劇場版『幻想冒険物語(仮)』

いずも

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「あのー、俳優の片桐浩一さんですよね」

 などと呑気に声をかけてくるのは、同業者の宮本はるかさんだ。
 声でわかる。
 特徴的な声で、どんな役でも彼女が演じていることが一発で分かる。

「ええ、そうです。貴女も参加されるんですね」
「そっかー。良かったぁー。私他に誰も知ってる人が居なくて、もー心細かったんですよ~」
「あれ? 確か宮本さんって『星界の奇跡』のヒロイン役やってましたよね。向こうに主役を務めた斎藤さんが居たような……」
 斎藤さんの名前を出した途端、宮本さんは嫌な顔をする。

「ああー、あの人は、ちょっと……。ほら、あの噂。知りません?」
「? えっと、すいません」
「ちょくちょく他の出演者に手を出してるって噂ですよ。私も昔電話番号とか聞かれたんですよ。ま、ガン無視してやったんですけど。おかげでちょっと、顔を合わせづらいっていうか……」
「へー、あの人にそんな裏が。『ボクは冴えない高校生』とかやってた時はそんな風に見えなかったのに」
「そりゃああんなの演技ですよ演技。『ボク冴え』で大人しい高校生役やってから草食男子のイメージ付いてますけど、本当はヤリチン野郎ですよ」
「ちょ、宮本さん。『星界の奇跡』ヒロインのレイナがそんな下品な言葉言っちゃ駄目ですって」
「えー。だって私、『女子高生は無敵』のビッチ姫こと下野晶もやってるんですよ。むしろこっちの方が素に近いですよ」
「うわー、知りたくなかったその情報」

 次々と俳優が会場に入ってくる。
 よく見かける人。
 単一作品でしか見かけないような人。
 大御所から新人まで、本当に色んな人が出演していることが伺える。

「うわー、あれ大河原歳三ですよね。本物初めて見たわ」
「さっすが、居るだけで存在感あるね」
「あの人って『宇宙のファンガス』のキノコ大王ですよね。あと『手毬シスターズ』のナムル大王役もやってるのは知ってます」
「それどころか『鍵っ子』シリーズのシリンダー博士に『ひなげしの咲く頃に』のビショップ刑事、『伊賀対甲賀』のおかきパパとか、小太り役ならだいたいあの人ってくらい、何でも演じてるわよ」
「ええっ!? ビショップ刑事も大河原さんですか! うわ、知らなかった。てっきりあれは五十嵐さんかと」
「五十嵐さんは『近眼探偵』のシロガネーゼ警部の方ね。似てるけど違うわ」
「そうそう五十嵐さん。くそー、そっかぁ」
「同じ小太りでも目つきの良い方が大河原さん。悪い方が五十嵐さんって覚えておくと良いわ。あ、本人には内緒よ」
「わかってますって」

「そういえば五十嵐さん」
「はい」
「最近『近眼探偵』のアシモフ博士役もやってるの知ってた?」
「えっ、ちょ、マジっすか」
「確かに最近はシロガネーゼ警部とアシモフ博士が共演しているシーンが無いなーって思いながら見てたんだけど。実はアシモフ博士役の近藤さん、自宅の階段から転げ落ちて複雑骨折。今は五十嵐さんが一人二役やってんのよ」
「うわっ、大変。あれ、じゃあ『シャー芯ちゃん』の校長先生は」
「五十嵐さん」
「じゃあ『ハマグリさん』の凪助さんは?」
「それも五十嵐さん」
「ってことは『サイコロ大冒険』のピンボール大魔王も」
「それは――大河原さんね」
「うわー、五十嵐さん大変っすね」
「むしろ近藤さんの方が凄いって話だけどね」
「あー……確かに。脇を固める俳優って感じですもんね」
「気付かれないように上手いことやってるけどね」

「え、ちょっと待ってください。『ハマグリさん』の凪助ってことは、お隣の養父坂さん役の東條さんと犬猿の仲じゃあ」
「そ、だからしばらく養父坂さんの出番は無いわね」
「はー。業界の裏話って、少しでも知っちゃうともう純粋に作品見れないですよね」
「そーなのよ。あちこちで確執があって、仲良くやってるけど裏じゃあ火花バチバチ散らしてんだろうなーって思っちゃうと、もうね」
「『麒麟月』のブレッドとルフーツのコンビが犬猿の仲って知った時はショックでしたもん。えっ、いつから!? マーケット時代から? デパート時代から? って考えれば考えるほど、もう作品をまともに見れなくって」
「残念だけど、あちこちでそういうことは起きてるって思わなきゃ駄目ね」
「もしかして『近眼探偵』のドルイド君とヨシヒコを同一人物扱いにして共演させないのって……」
「そういうこと」
「うわー、知りたくなかったその事実」



 ――ピンポンパーン

 お知らせします。

 劇場版『幻想冒険物語 ~夢のオールスター共演バトル~(仮)』

 のオーディションですが

 すでに決まっている出演者の中に

 新型ウイルスに感染した方がいらっしゃったため

 撮影を中断します。

 お集まりの皆様方には申し訳ありませんが

 何卒ご理解いただくようお願い申し上げます。

 繰り返します――



「あー、まぁ、仕方ないですね」
「うわ、誰だろ」
「決まってるのって織田さんと、堀田さんと、北野さんと……」
「誰にせよ、主役級の人でしょ。かなりの作品に影響が出るわね」

「実は内緒の話なんだけど」
「はい」
「『ジッパーヴィラン』の撮影も中止になったんだよね……」
「げ、それ堀田さんじゃないですか!? あの人『シンバル之丞』に『みちお羅針盤』にも出演していますし、その出演者にも感染してる可能性って考えたら、もうほとんどの作品が撮影中止じゃないですか」
「いやホント。業界大打撃よ」

「僕らには全然関係ない話ですけどねー」
「そーそー。ただのエキストラの部だからねー」

 このお祭り騒ぎみたいな作品に出演できたら、どっかの監督から声がかからないかなって淡い期待を抱いてるだけのしがない舞台俳優。
 そんな二人の、とりとめのない会話。
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