいと思っていたところでタイミングよく行き合えてラッキーだ。
喜んだのもつかの間、俺を視認するなり管理人さんは、ひっと息を飲んでその場で飛び上がった。
「ソラくん……? ねえっ、ソラくんじゃないのっ……!? そうよね!?」
管理人さんはおどろきと興奮が入り交じった様子で、俺に近づく。
俺は七年まえ、住んでいたアパートから逃亡したのだ。父親はほとんど家を空けていて、息子も神隠しのように忽然と消えてしまった。管理人さんにおおいに迷惑と心配をかけたに違いない。
「あ……あの……。俺、ソラ、です。あのときはなにも言わずに突然いなくなって、すみませんでした」
俺は深々と頭を下げる。頭を上げると、管理人さんは首を振った。
「いいのよ。なにか、事情があったんでしょう? その、お父さんとのことで……」
父との間に確執があったこと――いや、父が保護者としての責任を放棄していることに、管理人さんも薄々気がついていたようだ。
管理人さんはこのアパートには住んでいない。ご近所に住んでいて、近隣のアパート数軒の管理業務を不動産会社から委託されている。今日はこの棟の管理日だったので朝訪れたところ、たまたま共用部に忘れ物をしてしまった。そのことにさきほど気づいて、取りに戻ってきたところだとか。
「あの……父を捜しているんです。昔住んでいた場所に、なにか手がかりはないかと思って」
「そうなの。ごめんなさいね。あなたのお父さん、ずいぶんまえに出て行ったきりで」
管理人さんが申し訳なさそうに眉根を寄せる。
「あなたがいなくなって、そのあとでお父さんのほうも正式に出て行ったの。私物は一緒に持って行ったから。部屋は空っぽだったわ」
きっとたいした荷物ではなかっただろう。部屋にあったのは、中古の家電、わずかな台所用品、溜まった郵便に、洋服くらいなものだった。
「いえ、いいんです。むしろご迷惑をおかけしてすみません。父の行きさきに心当たりはないでしょうか?」
管理人さんは厳しい顔をして首を振る。
「行きさきについては、さっぱり。たまに女の人と一緒に帰ってきていたみたいだから、もしかしたらその人のところに身を寄せたのかもしれないけれど、どこのだれやら」
「そうですか」
そんなに簡単に父につながる糸がたぐれるはずもないかと、がっかりよりはやっぱりの気持ちのほうが大きかった。
「お役に立てなくてごめんなさいね。両隣の人も、去年くらいに入居者さんが変わったのよ。だから昔のことを知っていそうな人も、もうここには住んでいなくって」
町の様子は変わっていなかったのに。七年という月日は、人に変化をもたらすのにじゅうぶんな期間らしい。
俺はもう一度、管理人さんに謝罪をして、それから丁重にお礼を述べて、その場を辞去した。
「ここは手がかりなしか。父さんとつきあいのあった人のつながりをたどったほうが早いかもしれない」
また駅への道を戻りながら俺が思案しているところで、フェイがふっと自信ありげに笑った。
「俺はずっと、隠れ機人を追いかける仕事に従事してたんだ。人捜しは任せてよ」
「どうやって探すの?」
たしかにフェイは軍仕込みの、人捜しのプロだ。どういう人脈をたどっていけば確実か、心当たりがありそうだ。
「きみの父親がよく出入りしていたのは、どこ?」
「うーん、競馬、パチンコ、闇カジノなんかにも手を出していたかなあ。よく六本木に通ってたみたい。俺が連れて行かれた例のサロンも六本木だったし」
父は田舎暮らしが性に合わないとなにかにつけて言っていた。俺が地方暮らしを選んだのも、東京を離れたくない父がここまで追いかけてくることはないはずと見込んだことが大きい。父はきっと、まだ東京にいる。
「そう。じゃあひとまず、そのロッポンギってところに行ってみようか」
「だったら、こっち」
俺はフェイを誘導して、小田急線の駅へと向かう。
「でも、父のことを知っている当時の遊び仲間はもういないかも」
背後から覆い被さるようにして立ち、券売機で切符を買う俺の手つきを興味深そうに観察しながら、フェイは自信たっぷりに言う。
「ひととおり聞き込みして望み薄そうだったら、もう探す必要はない。あっちから出向いてもらえばいい」
「……どういうこと? 父さんが俺に会いにくるように仕向けるってこと?」
デパートの迷子呼び出しアナウンスが脳裏をよぎる。
「そう。こっちにもメディアはあるよね? テレビとか新聞とか」
「あるよ。それがどうしたの?」
「メディアを使うんだよ。行方不明だったきみが見つかったって、大々的に報道してもらえばいい。そうしたら、それを見たきみのお父さんが連絡してくるんじゃない? 話に聞く限り、ずいぶんと金に汚い人みたいだから。きみは記憶喪失になっていて、身元につながる有力な情報提供には、謝礼を出すとでも嘘の情報を付け加えればいい」
その手があったか。
「そっか……! そうだね。できれば自力で見つけられるのに越したことはないけど、だめでも希望が見えてきた」
記憶喪失のふりをして警察やメディアをだますのも、ややリスクがある。できれば、自分たちの手で父の足跡をたどれるのが理想的だ。まずは都内に移動すべく、俺たちは列車のホームに向かった。
途中、乗り換え駅のファミレスで夕食を取った。大江戸線に乗り換え、六本木駅に到着するころには二十一時をまわっていた。
駅まえのコインロッカーに荷物を預けて、身軽になってから地上に上がる。駅まえは人が引くどころか、中心街に向かうほどに人の流れが増していく。夜の街はこれからが最盛期を迎えるのだ。
「にぎわってるね。いつもこんな感じなの?」
「うん。今日は土曜の夜だから特に人が多いんじゃないかな」
「へえ……。みんなこれからどこに行くの? あれ、なんかのパーティー?」
フェイは、パイナップルのへたみたいに高い位置で髪の毛をアップにして、きらきら光る素材で飾られたミニドレスを着た人に目線をくれながら尋ねる。
「いや……。あの人はたぶん、ラウンジとかで働いている人だと思う」
「ラウンジ?」
「女の人に接客してもらいながら、高いお酒を飲むところ」
「ふうん……」
フェイはきょろきょろとあたりを見回すと、ワンピース姿のきれいな二人組のお姉さんたちに声をかけた。
「ねえ」
道で客引きをしていると思しき二人は、人工的なほど長いまつげで縁取られた瞳をきょろっと見開いている。突然、眼帯を装着した謎の美形に話しかけられて、びっくりしたのだろう。
「このへんで一番、人が多く集まる店ってどこかな? なるべく多くの人が出入りしていて、情報がたくさん集まるところ。人捜しをしてるんだ」
なあんだ、うちの客にはならなそうかとやや残念そうにしつつ、二人のラウンジ嬢は顔を見合わせてこう答えた。
「だったら、ヴァニティじゃない?」
「だね。あそこがここらへんじゃ一番の大箱かな。リヒトくんもよく行ってるっぽいし」
「リヒトって?」
キーパーソンらしき人の名前に、きらっとフェイが目を光らせて反応する。
「ああ、うちのお得意さま。うちらとそんなに年変わんないのに、ホストクラブをいくつも経営してるオーナーなの。けっこう人脈あるみたいだから、会えたらなにか教えてもらえるかもよ」
「今日、ヴァニティって周年イベントじゃなかった? だったらゲストで来てるかも」
リヒト。どういう字を書くのかわからないが、その名を頭に刻んだ。
「ねえ、だれを捜してるの? 店バックレた子とか?」
ラウンジ嬢は小首をかしげてフェイに尋ねる。なんとなくだが、フェイも夜の店で働く人だと誤解をしていそうだ。フェイは黒いシャツに細身の黒のズボンで、上下カラスみたいに真っ黒なところから、夜の世界に属する人間だと連想させるのかもしれない。
「違うよ。この子の父親」
フェイはそこで俺の肩をぐっと引き寄せた。ラウンジ嬢は「なんで父親捜すのに夜の街に?」とやや不思議そうな顔をしつつも、愛想よく俺たちを見送ってくれた。
「じゃあさっそく、そのヴァニティって店に行ってみようか。どういう店なんだろうね」
「箱って言ってたから、クラブじゃないかな。踊るほうの」
教えられた住所まで歩いてきて、ヴァニティの場所はすぐにわかった。ビルの一階に金ぴかの筆記体で店名がかかげられている。店のまえには長蛇の列。黒服が一人ずつ、IDチェックとボディチェックをしてから入店させていた。
「うわ。IDが必要だったっぽいね。これじゃ店には入れないか」
また財布を置いてきたことが悔やまれる。俺はなんとかなったとして、こっちでIDを持たないフェイは門前払いだ。
「平気」
フェイは左右を見渡すと、俺の手を取って店の裏口へとまわりはじめた。
店の裏の通用口。鉄の扉を隔てた奥から、ずん、ずんと頭蓋骨に響く重低音が漏れ聞こえている。
フェイは胸元からピンを取り出すと、がちゃがちゃと数回上下に動かし、あっけなく鍵を開けてしまった。
すこしだけ扉を開けてなかに人がいないことを確認する。
「行くよ」
フェイは再び俺の手を取り、通用口からなかへと入り、すばやく鍵を閉めた。
ここは従業員専用の出入り口兼倉庫になっているようだった。音楽機材やフライヤーの束が積まれている。
フェイは行きさきがわかっているようにずんずんと店内へと進む。進むにつれて音楽が大きくなる。もう一枚べつの扉を開けると、フロアへとつながっていた。
視界が暗転する。青や赤などの光の線が縦横無尽に行き交い、ミラーボールが反射して、そこらじゅうに光の雪が降っていた。
フェイは立ち止まり、また小刻みに首を動かしてあたりを観察している。ボックス席に陣取って、ひときわ大きな声で盛り上がっていた集団に目をつけると、俺の手を引いてそちらに歩いていった。
「なんでそっちなの?」
音楽で声がかき消される。なるべくフェイの耳元で、いつもより五割増しくらいの声量で話しかけた。
「いま店にいるなかであの集団が一番、我が物顔でふるまってた。何度かこの店に来たことがありそうだから、リヒトってやつのことも知ってるかと思って」
フロアを横切ると、人々の目線がフェイに注がれる。女の人はぽーっとした目をして、男の人はちょっとぎょっとした顔をしている。まわりの人よりも頭ひとつぶん背が高く、3DCGかと見まごうほどの、一般人とかけ離れた容姿をしたフェイは暗がりでもよく目立った。
ボックス席には男女八人がすし詰めに座っていた。お酒のボトルがいくつも置かれて、羽振りがよさそうだ。
「ねえ」
お酒をあおりながら笑い声を上げていたところにフェイが割って入る。中心にいた、八人のリーダーと思われる男が、「なんだこいつ」という顔をしてフェイを見上げた。
「リヒトに会いたいんだ。だれか、手引きできる人はいない?」
八人は顔を見合わせている。ただ一人、中心にいる男を除いて。
「紹介できないこともないけど……。おまえ、だれ?」
本気で紹介してくれる気はなさそうにフェイをねめつけて、男が尋ねる。
「きみにとってはたぶん、だれでもないよ。人捜しをしているんだ。その人がこの街の人間関係に詳しいって聞いたものだから。きみたち、見るからにここの常連でしょ? まわりと雰囲気が違う。だったら、リヒトともつながりがあるのかなって」
フェイは正直に答えつつも、相手の自尊心をたくみにくすぐった。それがよかったのか、男の態度がやわらいだ。
「……リヒトくんは、二階のVIP席じゃないか」
「おい、教えていいのかよ」
リーダーが意外にもあっさりと答えて、横にいたべつの男があせったように口を挟む。
「いいって。あんだけ有名人だし、偶然VIPに入るところを見たって言えばいい。くれぐれも俺から訊いたって言うなよ」
「言わないよ。ありがと」
このやり取りから察するに、リヒトという人はどうやら、夜の街に徘徊する人たちにとっては畏怖の対象らしい。その畏怖の対象とつながりがあるはずと特別視されたことで、リーダーは気をよくしたのかもしれない。あるいは、楽しく飲んでいるところにこれ以上の邪魔が入るのを疎んで、さっさと会話を切り上げたかっただけかも。
「ねえ、やめたほうがいいんじゃない? リヒトくん、機嫌悪いときはなにするかわかんないって噂だよ」
座っていた女の一人が立ち上がり、フェイに忠告をうながす。
「それよりさ、うちらと飲まない? お兄さんめっちゃかっこいいね。モデルかなにか?」
誘いにフェイは首を振る。
「俺はこの子としか飲まないから」
そう言ってぐっと俺の肩を抱き寄せた。
「え……。あっ、その子……男の子!? やだ、髪長いから女だと思ってた。ってことは、お兄さんて、そっち?」
おどろきをあらわにする女に、フェイは肩をすくめて「そっちっていうか……。この子が好きなだけなんだけど」と去り際にパンチのあるひと言を残して、俺を連れて歩み去る。背後からひょえーっと嬌声が上がるのを聞きながら、フェイに背中を押されてフロアを横切った。
「二階のVIPルーム……。あそこか」
VIPエリアは特に、扉では仕切られていなかった。アカデミー賞の会場にありそうなポールで、通常フロアとの区分けがされている。
ちょうどクラブのスタッフがいなくなった頃合いに、フェイは俺の手を引いて足早に仕切りをよけて入室する。音を吸い込むような重厚な絨毯の引かれたVIPルームの最奥に、上下黒のスーツを着て、あきらかに異彩を放っている人物がいた。一人でブランデーの入ったグラスをかたむけている。
「リヒトってきみのこと?」
男のまえに立ちはだかったフェイは遠慮なく話しかける。男がグラスから目を離し、顔を上げた。顔立ちは犬系に分類されるような、割とかわいらしい部類に入る。でも目の奥のほの暗さがまるで隠せていなくて、ひと目で普通の稼ぎ方をしている人ではないなと思わせる容貌をしていた。
「そうだけど。なに?」
「訊きたいことがある」
フェイはリヒトの隣に腰を下ろした。俺のことも手招きして、隣に座るようにうながす。フェイの独占欲というか保護欲はここでもしっかり発揮されて、リヒトの間にフェイを挟んだ状態での着席だ。
「……俺、座っていいって言ってないけど」
リヒトは特に不機嫌そうにではなくそうこぼすと、まるでフェイがその場にいないかのように無視を決め込み、煙草に火を点けて吸いはじめた。
「左手、どうしたの?」
「左手?」
無視するつもりだったはずなのに。フェイのひと言にリヒトは顔をしかめた。
「うまく隠してるけど、あざになってるだろ。喧嘩? それから、お酒はやめておいたほうがいいんじゃない? 肝臓に負担がかかるから、医者から止められてるだろ。それと混ぜ物の入った薬も」
リヒトは煙を吐くと煙草を灰皿に置き、ゆっくりとフェイに顔を向けた。
「あんた、何者だ? 俺のなにを知ってる?」
「いろいろと。ケイサツにはだまっている代わりに、情報を教えてくれない?」
フェイの口から、くないのようなはったりが飛ぶ。俺たちが本当はなんの情報も持っていないだなんて、悟らせないほど堂々とした口ぶりだった。
リヒトには知られたらまずいことがいろいろとあったのか。また煙草をひと吸いしてから、ぽつりと言った。
「いいよ。……なにが訊きたい?」
「ソラ、話せる?」
フェイが俺に話を振る。俺は小さくうなずき、リヒトに詳細を語りはじめた。
「俺の父を捜しているんです。最後に会ったのは、三年まえ。すくなくとも三年まえまでは、よくこの町に顔を出していたはずです」
父がどういう生活を送っているのか。リアルに把握できているのは七年まえだけれど、俺と最後に会った三年まえの様子から、生活ぶりはあいかわらずだっただろうという推測を元に述べた。俺はリヒトに、父が出入りしていた場所を次々と伝えた。話を聞き終わると、リヒトはふーんとうなる。
「タワマンの一室で、ガキを賭けの対象にした闇ギャンブルが横行してたって噂は聞いたことがあったけど、マジだったんだな。そうか、あんたそこにいたのか」
もはや都市伝説級の、過去の逸話になっていたらしい。
「俺が独立するまえに世話になった店のオーナーが、ここで長いこと商売してる。なにか知っているかもしれないから、連絡を入れてみる」
リヒトは胸元からスマートフォンを取り出すと、どこかに電話をかけに行こうとした。立ち上がりかけるのを、フェイが手で阻止する。
「電話ならここでかけて」
「いや、ここだと音がすこしうるさいから」
「いいから、ここでかけて」
フェイは有無を言わさず、リヒトにそう要求した。
「俺の指示に従わないなら……。あんたの身の安全は保障しない」
リヒトのほうを向いたフェイの表情を見ることはかなわない。でもリヒトが息を飲んだ表情からして、これまで俺も見たことがないような顔で、相手を威圧しているのだろうと伝わってきた。フェイは最大限、警戒していた。俺たちの正体を訝しんだリヒトが、ひそかにセキュリティスタッフに泣きついて俺たちをつまみ出さないとも限らないから。
「……わかったよ。父親の名前は?」
リヒトは渋々といった様子でため息を吐いてから、俺に尋ねる。
「七色省吾です。七つの色に、省吾は反省の省、吾は五つに下が口のやつです」
「オーケー」
リヒトは携帯電話の画面をタップすると、耳に当てた。
「あ、墨田さん。お疲れさまです。いま、大丈夫ですか? ちょっと訊きたいことがあって」
リヒトは、七色省吾を捜している人がいること、三年まえに姿を見たのが最後であること、六本木でよく出入りしていた店のことを簡潔に伝えた。
「……え、本当ですか? ええ、はい。ありがとうございます。もし俺のほうでもなにかわかりそうならすぐ連絡します」
そう言い置いて、リヒトは通話を終えた。
「どう……でした……?」
リヒトの声音から、どうも朗報ではなさそうだった。
「墨田さん、あんたの親父さんのこと知ってたよ。墨田さんの経営するバーにたまに顔見せてたみたい。最後に見かけたのはちょうど、三年まえの三月十日だってさ。店に来たんだと」
リヒトは困惑気味にスマホを一回振る。
「その日、店で常連の誕生日祝いをやってたから日付まで覚えてたみたい。あんたの親父さん、真っ青な顔して店に来たらしいよ。墨田さんがこっそり聞いたら、桜沢組の闇金から金借りて、返済滞ってるから逃げまわってるって。気づいたら店の現金盗っていなくなってたってさ」
桜沢組の名を聞いて戦慄した。俺でも名前を聞いたことがある、日本を代表する指定暴力団だ。父はふらふらと足元が定まらなくて危なっかしい人だとは思っていたけれど、暴力団の闇金融にまで足を踏み入れてしまっていたとは。
「サクラザワグミってなに?」
フェイが俺のほうを向いて尋ねる。
「暴力団だよ。ええと、ニルヤだとマフィアって言えば通じるのかな? 集団で犯罪にかかわって、収益を上げている集団」
ニルヤの部分は極力声をひそめて、俺は答える。
「ああ、黒暗組織のことか」
ニルヤ語では黒暗組織というらしく、フェイは納得してうなずいた。いまのやり取りから、どうやらフェイが日本人ではないらしいと気づいたリヒトが、「あ、なに。おまえアジア系なの?」とほがらかなコメントをしていた。
「確信犯なのか、それとも気づいたときには手遅れだったの。額が大きかっただけに組の末端構成員から目をつけられたらしい。桜沢から逃げるのは無茶だろう。よくて漁船かタコ部屋。最悪の場合は、もう」
リヒトは後半、言葉を濁した。
「わかりました。そこまで調べてくれて、ありがとうございます」
俺は礼を述べる。最後に念のため、墨田氏の経営するバーの名前と場所だけ教えてもらい、フェイにうながされて立ち上がった。
またポールをよけてVIPルームから一般フロアに戻ってきた。フェイのふるまいがあまりにも堂々としているせいか、スーツ姿でインカムを付けたクラブのスタッフが、俺たちを呼び止めることはなかった。
帰りは堂々と、正面のドアから外に出る。熱気で満たされた水のない水槽みたいな場所を抜けてきたあとで、夜のぬるんだ空気が肌に心地よかった。
「せっかくフェイがここまで手がかりをつかんでくれたのに」
父が行方をくらませてしまった。俺はくやしさで唇を噛む。
最後の望みをかけてメディアを使ってみようか、と頭にちらついた。でも、俺の名字は珍しい。名字でピンと来て、あいつの息子だと気づいた桜沢組に返済を迫られることはないだろうか。当初なかった心理的な制約を感じるようになってしまった。
父に会うために、元の世界に戻ってきたのに。まだ父が消されたとは確定していないけれど、その可能性はおおいにある。
こんなにあっけなく、ずっと心に引っかかっていた存在がこの世から消えてしまうなんて。俺にとって唯一の肉親がもう、いないなんて。
俺は悲しいんだろうか。あんなやつなんていなくなればいいと憎んだ父だけれど、実際にいなくなってしまうと心の一部が空洞になったようで、自分のなかで悲しいという感情が湧き上がっているのだと実感する。あんなに憎んで、どうでもいいと思っていた人に対して自分が悲しみを感じるのを、俺は上手に受け入れられなかった。
それと、こんな形での幕引きをしたくなかったと後悔の念も押し寄せる。自分で始末をつけるまえに、肝心の相手が消えてしまった。ニルヤで俺が目覚めるのがもうすこし早ければ。父が失踪するまえにこちらに戻ってきて、父のことを捜し出せていたら。
父が失踪するまえ。
「……待って。まだ、方法はある」
こういうのを天啓って言うんだろうか。突然、俺の頭にある考えが飛来した。
「……すみません!」
俺は近くを通りがかった、歩きスマホをしている同世代くらいの男に声をかけた。アクセサリーをたくさん付けて、遊び帰りと思われる。男は目を丸くしつつも、足を止めた。
「電話、貸してもらえないですか? 今日、忘れてきちゃったんです。急ぎで、友だちにたしかめたいことがあって」
事情がよくわからないし、こんな道の往来でどうした? と戸惑った顔をしつつも、俺があまりにも切羽詰まったように見えたのか、男は苦笑いで電話を差し出してくれた。
「すみません。助かります」
俺は桐馬のくれたメモ用紙を見ながら番号を押す。この時間だとすぐには出ないかと思われたけれど、タイミングよく桐馬は四コール目で電話に出た。
「桐馬くん? 俺、ソラです。ちょっと訊きたいことがあって。桐馬くんは過去に戻ったことある? うん、うん……。じゃあ、俺がこっちの三年まえに戻るのは大丈夫そう? うん、その時点で俺はもう東京を離れてた」
電話の持ち主に、意味不明な会話を相当不審がられているだろうなあと思いつつ、聞きたいことを躊躇なく確認すると俺は電話を切った。
「ありがとう、もう大丈夫です。あ、番号の履歴は消しておきましたから」
スマートフォンを男に返し、俺はフェイの手を取って歩き出す。この時間になってもなお、クラブや飲食店の密集した繁華街へ向かおうとする人の流れとは逆行した。
「ソラ、なにがわかったの?」
フェイの声に、はてなマークがいっぱい付いている。めったにない俊敏さを見せた俺の謎行動に、おどろいていることだろう。
「えっと……。俺たちが三年まえの、三月十日に戻れることがわかったよ」
フェイの手を引きつつ、端的に答える。歩きつつ、なるべく人気のないところはどこかと目を配る。
「桐馬くんは過去にも行ったことがあるんだって。シュニャの力で過去に行くことになにか、制約はあるのか聞いたんだ」
タイムトラベルものの映画だと、過去への干渉は思いも寄らない影響を生み、未来を変えることがある。未来に極力干渉せずに、過去に戻る方法はないか。
桐馬によると、過去の自分や知り合いと遭遇する可能性のない年月や場所に戻るのは、比較的安全とのこと。機械人の真実を探るために過去に出入りしていた桐馬だけれど、基本的にはだれともかかわらず、会話が必要な場合も最小限に抑えていた。自分の行動の結果、戻ってきたら元の世界のありようが大きく変わっていた経験はいまのところ皆無だとか。
「フェイ、リヒトと交渉してくれてありがと。おかげでどの時点、どの場所にさかのぼれば、父さんに会えるのかわかったよ」
「なるほどね……。父親が顔を出したスミダっていう人の店に行ってみるのか」
「うん」
過去にさかのぼるというキーワードで、フェイは俺の考えをすばやく理解した。
大きな道路の交差する六本木の交差点付近は、階層都市の経済特区の様子にすこし似ているかもしれない。交差点を過ぎて駅構内へと降りる階段が見えてきたところで、フェイは俺の手をくい、と引く。
「桐馬の住んでいるところ、ここから歩いて行けるの?」
フェイは一度桐馬と落ち合い、桐馬の力を借りて過去に戻るのだと思っているらしい。
「歩くにはちょっと遠いかな。桐馬くんのところに行くまえに、ちょっと試してみたいことがあって。こっちだよ」
フェイの手を引き、地下鉄の入り口を通り過ぎる。
「それにしても。フェイはあのリヒトって人が手首を怪我してるとか、肝臓が悪いとか、どうしてわかったの?」
「ああ」
フェイは歩きながら、右手で眼帯をつまむ。
「これでスキャンした。バイタルはもちろん、体の悪いところとか、血中の成分まである程度わかる。あいつの血に普通じゃ考えられない合成物質が混ざってた。まあ薬物の常習者なんだろうなと思って、あとは鎌をかけてみただけ」
「そうだったんだ。それにしても、あんなに堂々と交渉しててすごかったよ。こっちにはなんの情報もないのにって、俺、どきどきしながら聞いてた」
「……惚れそう?」
フェイの声がうれしそうだ。
「まあ、はったりが通用しない相手なら、口を開くまで指一本ずつ折ればいいかって思ってたし。でも、すぐにしゃべってくれたから。穏便に済んでよかったね」
「うそ……。そんなこと考えてたの……!? お、お願いだからフェイが捕まるようなことはしないで……」
フェイの場合、悪い冗談だと思えないのが本気で怖い。
大きな商業施設のほうまで歩いてきた。とっくに閉店時間を迎えた商業施設の周囲に人気はない。近くに地下駐車場へとつながる通路があったので、そこに身を隠した。
「フェイ」
すう、と息を吸って、一度吐く。
「これから空間移転するよ。準備はいい?」
「……って、ソラがするの?」
さすがに予想外だったようで、フェイの切れ長の目が見開かれる。俺の力の不安定さを知っているだけに、余計に。
「うん。いまなら時間と空間を超えられると思う」
俺は自力では、シュニャの力を発揮できなかった。これまでたまたま移動に成功したのは、火事場の馬鹿力が作用したおかげだ。
桐馬がうまくいって、俺がうまくいかない理由。それは俺が、過去にとらわれているからだ。俺は決着をつけなければいけない事柄を、過去の世界に置きっぱなしにしてきてしまった。それが俺を縛る足枷になっている。時間と空間の超越者たるシュニャに足枷があるのでは、空間移転もうまくできるはずがない。
俺はその足枷をたどって、過去に戻る。つながっているさきがある。だからきっと、今回はうまくいく。謎の確信があった。
「手をつないで」
フェイとしっかり、手をつなぎなおす。目を閉じて、集中した。
戻りたい。三年まえの、三月十日に。俺の父が墨田という人のバーを訪れた、その夜に。
足元の細動がはじまる。空間移転の瞬間が近づいている。強く念じなくても、今回は行けると思った。フリースローを投げて、ゴールに吸い込まれていく軌道がはっきりと思い描けるように。
視界が白く反転する。目を閉じて、次に目を開けたら、俺はきっと、過去に戻っている。
一日の移動上限回数にかかり、さらに自分以外に二人を連れて空間移転をしたためか。ややぐったりした声で、桐馬が尋ねる。
「うん。桐馬くん、ありがとう」
都心からほどよく離れた郊外の町。眼前にはなつかしい、駅まえの光景が広がっていた。俺がここを出た七年まえとなにも変わっていない。
「へえ……。ここがソラのいた世界か。なんか、見たことない景色」
フェイは物珍しそうにゆっくりとあたりを見まわしてから、俺に向かってにやりとほほえんだ。――いまフェイは、トラックのなかで俺が意識を取り戻して、はじめてニルヤの光景を目にしたときの感情を追体験している。建造物に自分の住んでいる町との相似性を見つけられるのに、どこかなにかが違う不思議な光景。フェイの味わっているであろう新鮮なセンス・オブ・ワンダーに思いを馳せるとともに、こちらに戻ってきても引き続き、日本語で通じ合えていることに安堵した。俺の作り出した世界の住人だから、基本言語が日本語のままで、あたりまえではあるんだけれど。
ミジチに迎えに行ったフェイは準備万端といった風情で、ボストンバッグにまとめた荷物とともに俺の帰還を待ち構えていた。荷物を抱えると、桐馬に場所を指定してすぐさま空間移転をしてもらった。
「俺、待ってたほうがいい?」
「ううん、大丈夫。すこし時間かかると思うから」
ニルヤとこちらの時間の流れはやっぱり同じだった。ミジチを出発まえに時間を確認して、到着後に駅の時計でまた時間を確認して、どちらも寸分違わない。いまは午後七時をすこしまわったくらいだった。
「そう。じゃあとりあえず俺は自分んちに帰るから、なにかあったらここに連絡して」
桐馬は携帯電話番号と住所、それからアルバイトさきの店名と住所を書き付けたメモ用紙を破ると、俺に手渡した。
「携帯、持ってないと不便だね」
桐馬が困り顔で笑う。いまでは所持していないと不安にすらなる文明の利器が、俺の手元にはない。
「うん。まあ、公衆電話も探せば見つかるだろうし。なんとかなるよ。あ、でも待って」
「なに?」
きびすを返しかけた桐馬が立ち止まる。
「危なかった。俺たち、一文なしだった」
「ああ、そういえば」
フェイも、いまようやく気づいたというように同意を示す。とにかく一度、日本に帰る。フェイも一緒にいく。謎の高揚感に突き動かされるまま、勢いで移動してきてしまった。
「えっ。携帯はともかく、財布も持ってないの?」
桐馬が信じられないものを見る目で、俺たちを見つめる。
「うん。俺の私物は全部、ジャヒバル市長のところに置いてきちゃったから」
一度階層都市に立ち寄るべきだったかといまさらながら反省する。電源はなくなっているだろうけれど、鞄に入った俺の携帯電話もあったはずだ。
「ちょっと無計画すぎない!? まったくもう。貸してあげるから、無駄遣いしないでよ」
怒りを通り越してあきれている桐馬は、気前よく財布から五万円を抜いて俺たちに渡してくれた。
「桐馬くん、ごめん。なにからなにまで。ありがとう」
「お礼はいいよ。返済はこっちの通貨でよろしく」
「うん。次にこっちに来るときは、キャッシュカードを忘れずに持ってくるよ」
社会人になってからコツコツと貯めてきた給与のぶん、俺の銀行口座にはいくらか貯まっている。
「じゃあね。あーあ、あと一回移動するのは疲れるから、電車で帰るかあ」
そうぼやきながら、くたびれ気味の桐馬は駅の改札に向かって歩き出した。
「それで。これからどこに行くの? ここは、ソラの住んでいた町なんだよね」
「うん。一人で家を出るまで、ずっと住んでたところだよ。まずは住んでいたアパートに行ってみる」
家出してきてしまったので、あの家がどうなったのか知らない。でも、父が最後にいたのはあのアパートだし、もしあそこを出ていたとしても、父の足跡をたどるのに近所の住民がなにか覚えていることがあるかもしれない。
「この世界でソラが決着をつけようとしているのは、きみのお父さんとのこと?」
フェイは俺の考えをお見通しのようだった。
「うん。フェイは『支配』って言ってたよね。俺はいまも、まだ支配されたままだから。もう一回会って、自分で鎖を断ち切らないとだめだと思って」
「そう」
フェイはふい、と顔をまえに向けると、俺の肩に手を添えて、軽く抱き寄せた。ずっと俺の味方だと主張するような所作に、心がほっとする。
俺はフェイに肩を抱かれたまま歩き出した。
「まさか本当に、きみ以外のシュニャがいるなんて思ってもみなかった。それに、きみの父親に会いにいくのも想定外。でも、これで俺も約束が果たせるね」
「約束ってなんの約束?」
「会えたら二、三発殴るってやつ」
血まみれになる父の顔を想像して、俺の頭がさーっと冷えた。
「だ、だめだよ……。その約束、忘れて。俺、フェイに捕まってほしくないよ」
「捕まるって、軍に?」
ニルヤでは軍が警察の仕事も兼ねているから、そういう発想になるのだろう。
「いや、警察。ここでは警察って言って、軍とはべつに治安を守っている組織がいるんだよ。暴行罪で逮捕されたら、刑務所行きになりかねない」
「そう……。じゃあ、ケイサツにばれないようにすればいいのか」
不穏なひと言を耳にしつつ、俺たちはアパートに向かって足を進めた。
しばらくすると、なつかしい二階建ての建物が見えてきた。
駅前の繁華街から歩いて十分ほど。バスでも向かえるけれど、次の便まで時間が開いていたので徒歩を選んだ。
「なつかしい。俺の家、いまはだれが住んでるんだろう」
あれからもう七年も経つ。一階にある郵便受けを見て、やっぱりなと思った。すでに七色とは違う人の表札が挟まっている。父はここにはいなさそうだと、やや落胆した。
「けっこう、小さい……? 俺の集合住宅のほうがまだ広いかも」
建物の規模からなんとなく部屋の平米数を把握したらしいフェイが、不思議そうに首をかしげている。
「ああ……。階層都市は土地があり余っていそうだもんね。たしかに広くはないけど、二人暮らしだと正直、このくらいでじゅうぶんなんだよ」
日本全国うさぎ小屋が標準なのだという細かい説明は端折った。
この時間だと管理人にまだ連絡はつきそうだ。連絡しようか迷っていたところで背後から声をかけられた。
「あの……。なにかご用かしら?」
振り向くと、小柄な中年女性が立っていた。見覚えのある顔に、あっ、と思った。アパートの管理人さんだ。俺が住んでいたころと同じ人。連絡を取りたいと思っていたところでタイミングよく行き合えてラッキーだ。
喜んだのもつかの間、俺を視認するなり管理人さんは、ひっと息を飲んでその場で飛び上がった。
「ソラくん……? ねえっ、ソラくんじゃないのっ……!? そうよね!?」
管理人さんはおどろきと興奮が入り交じった様子で、俺に近づく。
俺は七年まえ、住んでいたアパートから逃亡したのだ。父親はほとんど家を空けていて、息子も神隠しのように忽然と消えてしまった。管理人さんにおおいに迷惑と心配をかけたに違いない。
「あ……あの……。俺、ソラ、です。あのときはなにも言わずに突然いなくなって、すみませんでした」
俺は深々と頭を下げる。頭を上げると、管理人さんは首を振った。
「いいのよ。なにか、事情があったんでしょう? その、お父さんとのことで……」
父との間に確執があったこと――いや、父が保護者としての責任を放棄していることに、管理人さんも薄々気がついていたようだ。
管理人さんはこのアパートには住んでいない。ご近所に住んでいて、近隣のアパート数軒の管理業務を不動産会社から委託されている。今日はこの棟の管理日だったので朝訪れたところ、たまたま共用部に忘れ物をしてしまった。そのことにさきほど気づいて、取りに戻ってきたところだとか。
「あの……父を捜しているんです。昔住んでいた場所に、なにか手がかりはないかと思って」
「そうなの。ごめんなさいね。あなたのお父さん、ずいぶんまえに出て行ったきりで」
管理人さんが申し訳なさそうに眉根を寄せる。
「あなたがいなくなって、そのあとでお父さんのほうも正式に出て行ったの。私物は一緒に持って行ったから。部屋は空っぽだったわ」
きっとたいした荷物ではなかっただろう。部屋にあったのは、中古の家電、わずかな台所用品、溜まった郵便に、洋服くらいなものだった。
「いえ、いいんです。むしろご迷惑をおかけしてすみません。父の行きさきに心当たりはないでしょうか?」
管理人さんは厳しい顔をして首を振る。
「行きさきについては、さっぱり。たまに女の人と一緒に帰ってきていたみたいだから、もしかしたらその人のところに身を寄せたのかもしれないけれど、どこのだれやら」
「そうですか」
そんなに簡単に父につながる糸がたぐれるはずもないかと、がっかりよりはやっぱりの気持ちのほうが大きかった。
「お役に立てなくてごめんなさいね。両隣の人も、去年くらいに入居者さんが変わったのよ。だから昔のことを知っていそうな人も、もうここには住んでいなくって」
町の様子は変わっていなかったのに。七年という月日は、人に変化をもたらすのにじゅうぶんな期間らしい。
俺はもう一度、管理人さんに謝罪をして、それから丁重にお礼を述べて、その場を辞去した。
「ここは手がかりなしか。父さんとつきあいのあった人のつながりをたどったほうが早いかもしれない」
また駅への道を戻りながら俺が思案しているところで、フェイがふっと自信ありげに笑った。
「俺はずっと、隠れ機人を追いかける仕事に従事してたんだ。人捜しは任せてよ」
「どうやって探すの?」
たしかにフェイは軍仕込みの、人捜しのプロだ。どういう人脈をたどっていけば確実か、心当たりがありそうだ。
「きみの父親がよく出入りしていたのは、どこ?」
「うーん、競馬、パチンコ、闇カジノなんかにも手を出していたかなあ。よく六本木に通ってたみたい。俺が連れて行かれた例のサロンも六本木だったし」
父は田舎暮らしが性に合わないとなにかにつけて言っていた。俺が地方暮らしを選んだのも、東京を離れたくない父がここまで追いかけてくることはないはずと見込んだことが大きい。父はきっと、まだ東京にいる。
「そう。じゃあひとまず、そのロッポンギってところに行ってみようか」
「だったら、こっち」
俺はフェイを誘導して、小田急線の駅へと向かう。
「でも、父のことを知っている当時の遊び仲間はもういないかも」
背後から覆い被さるようにして立ち、券売機で切符を買う俺の手つきを興味深そうに観察しながら、フェイは自信たっぷりに言う。
「ひととおり聞き込みして望み薄そうだったら、もう探す必要はない。あっちから出向いてもらえばいい」
「……どういうこと? 父さんが俺に会いにくるように仕向けるってこと?」
デパートの迷子呼び出しアナウンスが脳裏をよぎる。
「そう。こっちにもメディアはあるよね? テレビとか新聞とか」
「あるよ。それがどうしたの?」
「メディアを使うんだよ。行方不明だったきみが見つかったって、大々的に報道してもらえばいい。そうしたら、それを見たきみのお父さんが連絡してくるんじゃない? 話に聞く限り、ずいぶんと金に汚い人みたいだから。きみは記憶喪失になっていて、身元につながる有力な情報提供には、謝礼を出すとでも嘘の情報を付け加えればいい」
その手があったか。
「そっか……! そうだね。できれば自力で見つけられるのに越したことはないけど、だめでも希望が見えてきた」
記憶喪失のふりをして警察やメディアをだますのも、ややリスクがある。できれば、自分たちの手で父の足跡をたどれるのが理想的だ。まずは都内に移動すべく、俺たちは列車のホームに向かった。
途中、乗り換え駅のファミレスで夕食を取った。大江戸線に乗り換え、六本木駅に到着するころには二十一時をまわっていた。
駅まえのコインロッカーに荷物を預けて、身軽になってから地上に上がる。駅まえは人が引くどころか、中心街に向かうほどに人の流れが増していく。夜の街はこれからが最盛期を迎えるのだ。
「にぎわってるね。いつもこんな感じなの?」
「うん。今日は土曜の夜だから特に人が多いんじゃないかな」
「へえ……。みんなこれからどこに行くの? あれ、なんかのパーティー?」
フェイは、パイナップルのへたみたいに高い位置で髪の毛をアップにして、きらきら光る素材で飾られたミニドレスを着た人に目線をくれながら尋ねる。
「いや……。あの人はたぶん、ラウンジとかで働いている人だと思う」
「ラウンジ?」
「女の人に接客してもらいながら、高いお酒を飲むところ」
「ふうん……」
フェイはきょろきょろとあたりを見回すと、ワンピース姿のきれいな二人組のお姉さんたちに声をかけた。
「ねえ」
道で客引きをしていると思しき二人は、人工的なほど長いまつげで縁取られた瞳をきょろっと見開いている。突然、眼帯を装着した謎の美形に話しかけられて、びっくりしたのだろう。
「このへんで一番、人が多く集まる店ってどこかな? なるべく多くの人が出入りしていて、情報がたくさん集まるところ。人捜しをしてるんだ」
なあんだ、うちの客にはならなそうかとやや残念そうにしつつ、二人のラウンジ嬢は顔を見合わせてこう答えた。
「だったら、ヴァニティじゃない?」
「だね。あそこがここらへんじゃ一番の大箱かな。リヒトくんもよく行ってるっぽいし」
「リヒトって?」
キーパーソンらしき人の名前に、きらっとフェイが目を光らせて反応する。
「ああ、うちのお得意さま。うちらとそんなに年変わんないのに、ホストクラブをいくつも経営してるオーナーなの。けっこう人脈あるみたいだから、会えたらなにか教えてもらえるかもよ」
「今日、ヴァニティって周年イベントじゃなかった? だったらゲストで来てるかも」
リヒト。どういう字を書くのかわからないが、その名を頭に刻んだ。
「ねえ、だれを捜してるの? 店バックレた子とか?」
ラウンジ嬢は小首をかしげてフェイに尋ねる。なんとなくだが、フェイも夜の店で働く人だと誤解をしていそうだ。フェイは黒いシャツに細身の黒のズボンで、上下カラスみたいに真っ黒なところから、夜の世界に属する人間だと連想させるのかもしれない。
「違うよ。この子の父親」
フェイはそこで俺の肩をぐっと引き寄せた。ラウンジ嬢は「なんで父親捜すのに夜の街に?」とやや不思議そうな顔をしつつも、愛想よく俺たちを見送ってくれた。
「じゃあさっそく、そのヴァニティって店に行ってみようか。どういう店なんだろうね」
「箱って言ってたから、クラブじゃないかな。踊るほうの」
教えられた住所まで歩いてきて、ヴァニティの場所はすぐにわかった。ビルの一階に金ぴかの筆記体で店名がかかげられている。店のまえには長蛇の列。黒服が一人ずつ、IDチェックとボディチェックをしてから入店させていた。
「うわ。IDが必要だったっぽいね。これじゃ店には入れないか」
また財布を置いてきたことが悔やまれる。俺はなんとかなったとして、こっちでIDを持たないフェイは門前払いだ。
「平気」
フェイは左右を見渡すと、俺の手を取って店の裏口へとまわりはじめた。
店の裏の通用口。鉄の扉を隔てた奥から、ずん、ずんと頭蓋骨に響く重低音が漏れ聞こえている。
フェイは胸元からピンを取り出すと、がちゃがちゃと数回上下に動かし、あっけなく鍵を開けてしまった。
すこしだけ扉を開けてなかに人がいないことを確認する。
「行くよ」
フェイは再び俺の手を取り、通用口からなかへと入り、すばやく鍵を閉めた。
ここは従業員専用の出入り口兼倉庫になっているようだった。音楽機材やフライヤーの束が積まれている。
フェイは行きさきがわかっているようにずんずんと店内へと進む。進むにつれて音楽が大きくなる。もう一枚べつの扉を開けると、フロアへとつながっていた。
視界が暗転する。青や赤などの光の線が縦横無尽に行き交い、ミラーボールが反射して、そこらじゅうに光の雪が降っていた。
フェイは立ち止まり、また小刻みに首を動かしてあたりを観察している。ボックス席に陣取って、ひときわ大きな声で盛り上がっていた集団に目をつけると、俺の手を引いてそちらに歩いていった。
「なんでそっちなの?」
音楽で声がかき消される。なるべくフェイの耳元で、いつもより五割増しくらいの声量で話しかけた。
「いま店にいるなかであの集団が一番、我が物顔でふるまってた。何度かこの店に来たことがありそうだから、リヒトってやつのことも知ってるかと思って」
フロアを横切ると、人々の目線がフェイに注がれる。女の人はぽーっとした目をして、男の人はちょっとぎょっとした顔をしている。まわりの人よりも頭ひとつぶん背が高く、3DCGかと見まごうほどの、一般人とかけ離れた容姿をしたフェイは暗がりでもよく目立った。
ボックス席には男女八人がすし詰めに座っていた。お酒のボトルがいくつも置かれて、羽振りがよさそうだ。
「ねえ」
お酒をあおりながら笑い声を上げていたところにフェイが割って入る。中心にいた、八人のリーダーと思われる男が、「なんだこいつ」という顔をしてフェイを見上げた。
「リヒトに会いたいんだ。だれか、手引きできる人はいない?」
八人は顔を見合わせている。ただ一人、中心にいる男を除いて。
「紹介できないこともないけど……。おまえ、だれ?」
本気で紹介してくれる気はなさそうにフェイをねめつけて、男が尋ねる。
「きみにとってはたぶん、だれでもないよ。人捜しをしているんだ。その人がこの街の人間関係に詳しいって聞いたものだから。きみたち、見るからにここの常連でしょ? まわりと雰囲気が違う。だったら、リヒトともつながりがあるのかなって」
フェイは正直に答えつつも、相手の自尊心をたくみにくすぐった。それがよかったのか、男の態度がやわらいだ。
「……リヒトくんは、二階のVIP席じゃないか」
「おい、教えていいのかよ」
リーダーが意外にもあっさりと答えて、横にいたべつの男があせったように口を挟む。
「いいって。あんだけ有名人だし、偶然VIPに入るところを見たって言えばいい。くれぐれも俺から訊いたって言うなよ」
「言わないよ。ありがと」
このやり取りから察するに、リヒトという人はどうやら、夜の街に徘徊する人たちにとっては畏怖の対象らしい。その畏怖の対象とつながりがあるはずと特別視されたことで、リーダーは気をよくしたのかもしれない。あるいは、楽しく飲んでいるところにこれ以上の邪魔が入るのを疎んで、さっさと会話を切り上げたかっただけかも。
「ねえ、やめたほうがいいんじゃない? リヒトくん、機嫌悪いときはなにするかわかんないって噂だよ」
座っていた女の一人が立ち上がり、フェイに忠告をうながす。
「それよりさ、うちらと飲まない? お兄さんめっちゃかっこいいね。モデルかなにか?」
誘いにフェイは首を振る。
「俺はこの子としか飲まないから」
そう言ってぐっと俺の肩を抱き寄せた。
「え……。あっ、その子……男の子!? やだ、髪長いから女だと思ってた。ってことは、お兄さんて、そっち?」
おどろきをあらわにする女に、フェイは肩をすくめて「そっちっていうか……。この子が好きなだけなんだけど」と去り際にパンチのあるひと言を残して、俺を連れて歩み去る。背後からひょえーっと嬌声が上がるのを聞きながら、フェイに背中を押されてフロアを横切った。
「二階のVIPルーム……。あそこか」
VIPエリアは特に、扉では仕切られていなかった。アカデミー賞の会場にありそうなポールで、通常フロアとの区分けがされている。
ちょうどクラブのスタッフがいなくなった頃合いに、フェイは俺の手を引いて足早に仕切りをよけて入室する。音を吸い込むような重厚な絨毯の引かれたVIPルームの最奥に、上下黒のスーツを着て、あきらかに異彩を放っている人物がいた。一人でブランデーの入ったグラスをかたむけている。
「リヒトってきみのこと?」
男のまえに立ちはだかったフェイは遠慮なく話しかける。男がグラスから目を離し、顔を上げた。顔立ちは犬系に分類されるような、割とかわいらしい部類に入る。でも目の奥のほの暗さがまるで隠せていなくて、ひと目で普通の稼ぎ方をしている人ではないなと思わせる容貌をしていた。
「そうだけど。なに?」
「訊きたいことがある」
フェイはリヒトの隣に腰を下ろした。俺のことも手招きして、隣に座るようにうながす。フェイの独占欲というか保護欲はここでもしっかり発揮されて、リヒトの間にフェイを挟んだ状態での着席だ。
「……俺、座っていいって言ってないけど」
リヒトは特に不機嫌そうにではなくそうこぼすと、まるでフェイがその場にいないかのように無視を決め込み、煙草に火を点けて吸いはじめた。
「左手、どうしたの?」
「左手?」
無視するつもりだったはずなのに。フェイのひと言にリヒトは顔をしかめた。
「うまく隠してるけど、あざになってるだろ。喧嘩? それから、お酒はやめておいたほうがいいんじゃない? 肝臓に負担がかかるから、医者から止められてるだろ。それと混ぜ物の入った薬も」
リヒトは煙を吐くと煙草を灰皿に置き、ゆっくりとフェイに顔を向けた。
「あんた、何者だ? 俺のなにを知ってる?」
「いろいろと。ケイサツにはだまっている代わりに、情報を教えてくれない?」
フェイの口から、くないのようなはったりが飛ぶ。俺たちが本当はなんの情報も持っていないだなんて、悟らせないほど堂々とした口ぶりだった。
リヒトには知られたらまずいことがいろいろとあったのか。また煙草をひと吸いしてから、ぽつりと言った。
「いいよ。……なにが訊きたい?」
「ソラ、話せる?」
フェイが俺に話を振る。俺は小さくうなずき、リヒトに詳細を語りはじめた。
「俺の父を捜しているんです。最後に会ったのは、三年まえ。すくなくとも三年まえまでは、よくこの町に顔を出していたはずです」
父がどういう生活を送っているのか。リアルに把握できているのは七年まえだけれど、俺と最後に会った三年まえの様子から、生活ぶりはあいかわらずだっただろうという推測を元に述べた。俺はリヒトに、父が出入りしていた場所を次々と伝えた。話を聞き終わると、リヒトはふーんとうなる。
「タワマンの一室で、ガキを賭けの対象にした闇ギャンブルが横行してたって噂は聞いたことがあったけど、マジだったんだな。そうか、あんたそこにいたのか」
もはや都市伝説級の、過去の逸話になっていたらしい。
「俺が独立するまえに世話になった店のオーナーが、ここで長いこと商売してる。なにか知っているかもしれないから、連絡を入れてみる」
リヒトは胸元からスマートフォンを取り出すと、どこかに電話をかけに行こうとした。立ち上がりかけるのを、フェイが手で阻止する。
「電話ならここでかけて」
「いや、ここだと音がすこしうるさいから」
「いいから、ここでかけて」
フェイは有無を言わさず、リヒトにそう要求した。
「俺の指示に従わないなら……。あんたの身の安全は保障しない」
リヒトのほうを向いたフェイの表情を見ることはかなわない。でもリヒトが息を飲んだ表情からして、これまで俺も見たことがないような顔で、相手を威圧しているのだろうと伝わってきた。フェイは最大限、警戒していた。俺たちの正体を訝しんだリヒトが、ひそかにセキュリティスタッフに泣きついて俺たちをつまみ出さないとも限らないから。
「……わかったよ。父親の名前は?」
リヒトは渋々といった様子でため息を吐いてから、俺に尋ねる。
「七色省吾です。七つの色に、省吾は反省の省、吾は五つに下が口のやつです」
「オーケー」
リヒトは携帯電話の画面をタップすると、耳に当てた。
「あ、墨田さん。お疲れさまです。いま、大丈夫ですか? ちょっと訊きたいことがあって」
リヒトは、七色省吾を捜している人がいること、三年まえに姿を見たのが最後であること、六本木でよく出入りしていた店のことを簡潔に伝えた。
「……え、本当ですか? ええ、はい。ありがとうございます。もし俺のほうでもなにかわかりそうならすぐ連絡します」
そう言い置いて、リヒトは通話を終えた。
「どう……でした……?」
リヒトの声音から、どうも朗報ではなさそうだった。
「墨田さん、あんたの親父さんのこと知ってたよ。墨田さんの経営するバーにたまに顔見せてたみたい。最後に見かけたのはちょうど、三年まえの三月十日だってさ。店に来たんだと」
リヒトは困惑気味にスマホを一回振る。
「その日、店で常連の誕生日祝いをやってたから日付まで覚えてたみたい。あんたの親父さん、真っ青な顔して店に来たらしいよ。墨田さんがこっそり聞いたら、桜沢組の闇金から金借りて、返済滞ってるから逃げまわってるって。気づいたら店の現金盗っていなくなってたってさ」
桜沢組の名を聞いて戦慄した。俺でも名前を聞いたことがある、日本を代表する指定暴力団だ。父はふらふらと足元が定まらなくて危なっかしい人だとは思っていたけれど、暴力団の闇金融にまで足を踏み入れてしまっていたとは。
「サクラザワグミってなに?」
フェイが俺のほうを向いて尋ねる。
「暴力団だよ。ええと、ニルヤだとマフィアって言えば通じるのかな? 集団で犯罪にかかわって、収益を上げている集団」
ニルヤの部分は極力声をひそめて、俺は答える。
「ああ、黒暗組織のことか」
ニルヤ語では黒暗組織というらしく、フェイは納得してうなずいた。いまのやり取りから、どうやらフェイが日本人ではないらしいと気づいたリヒトが、「あ、なに。おまえアジア系なの?」とほがらかなコメントをしていた。
「確信犯なのか、それとも気づいたときには手遅れだったの。額が大きかっただけに組の末端構成員から目をつけられたらしい。桜沢から逃げるのは無茶だろう。よくて漁船かタコ部屋。最悪の場合は、もう」
リヒトは後半、言葉を濁した。
「わかりました。そこまで調べてくれて、ありがとうございます」
俺は礼を述べる。最後に念のため、墨田氏の経営するバーの名前と場所だけ教えてもらい、フェイにうながされて立ち上がった。
またポールをよけてVIPルームから一般フロアに戻ってきた。フェイのふるまいがあまりにも堂々としているせいか、スーツ姿でインカムを付けたクラブのスタッフが、俺たちを呼び止めることはなかった。
帰りは堂々と、正面のドアから外に出る。熱気で満たされた水のない水槽みたいな場所を抜けてきたあとで、夜のぬるんだ空気が肌に心地よかった。
「せっかくフェイがここまで手がかりをつかんでくれたのに」
父が行方をくらませてしまった。俺はくやしさで唇を噛む。
最後の望みをかけてメディアを使ってみようか、と頭にちらついた。でも、俺の名字は珍しい。名字でピンと来て、あいつの息子だと気づいた桜沢組に返済を迫られることはないだろうか。当初なかった心理的な制約を感じるようになってしまった。
父に会うために、元の世界に戻ってきたのに。まだ父が消されたとは確定していないけれど、その可能性はおおいにある。
こんなにあっけなく、ずっと心に引っかかっていた存在がこの世から消えてしまうなんて。俺にとって唯一の肉親がもう、いないなんて。
俺は悲しいんだろうか。あんなやつなんていなくなればいいと憎んだ父だけれど、実際にいなくなってしまうと心の一部が空洞になったようで、自分のなかで悲しいという感情が湧き上がっているのだと実感する。あんなに憎んで、どうでもいいと思っていた人に対して自分が悲しみを感じるのを、俺は上手に受け入れられなかった。
それと、こんな形での幕引きをしたくなかったと後悔の念も押し寄せる。自分で始末をつけるまえに、肝心の相手が消えてしまった。ニルヤで俺が目覚めるのがもうすこし早ければ。父が失踪するまえにこちらに戻ってきて、父のことを捜し出せていたら。
父が失踪するまえ。
「……待って。まだ、方法はある」
こういうのを天啓って言うんだろうか。突然、俺の頭にある考えが飛来した。
「……すみません!」
俺は近くを通りがかった、歩きスマホをしている同世代くらいの男に声をかけた。アクセサリーをたくさん付けて、遊び帰りと思われる。男は目を丸くしつつも、足を止めた。
「電話、貸してもらえないですか? 今日、忘れてきちゃったんです。急ぎで、友だちにたしかめたいことがあって」
事情がよくわからないし、こんな道の往来でどうした? と戸惑った顔をしつつも、俺があまりにも切羽詰まったように見えたのか、男は苦笑いで電話を差し出してくれた。
「すみません。助かります」
俺は桐馬のくれたメモ用紙を見ながら番号を押す。この時間だとすぐには出ないかと思われたけれど、タイミングよく桐馬は四コール目で電話に出た。
「桐馬くん? 俺、ソラです。ちょっと訊きたいことがあって。桐馬くんは過去に戻ったことある? うん、うん……。じゃあ、俺がこっちの三年まえに戻るのは大丈夫そう? うん、その時点で俺はもう東京を離れてた」
電話の持ち主に、意味不明な会話を相当不審がられているだろうなあと思いつつ、聞きたいことを躊躇なく確認すると俺は電話を切った。
「ありがとう、もう大丈夫です。あ、番号の履歴は消しておきましたから」
スマートフォンを男に返し、俺はフェイの手を取って歩き出す。この時間になってもなお、クラブや飲食店の密集した繁華街へ向かおうとする人の流れとは逆行した。
「ソラ、なにがわかったの?」
フェイの声に、はてなマークがいっぱい付いている。めったにない俊敏さを見せた俺の謎行動に、おどろいていることだろう。
「えっと……。俺たちが三年まえの、三月十日に戻れることがわかったよ」
フェイの手を引きつつ、端的に答える。歩きつつ、なるべく人気のないところはどこかと目を配る。
「桐馬くんは過去にも行ったことがあるんだって。シュニャの力で過去に行くことになにか、制約はあるのか聞いたんだ」
タイムトラベルものの映画だと、過去への干渉は思いも寄らない影響を生み、未来を変えることがある。未来に極力干渉せずに、過去に戻る方法はないか。
桐馬によると、過去の自分や知り合いと遭遇する可能性のない年月や場所に戻るのは、比較的安全とのこと。機械人の真実を探るために過去に出入りしていた桐馬だけれど、基本的にはだれともかかわらず、会話が必要な場合も最小限に抑えていた。自分の行動の結果、戻ってきたら元の世界のありようが大きく変わっていた経験はいまのところ皆無だとか。
「フェイ、リヒトと交渉してくれてありがと。おかげでどの時点、どの場所にさかのぼれば、父さんに会えるのかわかったよ」
「なるほどね……。父親が顔を出したスミダっていう人の店に行ってみるのか」
「うん」
過去にさかのぼるというキーワードで、フェイは俺の考えをすばやく理解した。
大きな道路の交差する六本木の交差点付近は、階層都市の経済特区の様子にすこし似ているかもしれない。交差点を過ぎて駅構内へと降りる階段が見えてきたところで、フェイは俺の手をくい、と引く。
「桐馬の住んでいるところ、ここから歩いて行けるの?」
フェイは一度桐馬と落ち合い、桐馬の力を借りて過去に戻るのだと思っているらしい。
「歩くにはちょっと遠いかな。桐馬くんのところに行くまえに、ちょっと試してみたいことがあって。こっちだよ」
フェイの手を引き、地下鉄の入り口を通り過ぎる。
「それにしても。フェイはあのリヒトって人が手首を怪我してるとか、肝臓が悪いとか、どうしてわかったの?」
「ああ」
フェイは歩きながら、右手で眼帯をつまむ。
「これでスキャンした。バイタルはもちろん、体の悪いところとか、血中の成分まである程度わかる。あいつの血に普通じゃ考えられない合成物質が混ざってた。まあ薬物の常習者なんだろうなと思って、あとは鎌をかけてみただけ」
「そうだったんだ。それにしても、あんなに堂々と交渉しててすごかったよ。こっちにはなんの情報もないのにって、俺、どきどきしながら聞いてた」
「……惚れそう?」
フェイの声がうれしそうだ。
「まあ、はったりが通用しない相手なら、口を開くまで指一本ずつ折ればいいかって思ってたし。でも、すぐにしゃべってくれたから。穏便に済んでよかったね」
「うそ……。そんなこと考えてたの……!? お、お願いだからフェイが捕まるようなことはしないで……」
フェイの場合、悪い冗談だと思えないのが本気で怖い。
大きな商業施設のほうまで歩いてきた。とっくに閉店時間を迎えた商業施設の周囲に人気はない。近くに地下駐車場へとつながる通路があったので、そこに身を隠した。
「フェイ」
すう、と息を吸って、一度吐く。
「これから空間移転するよ。準備はいい?」
「……って、ソラがするの?」
さすがに予想外だったようで、フェイの切れ長の目が見開かれる。俺の力の不安定さを知っているだけに、余計に。
「うん。いまなら時間と空間を超えられると思う」
俺は自力では、シュニャの力を発揮できなかった。これまでたまたま移動に成功したのは、火事場の馬鹿力が作用したおかげだ。
桐馬がうまくいって、俺がうまくいかない理由。それは俺が、過去にとらわれているからだ。俺は決着をつけなければいけない事柄を、過去の世界に置きっぱなしにしてきてしまった。それが俺を縛る足枷になっている。時間と空間の超越者たるシュニャに足枷があるのでは、空間移転もうまくできるはずがない。
俺はその足枷をたどって、過去に戻る。つながっているさきがある。だからきっと、今回はうまくいく。謎の確信があった。
「手をつないで」
フェイとしっかり、手をつなぎなおす。目を閉じて、集中した。
戻りたい。三年まえの、三月十日に。俺の父が墨田という人のバーを訪れた、その夜に。
足元の細動がはじまる。空間移転の瞬間が近づいている。強く念じなくても、今回は行けると思った。フリースローを投げて、ゴールに吸い込まれていく軌道がはっきりと思い描けるように。
視界が白く反転する。目を閉じて、次に目を開けたら、俺はきっと、過去に戻っている。
0
あなたにおすすめの小説
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる