ここからはじまる ”こ”のつく アレのはなし

くさの

文字の大きさ
1 / 1
私と彼の話

図書室にいるその人

しおりを挟む
 初めて出会ったのは私が高校1年の時だ。
 入学したばかりではなく、ようやく高校の生活(主に勉強面)に慣れはじめて、いろんなものが習慣に変わりはじめた頃だった。

 放課後、図書室に行くとその人は大抵いた。そうして時間一杯そこにいるのだ。
 時間一杯、というのも彼は図書室の鍵を任されているらしい。戸締りを任されるほどとは、噂話に聞くほど悪くない人なのだろうかと、考える。
 ただ、いつから、いやもしかしたら授業を抜けてまでここにいるのかと言うほど、ほぼ毎日同じ席に居た。だからおそらくは指定席扱いなのだろうと勝手に予想する。噂話のなかに、七不思議のようなものもあって、その内のひとつに彼を示している内容もあった。
 周りなんて気にしない様子で、部屋の奥にある6人掛けテーブルを丸々ひとつ陣取って――いるようにみえて――いた。
 他の生徒も噂にはするが近寄ろうとしている人は誰もいなかった。
 何せその人、噂話に聞く人を遠巻きにしてしまう理由が半端なく、その上真偽不明で、みんながみんな、さわらぬ神に祟りなしといった風なのだ。
 おまけに座り方が変だ。背もたれに背をもたせ掛けず、何故か片腕をかけて斜めに座っている。足は組んでいて、ぱっと見偉そうである。
 表情もいつも険しくて、校内でガラの悪い学生たちでも従えていそうだ。
 ネクタイの色とカッターシャツの胸ポケットに施された校章の刺繍糸の色が緑色で――1~3年生はそれぞれ臙脂・緑・紺と色が決まっていて、3年生の卒業後は次に入学する1年生がその3年生のカラーを身につける形で順繰りしている――自分よりも年上なのだと解ると偉そうなのは当然だと納得できた。
 いや、従えそうということではなく、偉そう、という点にだけだ。会話した事もないのに人間像はその像のようにある姿だけだ。


 私も調べものをしたり読書をしたりと図書室をよく利用していたから、その席が視界の端に入る位置を選んで、勉強に息詰まれば彼の存在を確かめたりどんな本を読んでいるのか盗み見たりと、一方的な顔なじみになった。
 確かに目は細まっているし眉間にはしわが寄っていていつも難しい顔付きをしているから、声は掛け辛い。周囲も囁きはするが、彼の事は目に入れないように細心の注意を払っているようだった。視界に入れば射殺される噂もある。少女漫画ならそれは恋に落ちたということではないのだろうか。
 時たま彼を探しに来る琥珀色の縁眼鏡をかけたテンションが少し高めの先輩――名前は知らないので眼鏡先輩と心の中で呼ぶことにした――は何の気無しに話しかけて、図書室だから静かにしろと注意されて、を繰り返している。
 別に一匹オオカミを気取っているわけでもないようで、慕われてもいるらしい姿をみると、図書室ではあるもののクスリと笑いそうになった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...