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EP13 縛りプレイとナイフの秘密
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盗賊ギルドの中はプレイヤーのパーティやソロプレイで活動していると思われる冒険者たちで賑わっていた。フィオナも食事の提供で忙しい様子だったが、入ってきたトールとアルデリアの姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。
「はぁーい、いらっしゃい、二人とも! ちょうど良かった、マスターが話があるって言ってたから、連絡をしようと思っていたところなのよ。マスターの部屋へ行ってくれる?」
マスターとは言わずもがなだが盗賊ギルド長カルグリークのことである。
「ありがとうフィオナ、それじゃあ、ちょっとおやっさんと話してくるよ」
「お邪魔させていただきますわ」
トールとアルデリアはカウンターの脇から奥の部屋に入った。そこは小さな保管庫と休憩室になっており、さらにその奥に、頑丈な鉄枠の着いた扉があった。その部屋こそがカルグリークの部屋だった。
ゴンゴンと、重い音のする扉のノックをたたくと、中から野太い声で入るように声がかかった。重量のある扉を押し開いて、トールとアルデリアは部屋に入った。
「いよぉ、来たなお二人さん」
カルグリークは木製の大きな机の向こうで、豪奢な椅子に深く腰掛けていた。机の上には、先日預けた例のナイフが置いてあった。
「おやっさん、ナイフのこと、何かわかったのか?」
「ああ、わかったと言えばわかったが、わからんと言えばわからん、といったところだな」
「どういうことですの?」
「あのナイフは、俺の記憶違いじゃなく、暗殺者集団『赤い夜』が使っていたナイフで間違いない。このギルドにも蔵書してある、武器防具に関する本にも記録が残っていた」
「暗殺者集団……どうして、お父様が暗殺者なんかに……」
アルデリアは目を伏せた。
「フリフリのお嬢ちゃん、まだ続きがあるんだ」
「?」
「部下にも調べてもらったんだが、『赤い夜』は、もう10年以上前に壊滅しちまってるんだよ」
「なんだって? それじゃ、誰かがその『赤い夜』が使っていたナイフを見つけて、殺害に使ったってことなのか?」
「そいつも考えにくいんだなぁ。『赤い夜』は、そのあまりの危険性から、ある時王都から派遣された軍によって一気に攻められて、一夜にして壊滅に追いやられたんだ。集団のメンバーは全員その場で処刑され、そんときに、もっていた武器防具なんかも全部一緒に処分されたって話だ」
「その話が本当なら、今このナイフは現存するはずがない、ということですわね?」
「ああ、そういうこったな。だから、なんで今更こんなものが出てきたのか、わけがわからねぇってわけだ」
しばらく三人とも無言になったが、沈黙を破ったのはカルグリークだった。
「……『赤い夜』を壊滅させたのは王都の軍だと言ったが、その作戦に当たったのは軍の中でも精鋭を集めた部隊で、そのときのリーダーは今の軍の指揮を執っているバルトランという男だ。そいつに接触してみれば、何かわかるかもしらんな……」
「王都……ここからだとかなりの距離がありますわね」
「ああ。お嬢ちゃん、もし本気で行くってんなら、しばらくは帰って来れないだろうな」
「トールさん」
「なんだ?」
「もちろん、行きますわよね?」
「あ、ああ、もちろん。仕方が無い事情もあることだし……」
アルデリアはキッとトールをにらみつけた。
「よし、それなら善は急げだ。俺は王都までの馬車を手配してやるから、お前さんらは旅の支度をしてこい」
「ありがとうございます、カルグリークさん」
「馬車の代金はトールの給金から引いといてやるからな」
「おいおい、そりゃないぜーっ!」
「さ、トールさん、行きましょう」
アルデリアは抗議しているトールを引っ張って、ギルドの外へ向かった。
「まずは神学学校のメイベル先生に王都へ向かうことを伝えて、それから必要なものを買って、身支度をしましょう」
「うぅ……俺の金が……」
「……後で私も折半しますから」
そうして、トールとアルデリアは神学学校に向かい、メイベル先生へ挨拶を終えた後、大通りの店を回って旅の道具を買いそろえた。
そして、そのまま今度は街の北の門へと向かった。門の外には、御者を乗せた幌馬車が一台待機していた。その脇には、カルグリークとフィオナの姿もあった。
「おやっさん、ホントずいぶん準備がいいな」
「お前さんらだったら、どうせ王都に向かうと思ってな、先に手を回しといたんだよ」
「もー、マスターがそんなことしてるなんて、私は全然知らなかったわよー」
「お心遣い、本当に感謝いたしますわ」
「トールもアルデリアちゃんも、気をつけて行ってらっしゃいねー!」
「ああ、しばらく留守にするけど、よろしくな!」
トールとアルデリアは馬車の荷台に乗り込むと、御者は馬に鞭を入れて出発した。
だんだんとカルグリークとフィオナの姿が小さくなっていき、ついぞ姿は見えなくなった。
ルーウィックの街の北側は、南側と異なり平坦な道が続いている。両脇の森林地帯を抜けて道なりに進むのだが、王都に着くまでは3日ほどの時間がかかり、それまでは、途中の町や村で休息をとりながら進むことになる。
ルーウィックの北にある村が遠くに見え始めた頃、おもむろにシステムメッセージが表示された。
~クエスト更新:謎のナイフの持ち主を探せ~
王都へ行き、暗殺者集団『赤い夜』の情報を収集せよ。
対象レベル:Lv 2以上
「これで、クエストの進行は合っているみたいだな」
「ええ、そのようですわね。道中、何も起こらないといいのですけれど」
「おいおい、そんなフラグみたいなこと言ってると――」
「う、うわぁぁぁー!」
突如御者が悲鳴を上げ、馬車は急停車した。拍子に椅子から転がり落ちるアルデリア。
「ほら、言わんこっちゃないぜーっ!」
トールは荷台の入り口の幕を開けて、外に飛び出した。そこには、地面に落ちて立ち上がれない御者の姿があった。
「お、お客さん、あれ……!!」
御者の指さした方向を見ると、巨大な熊型のモンスターが道を塞いでいた。
「熊か……ま、自然豊かなところだから、出てきても不思議じゃないがな」
「いたたた……。まったく、何なんですの!? って、きゃあああ!」
少し遅れて幌馬車から出てきたアルデリアも悲鳴をあげる。トールがそちらを振り向くと、もう一匹の熊型モンスターが馬車の後ろの道を塞いでいるのが見えた。
「挟み撃ち……さすがにゲームの中の熊さんは、現実よりも賢いってか。だが……!」
トールは腰のナイフを取り出して右手に構えると、前後の敵を確認した。
「アルデリア、俺に考えがある! 協力、よろしくな!」
そう言い放つと、トールは前方のモンスターに向かっていった。
「はぁーい、いらっしゃい、二人とも! ちょうど良かった、マスターが話があるって言ってたから、連絡をしようと思っていたところなのよ。マスターの部屋へ行ってくれる?」
マスターとは言わずもがなだが盗賊ギルド長カルグリークのことである。
「ありがとうフィオナ、それじゃあ、ちょっとおやっさんと話してくるよ」
「お邪魔させていただきますわ」
トールとアルデリアはカウンターの脇から奥の部屋に入った。そこは小さな保管庫と休憩室になっており、さらにその奥に、頑丈な鉄枠の着いた扉があった。その部屋こそがカルグリークの部屋だった。
ゴンゴンと、重い音のする扉のノックをたたくと、中から野太い声で入るように声がかかった。重量のある扉を押し開いて、トールとアルデリアは部屋に入った。
「いよぉ、来たなお二人さん」
カルグリークは木製の大きな机の向こうで、豪奢な椅子に深く腰掛けていた。机の上には、先日預けた例のナイフが置いてあった。
「おやっさん、ナイフのこと、何かわかったのか?」
「ああ、わかったと言えばわかったが、わからんと言えばわからん、といったところだな」
「どういうことですの?」
「あのナイフは、俺の記憶違いじゃなく、暗殺者集団『赤い夜』が使っていたナイフで間違いない。このギルドにも蔵書してある、武器防具に関する本にも記録が残っていた」
「暗殺者集団……どうして、お父様が暗殺者なんかに……」
アルデリアは目を伏せた。
「フリフリのお嬢ちゃん、まだ続きがあるんだ」
「?」
「部下にも調べてもらったんだが、『赤い夜』は、もう10年以上前に壊滅しちまってるんだよ」
「なんだって? それじゃ、誰かがその『赤い夜』が使っていたナイフを見つけて、殺害に使ったってことなのか?」
「そいつも考えにくいんだなぁ。『赤い夜』は、そのあまりの危険性から、ある時王都から派遣された軍によって一気に攻められて、一夜にして壊滅に追いやられたんだ。集団のメンバーは全員その場で処刑され、そんときに、もっていた武器防具なんかも全部一緒に処分されたって話だ」
「その話が本当なら、今このナイフは現存するはずがない、ということですわね?」
「ああ、そういうこったな。だから、なんで今更こんなものが出てきたのか、わけがわからねぇってわけだ」
しばらく三人とも無言になったが、沈黙を破ったのはカルグリークだった。
「……『赤い夜』を壊滅させたのは王都の軍だと言ったが、その作戦に当たったのは軍の中でも精鋭を集めた部隊で、そのときのリーダーは今の軍の指揮を執っているバルトランという男だ。そいつに接触してみれば、何かわかるかもしらんな……」
「王都……ここからだとかなりの距離がありますわね」
「ああ。お嬢ちゃん、もし本気で行くってんなら、しばらくは帰って来れないだろうな」
「トールさん」
「なんだ?」
「もちろん、行きますわよね?」
「あ、ああ、もちろん。仕方が無い事情もあることだし……」
アルデリアはキッとトールをにらみつけた。
「よし、それなら善は急げだ。俺は王都までの馬車を手配してやるから、お前さんらは旅の支度をしてこい」
「ありがとうございます、カルグリークさん」
「馬車の代金はトールの給金から引いといてやるからな」
「おいおい、そりゃないぜーっ!」
「さ、トールさん、行きましょう」
アルデリアは抗議しているトールを引っ張って、ギルドの外へ向かった。
「まずは神学学校のメイベル先生に王都へ向かうことを伝えて、それから必要なものを買って、身支度をしましょう」
「うぅ……俺の金が……」
「……後で私も折半しますから」
そうして、トールとアルデリアは神学学校に向かい、メイベル先生へ挨拶を終えた後、大通りの店を回って旅の道具を買いそろえた。
そして、そのまま今度は街の北の門へと向かった。門の外には、御者を乗せた幌馬車が一台待機していた。その脇には、カルグリークとフィオナの姿もあった。
「おやっさん、ホントずいぶん準備がいいな」
「お前さんらだったら、どうせ王都に向かうと思ってな、先に手を回しといたんだよ」
「もー、マスターがそんなことしてるなんて、私は全然知らなかったわよー」
「お心遣い、本当に感謝いたしますわ」
「トールもアルデリアちゃんも、気をつけて行ってらっしゃいねー!」
「ああ、しばらく留守にするけど、よろしくな!」
トールとアルデリアは馬車の荷台に乗り込むと、御者は馬に鞭を入れて出発した。
だんだんとカルグリークとフィオナの姿が小さくなっていき、ついぞ姿は見えなくなった。
ルーウィックの街の北側は、南側と異なり平坦な道が続いている。両脇の森林地帯を抜けて道なりに進むのだが、王都に着くまでは3日ほどの時間がかかり、それまでは、途中の町や村で休息をとりながら進むことになる。
ルーウィックの北にある村が遠くに見え始めた頃、おもむろにシステムメッセージが表示された。
~クエスト更新:謎のナイフの持ち主を探せ~
王都へ行き、暗殺者集団『赤い夜』の情報を収集せよ。
対象レベル:Lv 2以上
「これで、クエストの進行は合っているみたいだな」
「ええ、そのようですわね。道中、何も起こらないといいのですけれど」
「おいおい、そんなフラグみたいなこと言ってると――」
「う、うわぁぁぁー!」
突如御者が悲鳴を上げ、馬車は急停車した。拍子に椅子から転がり落ちるアルデリア。
「ほら、言わんこっちゃないぜーっ!」
トールは荷台の入り口の幕を開けて、外に飛び出した。そこには、地面に落ちて立ち上がれない御者の姿があった。
「お、お客さん、あれ……!!」
御者の指さした方向を見ると、巨大な熊型のモンスターが道を塞いでいた。
「熊か……ま、自然豊かなところだから、出てきても不思議じゃないがな」
「いたたた……。まったく、何なんですの!? って、きゃあああ!」
少し遅れて幌馬車から出てきたアルデリアも悲鳴をあげる。トールがそちらを振り向くと、もう一匹の熊型モンスターが馬車の後ろの道を塞いでいるのが見えた。
「挟み撃ち……さすがにゲームの中の熊さんは、現実よりも賢いってか。だが……!」
トールは腰のナイフを取り出して右手に構えると、前後の敵を確認した。
「アルデリア、俺に考えがある! 協力、よろしくな!」
そう言い放つと、トールは前方のモンスターに向かっていった。
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