巨大生物現出災害事案

113RC

文字の大きさ
19 / 27

被害

しおりを挟む
駿河湾に展開していた第四護衛隊。その中に含まれていた輸送艦『くにさき』は、病院船として機能していた。海自初の全通甲板方式となっている開けたそこでは、戦傷者の救護が、自衛隊の医官らによって行われていた。


看護官が素早い手捌きで補助に入るが、現場は人手不足になっていた。だが、戦場はそれを許さず、『くにさき』の後部甲板にあるヘリスポットには、休む間もなく、戦傷者を載せたヘリが着艦していた。


「木村先生!心停止です!40代男性!」


多くの負傷した自衛官が、OD色の毛布に寝かされている中、処置をしていた20代の看護官がそう声を張り上げた。それを聞き、呼ばれた医官が素早く駆け寄り触診する。


「アドレナリン1A、食塩水持ってきて!」


慣れた手つきで状況を見、看護官に指示を出す。そして患者に対して心臓マッサージを医官自らが開始した。その光景に、外傷を負いうなだれていた周囲の自衛官らは息を呑む。それから一分足らずで看護官は薬剤パックと点滴用具を持ち帰ってきた。


「薬剤投与!急げ!」


薬剤のラベルを横目に見、医官はマッサージの手を休めることなく指示を出した。看護官は勢いよく返事をし、素早い動作で針を刺した。


「投与!」


薬液が確実に体内へ入ったことを確認し、看護官は確認の声をあげる。それを聞き、医官はマッサージの動作をやめた。周囲の視線が集中する。


「脈!戻りました!」


少しして、沈黙が続いていたが、手首を握り続け脈を測っていた看護官がその一声をあげた。それを聞き、医官も触診し安堵の表情を見せた。直後、周囲から拍手が巻き起こる。


「とりあえずは大丈夫だが、アドレナリンだ。神経障害が残る可能性がある。記録を頼む。」


拍手が止み終わらない中、医官は立ち上がりそう口を開いた。そして、辺りを見渡し体調が怪しい患者がいないか探し始めた。


その時だった。


相模湾の方角、戦闘部隊が防御戦を展開している空が真っ赤に染まった。


刹那、巨大な爆炎が神奈川県沿岸部から立ち上ったのが、彼らの目に飛び込んできた。呆然と立ち尽くす面々。忙しく医療活動を行っていた『くにさき』の甲板は一瞬にして、静まり返った。


「げん・・・ばく・・・?」


爆炎はやがて巨大なきのこ雲に変化し、その光景に一人の隊員が口をこぼした。


「米軍が・・使ったんじゃないか・・・?あそこ海だろ?」


その言葉を聞き、隣の隊員が崩れた笑顔でそう返した。しかし、


「いや、内陸だ。間違いない。」


三等陸佐の階級章を付けた陸自幹部が、左足を引きづった格好で近付き、彼らの言葉を正した。


「じゃあ・・・!」


三等陸佐の言葉を聞き、顔の片面に包帯を巻いた陸曹が食い気味に口を開いてきた。


「まだ何があったか分からんだろ。艦内で状況を確認してくる。」


三等陸佐は、その陸曹の態度に顔をゆがめたが、とり直し、それだけ言い残して、その場を後にした。








 「火力調整所との通信途絶!」


「神奈川県沿岸部の、どの部隊とも通信出来ません。」


護衛艦『あたご』のCICでは、爆炎が見えた直後から蜂の巣をつついたかのような慌ただしさを見せていた。


「第七艦隊をやった、奴の火力攻撃では?」


通信要員らが報告をあげる中、砲雷長が艦長にそう口を開いた。その言葉に艦長は眉をひそめた。直後、


「スパイ!友軍機喪失!いずれも神奈川県上空飛行中の自衛隊機!」


レーダー員が徐に声を張り上げ、報告してきた。周囲にどよめきが起こる。何が起きているんだ。その場にいた全員の脳裏に、言葉が走った。


「飛行中の、全機か?」


少しの沈黙が広がった後、砲雷長は恐る恐る問い掛けた。レーダー員はそれに対し、静かに頷く。それを聞き、周囲からは声が漏れた。


爆炎、通信障害、航空機の墜落・・・。


「電磁パルスだ!」


頭の中で情報を集約、整理した砲雷長は突然その声をあげた。隣に腰を降ろしていた艦長は虚を突かれた形になったが、冷静な表情を崩さずに、


「まさか、そんなことあるわけないだろ。」


全く現実味を帯びない空論だ。その考えから失笑して返した。しかし、


「あの生物は、放射能を餌にしているんですよね。なら、奴の体内から発せられる攻撃は核攻撃そのものです。あれだけのエネルギー攻撃です。電磁パルスが起こっても可笑しくないと思います。」


艦長の言葉に、少し離れた位置で業務にあたっていた副長が、反論の声をあげた。


その内容に、艦長は返答に詰まった。


「どちらにせよ、今は現地の状況が何も掴めていない状況です。電磁パルスも一時的で、今は問題ないと思います。ヘリの飛行許可を。」


続けるように、副長は表情を変えず意見具申をしてきた。砲雷長もそれを聞き、同意の様相を見せる。


「危険だが、許可しよう。僚艦にも応援要請を。」


ノイズが時折走るライブ映像。それを見つつ、艦長はそう指示を出した。








 (航空機一機、準備でき次第発艦。)


艦内オールの無線で、『あたご』内にその指示が響いた。それを聞き、パイロットと整備員は後部甲板へ駆けて行く。だが、


「島崎、お前は行くな。」


操縦席に乗ろうとした瞬間、20代後半の島崎三尉に対して、40代前半の大川三佐が止めに入った。


「何故です!大川さん臨時要員でしょ!」


乗ろうとした手を止め、島崎は顔をしかめつつそう返した。そのやり取りに、機長の今西一尉が駆け寄る。


「お前はまだ配属されたばかりだろ!未来がある。ここは俺に任せろ。」


今西を横目で見つつ、大川はそう口を開いた。


「そうだ。お前はまだ若い。行くな。大川さんと行くから。」


大川の思いに今西も同感し、島崎の説得に入った。しかし、


「自分が行きます。危険なことは承知で入隊しました。覚悟は出来ています。」


力のこもった目。島崎はその眼で大川を見る。そして、その言葉を発した。直後、島崎の頬に拳が降りかかる。


「馬鹿言ってんじゃねぇ!テメェの操縦じゃ役に立たないから言ってんだ!まだ分からないのか!」


頬を思い切り殴打したのは、今西だった。島崎は思わず涙がこぼれる。


「しかし・・・!おふた方には家族がいます。守らなければならない家族がいます。自分にはいません・・・。だから、せめてでもどちらかには行って欲しくないんです!」


島崎は頬を涙で濡らしつつ、本音を叫んだ。その言葉に二人は絶句する。


「CICから催促来てます。これ以上飛行前点検で時間伸ばせません。」


二人が返答に詰まっている中、一人の整備員が誘導棒を片手に口を開いてきた。急がなければならない。我に返り、島崎は、


「自分なら大丈夫です。今西一尉と帰ってきます。待機室の神棚、水変えててください。お願いします。」


大川の肩を叩き、優しい口調で話した。


「必ず、帰って来いよ。」


眼の中を赤くしつつ、大川はそう返した。そして操縦席に乗りこむ二人を、後ずさりながら見つめ、発艦の時を待った。


「CIC、SH。ヒューマンエラーにより準備遅れましたが異常なし。発艦準備完了。」


隣で各種装置の点検を島崎が行う中、今西は自身もチェックしつつ、CICに弁明の報告を入れる。


(CIC了解。異常無ければ発艦。)


事務的な口調で返答が来た。今西はそれを流しながら聞き、隣の島崎を見た。グーのハンドサインをしていた。それを見、整備員に対し、発艦する旨を伝える。そして、


「発艦する。」


CICに短く報告を入れ、二人の駆るSH60Kは海上へと舞った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...