ゆきめ

くさの

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 遠くで救急車のサイレンの音が聞こえた。
 まるでそれをきっかけにでもするように彼が表情を変えた。

「ほら、帰るよ。やっぱ寒いし」

 優しい言葉と共に、差し出された手。

 怖い。
 前とは違う、違う。

 私の想いが、違う。

『優しさに、触れられないのは、』

「コウタ、私、」
「ん?」

『決して、話してはいけないよ。知られたら、殺されてしまうよ』

 私は辺りをきょろきょろと見回す。
 休日の昼間だというのに、人の影が無い。
 それなのにどうして、『声』は聞こえてくる。

 『声』は警鐘を打ち鳴らす。

「これ、返す」
「何」

 さっと取り出して、そのものだけを彼の手のひらに乗せる。
 小さな星のチャームが着いた鍵。貴方の、部屋の鍵。

「駄目だ、やっぱり駄目だ」
「何が駄目なんだ?」
「だめ、だめだめだめ」

 壊れたレコードのように、駄目という言葉だけを繰り返した。

『ユキミ、もしお前が、』

 彼はあたふたするだけ。おそらくは、自分が不意に手を繋ごうとしたことがいけなかったのだと思ったのだろう。

「そんなにイヤならいいけど、もう言わないけど」

 立ち上がった彼が、そのまま背を向けた。

「けどね、オレは」

 固まったままの私の手首を掴み、立ち上がらせる。
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