キミの想い

いずも

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pseudo meal replacement

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コツン、と音がしたと思ったら
壁が一気にひび割れて
一糸まとわぬ姿でこの世界に産み落とされたのは
まさに異形の存在と言っても過言ではないオイラだが
ひどく体は冷たく
今まで極寒の地に囚われていたのかと思うほどで
多少の空気に触れた程度では
その心身ともにあたたまることはなく
でもせめて人肌程度には温もりが恋しいと思いつつも
結局その願いは叶うこともなく
その刹那、凍てつく体が震え上がるほどに
鈍く硬い感触が頬に叩きつけられ
ただ痛みはそれほどでもないのは
クッションのようなものがあったからで
それに多少の感謝の念を抱きつつ
いややっぱり痛いものは痛いけどね、とか
悪態をつく暇もないままに
薄汚れた冷水を顔に浴びせかけられ
やいやい何しやがるんだっ、てやんでいっ!
おっとしまった訛りが出た
これでも昔はイイトコのお坊ちゃんだったんだぞオイラって
啖呵を切ろうにも
なんだか白い雪のようなものがパラパラと降ってきたので
こりゃまた粋だねぇ、と
頭に乗っけてフザケてみたりもしたら
今度は巨大な丸太が降ってきて
途端に暴風が吹き荒れて
この世の終わりかってくらいの天変地異が起こったもんだから
おいおい神様がお怒りにでもなられたのか、だの
殿御乱心ってレベルじゃねーぞ、とか
何かの補完計画ってこんな感じなのかなー、とか
逆に心地よくなってきたところで
地震と黒風がようやくおさまり
このまま夢見心地で眠ろうかなって思っていた矢先に
空気の爆ぜる音とともに
真っ赤に燃え上がる炎のようなものが見えて
しまった火事と喧嘩は江戸の華、ってやかましいわと
セルフツッコミを入れていると
怒号のごとく響き渡る爆音に
耳をふさぐ余裕もないままに熱風が襲いかかり
そりゃついさっきまで寒かったし
温もりが欲しいなーとか思ったよ、思ったさ、でもね
八寒地獄のあとに八熱地獄って
こいつは想定外を通り越しておったまげーだよと
ボケを挟む余裕があるように見えるのは間違いで
これはむしろ余裕がなくなると
思考を放棄してしまうのだという教訓かもしれないと
肝に銘じて欲しいわけだが
果たしてオイラに肝など存在するのかと
今更ながらの疑問を浮かべたところで
すでに全身焼けただれて変色して
腕も足もあらぬ方向へひん曲がったり
何度も引き伸ばされてもはや原型などは
とうの昔に無くなっていることをようやく思い出したところで
体の一部を切り取られたって痛みなど感じるはずもなく
ややあって、どこからともなく天の声が聞こえてくるには

「しょっぱっ! ってことは、塩と砂糖間違えたか……甘いほうが好きなんだよなぁ」

なんて言いながら、残さず食べてくれたんですけどね、ええ。
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