24 / 34
EP23 縛りプレイと漁師町 2
しおりを挟む「もぐもぐ……」
「…………はむっ」
トールはアルデリアが怒って部屋を後にしてから、再びベッドに横になり、体があげる悲鳴に抗うことなく2度目の睡眠を取った。そのおかげか、なんとか歩けるくらいまで体力が回復し。
トールが動けるようになった後、四人は宿の食堂で合流し、遅めの朝食を取っていた。漁師町よろしく、魚を主食材に添えた料理がテーブルに広げられている。
各人のプレートには、白身魚のフライを野菜と共にパンで挟んだサンドイッチが配られ、取れたての魚の切り身を使ったカルパッチョやスープなど、朝食には多すぎるほどの料理が用意されていた。
少し小さめの丸テーブルについた四人だったが、トールとアルデリアは無言で目の前のサンドイッチをほおばっていた。
トールの左隣に座ったフレイが、肘打ちしながら小声でトールに話しかける。
「ねぇ、なんであなたたち無言で食べてるわけ?」
「いや、今朝ちょっとトラブルがあってな……」
「トラブル?」
「ああ、実は……」
トールは咀嚼していたサンドイッチを一旦飲み込むと、フレイを真剣なまなざしで見つめて静かに言った。
「アルデリアが俺の着替えを覗いたんだ」
「ぶぷぅーーっ!!」
アルデリアが口に含んでいたサンドイッチの一部を盛大に吹き出した。
「うわっ、きったねぇな、アルデリア!」
あわててナプキンで口を拭ったアルデリアが、頬を膨らませて抗議する。
「嘘をつくのも大概にしてくださいっ! 覗いたのはトールさんですっ」
「ちょっと、あなたまた覗いたの!?」
あきれた口調でフレイが問いただす。
「違うって! ちょっとしたアメリカンジョークだよっ!」
「君のそのジョーク、まったくアメリカンっぽさが感じられませんが」
「大体、かぼちゃパンツを見せてきたのはアルデリアだろー」
「見せてなんていませんわっ! この変態束縛男!」
「なにーっ! 変態ではあっても、束縛なんかしてないぜ!」
「変態なのは否定しないのね……」
「ふふっ、愉快なパーティさんだね」
「パーティなんか組んでいませんっ!!」
アルデリアが、今度はにこやかに笑みを浮かべる長身の男に食ってかかる。
「で、嫌に自然になじんでるから突っ込めなかったが、お前はどこのだれなんだ?」
トールも同じように、一緒のテーブルで優雅に食事をする男に向かって疑問を投げかけた。
「これは失敬。先日もスリリングなバトルの最中だったから自己紹介が遅れたね。僕の名前はレーゲン。一応、このゲームの発売日からプレイしている、古参のプレイヤーと言ったところかな」
そう言うと、レーゲンは一度ナプキンで口元と手を拭いて、おもむろに立ち上がった。そして腰の両脇に装着しているホルスターから、二丁の銃を取り出した。
「戦闘の時に見てわかったかもしれないが、この通り僕はガンナーをやっている」
レーゲンは両手に持った銃をくるくると回転させて見せた。
「二丁拳銃で一気に攻撃をするのが僕の得意なスタイルなんだけど、もう一つ、属性攻撃で敵に合わせて一番有効な攻撃を与えるのも、ソロプレイで生きていくために活用しているんだ」
「属性攻撃……そうか、この間の白い光の球みたいなやつか」
トールは、デュラハンとの戦いの終盤で、レーゲンから攻撃に対する属性を付与されていた。
「あのデュラハンはおそらく黒属性……ということは、その弱点は白属性だろうと踏んで、攻撃をしたら案の定だった。君たちが普通に攻撃してもダメージを与えられなかったのは、デュラハンが白属性以外には耐性があったってことだろう」
「なるほどね。それにしても、相手の弱点がわかるスキルでももっているわけ?」
「いいや、さすがにそんなスキルは持っていないよ。あの戦いの前に、別のクエストでもぐっていたダンジョンが黒属性のモンスターだらけでね。それで、あのモンスターの雰囲気をみて、もしかしたらと思ったのさ」
「本当に助かったよ。俺達だけじゃ全滅してたよな……。レーゲンも王都に向かうところだったのか?」
「そう、僕はちょうどあの崩れた石橋の近くのダンジョンでクエストをこなしたところで、王都に戻る途中だった。そうしたら、石橋で何やら怪しい動きをしている人たちが見えたから、様子をうかがっていたのさ」
「怪しい動き……確かに、文字通り石橋を叩いて渡るようにしていましたわね……」
「それにしても、僕もまさか、馬車がモンスターに変わってしまうとは、想像もできなかったけどね」
「ああ、馬車のおっちゃんも、モンスターに変えられちまったんだよな……」
「いくらゲームのNPCだからって、ルーウィックからずっと一緒でしたから、悲しい気持ちになりますわね……」
「ホント、橋にNPCへの罠があるなんてね、ちょっと想像がつかないわ」
「ふぅん……」
レーゲンはアルデリアとフレイの会話に少し眉をつり上げたが、軽く首を振ってスープを手に取った。
「それじゃ、この豪勢な朝食をいただいたら、みんなでレベルアップといこうか。星付きを倒したんだから、さすがにレベルアップしているだろうし――」
「待ってください!」
アルデリアがレーゲンの話を遮って、ビシッと右手を挙げた。
「うん? どうしたんだい、お嬢さん?」
「その、デザートが来ていないようですので、お願いしても良いでしょうか?」
「え、ええ、もちろん、どうぞ……」
レーゲンはアルデリアの食べっぷりに少し引き気味になりつつ、自身のスープに再度手を付けた。
0
あなたにおすすめの小説
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる