巨大生物現出災害事案

113RC

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状況開始

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 朝陽の昇らない早朝に大勢の自衛官が朝霞駐屯地の通りの両脇に並ぶ。所々には旗を振る隊員の姿が見られた。闘魂一中隊。一撃必中対戦。そのような言葉が旗には書かれ、今から出陣する防人達を待ち構えていた。朝霞駐屯地の正門に繋がる通りには、業務隊を始めとして残留する隊員らが時装で並んでいた。そして彼らが待ち構える中、赤色灯を灯した警務隊のジープが姿を現した。


それと同時に、東部方面音楽隊の高揚とした演奏が周囲に響く。車両は警務隊ジープを筆頭に、練馬駐屯地司令を指揮官とする第一戦闘団がその後に続いた。司令を乗せた指揮通信車を始めとして、90式戦車や10式戦車がトレーラーの荷台に積まれた形で後を追っていた。次々と出撃する車輌群。見送る隊員は顔の形が壊れんばかりに声援を送っていた。


正門付近では、戦闘服に身を包んだ警務隊員や、輸送科の隊員達が共同で道路交通管制を行っている。午前三時という時間帯だけあり、民間車両の通行は無いに等しかった。しかし空自基地に対する攻撃の一件から、自衛隊内の警戒度はマックスにまで上がっていた。そのため、誘導棒を持つ自衛官の近くには、64小銃を所持した予備自衛官の姿が見られた。今となっては古い66式鉄帽という、鍋型のヘルメットを被り周囲に睨みを利かせている。


そして、多くの支援を受けながら、第一戦闘団は最後尾の高機動車までとし、練馬駐屯地を後に、戦場となる相模湾沿岸に向け進撃を開始した。







 朝陽が昇る太平洋。小笠原諸島が黒影として洋上に浮かび上がる。その、黒影を背に大型の船舶が、その影から離脱した。海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦『いずも』だ。


艦内では今から始まるであろう戦闘に向けて最終調整に入っていた。灰色の救命胴衣に鉄帽を被った隊員らが忙しく艦内を走り回る中、一機のヘリが『いずも』への着艦態勢に入ろうとしていた。MCH-101と呼ばれる大型の輸送ヘリであった。そのヘリは、硫黄島基地から護衛艦隊司令官を乗せていた。ヘリは『いずも』を捉えると大きく旋回をし、徐々に高度を落とし始めた。静かな海に、エンジン音が響く。艦体に機体を近づけ始めると、誘導棒を所持した隊員らが飛行甲板に姿を見せ始めた。黄色いベストに白色のヘルメットを被った彼らは、パイロットに指示が分かるように、大きく棒を振って見せ、やがて機体は降着装置を出し着艦した。ローターの回転から起こる風に、甲板作業員らは顔を顰めながらも、艦体に機体を固定する。そして各種点検が終わり、ヘリから湯元将護衛艦隊司令官が出てきた。その時には既に、ヘリの扉付近に幹部自衛官が整列していた。


「ご苦労、準備は?」


海自の迷彩服に身を包んだ湯元司令官は、ヘリから降り、整列していた中の顔なじみであった艦隊司令官に問い掛けた。


「はい。全艦、戦闘配置にて待機しています。空自も既に作戦空域に到達。指示があるまで旋回を行っています。」


緊張気味の表情で、艦隊司令官は返答した。湯元はその内容に頷き、


「よし。作戦室に向かう。」


視線を全体に移し、言い放った。全員が一斉に動き出す。『いずも』は艦隊の司令塔として機能しており、大会議室のような空間を作戦室に変更することが出来る護衛艦の中でも特異な艦だった。


「目標は?」


作戦室に向け歩を進めている中、湯元は再び、隣にいた艦隊司令官に問い掛けた。


「はい。目標は現在、北ノ島の沖合におり、依然本土へ向け進行中です。」


艦隊司令は持っていた小さな地図を広げ、湯元に場所を示した。


「まだ距離があるな。」


「はい。ですので、ここで決めたいと思っています。」


湯元の素の感想に、艦隊司令は力強い返答をした。それを見、彼は深く頷く。そして一行は作戦室が設けられているスペースに到着した。作戦室には長机や椅子、スクリーンなどが多数展開されており、リアルタイムで状況を見ながら議論出来る場としてセッティングされていた。湯元はその造りに感服しながらも、入室し、護衛艦隊司令官と記された席に腰を降ろした。


彼の両隣となる席には既に、護衛艦隊司令部の作戦幕僚と、航空総隊司令部から派遣されてきた連絡官がおり、湯元は挨拶を交わした。そして相対するスクリーンに目線を移す。スクリーンには各艦の状況が衛星映像から分かるよう映し出されていた。


「カドミウム搭載艦の準備は?」


スクリーンに映し出されている護衛艦隊の中継映像。それを見、湯元は付近の隊員に問い掛けた。一瞬、誰の担当範囲なのか分からず周囲に沈黙が広がる。

しかし、自分だと判断した隊員が挙手をし、湯元の前に出てきた。陸自の迷彩服に身を包んだ佐官は、統幕の人間だった。彼は少し焦った表情で該当する資料を見ながら、


「はい。カドミウム搭載艦についてですが、未だ横須賀のドックから出れないのが現状で、今作戦への参加は厳しいと思われます。しかし、本作戦への影響はありません。」


渋った声で説明した。湯元は想定外の事態に言葉を詰まらせた。カドミウム搭載艦あっての作戦であると、司令部で説明を受けてきたからだった。これでは米第七艦隊と同じ末路になってしまう。湯元は作戦の中止を考えた。しかし、巨大生物の現在地をモニターで見た時、すぐに中止という決断は出来なかった。中止をすることにより、多くの国民の生命が危機に陥るからだった。国を守るためにここにいる。そう自分に言い聞かせ、


「よし。準備出来次第、状況を開始。」


深く息を吐き、湯元は声を張り上げ周囲に指示を出した。

隊員らは敬礼で返し、指示を行動で移し出す。


「全艦、こちら作戦指揮所。準備出来次第、状況を開始。各艦においては最終準備完了報告を0630までに示せ。」


「全艦、オールウェポンズフリー。各艦の射撃管制員は各兵装の最終点検を行え。」


作戦指揮所に配置された通信員らが一斉に指示を飛ばし始めた。指揮所内が騒々しくなる。


「司令官。作戦開始を0640とします!」


湯元の近くで最終調整をしていた護衛艦隊司令部付きの幕僚が、短く伝えてきた。それを聞き、湯元は小さく頷く。


「よし。全艦に伝達!作戦開始時刻0640!当該時刻に第一波攻撃を開始する!」


司令部幕僚の張り詰めた声が室内に響き渡る。海自初の実戦、それが数分後に迫っていた。






 0635。その時刻、護衛艦『あきづき』のCICはこれまでにない緊張の渦の中にいた。


「対水上戦闘ハープーン攻撃始め。発射弾数一発。」


作戦指令書に基づき、砲雷長が険しい表情で命令を下す。


「砲雷長、ハープーン発射準備よし。」


0638。射撃管制員からの報告を受け取った幹部自衛官が砲雷長に報告を飛ばしてきた。

その報告を聞き、砲雷長は艦内に設置されている時計に目を移した。作戦開始に伴い統制された時刻を見、息を呑む。後二分、これが実戦なのだと自分に理解させることは、この時出来なかった。今はただ、命令通り、演習の如く行えばいい。砲雷長は時計を見つめ、自分にそう言い聞かせた。


そして、0640。


「対水上戦闘!ハープーン攻撃始め!ってー!」


作戦開始時刻になる丁度のタイミング。砲雷長は勢いよく叫んだ。射撃管制員は指示を受け取ると同時に発射装置に手を掛ける。直後、発射に伴う振動が、『あきづき』を揺らした。




 0640。その時刻、洋上に幾つもの火柱と黒煙が上がった。

ハープーンと呼ばれる艦対艦ミサイルが一斉に朝空に向けて放たれた。護衛艦各艦の艦体中部に位置している四つの円柱状になっている発射管から一発ずつ放たれたそれは、巨大生物に向けて飛行を始めた。


「全艦ハープーン発射。目標に向け全弾正常飛行中!」


各艦から情報を集約した担当要員が、湯元に報告を飛ばす。実戦だ。その思いから作戦室内に重い空気が流れる。


「作戦幕僚、本当に大丈夫なんだな。」


沈黙の中、湯元は隣に腰を降ろしている幕僚に確認を取った。

第七艦隊の二の舞を恐れていたからだった。


「確証はありません。しかし、問題はありません。アウトレンジ攻撃を徹底しています。各艦には目標と充分な距離を取るよう厳命してあります。」


アウトレンジ攻撃。いわゆる敵の攻撃が届かない距離から、こちら側が一方的に攻撃を行う手法である。俗にいう、リンチに近い形であったが、自衛隊員の命を守りつつ作戦を行うためには必要不可欠だった。湯元はその返答を聞き、小さく頷く。


(目標到達まで、3、2、1・・・。今!)


それから数秒、『いずも』CICのレーダー員から無線越しに報告が届いた。それと同時に担当部署が、攻撃効果の確認作業に入る。


「全弾命中なら二十発は食らっています。」


指揮所内が再び忙しくなる中、作戦幕僚が湯元に耳打ちしてきた。しかし、湯元は表情を一つも変えることなくスクリーンを見ている。


「哨戒機より報告!目標への攻撃効果、これを認めず!進路!変わりません!」


情報の集約に手間取りながらも、担当部署の尉官が書き殴られた用紙を見つつ、声をあげた。

少しくらいはダメージを受けているだろう。そのような考えを持っていた高級幹部らはその内容に驚きの表情を隠せなかった。


「バカな!弾頭は命中しているのか!」


第一護衛隊司令を務める一等海佐が席を立ち、声を荒げた。


「哨戒機からの報告によりますと、確かに爆発閃光を目標付近で確認したということです。」


報告をあげた尉官はその問いに、一度、通信員に確認を行い返答した。第一護衛隊司令はその回答に言葉を失い、椅子に力なく座り込む。他の高級幹部も言葉が出なかった。ハープーンが効かなければ、海自には打つ手がない。その考えが脳裏にあった。しかし、


「作戦、第二段階。」


高級幹部の中でもただ一人、湯元だけは気をしっかり持っていた。彼は周囲の空気に巻き込まれることなく、冷静な口調で指示を飛ばした。通信員らは一瞬固まっていたが、我に返り指示を送り始める。


「諸君。いいか。目標は第七艦隊が大量に放ったトマホークでさえも効かなかった。何故ここで驚く?横須賀での会議で何度も説明を受けただろう!指揮官がうろたえて作戦の完遂があるものか!」


湯元は軽く周囲を見渡し、立ち上がったかと思うと間髪入れずに叱咤した。気を確かに持っていない高級幹部らに嫌気がさしていたのだ。自分の目で見たものしか信じない。そのような考えを持った人間が、この中に少なからずいた。湯元の言葉に、自覚を強いられた高級幹部は俯き、奥歯を噛み締める。その反応を見、湯元は口を閉ざし席についた。混乱の様相を見せていた指揮所内は湯元の一喝で、作戦前の落ち着きを取り戻した。


「作戦、第二段階に移行。航空攻撃及び、アスロックによる多重攻撃を開始します。」


準備が整ったことを確認した通信員が声をあげる。湯元を始めとして高級幹部らは再びスクリーンに視線を移した。


「目標の射程範囲内には入らないよう、飛行隊には厳命しろ。」


その中、航空総隊司令部から派遣されてきた一等空佐が、飛行隊と通信している海自要員に指示を飛ばした。三等海曹の階級章をつけた隊員は緊張した表情で頷きつつ、通信を入れた。


「多重攻撃なら、米軍も行っていません。試す価値はあります。」


戦闘機の編隊が中継映像に映し出されている中、作戦幕僚は慎重な姿勢で口を開いた。


「そうだな。ここで何かしらの成果をあげられるといいが。」


その場でただ一人の一等空佐が、緊張した面持ちで返す。ハープーンで攻撃した時と同じ空気が指揮所内を再び包んだ。しかし、湯元は気にすることなく、スクリーンを凝視し続けた。


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