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EP25 縛りプレイと漁師町 4
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トール達のテーブルにやってきたのは、日焼けして、恰幅の良い宿の主人だった。
「ここ『マール』は、港町と呼べるほど広い町ではありませんが、それでも王都にほど近い港町『プレティア』まで定期船が出ているのです」
主人は胸に付けた前掛けをしきりに手で握りしめ、落ち着かない様子で語った。
「ところが先日、船を出そうとした船長が、羅針盤がなくなっていることに気がつきました。船長と船員達は、最後に定期船に乗ってきた乗客達を探して、不審な人物を見ていないか聞いて回りましたが、誰もそんな人物は見ていませんでした。困った船長は町長に協力を仰ぎ、この町の住民に、船が到着してから何か目撃情報はないか情報を呼びかけたところ、近頃、ローブをまとった人影が夜に町の周辺をうろついているという目撃情報がいくつか寄せられたのです」
「怪しそうな人影ねぇ……でも、そいつが船に近づいたのは誰も見ていないんだろう?」
「ええ、それはそうなのですが、こんな辺境の町で、今まで怪しいものなど見たことがありませんでしたので、その人影が怪しいのではないかと、町長を含め町の人間は考えておるのです」
「それで、もうその人影とやらを探しに行ったのですか?」
「いいえ、町には探しに行くほどの勇敢なものがおらず……なにせ、王都から冒険者が来るわけでもなく、海産物や農産物の取り引きで皆暮らしておりますので」
「ふぅん、それでは、これまではずいぶんと平和な町だったというわけですか」
「ええ、そうです。それでも、誰か調査に行くものはいないかと、町の中で候補を探していたところ、あなた方冒険者の方が流れ着いたと聞いて……町長と船長からも、調査をお願いできないものかと、打診を受けておったのです」
「そっか、それで今日の朝食もこんなごちそうだったわけね」
「はい、厚かましくて大変恐縮ですが……一度、町長のところへ行って、話を聞いてもらえませんでしょうか?」
主人は懇願するように四人の顔を見回した。
「俺はもちろん良いけど。助けてもらったお礼もしなきゃいけないし、そもそも船が出なきゃ、王都には行けないって話だろう?」
「ええ、引き受けるのは当然ですわね」
「じゃあ決まり。その町長さんのところへ行ってみましょう?」
「では、ご主人、案内していただけるかな?」
「はい、感謝いたします! 調査いただけるようでしたら、宿代も食事代も結構ですので」
主人はしきりに頭をさげて、トール達四人を連れて町長の待つ町の役場へ向かった。
マールの町は海と山に囲まれた、王都から見て東側にある小さな漁師町だ。トール達を介抱し、食事を提供してくれた宿は海にほど近い砂浜のそばにあり、そこから山側へ少し傾斜のある道を上っていくと、町の中心部にある役場が見えてくる。
白い石造りの平屋でできた役場は、ルーウィックの賑やかな町並みに建つ家々と比べるとずいぶんと違った印象だが、眼下に望む海の風景にとても良く似合っていた。
役場の入り口で宿の主人の姿を見つけた役場の人間が、トール達を奥にある小さな部屋に案内した。
部屋の中には事務用の木でできた机が一つ。その奥に、やはり日焼け、白髪の交じる口ひげを生やした男性が座っていた。
「これはご主人、そちらがうわさの冒険者の方々かな?」
「ええ、皆さんお元気になられまして、町長からのお話を聞いていただけるとのことですので、お連れしました」
「それは良かった。皆さん、私がマールの町長をしておりますベゼルと言います。すでにこのご主人から聞いているでしょうが、この町で起こっている事件を解決するために、皆さんのお力添えをいただきたいのです」
町長は立ち上がると、トールの前に来て手を差し出す。
「ああ、俺達も助けてもらったお礼をさせてもらいたいし、是非協力させてくれ」
町長の手を握り返す。宿の主人は安堵の表情を浮かべ、町長もにこりとして、説明を続けた。
「そう言っていただける本当に助かります。では、私から少し詳しく事件のことをお話します」
町長が集めた情報によると、人影が目撃されたのは数日前で、村の山側にある山道入り口付近だったという。目撃したのはその近くに住む住民達で、皆夜に見かけたという。暗い時間だったので顔は見えなかったが、顔を隠すようなフードと、足下まであるローブを着ていたようだと、目撃者は一様に報告してきた。
目撃者の住民達によると、これまで山道付近を夜に出歩くのは近くに住む住民達だけだったが、その人影は気がつけば入り口付近に現れていて、そのまま山道へと入っていったという。
日中には町では誰も見かけておらず、目撃情報があってからは、皆恐れて山道から山へ向かった者は皆無であった。
「船から羅針盤が無くなった後に、この人影の目撃騒ぎがありましたから、私どもは何か関連があるのではと思っているところです。皆様には、どうかこの山道から山に入っていただき、調査をお願いできればと思うのですが」
「その山道を登っていくと何があるのですか?」
「山道の先は、古くからこの町の住民が祭ってきた神の神殿があります。神殿と行っても、もう誰も使っておらず廃墟のようなたたずまいではありますが、今でもお供え物などを届けに、定期的に町の者が訪れてはおります」
「そうなると、その人影は神殿の中に潜んでいる可能性が高い、と」
「はい、そのように思います」
「よしっ、とりあえずその神殿まで行ってみるか」
「ええ、宿に戻って準備をしましょう。この服では、ちょっと冒険者っぽくありませんし、私の服が直っていると良いのですが……」
「アルデリアの場合、どっちの服も冒険者っぽくない気が――」
「むぅっ! トールさんはいつも一言余計ですわっ!」
「ハイハイ、とにかく、一度宿にもどりましょうよ」
「よろしくお願いします、皆さん」
町長に見送られ、トール達は主人と共に再び宿へと戻った。
「ここ『マール』は、港町と呼べるほど広い町ではありませんが、それでも王都にほど近い港町『プレティア』まで定期船が出ているのです」
主人は胸に付けた前掛けをしきりに手で握りしめ、落ち着かない様子で語った。
「ところが先日、船を出そうとした船長が、羅針盤がなくなっていることに気がつきました。船長と船員達は、最後に定期船に乗ってきた乗客達を探して、不審な人物を見ていないか聞いて回りましたが、誰もそんな人物は見ていませんでした。困った船長は町長に協力を仰ぎ、この町の住民に、船が到着してから何か目撃情報はないか情報を呼びかけたところ、近頃、ローブをまとった人影が夜に町の周辺をうろついているという目撃情報がいくつか寄せられたのです」
「怪しそうな人影ねぇ……でも、そいつが船に近づいたのは誰も見ていないんだろう?」
「ええ、それはそうなのですが、こんな辺境の町で、今まで怪しいものなど見たことがありませんでしたので、その人影が怪しいのではないかと、町長を含め町の人間は考えておるのです」
「それで、もうその人影とやらを探しに行ったのですか?」
「いいえ、町には探しに行くほどの勇敢なものがおらず……なにせ、王都から冒険者が来るわけでもなく、海産物や農産物の取り引きで皆暮らしておりますので」
「ふぅん、それでは、これまではずいぶんと平和な町だったというわけですか」
「ええ、そうです。それでも、誰か調査に行くものはいないかと、町の中で候補を探していたところ、あなた方冒険者の方が流れ着いたと聞いて……町長と船長からも、調査をお願いできないものかと、打診を受けておったのです」
「そっか、それで今日の朝食もこんなごちそうだったわけね」
「はい、厚かましくて大変恐縮ですが……一度、町長のところへ行って、話を聞いてもらえませんでしょうか?」
主人は懇願するように四人の顔を見回した。
「俺はもちろん良いけど。助けてもらったお礼もしなきゃいけないし、そもそも船が出なきゃ、王都には行けないって話だろう?」
「ええ、引き受けるのは当然ですわね」
「じゃあ決まり。その町長さんのところへ行ってみましょう?」
「では、ご主人、案内していただけるかな?」
「はい、感謝いたします! 調査いただけるようでしたら、宿代も食事代も結構ですので」
主人はしきりに頭をさげて、トール達四人を連れて町長の待つ町の役場へ向かった。
マールの町は海と山に囲まれた、王都から見て東側にある小さな漁師町だ。トール達を介抱し、食事を提供してくれた宿は海にほど近い砂浜のそばにあり、そこから山側へ少し傾斜のある道を上っていくと、町の中心部にある役場が見えてくる。
白い石造りの平屋でできた役場は、ルーウィックの賑やかな町並みに建つ家々と比べるとずいぶんと違った印象だが、眼下に望む海の風景にとても良く似合っていた。
役場の入り口で宿の主人の姿を見つけた役場の人間が、トール達を奥にある小さな部屋に案内した。
部屋の中には事務用の木でできた机が一つ。その奥に、やはり日焼け、白髪の交じる口ひげを生やした男性が座っていた。
「これはご主人、そちらがうわさの冒険者の方々かな?」
「ええ、皆さんお元気になられまして、町長からのお話を聞いていただけるとのことですので、お連れしました」
「それは良かった。皆さん、私がマールの町長をしておりますベゼルと言います。すでにこのご主人から聞いているでしょうが、この町で起こっている事件を解決するために、皆さんのお力添えをいただきたいのです」
町長は立ち上がると、トールの前に来て手を差し出す。
「ああ、俺達も助けてもらったお礼をさせてもらいたいし、是非協力させてくれ」
町長の手を握り返す。宿の主人は安堵の表情を浮かべ、町長もにこりとして、説明を続けた。
「そう言っていただける本当に助かります。では、私から少し詳しく事件のことをお話します」
町長が集めた情報によると、人影が目撃されたのは数日前で、村の山側にある山道入り口付近だったという。目撃したのはその近くに住む住民達で、皆夜に見かけたという。暗い時間だったので顔は見えなかったが、顔を隠すようなフードと、足下まであるローブを着ていたようだと、目撃者は一様に報告してきた。
目撃者の住民達によると、これまで山道付近を夜に出歩くのは近くに住む住民達だけだったが、その人影は気がつけば入り口付近に現れていて、そのまま山道へと入っていったという。
日中には町では誰も見かけておらず、目撃情報があってからは、皆恐れて山道から山へ向かった者は皆無であった。
「船から羅針盤が無くなった後に、この人影の目撃騒ぎがありましたから、私どもは何か関連があるのではと思っているところです。皆様には、どうかこの山道から山に入っていただき、調査をお願いできればと思うのですが」
「その山道を登っていくと何があるのですか?」
「山道の先は、古くからこの町の住民が祭ってきた神の神殿があります。神殿と行っても、もう誰も使っておらず廃墟のようなたたずまいではありますが、今でもお供え物などを届けに、定期的に町の者が訪れてはおります」
「そうなると、その人影は神殿の中に潜んでいる可能性が高い、と」
「はい、そのように思います」
「よしっ、とりあえずその神殿まで行ってみるか」
「ええ、宿に戻って準備をしましょう。この服では、ちょっと冒険者っぽくありませんし、私の服が直っていると良いのですが……」
「アルデリアの場合、どっちの服も冒険者っぽくない気が――」
「むぅっ! トールさんはいつも一言余計ですわっ!」
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