呪いでお嬢様と結ばれるのは本当の縛りプレイなのか? ~VRMMO『Real Role Online』がリアルすぎる~

夜野半月(よるのはんげつ)

文字の大きさ
26 / 34

EP25 縛りプレイと漁師町 4

しおりを挟む
 トール達のテーブルにやってきたのは、日焼けして、恰幅の良い宿の主人だった。
 
「ここ『マール』は、港町と呼べるほど広い町ではありませんが、それでも王都にほど近い港町『プレティア』まで定期船が出ているのです」

 主人は胸に付けた前掛けをしきりに手で握りしめ、落ち着かない様子で語った。

「ところが先日、船を出そうとした船長が、羅針盤がなくなっていることに気がつきました。船長と船員達は、最後に定期船に乗ってきた乗客達を探して、不審な人物を見ていないか聞いて回りましたが、誰もそんな人物は見ていませんでした。困った船長は町長に協力を仰ぎ、この町の住民に、船が到着してから何か目撃情報はないか情報を呼びかけたところ、近頃、ローブをまとった人影が夜に町の周辺をうろついているという目撃情報がいくつか寄せられたのです」

「怪しそうな人影ねぇ……でも、そいつが船に近づいたのは誰も見ていないんだろう?」

「ええ、それはそうなのですが、こんな辺境の町で、今まで怪しいものなど見たことがありませんでしたので、その人影が怪しいのではないかと、町長を含め町の人間は考えておるのです」

「それで、もうその人影とやらを探しに行ったのですか?」

「いいえ、町には探しに行くほどの勇敢なものがおらず……なにせ、王都から冒険者が来るわけでもなく、海産物や農産物の取り引きで皆暮らしておりますので」

「ふぅん、それでは、これまではずいぶんと平和な町だったというわけですか」

「ええ、そうです。それでも、誰か調査に行くものはいないかと、町の中で候補を探していたところ、あなた方冒険者の方が流れ着いたと聞いて……町長と船長からも、調査をお願いできないものかと、打診を受けておったのです」

「そっか、それで今日の朝食もこんなごちそうだったわけね」

「はい、厚かましくて大変恐縮ですが……一度、町長のところへ行って、話を聞いてもらえませんでしょうか?」

 主人は懇願するように四人の顔を見回した。

「俺はもちろん良いけど。助けてもらったお礼もしなきゃいけないし、そもそも船が出なきゃ、王都には行けないって話だろう?」

「ええ、引き受けるのは当然ですわね」

「じゃあ決まり。その町長さんのところへ行ってみましょう?」

「では、ご主人、案内していただけるかな?」

「はい、感謝いたします! 調査いただけるようでしたら、宿代も食事代も結構ですので」

 主人はしきりに頭をさげて、トール達四人を連れて町長の待つ町の役場へ向かった。

 マールの町は海と山に囲まれた、王都から見て東側にある小さな漁師町だ。トール達を介抱し、食事を提供してくれた宿は海にほど近い砂浜のそばにあり、そこから山側へ少し傾斜のある道を上っていくと、町の中心部にある役場が見えてくる。

 白い石造りの平屋でできた役場は、ルーウィックの賑やかな町並みに建つ家々と比べるとずいぶんと違った印象だが、眼下に望む海の風景にとても良く似合っていた。

 役場の入り口で宿の主人の姿を見つけた役場の人間が、トール達を奥にある小さな部屋に案内した。
  部屋の中には事務用の木でできた机が一つ。その奥に、やはり日焼け、白髪の交じる口ひげを生やした男性が座っていた。

「これはご主人、そちらがうわさの冒険者の方々かな?」

「ええ、皆さんお元気になられまして、町長からのお話を聞いていただけるとのことですので、お連れしました」

「それは良かった。皆さん、私がマールの町長をしておりますベゼルと言います。すでにこのご主人から聞いているでしょうが、この町で起こっている事件を解決するために、皆さんのお力添えをいただきたいのです」

 町長は立ち上がると、トールの前に来て手を差し出す。

「ああ、俺達も助けてもらったお礼をさせてもらいたいし、是非協力させてくれ」

  町長の手を握り返す。宿の主人は安堵の表情を浮かべ、町長もにこりとして、説明を続けた。
 
「そう言っていただける本当に助かります。では、私から少し詳しく事件のことをお話します」

 町長が集めた情報によると、人影が目撃されたのは数日前で、村の山側にある山道入り口付近だったという。目撃したのはその近くに住む住民達で、皆夜に見かけたという。暗い時間だったので顔は見えなかったが、顔を隠すようなフードと、足下まであるローブを着ていたようだと、目撃者は一様に報告してきた。
 目撃者の住民達によると、これまで山道付近を夜に出歩くのは近くに住む住民達だけだったが、その人影は気がつけば入り口付近に現れていて、そのまま山道へと入っていったという。
 日中には町では誰も見かけておらず、目撃情報があってからは、皆恐れて山道から山へ向かった者は皆無であった。
 
「船から羅針盤が無くなった後に、この人影の目撃騒ぎがありましたから、私どもは何か関連があるのではと思っているところです。皆様には、どうかこの山道から山に入っていただき、調査をお願いできればと思うのですが」

「その山道を登っていくと何があるのですか?」

「山道の先は、古くからこの町の住民が祭ってきた神の神殿があります。神殿と行っても、もう誰も使っておらず廃墟のようなたたずまいではありますが、今でもお供え物などを届けに、定期的に町の者が訪れてはおります」

「そうなると、その人影は神殿の中に潜んでいる可能性が高い、と」

「はい、そのように思います」

「よしっ、とりあえずその神殿まで行ってみるか」

「ええ、宿に戻って準備をしましょう。この服では、ちょっと冒険者っぽくありませんし、私の服が直っていると良いのですが……」

「アルデリアの場合、どっちの服も冒険者っぽくない気が――」

「むぅっ! トールさんはいつも一言余計ですわっ!」

「ハイハイ、とにかく、一度宿にもどりましょうよ」

「よろしくお願いします、皆さん」

 町長に見送られ、トール達は主人と共に再び宿へと戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...